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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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7 量産品製造部

次の日、ショウはアテナとカースを連れて量品部の工場へ現場調査へと赴いた。


レントスの工場は住宅街から少し離れた場所にあり、レントスを象徴する白く大きな壁に隣接している。生産したものを素早く壁内にいる国防兵や前線のファルティス要塞に届けることができるよう、すぐ近くには工場、軍関係者専用の門がある。


工場は白いべトンレンガを塗装し、積み上げてできた建物で、規模は大きく、煙突から白い煙がモクモクと噴出しいる。


工場に入ると、カン、カンと槌が響く音や、モノづくりの場では油や鉄の香りやむわっとした蒸気に熱烈な歓迎を受け、ショウは実家のような安心感を覚えた。


だが、音が反響して、多くの作業員が作業しているので音が雑音のようになってしまっており、耳栓が欲しいな、とショウは顔をしかめた。


「ここが工場というものなのですね!」


生産場に慣れていない人は工場や鍛冶場に入るだけで騒音に耳を塞ぎ、油のにおいに鼻を曲げるものであるが、アテナは初めての体験に目を輝かせ、カースは平静と辺りを眺めている。


「ホウ、不思議な工場ですネ。皆さん同じ作業ばかりをやっている」


「ああ、生産性を重視した工場はこういう方式を取ることが多い」


量品部の工場は、1人が1つの品物を担当するのではなく、1人が1つの工程を担当する。例えば、剣を造るならば、1人が作るのではなく、炉の整備をする人、鉄を温める人、ハンマーで鍛造する人、焼き入れや焼き戻しをする人、研ぐ人と分けて作業するといった感じだ。

この方が、作業者の習熟スピードも早く、多くの製品を造ることができる。


「ただまあ、この工場を見た鍛冶屋達は、きっと怒ってボロカスに言うだろうなぁ」


「どうしてですか?」


アテナが聞いた。


「素材の多様性を殺しているからさ。同じ形の鉄の塊であっても、鉄以外に含まれている物質の構成や、目に見えない小さな傷など一つ一つ差異があって、最適な加工をしかたは違うんだ。素材の声を聞き、どのように加工すれば、素材の味を生かせるかというのが、鍛冶屋としての腕の見せ所で、付加価値にもなる。でも、この工場では、素材の多様性を一切無視し、すべて同じ工程でモノを作っているんだ」


「鍛冶場の人たちはまるで、素材を生き物のように扱っているんですね」


「いい例えだな。鍛冶場職人にとってこの光景は素材を奴隷のように扱っているかもしれない」


「「ここではモノを作っているのではなく、ゴミを造っている」という過激派鍛冶職人も現れてくるかもしれませんネ」


カースの意見に「普通にいそうだな」とショウは笑った。


「でも、この方式も悪くはないぞ。工程を分けることで、鍛冶経験の無い素人でもすぐに生産に携わることができるから、大量の製品を生産することができる。戦時中みたいな場合だと、そのメリットは大きくなっていくんだ」


「旦那的には、1人1品と1人1工程とで、どっちがいいんです?」


「うーん、どうだろうな……」


とショウは腕を組み、工場の高い天井を見上げて考える。


「やっぱり物量ってのはバカにならないから、特に武器とかにおいては今後量品部のやり方がどんどん広まっていきそうな気がする。けれど、そうでもなかったりするんだよな……<聖なる貝殻(セイント・シェル)の伝説>の話を知っているだろう?」


「最強の光の戦士、のやつですか?」


誰もがおとぎ話で聞かされる。一騎当千を体現しつづけた伝説の人だ。


「ああ。生半可な武器だと彼女の驚異的な怪力の前では敵とともに破壊されてしまうから、それに耐えうる特級の武器が必要だったんだ。それには最高の素材と、最高の職人、そして最高の環境が必要だった。武力に関しても、物量が絶対という訳ではない。だから1人1品と1人1工程も、どっちがいいとは言えないな」


