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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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17 裸のショウ

カースたちが向かった先は、レントスにある大衆向け酒場であった。

中はワイワイガヤガヤと麦酒の入った小樽を以って、踊ったり歌ったりのどんちゃん騒ぎ。

大衆酒場というのはどこも似たような光景である。


いつのまにか、髪を全部降ろし、麻布の普通の服を着て、色白好青年になっていたカースは、席に着くと麦酒を2つ注文した。

こうしてみると、相当美形である。それ故か、レントスの女性の注目を集め、「どこの人かしら?」と噂されていた。


「あれ、パンテヌは?」


ショウはあちこち振り向いて、パンテヌの姿を探しながら聞いた。


「彼女はまだ14歳、未成年ですゼ。ダンナ」


「えっ?」


パンテヌはミーシャよりも身長が高く、スタイルも良かったので、自分と同じくらいだろうと思っていた。その考えが喉まで来た瞬間、ショウはぐっと言葉を飲み込む。

もし、カースを通してミーシャの耳に入ったら、あの10本の魔生糸に脳みそを直接いじくられてしまうだろう。

程なくして、麦酒が届き、カースは小樽をかかげる。


「仕事終わりに乾杯、ということデ」


「いや、まだ残っているけど」


「そんなもの、自分の裁量で今日は終わり!としてしまえばいいんですヨ」


今日のカースはやや強引である。

ショウは、残した仕事に対し、なんか申し訳ない気分になるものの、「そ、それなら……」と麦酒をゴクゴクと飲んだ。喉を通った冷たい麦酒が、いつも以上に身体に染みわたっている。これは、心身が疲労している証拠だ。


(俺も疲れていたようだな……危ない危ない)


