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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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5.2 ドットルト再び 下

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Twitter @Imori_Saito

「あ、ショウさん! お久しぶりです!」


聞き覚えのある声にショウは振り向くと、アテナが姿を現していた。


祈り手(プレイヤー)アテナである。先のドットルトでは、レイ恐怖症になってしまったショウの代わりにレイと同行し、レイの情報をショウに持ってきてくれた。


「アテナじゃないか、どうだ、調子は」


「ボチボチ、ですね。魔物も少なくなっちゃいましたから。今では教会での仕事の方が、メインになっちゃっていますね」


「アテナもどうだ? 今夜は俺のオゴリだぞ」


「え、良いんですか!?」


アテナの目が光った。


「前のお礼、できていなかったからな」


「いえいえ、あれは私が好きでやっていた事ですから」


「まあまあ、そう言わずに、ささ」


と、ショウはアテナに椅子をすすめた。

アテナは「ありがとうございます。それなら、お言葉に甘えて」とお礼を言うと、丸い木椅子に座り、食前の祈りを済ませ、アテナは肉をパクパクと食べ始める。


「あれ、肉食べて大丈夫なのか?」


「ええ、別にそんな制限はありませんよ」


「え、そうだったのか」


(シルクは肉を食べなかったから、てっきり神教全体がダメだと思っていたが、違うんだな)


「自発的にお酒やお肉を控えている方はいらっしゃいますが、自戒ですね。神聖術にはなんの影響もありません、むしろ体力を付けなくてはいけませんから、好んで食べる人も多いです」


アテナはモリモリ食べ、飲み皿を空にしていく。初めは良く食べる元気な娘だなと感心していたが、その尋常じゃない量の喰いっぷりに、だんだんとショウとカースは目を見開き、舌を巻いていく。一体その小さな身体のどこに、そんな量の食べ物を収納できるのだろうと、二人はあっけにとられていた。


成人男性の3倍の量は食べたくらいで、ようやくアテナの食器を進める手が止まった。


「さて、本題に入りたいが…」


真っ赤になって机に突っ伏し、すやすやと寝息を立てているミーシャに目をやる。


「一人完全にダウンしちゃっているけど、入ろうか」


「本題ですか?」


アテナが聞いた。


「ああ、実はな…」


まずアテナに、レントスの状況とレイのレントス派遣、自分とミーシャの役割について話した。


「いくら砂の城を倒したとはいえ、レイさん単身って酷過ぎませんか? 本当に王族なんですか?」


アテナはレイが王族とわかっても、特に驚いておらず、態度もかわっていないようだ。


「レイは王族でも、何故か疎まれているみたいでな…前線に送って戦死させ、英霊として祭ってしまおうという噂もある」


「そんな…」


「レイには死んでほしくない。そこで、アテナにお願いがある」


ショウは表情を正し真剣な表情で、カースとアテナに向き直った。


「俺はレイの武器のメンテナンスをするだけじゃなく、ミーシャのサポートもしなくちゃならない。アテナにはまた、レイのサポートをお願いしたい」


自分はショウという一人の技術者として働くだけでなく、ミーシャのサポートに入り、ミスターシャの技術力をレントスに伝えるという仕事もある。今回の仕事の重さは、過去最高のモノになるだろうとショウは思っていた。


仕事が重く広くなればなるほど、一つの仕事に占める意識の割合が低くなり、分散した隊が各個撃破され総崩れするかの如く、ショウの全ての仕事が失敗に終わる危険性がある。そうならない為には、少しでも自分の労力を減らしておかなくてはならなかった。


アテナはくすりと笑い「やらせてください」と快諾した。


「いいのか? アテナにはここの教会の仕事があるのだろう?」


「大丈夫です。ここにも人が増えてきて、《恒神教》本部からも祈り手や神官が派遣されてきましたので、私が修行の旅にでても教会は回ります。それに、《恒神教》神官への昇格試験を受けるために、資金が必要ですから」


「そ、そうか……」


ショウは苦い顔を作った。一度没落した宗教で、再スタートにするために資金が必要なのは重々承知しているが、資格試験に資金が要ることが気に食わないのだ。


「アテナ、よろしく頼む。レイと話せるのは、アテナだけだ」


「はい! お任せください!」

ショウと握手を交わすと、アテナはまた恐るべきペースで食事を始めた。




結局、ギルドを出たのは店が閉まる直前であった。


(久しぶりに気持ちよく酔った、な)


ショウは普段酒を飲む人物ではない、各国を巡った時や酒を酌み交わす事はあった。だが、あくまで仕事上の付き合いであり、失言失態を犯さぬよう、神経をとがらせていた。

この日も、カースに仕事の話を切り出すために、酒の量は控えていたのだが、快諾を得てからは、気持ちが良くなり、ぐびぐびいった。


「帰りはあっちですかい?」


「ああ、贔屓にしている宿があってな」


日はすっかり暮れ、砂漠特有の乾いた冷たい風が頬を撫で、ショウは寂しくなった懐を叩く。カースもショウも酒が入り身体が温まっているので、この風は気持ちがよかった。


「スリや暴漢に合わないでくださいね、まだ完全に治安はよくなっていないんですから」


「問題ないさ、もう俺のポケットはすっからかんさ」


「もう、そういう事じゃなくてですね」


「アテナこそ、身には気を付けろよ。お酒も入っているんだから」


「私は大丈夫です。大して飲んでいないので」


「いや、結構飲んだだろ」


アテナの飲んだ酒量は、彼女以外の三人が飲んだ酒量を足しても届かない程だ。

普通の人ならば卒倒してもおかしくないのに、アテナの口調はハキハキしており、肌の色は何一つ変わっていない。


「アテナ嬢の酒の強さには驚きですネ…」


「そうですか?」


「酒の強さを競って賭け事をしてた男達を蹴散し、ギルドから酒量争いを根絶させたのは、さてどこの誰でしたっけ…」


言われてみれば、酒場の風物詩とも言える酒量の競い合いは見なかった、とショウは思った。アテナが頂点に立って秩序が出来上がってしまったのだろうか。


(まじか…)


