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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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8 ミーシャが行く

私はミーシャ・フラウラ。自由をこよなく愛する魔装具技術者。

労働意欲は皆無。人に言われて働かされるのはゴメン。

でも魔装回路という技術は大好きで、これまで様々な回路を発案し、そしてそれを自身の義手を用いた保有技術「三次元魔装回路製造技術」を用いて高速、高精度に複雑な回路を作り上げてきたわ。


一方で、事務や管理マネジメントは無理、人に指図されるのが大嫌いな私が人を動かせるワケないじゃない。支社長を担うお父さんの働きぶりを見ても「管理職はやりたくないなぁ」とつくづく思うわね。


でも、不運な事に、いえ、お父さんの陰謀で私はレントスの技術駐在員として働くことになってしまったわ。前任であるお父さんが、5年前色々なお節介を働いてしまったせいで、本来の「魔装具技術のアドバイス」という任務を超えて、レントス工場の生産管理も担うことになっちゃったわ。同じ時間、同じ給料でよ。そのせいで偉い人たちの会議にも出席することになって大変。ふるまいとか、マナーとか、堅苦しくて本当にヤダ。災難、今すぐミスターシャに戻って、あのただ起きて食べて寝るだけの生活がしたい。


だけど、それはできないの。魔紋による契約の拘束力は強いから、今職を投げうってしまえば、お父さんだけじゃなくて、レントスにもアルマス社にも迷惑がかかってしまうわ。

だから、私の戦略は、楽そうな仕事をやって、外には過大にアピールして、最低任期である三か月で辞めて交代。これしかないわ。


今日は専用品製造部の魔装具技術者へ魔装具技術に関する講義を行ったわ。講義と言っても、レントスにいる魔装具技術者の数はすくないから、座談会、勉強会の方が正しいかしら。技術自体もこれからと言う感じで、今日は基本的な事をおさらいして終了。

予め日時を決めておけば、好きな時間に行えるし、これなら続けられるわね。


魔装回路設計と、魔装回路理論のことも学べるから今後魔装回路製作の面倒な仕事を依頼されたとき、跳ねのける武器にもなるわ。

私に適当なお仕事をくれるなんて、流石はショウ。私のことをよくわかっているわね。このメンドウゴトを押し付けなければ、見直してたわ。


と、イロイロ物思いにふけながら私はレントス北門の前でタール軍務卿とともにレイーシャ王弟殿下の到着を待っている。レイーシャ王弟殿下……ちょっと呼びにくいから、ショウの言うレイさんという事にするわね。


レイさんはミスターシャの王族だから、レントスにとっては国賓扱い。北門には何人ものレントス国防兵達が磨き上げられた装備を身に纏ってレイさんの到着を待っている。

タール軍務卿は足が不自由なので、杖を立てて座り、国防兵たちと談笑しながらレイさんの到着を待っていた。自分だけ座っているのはよくないという事で、兵士たちにも布の上なら座る事を許可し、私にも座り心地の良い椅子を提供してくれている。


タール軍務卿、軍人とは思えない物腰柔らかな人だわ。私の軍人に対するイメージがヘンケンの塊だったのかしら、それともタール軍務卿が例外なのかしら?


「いやはや、ご足労でありますな」


「レイーシャ王弟殿下はミスターシャの王族ですから、私がご案内しないと」


言葉にしてみたけれど、半分くらいは嘘だわ。私は王家に対する忠誠心は全く持っていない。

私が今ここでレイさんを待つのは「怖いものみたさ」ね。ショウをあんなにも震え上がらせることができるなんて、いったいどれほどの人なんでしょう。その好奇心が、長すぎる拘束時間の中でも労働に耐えている理由よ。


ショウは別にガラスのようなメンタルの持ち主ではないの。困難に当たれば、いろいろ不平不満は言うけれど、それを解決する策を考え抜き、実行する事のできる人

そうでなければ、一人山に籠ってサバイバル生活を送りながら魔装具の素材を採取するなんて任務、できるわけないもの。


問題を一人で抱えこみ、息抜きの仕方を知らないとか、気を整える事が下手だけど、亡者の剣とか、その前の今までの仕事や役割の大きさや難しさを考えれば、元々のメンタルの強さは、平均以上にはあるのではないかとも思うわ。

