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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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4 王妃モリネシアの復讐

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Twitter @Imori_Saito

王妃モリネシアは夜間の王宮を、人目をはばかりながらゆっくりと、またゆっくりと歩いている。

服装は煌びやかとはかけ離れたやや地味目な格好で、男物のズボンをはいており、腰には短剣がぶら下げられている。


彼女は今、自らの手で人を殺めようとしているのだ。


ターゲットは勿論、日ごろ彼女が目の敵にしているレイーシャ・ミスターシャだ。


ミスターシャ王宮の間では、ドットルトを見捨てた失策を隠す目的で、《砂の城》を討ち果たしたレイーシャ・ミスターシャを公表しようという話が持ち上がった。

王妃モリネシアは「王位正当後継者のキストーの立場が危うくなる」「ミスターシャが魔族の標的になる」と猛烈な抗議をしたものの、ミスターシャ王を含めた大臣達はこれを却下。

レイーシャ・ミスターシャを王族の血を引きしミスターシャの光の御子であることを正式に公表した。


決断の理由は、魔族に滅ぼされる前に、失策続きで内部から崩壊してしまうことや、レイーシャの戦闘力が予想以上であったということもあったのだろう。

二人目の光の御子、王子キストーは未だ光の戦士であることを公表されていない。

光の御子誕生を祝う国中のお祭りでは、王妃としてパレードに出向くなどの勤めを果たした。笑顔の裏側では、ハラワタが煮えくり返るような気持ちであり、王妃モリネシアは、ミスターシャ王宮へ不信感を抱き始めるとともに、レイーシャへの憎しみをより一層強めることとなった。


祭りの直後、王妃モリネシアは自身の抱える斥候にレイーシャ暗殺任務を命じた。


斥候達は驚いた。レイーシャの名声が高まったときに危害を加えようとするなど、王妃モリネシアは乱心したと思った。

だが、王妃モリネシアは「レイーシャを暗殺するには絶好とは言い難いが、好機であるのよ」と説いた。

何故なら、今現在、レイーシャ支持の立場を明確に表している王族・貴族はいないからだ。

今までレイーシャを後ろ盾にし、王妃モリネシアからの危害から守ってきた大貴族プラントは、秘宝とも言える後継者ガーネットを失い、態度を一転して中立を宣言している。

他の王族や大貴族も、静観を貫いている。


また、レイの生まれを知る老練たちは頭を悩ませているようだ。


歴代最強と言われた光の戦士「聖なる貝殻(セイント・セル)」の生まれ変わりだと噂され、魔族に対抗できるものがミスターシャに誕生したことに喜びを表す一方、王族と同時に反逆者の血を引き、魔族のターゲットにされているレイーシャを王宮に残すのは、リスクしかない。


皆、己がどの立場に付くか、熟慮しているようだ。

そのどっちつかずの状態が、好機だとモリネシアは判断したのだ。

時代が動き、王族・貴族たちがレイーシャ側へつくというと表明される前に、レイーシャを暗殺し、代わりに王子キストーを立てる。それが王妃モリネシアの企みであった。


しかし、そんな彼女の企みに水をさすかのように、レイーシャの暗殺はことごとく失敗に終わる。斥候がなんの成果もあげずに帰還してくるのだ。

聞けば、レイーシャは寝るときも隙が無いらしく、不用意に襲えば返り討ちに合うと弱音を吐いている。

怒ったモリネシアはその暗殺者を解雇し、一番信頼を置いている爺やを向かわせたが、結果は同じ。分が悪いの一言。


そこで、抱える暗殺斥候があまりにも不甲斐ないことに腹を立て、

痺れを切らした王妃モリネシアは立ち上がり、自らの手で、レイーシャを葬ってやろうと考えたのだ。




暗闇の王宮を、王妃モリネシアは進む。

天気は曇り、月が隠れ暗くても、王宮で産まれ育った彼女なら十分に進むことができる。


念のため、何日も暗闇で生活し、目を慣らした。音を立てない歩き方や、一瞬で相手に致命傷を与えるナイフの突き立て方を学び、練習もした。


この類まれ無い行動力は、もう一人の光の御子である息子キストーのため。母は強しとは、このことだ。

衛兵には事前に金を握らせたので、レイーシャの寝室へのルートには誰もおらず、簡単にレイーシャの部屋にたどり着くことができた。


合鍵を回し、鍵を外す。鍵にも細工を仕掛けているので、音も鳴らない。

部屋に入ると、レイーシャは布団を被って寝ていた。

布団の中から、魔力を感じる。王妃モリネシアも魔導を習った身、才能は平凡であったが、空気に漂う魔力を読み取り、誰のかを識別できるくらいはできる。


(覚悟!)


