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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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18 魔導砲開発① 実験

試射場はレントスから少し離れたところにある。

山に向かって大砲を撃ち、その性能を測定するものである。

壁の外にあるので、魔物が存在する可能性がある。クリノス傭兵集団の働きと、国防軍魔導兵士の観測と感知によって魔物がいない事を確認が取れたので、ようやく試射場を使わせてもらうことができた。

魔導砲開発がようやく始まったのであった。


「3…2…1…発射!」


厚いコンクリートの壁裏にいたショウが伸びた魔生糸に魔力を込めると、ドォンと轟音が真っ青な空に鳴り響き、破裂したような音が別で鳴り響く。上から降ってくる黒い礫を、機械仕掛けの小盾と十手魔刀によるエネルギーシールドがショウ、レントス工場長の二人を守る。

場が静かになって、煙が映えショウがコンクリート壁からひょっこりと顔を出した。


「失敗か……」


眼前には粉々に砕けた魔導砲(試作機)がある。遅れてレントス工場長が壁裏から現れ、後方で着弾観測を行っていたミーシャがやってくる。


「まさかここまで粉々になるとは…」


レントス工場長が驚いた様子で言った。


「3回…か。これが実戦配備される前でよかった。魔導師が粉々になるところだったぞ…」


試作型魔導砲の近くに立って観察しようと思ったが、直前で却下してよかったと、ミスターシャから持ってきた書物「火砲の開発と失敗の歴史」に感謝した。


「3回目は着弾点が見えなかったわ。きっとあらぬ方向に飛んでしまったのね」


とミーシャが言った。首には高級品である双眼鏡が下げられている。


「1回目、2回目はどうだった?」


「一応山には当たったけれど、予定着弾地点からかけ離れていたわよ」


「射撃精度も課題か。まあ、まずは耐久問題だ」


ショウは黒焦げになった木片を厚手の手袋をはめて拾い上げた。ばらばらに飛び散った木片と鉄片は木材が砲身内の圧力と熱に耐えきれなかったのを如実に表している。


「今回の試験は魔導師が砲にいなかった。魔力による素材強化があればいけるのではないか?」


レントス工場長が言った。


「いけるかもしれませんが、この魔導砲の弱点部分の金属と木材の境界部分の強化はできません」


「なら、全てのパーツを木材にすれば」


「魔導師が過労死しますし、それだとバリスタの下位互換になってしまいますよ」


「う、そうじゃったな」


(それに、魔導砲は火薬を使う以上、常に危険がつきまとう。ただでさえ戦場に赴いてくれる魔導師は少ないんだ。少しでも素材強化の集中力が切れれば爆死、なんて砲に誰も就こうとはしないだろう)


魔導砲の耐久不足の原因は造りにある。書物「火砲の開発と失敗の歴史」によれば、昔大砲の砲身というのは錬鉄の板を溶接して、鉄輪のタガを用いて筒状にして造られていた。当時は精度が不安定で、砲身と火薬が入る薬室の密閉が十分にできず威力が落ち、すぐ壊れ、砲兵が死ぬ事故も起きていた。


最近、金属を溶かして型に流し込むという、鋳造技術がようやく産業レベルまでに発展し、耐久と精度が克服され、現在では銅を用いた銅砲が用いられている。

レントス工場長の考える魔導砲は、木材と銅という水と油のように相反する素材を組み合わせているため、鋳造以前の大砲製造の方式を採用せざるを得ず、現在用いられている火薬には耐える事ができなかった。


「まず設計から見直しましょう。安心して扱える魔導砲を造るんです」


風が止んでいたので、青空の下に設計図を広げ考え込み、ややあってショウは魔導砲開発に立ちはだかる壁の高さに唸ると、腕を組み、空を見上げた。

耐久問題、精度、人材、この魔導砲を実用化するための障壁の数々。それだけではなく、まだ地に埋もれ、姿を現していない壁や、突破された障壁の破片が新たな障壁―問題―を産み出す事だってある。今見える障壁は、迅速に突破せねばならないのだ。


「やっぱり、バリスタに魔力を込めるのが一番いいんじゃないの?」


「火薬を使う分、威力もあるし、要求魔力も少なくなる見通しだ。魔導師の人件費を考えれば、大幅なコストカットも望める」


「魔導師は平和主義ですもんね」


「みんなそうさ。ミーシャが使っていた耐火魔生糸あったよな? あれを大量注文したいんだけれど。モールドさんが持っているんだっけ」


モールドというのは、ミーシャの魔装具の師匠であり、彼女の義手の造り手である。


「持っているとは思うけれど、どのくらい使うの?」


「うーん、ざっとこのくらいかな」


ショウはペンを走らせ、計算結果の書類を見せた。


「いやいや、こんなには無いと思うわよ。そうなると、本社の方から取り寄せることになると思うわ」


「本社? ゲートブルクの方か?」


「ええ、魔生糸研究をやっている友達がいるから、聞いてみるわね」


「魔生糸研究、か……」


魔生糸の物性値は、蚕の種類、与える餌、飼育環境、によって変わる。

ミーシャの友人は、交配や餌、環境の変更などを変え、様々な魔生糸を造りだしているらしい。木材でも同様な事ができるのだが、木材のサイクルは最低でも5年なのに対し、魔生糸はわずか一か月で孵化から生糸までサイクルを回すことができる。


