表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
9/175

3.キモ潰しの初討伐②

次の朝、ショウは壊れた魔法剣を一夜で直し、次の日の修行に間に合わせた。


「レイ、魔法剣、直しておいたぞ」


背を向けてしゃがんでいるレイに声をかけるも、返事はない。


「何をしているんだ?」


と覗き込む。


目を閉じ、手を合わせていたレイがショウに気付き、「わっ」と驚くと尻もちをついた。


「ごめん、驚かせちゃったか」


「ううん、いいんだ。えっと…」


「魔法剣を渡そうと思ったんだ」


ショウから渡された魔法剣を抜いてみると、刀身に自分の姿が映り、レイは驚いた。


こびり付いていた血や錆は嘘のようで、刀身の光沢は新品同然なのである。剣を振ったときのぐらつきもない。


「すごい……ありがとう!!」


「当然だ、だって新品と入れ替えたんだもの」


「えっ」


「はっはっは。冗談だよ」とショウは笑いながら答える。レイも騙された、とつられて笑った。


「レイは何をしていたんだい?」


「供養さ」


「供養?」


「うん、殺めてしまった魔物の供養をね」


「えっ」


ショウの顔から、血の気が引いていくのを感じた。


自分が冗談を言ってしまったことへの“しかえし”かと「冗談だよ」という言葉を待つも、“ネタバラシ”をしてくれる様子などない。

それどころか、レイは途中で会話が止まってしまい、困った顔になり始めているし、よく見れば足元に塚がある。


「冗談、だよな?」


「ううん」


レイは頭を振った。「ここに埋まっているのさ」


「え……」


その表情は嘘をついているようなものではない。釘を打ったら木に刺さったんだ、くらいごく普通なことを言っている。そんな表情である。


レイは本気で言っているらしいとショウは思い、不安を募らせた。


魔物は闇の魔力を保有する生き物の総称である。その闇の魔力は死後も残り、他の魔物を呼びつける狼煙になる。


その効果は地中に埋めただけでは衰えることはなく、火などを使って身体を灰に変え魔力を煙とともに飛ばしたあと、それでも闇の魔力は残るので、キャンプ地からできるだけ遠くへ埋めるのだ。


「そうか、優しいんだな」


と引きつった笑顔を浮かべつつも、ショウはレイを叱るべきか悩んでいた。


魔物遺体処理は、魔物討伐を生業にする傭兵たちがギルドの研修でまず初めに教わることであり、常識である。レイであっても知らないはずはない。


かといって、「このエリアの魔物は弱いから、ヨシ!」と慣れと慢心の冒険猫傭兵が倒した魔物の後処理を怠り、寝込みを襲われ全滅するという事故はある。


自分が一番長くこのキャンプ地にいるのだから、被害を受けるのは自分。


やはり言うべきか、と口を開こうとしたそのとき、あの三人の姿が脳裏を過ぎった。


ゴルード、シルク、ガーネットである。あの三人は、自分に対し好意的な印象を持っていない。さらには、レイを大事にしている節がある。


今ここで怒れば、心証はさらに悪くなる可能性がある。自分がしている契約は、二週間は嫌でも働かなくてはいけない契約。残りの時間をギスギスと過ごすのは、人間関係のいざこざを嫌うショウにとっては、気が引けてしまう。


(いや待てよ、レイが魔物の遺体をここに埋めたことは、あの三人も知っているはず)


ショウにはゴルード、シルク、ガーネットが魔物の処理を怠るような傭兵には見えなかった。


たとえレイが秘密裏に埋めたとしても、ガーネットなら見抜ける。埋めたのは昨日であるから、時間は十分にあるはずだ。


ならば、供養したいと駄々をこねるレイに、ガーネットたちは代用品を埋めさせた、と考えられるのではないか。


いや、と再びショウは心の中で頭を振った。


推測の域を抜けないというのは確かだ。たまたま、ということもありえる。


どうする、どうするべきか、とショウの脳内で様々な考えが巡る。


「レイ、準備はできたか? そろそろ出発するぞ!」


思考の逡巡に終止符を打ったのは、ゴルードの野太い呼び声であった。


「あ、うん。ショウ、魔法剣ありがとうね」


手を振って去っていくレイに答え、ショウも手を振って送り出す。


そして、大きなため息をついた。


ショウには物事を考えすぎてしまう癖があった。

脳内で異なる意見を戦わせてしまい、結論が出ず、今のように何も行動できずに時間に解決をゆだねてしまう結果となる。


そうなると、これまでの思考が無駄になり、徒労だったとショウは大きなため息とともに肩を落とすのだ。


とはいえ、この塚が魔物を呼び寄せる狼煙である可能性はゼロではない。


レイたちが修行に出たのを見計らって、ショウは鉄製のスコップを持ち、レイが手を合わせた塚を掘り起こした。


掘り起こすと、そこには土とは明らかに違う、灰色の粉が埋めてあった。


「遺灰か? それにしては白いな」


手に取り、眉をひそめる。


(異様にサラサラしている。魔物の遺灰ならば、もっとねっとりした感触のはずなのに)


土の魔装カードを用いて構造分析を実施。


ショウはさらに眉をひそめた。


確かにこれは魔物の遺灰なのである。だが、闇の魔力を一切感じず、動物ではと疑うほどであった。


(これほどまでとは……)


やはり、あの三人は自分の想像も及ばない熟練者中の熟練者であったようだと、ショウは思った。


自分の不安が杞憂に終わったことに安堵を覚えるとともに、魔術や祈祷術のレベルがそこまで上がっていることに、魔装具技術者であるショウはさらに気を引き締めるのであった。

Tips 魔導師 ①

魔術を繰り出す者。魔力を制御する石《魔力球》を取り付けた木製の杖を武器に戦う。

魔術を極めれば、周辺に存在する魔力を《感知》する能力があがる。

上げすぎると、情報の供給過多で脳がパンクする。中には、それによって廃人になってしまう者もいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