「中途半端なダンナらしい回答ですネ」


「うるさいやい。さあ、仕事に戻るぞ」


3人は工場を邪魔にならない外周から見て回った。その間、ショウはわかる限りの工程内容をカースとアテナに説明した。魔装具だけでなく、様々なモノを造ってきたショウだからこそできることであった。


「造っているのは、剣、弓、槍、防具。それと砲弾ってトコロですカ……砲弾は危なさそうでしたネ」


「だな。火薬関連の生産現場は危ない。最近では、動力に魔導師を用いるようにもなったから、出力が高くなった。例えば……ほら、あれだ」


ショウは遠くの木でできた機械を指さした。


「あれは?」


「魔装カード製造機さ」


枠組みは木材で、内部の部品は金属でできており、ガシャン、キィーン という金属音が定期的に鳴り響いていた。


「魔装カードの中身ってみたことはあるか?」


カースとアテナは首を横に振った。


「主に3つの層に分かれていてな 1つは中心の魔装回路層。文字通り魔装回路がある。中心の厚さは魔生糸1本くらいの厚さだ。」


工程の上流では、多くの作業員たちが、ピンセットを持ち回路図を見ながら目を凝らして魔装回路を組んでいた。


「茶色いシートの上に回路を組んでいますね」


「あれは銅だよ」


「銅? あんな薄いものがですか?」


「あのシートが次の層。銅膜シートだ。いわゆる魔力絶縁体だな。魔装回路を表裏から2枚、包み込むように挟んで、プレス機で圧着するんだ」


魔装カードプレス機の近くで魔導士と思われる人物が、腰に肌身で魔生糸の束を巻いている。その束は魔装カードプレス機に繋がっており、魔力を動力源にプレス機を動かしている。

人力で出力が足りない場合、高額で雷系魔導士を雇い、大出力で機械を動かしているのだ。


「厚さはどのくらいなんデス?」


「企業秘密だ。つっても分解して測ればわかるんだけれど……」


造った回路に銅シートを乗せ、作業者がプレス機の上に何枚も整列させる。

すると、魔導士が魔力を込め、重りをおろしてプレス開始。

重りが離れると、圧着が完了し、次の工程へと回路たちは移動する。


―あっ


圧着後の魔装カードを、作業員が回収しようと思ったその時、魔導士が誤作動を起こして再びプレス機を落としてしまった。


―ご、ごめんなさい!


―気を付けろバカ野郎! 殺す気か!


作業者はプレス機を操作していた魔導士に罵詈雑言を浴びせるも、腰が抜けたまましばらく立てないでいた。

異常に気付いた魔導師がすぐに重りを止めたおかげで、大事には至らなかった。


「危なかったな……」


「エエ、あと少し遅かったら腕がペシャンコでした、ネ」


「ヒヤリとしました……」


「動力源が人の内部だから、恐ろしいことだよ。動力が人の外部ならヒューマンエラーが起きても事故にならないように、いくらでもやりようはあるんだけれど」


3人は冷や汗を拭って、次の設備に移動する。


「あの少し離れたところでキィーンて鳴っているのがあるだろ。あれが銅膜シート生産機だ。気泡だけを抜いた、」


銅膜シート生産機の外枠は、刃が狂わないよう強固な鋼でできており、粗銅の塊を、まるでニンジンを切るかのように薄く切っている。


「銅膜を作るのにこの鋼でできた刃が活躍するのさ。あれただの鋼じゃないぞ、極東の玉鋼を使って、極東で鍛えられているんだ。極東の剣は切れ味抜群だが、正しい軌道じゃないとすぐ折れる。それを機械で再現するのがこの装置のキモだ」


この機械に関して説明するショウのテンションは他の設備と比べて明らかに高く、意気揚々と内容を説明し、やや早口になっていた。


「旦那、ここのラインだとやけに饒舌ですネ もしかしてミスターシャ製ですカ」


「ああ、俺も開発に携わったんだ」


「ナルホド」


「とはいっても、すでに開発は別のチームがやってて、わからない部分もあるけれどな……それで、最後の層はよく見ている外装部分だ。絵柄のついた2枚の紙を接着剤で貼り合わせるんだ。これで魔装カードの出来上がり」