そのショウのメンタルを粉々に打ち砕き、一時期は廃人同然に、ある意味レイ恐怖症にしてしまったレイ殿下という存在、気になる。


ドットルト砂漠にいたらしいんだけれど、私が絵に夢中で会えなかったわ。ショウに投げられた、とってーーーーーも大変な仕事の練習もあったし。

もしかしたら、私まで心を壊されてしまうかもしれない。けれど、好奇心の方が勝って、今ここにいる。


「来ませんね…もう着いていてもおかしくはないのですが…ミスターシャの国旗を掲げた隊列を発見した報告はありましたか?」


タール軍務卿が聞くと周りの兵士たちが首を振る。ショウの危惧していたとおり、もしかしたらレイさんはレントスに来ないのかもしれない。という考えが頭を過ぎる。

気付かない内にレントスに入っていた、ということは無いと思うわ。レントスには北門と南門があって、ミスターシャ方面からやってきた時、南門は山を越えた遠回りをしなくちゃいけないから、必ず北門は通るはずよ。


それに、レイさんの持つ亡者の剣の素材であるあの魔鋼からは、込められた三種類の魔力が複雑に絡み合う事で醸し出されるあの雰囲気を感じる。あれは一度でも製作に関われば忘れないほどに独特な感じ。私も魔導師だから、それくらいは北門周辺くらいなら《感知》できるわ。


「軍務卿は、レイーシャ殿下の顔はわかりますか?」


「いえ、全く。ミーシャさんの時のように。ミスターシャの旗を掲げていれば識別できると思いまして」


私たちがレントスにやってきたとき、タール軍務卿と面識がないのにはっきりと識別し、歓迎をうけたのはそれだったのね。

もうしばらく待ってみたけれど、レイらしき姿は現れない。日は南空高く登り、お腹の虫が鳴り始めている。


「来ませんね…」


「そうですね…」


魔法感知は切っていないし、タールの部下達がしっかりと門の前で、行く人々の素性を確認していたから、見逃したって事は無いはず。


「何かトラブルに巻き込まれたのかもしれないですね」


「ええ、そろそろ本格的な捜索隊を組織しますか」


そんなとき、ミスターシャの旗を掲げた隊列を発見しましたという情報が伝令兵士から伝えられた。タール軍務卿は安心したように座り、レントス国防軍兵士たちもレイさんを向かい入れるために準備を始める。

けれど、やってきたのは、隊列ではなく。レントス国防軍の物見と焦燥を露わにしたミスターシャ兵士だったわ。


「一体どうしたのだ」


「実は、レイーシャ様が行方不明になられたそうで……」


ミスターシャ国防兵が説明を始めた。


「我々で捜索していたのですが見つからず、こうしてレントスの方々に助けを求めにきたのです」


「わかった」とタール軍務卿は再び立ち上がり、捜索隊結成の命令を下す。


「レイーシャ王弟殿下の捜索隊を直ちに結成する!」


「「「「はっ!!!」」」」


命令を発する時、タール軍務卿の普段の区長の優しさとは変わり、どこまでも通るように鋭く厳格さを乗せた声で発令した。今までのんびりとやっていたレントス国防兵士たちも、背筋をぴっと伸ばして、ピカピカの装備を脱いで、使いやすいいつもの装備に着替えていく。