小さな体に、強靭な肝臓と胃腸をもつ彼女。人は見かけによらない、とつくづく思った。


「二人は兄妹みたいですね」


酔いつぶれたミーシャはショウの背中で寝息を立てている。


「え、ああ、そうだな」


「こっちのお嬢さんは、強くもないのに飲み過ぎてしまった、という感じですネ」


「こうなるような案件が、降ってきてしまったからな」


「お二人は、どういう関係なのですか?」


「ミーシャが乳飲み子だった時からの付き合いさ。ミーシャの母親に言いつけられておしめを変えた事だってあるぞ」


「へえ~ そんなに古いんですね」


「いやー思い返せば大変だったなぁ」


「そうそう、あっしの子も元気なもんで暴れるもんで。何度もおしっこをかけられたもんでさ。でもどうも憎めない。何をやっても可愛いんでさな、これガ」


「あの頃は可愛かったなぁ 今ではこんな…ヴッ」


ショウが突然わき腹を抑え、膝を崩した。何事かと二人が見ればショウの横腹に硬い靴が文字通りめり込んでいる。


ショウの肩からギロリと凝視する双眸、二人の背筋に怖気が走る。


「さ、さて。そろそろお開きにしましょうか アテナ嬢、砂の城が消えたとはいえ夜道は危険デス。教会まで送っていきやすぜ」


「あ、ありがとうございます。で、では、いきましょうか」


二人はそそくさと退散し、ショウと起きたミーシャだけが残された。


「起きて、いたんです、か…」


ミーシャは「そうよ」と言わんとばかりにショウの首元に荒い息を吹きかけている。


「い、行きましょうか」


「ばか」


まるで騎手のようにミーシャは靴でショウの腹をつつき、ショウは砂漠町の中を歩いき、宿へと戻って行った。




三日後、注文していた衣服が完成した。

この三日間、ショウはかつて働いていた武具屋や、アテナがいる教会など、ドットルトの町を巡り歩いていた。


その間、カースは変装道具の応急修理や、バレそうになった時の対応策など、自分がついていない時の緊急対応策をショウに教え、セシノは変装道具を予備分まで作ってくれており、社畜的思考を持つショウは

(カースやセシノさんが頑張っているのに、俺だけ休んでいていいのだろうか)と何度も思ったが、同伴していたミーシャに

「カースさんが、休んで良いっていったんでしょ」

と一蹴された。


「どうだ、たまにはこういう服も似合っているだろう?」


両手を広げ、黒を基調とした礼服を纏ったショウがくるりと一回転。ミスターシャ国とアルマス社の紋章が艶やかに光り付いた黒い厚手の服を身に纏う


「すごいですショウさん! まるで、どこかの貴族さんみたいです!」


アテナがはしゃいでいる。


「うん、いいんじゃない? 私の隣にいるとしては、妥協点ね」


と、腕を組んで頷いているミーシャ。

カースとセシノが遅れて裏方からやってくる。


「パーフェクトだ、ありがとう」


「へっへっへ、お褒めに預かり光栄デ」


ショウは鏡の前で威厳がありそうなポーズや振る舞いを取ったりして上機嫌になっている。


「次は、私の番ね」


と言って、ミーシャは更衣室へと入った。


「ん? どういう事だ?」


「実は、ミーシャ女史からも服の注文が入っていたんデ」


「え」


見ればセシノの目の下には隈ができていた。食事会の参加を断ったのは、二着を二日で作らないといけなかったからであろう。


「セシノさん、すいません」


「いいのいいの、君の服二日で作れたからね」


「でも、もう一着作るとなると」


「可愛い娘に向けた衣服だからって、勝手に張り切っちゃったってだけよ」


「じゃーん! どうかしら?」


飛び入るように着替えたミーシャが姿を現した。

ミーシャの服は、その雪を欺くほどの白い肌に対比するように、黒を基調とした軍服だった。質感の良い厚手の服に、襟が立っている。

それは軍服であって軍服ではない。彼女が好きなワンピースとしての特徴も盛り込んでおり、袖にはひらひらとしたフリルが付いている。

袖のヒラヒラとしたワンピースのコラボレーションである。


「これで私も威厳が出てきたかしら?」


そのあまりの美しさに、アテナからは拍手がこぼれ。ショウも「似合ってる」と素直な感想を口にした。


「ん?」


あるおかしな事に気が付いた時、ショウは腕を組み、首を傾げた。その視線の先は、ミーシャの盛り上がった胸の部分である。


「あ、ばれちゃった」


ミーシャは胸の部分を隠し、下をペロリと出した。


「あっしが女装する時に使う道具でサネ」


「こ、これも、威厳を付ける為よ。カースさんが変装で女装もしているって聞いて、もしかしたらと思って、ね。そう、これも、威厳の為よ」


「後で苦労するぞ…」


コメントしにくい状況を覚えながらも、ショウは言った。

次の日、ショウとミーシャはカースとアテナを乗せて、ドットルト砂漠を出発し、そのままレントスまで向かった。ミーシャは衣服を早急に仕立ててくれたセシノに深く感謝し、相場の倍以上のお金を払い。素材を全てセシノの洋服店に寄付した。



Tips アテナ

恒神教の信徒。真面目な信徒ではあるのだが

考え方や生活など、どこか普通の少女らしさも感じる。

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