と、ショウは作業着のポケットにあった土の魔装カードを取り出した。


「まだ正確なデータは収集していないけれど、主に砲弾などの火薬現場とこの魔装カード製造現場を主に取り組んでいこうと思う」


と、魔装カード製造現場の調査を始めようと思ったその時、ぎゃあ、という男の叫び声だった。


何事かとショウとカースは駆けつけてみると、剣の鍛造を担当するライン工が、誤って自分の足を叩いてしまったのかぷっくりと腫れている右足を押さえて「痛い痛い」と蹲っていた。


「通してください!私は祈り手(プレイヤー)です!」とアテナがけが人の元に近づき、<癒し>の祈祷術をかけた。


「痛い」という苦しんでいる声が徐々に小さくなっていき、呼吸も穏やかになっていく。

すぐに担架を持った人たちがやってきて、けが人を回収していく。

他の作業者たちはガヤガヤと噂話をしていたが、数分もすれば、監督者の叱咤する声無く皆平然として作業に戻っていった


「アテナ嬢、腕を上げましたネ」


「ええ、毎日お祈りしていますから」


「しっかし、この状況不気味っちゃ不気味ですね。反応が薄い、といいますか……」


「ああ、よくあること。で済まされている気がする」




その後は、特に問題は起きず、お昼休憩のベルが工場内に鳴り響いた。


ショウは、このお昼休憩を利用して、工場の作業者に紛れ込んでいるカースの仲間と話すことになっていた。


外に出れば涼しい風が肌を撫で、開放的な気分になる。やはり工場の中は暑いのだ。


工場の外では商人たち出店を構えており、休憩している作業員たちがパンや果物、冷たい水などを買っていく。


ショウ達もその商人たちから水とサンドイッチを買い、休憩していた。


「ふいーあっついあっつい、暑さで集中力が衰えるのも怪我をする原因かもしれんな」


「なら、氷魔導士でも配備しますかネ」


カースは涼しい顔をして言った。氷魔法の適性がある彼は<環境適応>のスキルを持っており、暑さや寒さに強いのだ。

魔法の素養が一切ないショウには、羨ましい限りである。


アテナも汗で衣服が汗に濡れているが、まだまだ元気一杯といった様子でバクバクとサンドイッチを食べている。アテナは身体の内部が驚くほど堅牢なのだろう。


「アニキ」と一人の作業員が会釈をしながらこちらに近づいてきた。

黒髪でポニーテル。目はややキリッとしていて気が強そうだという印象を持った。支給されている厚手の布服を脱ぎ、さらしを巻いた上半身を露出している。汗ばんだ姿が少し艶めかしく見え、ショウは目のやり場に困った。