疲労は良いアイデアの敵なのである。自分が疲労の感度が悪いことを悟ったショウは、今日はこれまでのストレスを発散してやるぞ、追加で肉やチーズを注文した。


「人は見かけによらないもんだな。カースはてっきり静かな酒場の方が好きだと思っていたよ」


飲み食いがひと段落着いた後、ショウがカースに聞いた。


「イイエ、普段は来ませんヨ。ダンナの予想通り、あっしは静かな空間の方が好きですネ」


「も。もしかして俺の為に…か…」


「半分正解で、半分外れ、ですネ」


ほら、とカースは酒場の入り口の方向に指をさす。そこには、レントス工場の専品部の技術員の人たちがいた。


「おや、ショウくんじゃないか?」


「みなさん……」


ちょうど彼ら彼女らは仕事が終わり、やってきたのだ。

最後尾には、レントス工場長もおり、ショウの姿を見るとにこっと笑ってショウ達のテーブルにやってきた。


「ショウも来てたのか。何かの縁だ。よし、お前らもワシらの席に混じれ」


「え、あ、はい……」


ショウとカースはレントス工場長に連れられ、専品部の飲み会に加わる事になった。

専品部の飲み会は大衆酒場の庭で行われるらしい。団体客向けスペースのようだ。

焚火を囲って麦酒片手に歌って踊っている。普段は黙々と仕事をこなす職人の彼らでも、どんちゃん騒ぎの方法は皆と変わらないのだ。


「工場長から聞いたよ、新しい大砲の開発を任されているんだって?」


隣にいた中年技術員が声をかけてくれた


「ええ、つい先日…」


「すごいね。あれは工場長が何度も諦めていた案件なんだよ」


周りから期待されるショウであったが、実はスケジュールの都合上まだ魔導砲開発は一歩も進んでおらず、どこか申し訳ない気持ちにもなる。


「お前さんが一撃を加えた時、正直スカっとしたよ!長い斧を持ったアイツはいっつも専品部の工場で暴れまわってたからね」


今度は勝気な女性若手技術員が、ショウに肩を回した。ショウはびくっと反応するも、なるべく平静を装う。


「あの時は大乱闘が起こると思って正直ひやっとしましたよ。最近は来ていませんか?」


「そうだね。相変わらず喧嘩は続いているけれど、ヤツのような暴れ牛はまだ来ていないかな」


「いま再起不能になっているらしい」


「へ、いい気味さ」


ぐいっと女性若手技術員が麦酒をぐいっと飲み干す。ショウは隙を見てするりと女性若手技術員の腕から抜け、遠巻きに見て楽しんでいるカースに話しかけた。


「これが、残り半分? 一体、どういうことだ?」


「ダンナには、この宴を楽しんでいればいいんです」


「そ、そうなのか……」


「あっしは盛り上げにやってきますんで」


とカースはどこからともなくボールなどを取り、大道芸を披露して見せると、たちまち拍手喝さいを受けた。

時間が経ち、皆酒が回り始めてきた。酒が回ると人は自制心を失う。自制心を失えば、好きな事をやりだす。専品部の技術員は職人だ。職人は、技術を誰よりも好きである。

だから、酒が回った時に話すことは、鍛冶の話や、開発中の武器の話などに花を咲かせるのであった。


「防具案か……これを量品部全ての作業者に装備させると?」


「そうして行きたいと思っています!! とにかく、あの工場は危ない!!」


設計書を持って、真っ赤になったレントス工場長とショウが酒の入った樽を手に話している。ショウは酔うと暑さを感じるタイプらしく、作業着とインナーを脱ぎ、普段見せないゴツゴツしい上半身を露わにしていた。

他の技術員達も、図面を見て興味を持ったのか、ぞろそろと集まってきている。


「いいですか! ここの防具のポイントは……」


ショウはこれまでないくらいに熱く語っている。アルコールが入っているのもあるが、自分の話を真剣に聞いてくれる人たちがいて、相当上機嫌であったのだ。

レントス工場長を始め、専品部の技術員達もショウの熱意に次第に呑み込まれていった。


「この話は既に向こうに話しているのか?」


レントス工場長が聞いた。


「いえ、量品部の、部長には突っぱねられてしまいました」


工場長は受け口になって「ふぅむ」と唸る。


「よしわかった! えっちゃんにはワシから話をつけてみよう」


「本当ですか! ありがとうございます! ん? えっちゃん?」


「えっちゃんは、えっちゃんじゃ」


えっちゃんという名前を出された人物について、頭の回らないショウは誰かはわからなかったが、とにかく工場長が話をつけてくれるというのだ。これほど頼りがいがあるものはなく、ショウは何度も工場長の手を握った。


「あれ、ショウさんとカースさんじゃないですか」


「あ、アテナー どうして、ここに?」


すっかり気分よくしている最中。アテナがやってきた。

彼女の胃と肝臓の強さは、人を超えた強さがあり、何より飲み食いが大好きだ。

まさか、肉や酒のニオイを感じてここに来てしまったのか?と回らない頭で考えた。


「メカバックちゃんをショウさんに返しに行こうと思ってたら、ここに転がってきまして」


「ミーは?」


ショウはミーシャを幼少期の愛称で呼んだ。


「ミーシャちゃんですか? もう寝ちゃってると思いますよ」


「ああ、もうそんな時間なのか……」


随分と長くいてしまったなと、ショウは空をみる。いつからだったかは忘れてしまったが、すっかり真っ暗だ。


「ほう、シスターじゃねえか」


新しい人の来訪、それも女性の来訪に、ぞろぞろと技術員達が集まってくる。


「ショウのコイビトか?」


「いやいや、そういう関係じゃあ……」


「そうです、私なんかが釣り合うはずがりませんよ」


「いや、そんなこと言わなくていいんだぞ」


「よし、そこのシスターも入れは入れ。ワシのオゴリじゃ」


「え、本当ですか!! ありがとうございます!」


にっこりしたアテナが、輪の中に入っていく。


「工場長、それは辞めておいた方が」


「なに、お前のガールフレンドにゃあ手はだしゃーせんよ。まあ、酔わすがな! ガハハ」


(そういう意味ではないんだけれどなぁ)


その後のことは、ショウの予想通りであった。

技術員達はアテナを酔わそうと何度も乾杯したが、アテナは顔色一つ変えず、技術員達がばごろんごろんと倒れていき、財布の中身がすっからかんになってしまったのである。


技術員の人たちは皆草むらに寝そべいびきをかき、酒場の店員たちやそこまで飲まなかった技術員達が水を飲ませ、頑張って世話をしている。

これもすべて、アテナが襲来してしまったせいだ。

ショウはアテナが来たとたんすぐに避難していたので潰れることはなく、酔いが醒め、パンツ一丁になり焚火から離れた場所に座って夜風に当たっていた。


「アテナ嬢の姿が見当たりませんガ」


カースである。彼の白い顔も、ほんのり赤くなっている。


「メカバックを付けて先に帰らせたよ。あのままだったらもう何人かの技術員が酒の犠牲になる。そうなったら誰も連れて帰れなくなるよ」


「で、これがカースの言っていたもう半分かい?」


「いえいえ、あっしはただ、ダンナにリフレッシュしてもらうと……」


「ウソつけ。量品部の部長を説得させるには、さらに上、レントス工場長に話をつければいい、カースはこの時間いつも専品部の人たちが来るのを知っていたんだろう。その証拠に、防具の設計図を持ってきているし、芸に徹して素面(しらふ)を保ったままだろう」