研究スピードが速く、魔装具に関する魔生糸と木材の技術発展競争で、魔生糸に軍配があがった大きな理由の一つだ。


「ミーシャ、もし可能なら、カタログの方も頼めるか?」


「ええ、いいわよ」


ショウは耐火性や耐靭性が高い魔生糸を魔装具メーカーアルマス社の本社があるゲートブルクの国から輸入注文をした。




数日後、魔導砲用の高性能魔生糸がレントスに届き、ショウ達は新しい魔導砲の試作機を造った。


「3…2…1…着火!」


ショウ、ミーシャ、そしてレントス工場長の三人は予め作っていた土留め擁壁の裏に隠れながら、長い導火線に火をつけ、着火する。二回目の試験である。木材と金属を組み合わせるのではなく、大部分を金属で作り、砲身の後ろ側に属性を付与する魔装具を取りつけた。


「10回か…まだまだか…」


土留め擁壁の裏から顔を出したショウが言った。試作型魔導砲、二回目の試験も課題を残す結果に終わった。

魔力を通す部分をなるべく、ゲートブルクから仕入れた耐熱魔生糸使い、魔導砲全体の耐久力を高めた。だが、結果は御覧の通り。バラバラにはならないものの、亀裂が入り、所々から黒い煙が漏れている。やはり無機物と有機物は犬猿の仲である。


「うまくいかなかったわね」


「開発はうまくいかない事が普通さ。うまくいかなかった原因を探り、改良案を出して実装しまた試験、うまくいくまでこの繰り返しさ。改良案がうまく問題を改善しないどころか、別の問題をひっさげてくることだってある」


「私ならすぐに嫌になっちゃうわね。《考える》じゃなくて《作る》側で良かったわ」


「そうじゃのう ワシも前に設計者に強く当たってしまった事を謝らねば」


と、レントス工場長はばつの悪そうにつぶやいた。

カースの同僚から弾道や着弾地点の観察結果が書かれたメモを貰う。彼はドットルト砂漠でショウとミーシャにミスターシャ国防軍が進路を変更し、ドットルトの町を見捨てたことを伝えた斥候であり、顔なじみ―顔を隠しているので、ショウは彼の顔を知らないのだが―であった。


「比較結果によると、風魔法を込めてもごくわずか、飛距離が伸びただけ、か」


「そりゃ 遠くから魔生糸を伝って風属性の魔力を込めたからね。減衰もしていると思うわよ」


魔生糸も魔力抵抗値はゼロではない。魔力が魔生糸を伝っていけばいくほど、魔力が弱くなっていくのだ。


「魔法強化による弾道変化の結果も、ダメそうだな。ううむ…どうしてこうなるんだ……」


眉間のしわを寄せ、書かれた数字とにらめっこをする。計算上の値より低い数値が出ており、風の心を知るミーシャによって測定された風向きなどのデータから再計算しなければならないと感じた。


「どうする?他の属性の魔導砲も試験してみる?」


ミーシャが尋ねた。


「このまま風属性に絞って魔導砲の開発を続ける。ここには風属性の魔法に詳しいミーシャがいるし、他の属性の効果に比べて数字で評価しやすい」


風属性付与の効果は砲弾飛距離の増加と、信管が作動し砲弾が爆発した時の破片の範囲と威力の増加。一見地味ではあるが、軍人からすれば垂涎モノの2要素だ。


「さあ、壊れた試験機を回収して戻ろう。戻って開発の続きだ。何がダメだったかをしっかりまとめて、対策を練りなおすんだ」


と、ショウは気合を入れバリバリと魔導砲開発を進めようとしたが、その後の開発状況は、順調とは言い難かった。ショウの言った通り、とある問題の解決の兆しが見えてきたと思ったら、別の問題が増幅し。その問題も解決しようと思ったら、今まで気づかなかった別の問題が発覚。まるで、終わりのないモグラ叩きをしているかのよう。開発はそういう蛇行の繰り返しだと、開発メンバーは頭では理解しているが、いざ渦中にはまると気が滅入る。


「あー もう! イライラする!」


試験結果の紙束を空中に投げ捨てたミーシャ。どれも失敗の結果だ。

魔力伝導の媒体を魔生糸に変えてから、魔導砲内部の回路はミーシャが造っている。それが上手く機能しないと不機嫌になるのも仕方ない。ショウは腕を組んで唸った。


チーム全体の士気も下がっていた。腕を組み、唸るレントス工場長の口は極限までに上がっている。

壁が立ちはだかり、できる事がなくなった時は相当なストレスだ


「やっぱり無理なのよ。魔力出力を上げつつ魔導砲の耐久保証だなんて !トレードオフじゃない!」


ミーシャの言う事ももっともだった。無機物と有機物は似て非なるもの。木材や魔生糸と銅の間の接着力が弱く、そこから魔導砲が崩壊していくのだ。


また、魔導砲実用化に向けた壁は魔導砲自体の開発だけではなかった。魔導師が志願していないという人的資源の問題も手付かずであり、前線赴任に志願してくれと頼み、祈り続けるという回答しか用意していなかった。


「こういう時は、息抜きに限るわ。缶詰になっても駄目よ」


ミーシャが立ち上がり、ショウも「ミーシャの言う通りだな」と膝を打って立ち上がった。


「レントスにも良い感じのカフェを見つけたのよ! 今日はあそこに……」


「専品部に行きますか、工場長」


「そうじゃな」


と、二人はミーシャの声が届いていないようだったのか、執務室を出ようとする。

その姿を見て、ミーシャはあんぐり大きな口を開けていた。


「どうした? ミーシャ?」


「ショ、ショウこそ、今から何をしにいくつもり?」


「何って、息抜きに別の仕事をするのさ」


「へ?」


「?」


ショウとミーシャ、レントス工場長の3人は頭の上に「?」マークを浮かべる。思考と会話がかみ合っていないのだ。

ショウとレントス工場長は「何かおかしいことを言っただろうか?」と顔を見合わせると、専品部の工場へと出かけて行く。

ミーシャは二人の行動が理解できず、空いた口が塞がらなかった。

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