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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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6.1 いざ、レントスへ 上

ドットルト砂漠から馬車に乗って三日、ショウ達一行はレントスに続く山岳地帯に入った。ここから少し行けば、レントスの高々とした城門が見えてくる。


「うわぁ すごいです」


馬車の中から顔を出したアテナが、山を仰ぎながら言った。


「あと、どのくらいですか?」


「ああ。まだ一時間くらいはかかる。地理として、だったらもうレントスはすぐそこなのにな。道のりはまだまだ長いぞ」


分厚い本を読みながらショウが答えた。今日はレントスへと到着日なので、礼服を着ている。


「ここから急な坂道ですから、注意してくだせエ」


使いの変装をしているカースは馬車の手綱を握りなおしと、馬車で坂道を登り始める。

二つ山を越えた所で、ようやくレントスのある二つの山が見えた。あの白い壁と山に囲まれた盆地にレントスがある。


レントスの二つあるうちの城門の一つ、北門は壮観の一言だ。

山の中腹にまで届くレントスを守る大きな逆三角形型の壁、あれほど大きな壁の建造を可能にしているのは、近くで大量に採れる石灰や火山灰のおかげだ。

その壁には外敵を狙撃するべく穴が無数に空いており、壁上には対空大型誘導大弓(スーパー・バリスタ)がちらりと見える。


「大きいですね…」


アテナの今度の仰ぎ相手は、レントスにそびえる門だ。


「魔物領に接していながらも、今まで国を維持できた所以、ですかネ」


「それだけじゃないわ。更に先に行った前線にはファルティス要塞があるの。小さいものは50m大きなものは直径500mくらいの堡塁が高台の上にあって、そこから大砲や魔砲を転がせば、魔物達は成す術なくやられていくわ」


ミーシャが身を乗りだすように言った。本で得た知識をここぞとばかりに生かし、「物知りなんですね!」とアテナにおだてられて、ふふんと鼻を鳴らしている。


(良かった。どうやら機嫌は治りつつあるな)


アテナが感心する傍らで、ショウは安堵の笑みを浮かべた。


(ん? あれは…)


見ればレントス門の前で、一人の大男がショウたちの馬車に手を振り、やってくるのが見えた。その手が指示する通りに馬車を動かし止めると、その身分の高そうな服装をまとった大男が近づいてきて、敬礼した。


「ようこそおいでくださいました。ミーシャ・フラウラ殿。レントス軍務卿のタールと申します。今日のお二人の案内役を任されております」


とても生命力あふれる大きな老人だ、とショウは思った。高級感のある厚手の服や漆塗りの杖からは彼が軍人、しかも将官である事がわかり。彼の大きさを強調している。

ショウとミーシャは馬車から降り、それぞれ自己紹介をする。タールは左足を庇う様に前に歩き、握手を交わした。


「ミーシャ・パスカル。フラウラです。指揮官自ら迎えに来てくださり、まことにありがたく存じます」


とミーシャは仕立ててもらった軍服ワンピースの端を持ち上げ、柔らかな挨拶をした。

その豹変ぶりに、ショウはいつも吹き出しそうになり、耐えるべく外を見る。


「それから、あなたは?」


タール軍務卿がショウの前に立ち、聞いた。


「ど、どうも。ほ、補佐のショウ・アキミネです」


まさか声をかけてくれるとは思わず、言葉をつっかえてしまった。ミーシャは仕返しと言わんばかりに、タール軍務卿の視覚外で笑って見せる。

タール軍務卿は補佐のショウや使用人、ということになっているカースとアテナにも名を名乗らせ、挨拶を交わす。

細かいところまで目が届く、信用できそうな軍務卿だと、ショウは思った。


「早速、中心部へご案内します。ささ、どうぞ」


カースとアテナに馬車を任せ、タールとその部下たちに連れられながら、レントスの中心部にある議事堂へと入った。


タール軍務卿は、綺麗な銀の杖を手に、左足を庇いながら力強く歩いている。

階段などで、ショウが手を差し伸べたが、タール軍務卿は「どうも。ですが結構です」と断り、すたすたと階段を登っていく。


「レントスは共和制を取っているとお聞きしますが」


ショウがタール軍務卿に聞いた。


「ええ、レントス・クシュートスの理念を今でも受け継いでいます」


この時代では珍しく、レントスは共和制を取っている。

国民の中から大臣以下役人達が選ばれ、大臣達の合議制によって国が動いており、王族は一応存在しているものの、国政の表舞台には一切現れない。


「ミスターシャでは上がミスったせいで、尻ぬぐいに追われています。もし、共和制ならばこの前の遠征は避けることができたでしょうに」


とややブラックなジョークを言うと、タール軍務卿は大いに笑った。


「その分我々の国は物事の決定や動きが遅く、他国より技術が遅れていますから、一概に良いとは言えません」


十人いれば、十通りの考えがある。それをまとめ上げ、一つの結論を出すのは至難の業だ。


「お恥ずかしい話、戦時中であって意見はまとまることは無く、技術の発展を他国に頼るという事になっているのです」


「安全保障の観点からすれば、レントスの技術発展に貢献するのは我々のミスターシャの義務であります。助力は惜しみません」


「頼もしい限りです。ささ、つきました」


まず、タール軍務卿は二人の部屋である執務室に案内してくれた。床には赤い中性色のカーペットがしかれ、執務机は木目の美しい上質な机がおいてある。

ショウが手袋を脱ぎ、机の上に掌を置いてなぞってみると、歪みが一切ない。精巧な造りであると、何度も机を撫でたくなる気分に駆られてしまう。

仕事や作業を阻害するものは何もないシンプルな部屋である。ここなら、変装も苦労なくできそうだとショウは思った。


早速、ショウとミーシャは別室―タール軍務卿の執務室に呼ばれ、タール軍務卿から直々に仕事内容の説明を受けることになった。

タール軍務卿の部屋執務説は、応接室の奥にある部屋にある。応接室は、剣や盾、獣のはく製などが飾っており、ソファも艶やかな黒革の一級品。レントス国民を代表する大臣としての威厳と、軍人としての壮言さを感じられる立派な部屋であった。しかし、タール軍務卿の執務室は飾り気のないシンプルな部屋である。手入れの施された綺麗な机と椅子、そして仮眠用のベッドである。ショウにとっては、応接室よりこちらの方が機能的で素晴らしいと思う。