「カッカッカ、見抜かれてしまいましたカ 流石デスネ。世の中の重要なことは、だいたいこういう手筈で進んでいるんですゼ」


「偏見が過ぎる」


 と椅子に座り、ぐっ背を反らせた。


「ダンナ、そんなペンダントをしていたんデスね」


首にかけてあった白い六角レンチに気付いたカースが聞く。


「ああ、これか」


ショウは首からかけてある白い六角棒レンチを手に取る。綺麗な六角形だ。


白鋼(しろはがね)っつってな。その名前の通り白い鋼だ」


白鋼(しろはがね)、聞いた事ないですネ……」


「それもそうだろう。希少性の高い鋼な上に、加工難易度も高い。とにかく硬いんだ。俺の全力の力をもってしても、加工は無理だろう」


「ということは、ダンナが造った訳ではないのですか?」


「ああ、違う。これは、大切な人が俺の為に造ってくれたものなんだ」


「それはもしかして、オモイビト、というヤツですかイ」


カースはニヤリと笑った。


「そうだな……まあ、そうだったのかな……」


「げっ」


あっけなく素直に答えたので、カースは素っ頓狂な声をあげて驚いた。


「もうこの世にはいないけどね。片思いで終わっちゃったよ」


「……病気、ですカ?」


「いや、殺されたんよ」


「………」


「いやいや黙らないでくれ。もう乗り越えたことなんだ。オトシマエ、もしっかりつけたからな……」

 ショウは白い六角レンチをつまみ、温かな、しかしどこか悲しそうな顔をしてくるくると回しながら見つめる。


 ショウの過去の話については、それで終わった。カースは自分の知らないショウの過去について知りたいという思いが、密かに沸いた。


帰ろうと思った時、ドタドタと騒がしい足音がこちらに向かってやってくる音が聞こえた!


「ちょっとーーーー!!!!!!私抜きで何楽しいことやっているのよ!!!!」


酒場のドアを蹴破りミーシャがやってきたのだ。


「なんだ。ミーシャか」


「アテナから聞いたのよ!帰りが遅いと思ったら、私抜きで飲み食いしていたなんて!許せ……へ?」


裸同然のショウの姿を見ると、ミーシャは酒を一滴も呑んでいないのに、顔が真っ赤になってしまった。彼女は、父ポトフに過保護気味に育てられた故か、男耐性が無いのである。

顔を真っ赤にしたミーシャは、くるりと背を向けて逃げていく。その乙女の心に普段から鈍感で、酔いも回っているショウが気づくハズもなく「へんなミーだ」と言った。




次の日、レントス工場長はショウとの約束をしっかり覚えていたようで、量品部の部長と話をつけていてくれた。

行動が予想以上に早く、ショウが量品部の工場に向かうと、量品部の部長が出てきてショウをキッとにらみつけると、ショウの靴をわざと踏みつけて去っていった。

鉄板入りの安全靴であったので痛くも痒くもなかったものの、相当怒らせてしまったのだろうと、ショウはため息をついた。


「えっちゃんを説得するのは大変だったわい」


「工場長……ありがとうございました」


「いや、ショウには借りがあるしな。ワシも、ケガを見ると酒がまずくなる」


「それで、どうのように?」


「向こうも引き下がってな。試験的に防具の導入を進めて、成果が無ければ取りやめ。予算も成果が出ればその分が補填されるそうじゃ」


(許可は出たけれど、結構持ってかれてしまったな……)


そうなると、改善したという客観的な指標が無く、作業者たちと量品部部長、レントス工場長の主観で決まってしまう。


ショウ達はアウェーであることを考えれば、向こう側が「改善していない」と言ってしまえば、通ってしまうだろう。しかも、この一件で量品部からの印象は最悪だ。


「わかりました。やって見せましょう」


それでもショウは工場長から提示された条件に承諾した。成果が出ると確信していたからもあったが、レントス工場長の思いに答えたいと思ったからだ。


しばらくは、ショウのポケットマネーで実施し、様子を見ることになった。


後日、ショウはカースから量品部長エスタ・パスタの不正の証拠を受け取った。これがあれば、無条件に量品部部長エスタの首を縦に振らせることができる。

だが、ショウは「技術力でしっかり勝負したい」とその証拠品を全て捨てたのだった。

もっとも、相当悩んだようではあったが……そこはなんとまあ、ショウらしいところだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 不正行為を 裏から手を回して解決する主人公が この手の犯罪の証拠を捨てるとは……なんか性格変わったか?
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