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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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11 お風呂場の出会い


「はぁーーーーー」


深夜、議事堂内にある露天風呂につかった私は、日ごろ溜まった疲れを全て吐き出すかのように、声を出した。身体中に溜まった疲労という疲労が、白いにごり湯の中へと流れていき、ポカポカと身体が温まっていくのを感じる。うん、温泉はサイコウね。


今、レントスにある温泉に来ているわ。

ブラック体質のショウやカースは知らないでしょうけれど、ここは温泉で有名な土地でもあるの。

ある人が地下マグマによって温められた湯を掘り当てたことをきっかけに、数々の温泉技師が集まり、温泉を造ったのが始まり。


湧き出た温泉には傷を癒す効能があったらしく、古くから魔物征服領域と隣接している戦い多きレントスの民の絶好の慰労場となったの。

レントス国が長年魔物と戦う事ができたのは、温泉のおかげだと言っても過言ではないわね。


今疲れを癒している、風呂は現在貸し切り状態。

義手である事を隠す事や、カースの妻であるセシノさんに頼んで作ってもらった儀乳を隠すため、技術駐在員という物資の権限を乱用し、私一人が入れる時間を作った。

義手の付け根部分と指先には防水性のテープが巻かれ、浸水を防いでいる。


普段はレントス議事堂に努める女性事務員や高官の使う女風呂なので、私一人が使うには少々広く、なんか寂しい。

まあ、仕方のないことなんだけれどね。湯けむりが濃くて、大理石をふんだんに使った煌びやかな内装を眺めることができないのも残念。


ふぅ~と息を吐いて身体の力が抜け、リラックス。白い湯けむりを眺めながら、これまでの事を思い出す。

レントスの技術駐在員。そのポストを、なかば騙される形でお父さんに投げられてしまった。

仕事内容は魔装具技術をレントスの人たちに教えるというもの。これは、私にとっても魔装具の勉強にもなるわね。私の専門は回路製作だけれど、回路理論、設計のことも知っていれば、受ける仕事をより適正な対価で引き受けることができるもの。

指導も1時間で終われるから、私の労働基準法は超えていない。これだけだったら、良かったの。


問題は、その他、よ。指導の様子をタール軍務卿に定期的に伝えなくちゃいけないし、ミスターシャの客人として、いろんな会議に参加したりしないといけないの。私じゃなくてもできる雑用ばかりで、苦痛極まりないわ。


そういった私には合わない業務は、いつもならお父さんが引き受けてくれるんだけれど、今回の赴任はお父さんではなく、ショウよ。ショウはお父さんと違って甘やかしてはくれず「ちゃんと働け」と仕事という暴力を投げられているの。しかも、私がサボらないよう、カースさんの同僚が私を監視しているみたい。もう。


こうなったら、当初の予定どおり、何とか契約期間三か月はやって、何とかお父さんにも来てもらって、失われし自由な生活を取り戻すしかないわね。今日も恨みの手紙をお父さんに書いてあげるわ。

そう、お父さんに送る手紙の文面をぼーっと考えていると、パシャ、と浴場内の水たまりを踏む音が聞こえた。


(誰かしら?)


私はとっさに浴槽内に身をかがめ、様子を見る。夜も更けているし、立ち入り禁止の看板も立てかけているのに、一体どのようなご用件?

湯けむりで姿は見えないが、ペタリペタリと石床にしっかりと足を踏み込む音からおおらかな男性だと予想。暴漢? 私を狙っている?


浴槽に浸かっている事が相まって、心臓の鼓動が一気に加速し始める。


(隠れてやり過ごす前に、のぼせてしまうわね…湯けむりを上手く操って、一気に逃げようかしら)


こうしている間意にも全身浴でどんどん身体の温度が上がり、思考が鈍くなっている。決断は早い方が良い。

私は意を決め、まず、空気を操り足音を立てる影に湯けむりを動かした。

影が消えるほどの湯けむりの濃さに異変を感じたのか足音が止まる。


(今よ!!)


私は浴槽から一気に飛び出て、湯けむりの横を駆け抜けた


「ひっ!?」


だが、湯けむりから伸びた腕に、私の義手が捕まれてしまう。石の滑りやすい地面で体勢を崩し、ミーシャは尻から転んでしまう。


「誰だ!?」


(ん?女性の声?)