「さて、レントス工場には2つの部門が存在しています」


「ええ、存じ上げております。1つ目が量産品生産部で、2つ目は専用品製造部……でしたっけ」


「そうです、そうです、すでに知っておられたとは流石ですな。話が早い」


「いやいや、名前だけですよ。詳しく教えて頂けると幸いです」


ではでは、とタール軍務卿はコホンと喉を正して説明を始めた。


「量産兵站部は剣、槍、弓のレントス一般兵士の標準武器や防具、大砲や砲弾の生産など、量産品を製作してファルティス要塞に届けています。魔装カードも作っていますよ。もちろん、アルマス社製の機械を導入しています」


「恐縮です」


ショウは肩をすくめ、頭を下げた。


「もう一つは特殊品製造部。オーダーメイド品を造ったり、修理・メンテナンスをしています。多くの品は魔導士が使う魔力球や、魔装具ですね。ここで魔物討伐の仕事をなされているクリノス傭兵部隊の皆さんの装備もここで扱っています。ショウさん達には、レントス工場が抱えている2つの問題を解決して欲しいのです」


「2つの問題、ですか?」


「1つは魔装具技術の不足です。魔装具は魔術才能の差を埋めることができる装置。魔物達に対抗するには魔法が欠かせません。弱点属性を付けば簡単に魔物を倒せるようになりますし、遠距離攻撃の選択肢が増えます。年々、魔物はどんどん活性化していますから、魔導士のように特殊訓練が無くとも魔法を使うことができる。魔装具はこれからもっと必要となるでしょう。」


「だからミスターシャから魔装具技術者を派遣し、レントスの魔装具技術の力を高めてくれ、というこうとですか?」


「そういうことになります」


「具体的には何をすればよろしいのでしょう?」


ミーシャが物腰柔らかな口調で訪ねた。猫かぶりのエセ淑女モードだ。


「特にこちらで決めてはおりません。簡単に講義をしていただくだけでも結構です」


楽な仕事だなとショウは思った。ノルマも無ければ拘束時間も短い。何か裏があるなと、疑ってしまう。


「”楽な仕事だ。裏がある”とお思いでしょう」


「「えっ」」


心の内を言い当てられ、ショウとミーシャは驚いた。


「ほっほっほ。魔法を使ったとか、そういう類ではありませんよ。長年生きたものの勘と駆け引きというものです」


「えっ」と驚くことが図星であることを証明する反応。ショウは一本取られた、してやられたと内心で思い、優しいだけでは務まらない国防大臣の確かな器量を垣間見た気もした。


「どちらかと言えば、ミーシャさん達にはもう1つの依頼に重点的に取り組んで欲しいのです」


「もう1つの依頼?」


「ここ最近、技術者の怪我、労災が多発しているということです」


「ろ、労災……」

猫かぶり淑女モードのミーシャは「労災って何?」と面と向かって聞けないのか、ショウのわき腹をつんつんと付いた。


「労災ってあの、労働者が仕事中にケガをしてしまい、場合によってはしばらく休業、最悪の場合は死んでしまうこと……ですか」


ショウは心の中でため息をつき、わざと説明口調で労災について説明する羽目になった。


「ええ、その通りです。量産品製造部、専用品製造部、二つの工場で労災が起きています」


「”何故労災問題なんかに取り組まなければならないか”そう思われたでしょう。確かにそうです。生産性を上げるために、少しでも多くのお金や労働力割いた方が効率的です」


ミーシャはまた図星を突かれ、驚いていて目をぱちくりと開けたが、ショウは「いえ、違います」と言った。


「労災で職人が抜けてしまえば、その工場から労働力と技術力が失われます。何より技術力が失われてしまうのが痛手です。中には、経験によってのみ作り上げた明文化が難しい技術は幾多とあります。もしそれが何かの部品だったら、製品全体の生産ができなくなります」


タール軍務卿は「素晴らしい、その通りです」簡単の息を漏らした。


「珍しいです。そのような考え方をする方がいらしたとは……」


「本で読んだ程度の付け焼刃の知識ですよ。それに、工兵をやっていた経験があるので、少しばかり怪我や命に敏感なだけです」


「おお、ミスターシャ国防軍のですかな?」


「いえ、ゲートブルクにて少しばかり」


ゲートブルクといえば、魔装具メーカーアルマス社の本社がある場所である。


「そうでしたか。でしたらこの案件はあなた方にピッタリだ。引き受けてくれますかな?」


ショウは「承知しました」と快諾し、タール軍務卿と握手を交わした。ミーシャも握手を交わすことになったが、その顔は作り笑いだ。それもそうだろう、この労災問題の解決は地味で地道な仕事なのだから。


「現状わかっている原因はなんでしょうか?」


ショウが聞いた。


「最近になって労災問題が提起されたので、全貌は掴めていません。それを含めて、調査をお願いしたいのです。レントス内部には、調査に回せる職人がいないものでして」


「……わかりました」


原因がわからないのだから、まずは工場の現場に張り付かなくてはならない。


レントスの魔装具技術力強化よりもこっちの方は厄介だとショウは思った。



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