けれど、その状態は永くは続かなかったわ。

捜索部隊を出発する直前、礼服を着た一人の連絡官らしき人がレントス側から慌ててやってきて「レイーシャ様が着任されました」という報告をしたの。

その時の私を含めた驚き様は、天地がひっくりかえったようで、皆すぐに踵を返してレントス議事堂の方へと向かったわ。


「急ぎ議事堂に向かいましょう。先に行ってください」


タール軍務卿の義足を見て、私は「…わかりました」と申し訳なさげに頷くと、大慌てで中心部の議事堂へと向かう。

到着した時、亡者の剣が他の技術者の手に渡っていれば、このミッションは失敗。

失敗した所で、亡者の剣の情報が洩れる可能性は低く、ショウが困るだけなんだけれど、何においても失敗するのは癪に障る。


レイさんがいるという部屋の前につくと、まるで今から敵陣に突入するかのように扉を乱暴に開けた。金髪の青年は音に驚き振り向く。

描いた似顔絵通りの、どこか青くささを感じさせる、優しい感じの青年だった。年齢は私より下かしら? 誰もが羨ましがる綺麗な金髪と、碧い瞳……女装してもバレないわね。

この人が、ショウのメンタルを粉々にできるなんて私にはとうてい思えない。


「き、君は?」


「レ、レイーシャ王弟殿下、ご無礼をお許しください。私はミーシャ・パスカル・フラウラです。ミスターシャから派遣され、技術駐在員をしております」


軍服ワンピースのスカートをつまみお辞儀をする。レイ殿下は一瞬嫌な顔を向けると「わかった、よろしく」と言い、背を向けた。


初対面であるはずなのに、印象が悪い。乱暴にドアを開けてしまったから? お辞儀の仕方? 何にせよ、まずいわね……何か話題は、話題…


「いつ、入ったのですか?」


「ああ、もしかして外で待ってたのかな?」


「北門の方で…」


「ごめんね、実は山を降りて来ちゃって」


「山って……周囲のあの山ですか?」


「うん、魔物の気配を感じて、ちょっとね。こう足に風を込めてぐんぐん登って行ったから、そう時間はかからなかったよ。」


私も風の魔導師だからできない事はない。けれど、風の魔法で山を越えて、かつ魔物討伐しても疲れていないなんて、相当なスタミナの持ち主。これも光の魔力の力なのかしら。


「それで、何の用だい? 挨拶?」


レイさんはあまり私と顔を合わせようとはしない、けど言ってみるしかないか…


「実は、レイーシャ様の剣のメンテナンスを。私に任せて欲しいなと思いまして」


レイさんは眉をひそめ、怪訝な顔を向けた。


「何故、君がやるんだい?」


「そ、それは…」


レイが私をじっと睨みつけている。その瞳にはさっきと違って活気がなく、霞んでいるように見えたわ。

その瞳の奥底には、何か底知れぬ深い感情を感じる。前言撤回、この人、確かに怖さを感じるわ。

どうしよう、口が開かない。ただ正直に「製作者の一人よ」と、言えばいいだけなのに、そう言いだせない雰囲気にいる。まるで、唇が麻痺してしまったような……


居心地の悪い沈黙が続いたとき、また乱雑にドアをバン! と開ける音が聞こえた。


「あ、レイさんではないですか。お久しぶりです!!」


「アテナ、何故ここに?」


レイの視線が外れ、私の心が軽くなった。


「遠征でここまで来たんですよ。ドットルトは平和になっちゃいましたから」


「そうか、それは良かった……のかな?」


「良かったに決まっているじゃないですか。あ、ミーシャさん。もしかして今、取り込み中でしたか?」


「そ、そんなことは無いわよ」


正直アテナが来てくれて助かったわ。このままレイさんに睨まれていたら、ショウみたいに心が壊れていたかもしれないし。


「彼女とは知り合いかい?」


「ええ。ドットルトでできたお友達です」


そうだったのか、とレイはまた私を見た。今度の瞳は、サファイヤのように碧く輝いており、重圧の類は全く感じなかった。


「レイーシャ様、私達に亡者の剣のメンテナンスを任せてもらえないでしょうか? 私は亡者の剣の製作者の一人です。その剣の事は良く知っています」


「私たち……か……」


と小さく呟くと、レイさんは微笑んだ……気がした


「わかった。ミーシャ君に預けよう。ちょうど切れ味や魔法の出力も弱まってきたところなんだ。自分でメンテナンスをしようと思ったけれど、限界が来ていたんだ」


「ありがとうございまず。レイーシャ様」


と私はスカートをつまんでお辞儀をする。


こうして、アテナのおかげもあって、私の任務は無事成功に終わったわ。

これが、私とレイの初めての邂逅となったわ。確かに、恐ろしい人だったわ。いつ圧力をかけられるかわからない不安定さが、さらに恐怖を煽る。ショウがメンタルを壊すのも、納得できるわね。今度お詫びに、何かしてあげようかしら?


そして、アテナ。貴女は猛獣使いの才能があるわよ。


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