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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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3.キモ潰しの初討伐①(ショウが棺に入る12日前)

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

レイは森の中で魔物〈緑狼グリーンウルフ〉と対峙していた。


「さあ、レイ様」


シルクが手で弱りきった〈緑狼グリーンウルフ〉へと誘導する。辺りには群れの同胞であった〈緑狼グリーンウルフ〉たちが血を流し、黒焦げになって斃れている。


唯一立っている〈緑狼グリーンウルフ〉も、苔の生えた白い体毛は血で穢れ、意識も朦朧としており、ふらふらとしていた。


緑狼グリーンウルフ〉にとっては1対4という絶望的な状態であったが、根源的な本能である人間への敵意だけは失われることなく、グルルルルル、と唸りながら、唾液が滴る白い牙をむき出しにしている。


「で、でも……」


レイは中段に魔法剣を構えながらかぶりを振る。怖かったのだ。


今まではゴルードたちが魔物と戦っているのを見学し、魔物に対する恐怖を取り払ったつもりでいたが、対峙するとなるとやはり怖かった。


さらには、今にも倒れそうな生き物に対し、倒してよいのかという罪悪感もある。


その二つの感情が混ざりあって、レイの表情に困惑を生み出していた。


レイが一歩退いたのを好機と捉えたのか、〈緑狼グリーンウルフ〉は最後の力を振り絞り、レイに飛び掛かった。


「うわあああ!」


悲鳴を上げながら剣を振るも、魔物に対する恐怖や弱った敵を倒す罪悪感から放たれる斬撃は、腰の入ったものではなかった。


緑狼グリーンウルフ〉の厚い体毛を断ち切れず、ついには覆いかぶさって、レイの首元にかみつこうとする。必死に泣きながらもがき、振り払おうとするレイ。


三人は助けようとはせず、じっとレイの様子を見ている。本当に危ないときに備えて、ゴルードは斧を構え、ガーネットは風をまとわせた人差し指を突き出している。


突然、レイに覆いかぶさっていた〈緑狼グリーンウルフ〉が、魂が抜けたようにコロリと倒れた。


レイの剣が偶然、〈緑狼グリーンウルフ〉の急所に刺さっていたのである。


ゴルードがレイから動かなくなった〈緑狼グリーンウルフ〉を引きはがし、シルクが怪我の手当てをする。


シルクがレイの肌身に手を添え、祈ると、かすり傷がみるみるうちに消えていった。


「あ、ありがとう、シルク」


「レイ様。よくやりましたね」


自分がさっきまで手に持っていた魔法剣によって、〈緑狼グリーンウルフ〉がこと切れている。


「僕が…倒したのか…」


「ええ、そうです」


レイは両掌を見た。血に汚れている。


自分が、自分がやったのだとようやく実感すると、手が震え始めた。


ゴルードが大きく温かい手で、その手を握る。


「ゴルード……僕……」


「俺もそうだった。初めて敵を倒したときは手が震えた」


「なぜ、魔物は襲ってくるんだ…襲ってこなければ、こうはならなかったのに」


「それは魔物の本能だからです、レイ様。光と闇は戦う運命にあります。闇の力を保有する魔物は、その闘争本能によって、光側である人類に牙を剥くのです」


「……」


シルクの言葉に、レイはうつむき唇を噛んでいた。


「見て」


と、ガーネットが指した一匹の〈緑狼グリーンウルフ〉から、黒紫色の霧が噴き出していた。


霧が吹き出す〈緑狼グリーンウルフ〉は、さっきレイが止めを刺した個体である。


「噂通り、だな」


「ええ、やはり」


その他の個体には変化がなく、ただ斃れているだけだ。


黒紫色の霧が消えたとき、レイが倒した〈緑狼グリーンウルフ〉がいた場所には白い塵が残っていた。


「さあ、帰ろう。レイの服も汚れているし、こいつらも片付けなければならん」


ゴルードはレイの魔法剣を白い塵の中から取り出す。


取り出すと、レイの魔法剣の刀身は焦げた血によって汚れ、持ち手から外れかけていた。

Tips 緑狼(グリーンウルフ)

ミスターシャの森に広く生息する魔物。

1匹程度なら傭兵でなくても倒せるが、奴らは群れる。

繁殖能力が高いのか、倒しても倒しても絶滅しない。

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