「パンテヌ、ご苦労なこった」


アニキというのはどうやらカースのことらしい。


「妹さんですか?」


アテナは聞いた。


「いえいえ、こんなに可愛い娘があっしの妹なワケないじゃないですカ」


「口説いているんですか? セシノ様に報告しますよ」


「ふ、普通にホメているだけですよ」


とカースは冷や汗を描いた。カースは妻セシノには頭があがらないようだ。


「ダンナ、既にお会いしているかもしれやせんが、あっしの同僚かつ弟子のパンテヌです」


「あれ、ドットルトの時にもいたのか?」


カーキマントを着込んで顔を隠していたのもあったが、カースの仲間に女性がいた覚えがない。


「エエ、でもレイサンの監視が主な任務でしたから、ダンナとは会っていないでショウ」


「そうだったのか。わざわざここまで来てくれるとは、ありがたい話だ」


「パンテヌは身寄りがないもんですから、ネ」


「アニキ、あまりアテの身上話をするのはやめてください。それと任務中ですので、パンテヌではなく03(ゼロスリー)というコードネームでお」


「そうだったのですね!!!!!!!」


突然、パンテヌの話を遮るように身を乗り出してきたアテナが猛烈な勢いでパンテヌの手を握った。


「アテナと言います。私もドットルトで身寄りがなく、ずっと孤児院に暮らしていました。」


「え、えっと……私はセシノ様が私を拾ってくれて……」


「洋服屋さんの店主さんですね、なんと」


ニコニコしながらまくしたてるアテナに、パンテヌはしどろもどろになり、恥ずかしさで顔を赤らめショウ達に助けを求める視線を送ってきた。


「こういう場ではむしろコードネームで呼ぶ方が危ないですゼ。マ、同年代の友達ができそうで良かったじゃないですカ」


「パンテヌへのヒアリングは、後にしようか。この仲に入ろうとすればバチが当たりそうだ」


「デスね、後は若い者に任せやショウ」


保護者面をしたショウとカースの二人は、アテナとパンテヌを置いて一旦その場を去った。

アテナの驚異的なコミュニケーション能力によって、二人は打ち解け仲良くなったという。



結局、斥候パンテヌから話を聞けたのは夕刻、工場が終業したときであった。

アテナは到着予定のレイに会いに行くと別れ。パンテヌと会ったのはカースとショウの2人である。

アテナがいなかったのでパンテヌは一瞬寂しげな表情をするのをカースは見逃さず、にやりと笑った。


パンテヌは「わ、私はアテナさんのことは苦手です。こう、ぐいぐい来るというか」と弁明するが、時すでに遅し。パンテヌは頬を恥ずかしさで赤く染める結果になってしまったのだった。


「私は木の丸棒に矢尻と羽を取り付ける工程にいました。簡単だったのですぐ慣れ、他の同じ工程の作業者よりも多く矢を作れました」


色を正した斥候パンテヌが報告した。さすがカースに鍛えられているだけあって、仕事はきちんとするようだ。


「すごいな。習熟スピードが速いと言っても、1日でできるレベルじゃあないだろう」


「あれは誰でもできますよ。正直飽きてきたので、変装して他の工程に紛れ込もうと思います」


「他の工程の様子も知りたいし、よろしく頼むよ。それで、危険面についてはどうだった?」


「弓矢製造の工程は殆どが軽作業ですから、危険ではありません。強いて言えば、矢尻で指を切るくらいでしょうか」


「しっかし、どうも、見えて来ませんネ」


カースが腕を組んで言った。


「どういうことだ? カース」


「この調査をする意義とでもいいましょうカ。安全が本当に必要なのかということデス。彼ら彼女らは長い経験を積んだわけではありまセン。再教育が簡単なら、すぐに補充できると思いますガ。それこそ、壁に沿って暮らしているスラムの連中を雇えばいいと思いますヨ」


レントスは中心の議事堂に近ければ近い程地価が高く富裕層が住み、壁沿いには貧しい者が住む。一部のエリアでは、治安の悪いスラム街にもなっている


「私も同意見です。剣の製造や魔装カードの製造でけが人がでましたが、みなさん何食わぬ顔で仕事をしていました」


「うん、そう考えるのが普通だと思う」


ショウは一度頷いた。


「そういうコトを見越してこの工程スタイルが造られたと言われても疑わないだろう。けれど、怪我をしてしまえば生産力が下がるのは確かだ。策を講じて今の内に怪我対策をしておかないと、魔物達との戦いが激化したときに生産が追い付かなくなるんだ」


「ナルホド、イチリありますネ」


「それだけじゃない。危険な工場なら士気も落ちる。午後も工場内をずっと観察していたけれど、槌の人が怪我で運ばれてからどうも作業者たちのやる気が落ちているように見えた」


「そう……ですか……」


自分の観察と食い違う意見が出て、パンテヌは黙った。

カースも腕を組み真面目な顔で、ショウの話を分析している。


「ただこれは仮説だ。けが人が出なかった日と比べて検証する必要がある。今後もじっくり観察してデータを取っていこう」


「俺は明日から専用品製造部-専品部に技術者として入ることになっている。量品部の調査の方は、カース達斥候部隊にお願いしたい。人が足りないのなら、もっと人を雇っても構わない。お金は出す」


「わかりやした。必要に応じて雇わせてもらいまショウ」

明日からの調査の方針を斥候パンテヌに伝え、ショウはレントス議事堂へと戻っていった。


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