そう思ったのと同時に、私は大理石の床で滑ってしまい、義手をつかんでいた者も、巻き込まれ転んでしまった。

地面に頭をぶつけるかと思いきや、何か柔らかいモノに受け止められる。私にはない大きな二つのクッション、他の部分は引き締まっており相当スタイルの

良い女性なのだわ。けれど、肌に凹凸を感じるし、肉も固い。


煙が少し晴れ、視界が戻る。目の前には恵まれた身体に、長いピンク色の髪、そして身体に残る多くの傷痕。


特に、右胸から左わき腹に続く3本の大きな傷跡の凄まじさは、私の注目を引くには十分であった。


「あ、あなたは…?」


ピンク髪の女性が素早い動きで後ろに飛び、しゃがんだ体勢で傷のある身体をタオルで隠している。


「見られて……しまったな」


と、重い表情をしながらつぶやくように言う。見られた、というのはその身体の傷のことかしら。ひょっとしたら、私と同じで、身体の秘密を知られたくないから誰もいない時間を狙って入浴していたのかしら?


「……!」


彼女の表情が驚いた表情に変わった。一体何を見たのかしら?視線がこちらを向いていない、少し右下……あっ!

視線の方向を追った時、既に遅かった。彼女が驚いた理由を知り、私自身も狼狽した。

転んだ拍子に防水テープが剥がれ、義手が露出していたのである。

私の方も、身体の秘密を知られてしまったのだ。




しばらく、風呂場に鉛のように冷たい沈黙が落ちた。他には誰もいない。湯けむりの空間に二人だけ。

二人は黙々と隠ぺい工作を施す。彼女はお腹の傷を隠すようにタオルを巻き、私は防水テープを貼りなおす。


(どうしよう……かしら……?)


彼女が立ち去ろうとすれば、私は「待って」と呼び止め、腕のことを黙ってもらおうとお願いするでしょう。

けれど、彼女は立ち去ろうとしない。動かず、じっと私を見ている。もしかして、彼女が動かないのは、私と同じ理由……なのかしら?


「そ、その……」


沈黙を破ったのは彼女の方だった。


「身体が冷えるし、湯舟に入らないか?」


「そ、そうね……」


二人はぎこちなく、もう一度湯船に漬かる。隣同士であるが、お互い別の方向を見ている。

何か、何か話題を探さないと……。


「レントスの温泉って、すごいわね……日頃の疲れが、こうすっと抜けていくようで」


「ああ……そうだな……」


と、彼女は腕を見る

しまった、と自分のやらかしに気づく。レントスの温泉は、傷の治りがイイって評判だったわ。


「いや、決してそういう訳では無くて……」


私は両手を振って必死に弁明する。その姿を見て、彼女はふっと笑った。


「そう過敏に反応しなくてもいい。見られてしまったものは仕方がない。むしろ、見られたのが女性で良かったさ」

彼女は「それに、お互い様だろう?」と彼女は私の方を向き、防水テープで包帯のようにぐるぐる巻きになった私の腕に目をやる。


「私も、見られたのが貴女で良かったわ。だって、秘密を()()できたんだもの」


「そうだな。()()だ」


「ミーシャ・フラウラよ。魔装具技術者よ。ミスターシャからやってきたわ」


彼女には、絵師や作家などと偽らず、ありのままを話した。彼女の前では、嘘をつく気分にはなれなかった。いや、絵師や作家というのは嘘ではないのだけれど、本業ではないし……ね。


「私は……プーリーだ。レントスで木工職人をやっている」


「木工職人? その傷は、いったいどこで受けたの?」


魔物にやられたような傷だったから、てっきりプーリーさんはこの国の兵士だと思っていたのだけれど、違うそう。


「これは、魔族から受けた傷さ」


「魔族!? よく生きて帰ってこれたわね……」


「ああ、運が良かったのさ。後ろにもある」

とプーリーさんは背中を見せてくれ、私は息を飲んだ。


プーリーさんの背中には、アメーバのような傷跡がある。これは魔術攻撃による傷ね。

この傷を見た時の感情は、どう言い表せばいいのでしょう。かわいそう、という言葉では不十分だわ。だって、背中に傷があると、女性の憧れであるドレスも堂々と着ることができないもの。


「ミーシャさんの腕は?」


「私のは生まれつきよ。物心ついた時から義手生活だったわ」


「すごいな。ミスターシャにはすでにそんな技術があるのか」


「これは開発途中だから、周知された技術じゃないけどね。私が実験体、ということよ。ねえ、さん付けはなしにしましょう? 私達、もう全てを見せちゃった者同士、じゃない?」


「そうだな、ミーシャ」


「よろしくね、プーリー」


二人の会話は、のぼせる寸前まで花が咲き続けた。


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