王妃モリネシアは狙いを定め、体重を乗せてナイフを布団に突き刺した

ザクリ、と乾いた音がする。感触が、固い。

しまった、と布団をはがすと、布団の中にいたのはレイーシャではなく、魔法剣だった。


「御用でしょうか、王妃モリネシア殿」


驚き、王妃モリネシアは声の方向に振り替える。

雲に隠れていた月が現れ、光が窓から差し込む。

そこには、レイーシャは椅子に座っていた。


「レイー、シャ」


震えるような声で言い、二の句が告げなくなっていた。

魔法剣に自身の魔力を流し、囮にした。ということまではわかる。

しかし、レイーシャはすぐ隣にいたはずなのに、全く気が付かなったのだ。

霞んだ碧い瞳に見つめられ、心の奥底から震えが伝播してくるのを感じる。

漂ってくるのは魔力ではない、何か別のモノ。魔法に暗い暗殺斥候達が怯えていたのはこれかと、モリネシアは悟った。


「モリネシア様は私をつけ狙っているようですが、私はモリネシア様と争うつもりはありません。私はただ、闇を潰せればそれでいいのです」

―どうか、お引き取り願えますか、とレイーシャは静かに、そして感情を込めずに言った。


冷静なレイーシャに対して、王妃モリネシアは全身の血がふつふつと湧き上がるような感覚を覚えた。


「よくも、まあ、そんなことを……」


レイーシャが闇を潰せば潰すほど、光の戦士の名声が高まってくる。何も説得になっていなのだ。

彼は煽っているという意思は感じられない。大真面目に言っている。

その無神経さが、余計に腹立たしい。


「あなたが、あなたがいなければ!キストーは不遇な思いをせずに済んだのです!あなたが悪いのですよ!」


レイーシャの目がすうっと細まる。


「………」


レイは何も答えない。ただ、じっと霞んだ瞳で王妃モリネシアを見つめている。まるで自分を道端に捨てられた廃材のような目で見ていると、モリネシアは感じ、感じた事の無い屈辱感に怖気が走る。


「何よ、何かいいなさいよ……」


「……お引きとりを……」


「くっ」


レイは、話すことなどない、という態度であった。屈辱ピークに達し、遂に彼女の理性を叩き潰した


「このっ!!!」


王妃モリネシアは短剣を抜き、レイに切りかかる。ゴルードの近接戦闘の素質を受け継ぎ、ドットルトでメカバックとの戦闘訓練をしていたレイにとっては避けるのはたやすい。

しかし、ここは部屋であり、じりじりと逃げ場を失っていく。反撃し、活路を開ければいいのだが、レイにはその気が起きない。


「……やめてください」


「死ねッ!!!!! ()()()()ォ!!」


悪魔の子、その言葉にレイは顔をしかめる。怒りからか、レイは左手が出てしまった。

その左手が、ただ王妃モリネシアのナイフを持った手を止めるだけならよかった。

しかし、顔も知らぬ母を侮辱され、感情を乱したのか。レイの左腕から風属性の魔法が発動してしまったのだ。


<かまいたち>


レイの左手は、鋭い風の刃を纏いし凶器となった。そして、その凶器が、王妃モリネシアの首もとを切り裂いてしまったのである。


「がが、ぎゃあああああ」


レイの瞳にすうっと灯りが戻った。

王妃モリネシアは倒れ、首元を抑えながらバタバタと暴れている。

レイは左手を見る。風属性魔法のおかげで、血はついていない。だが、床に赤黒い血がドバドバと流れている。


王妃モリネシアは何かを言っているが、首を斬られた影響で、何を言っているのかわからない。

レイは、ピクピクト痙攣する王妃モリネシアを見て、呆然と立ち尽くしていることしかできなかった。





「それで、<神より授かれし癒し>を使ってしまったと?」


「うん……」


<亡者の剣>の世界にいるシルクは右手で顔を覆い、がっくりと肩を落とした。


「レイ様、<神より授かれし癒し>というのは、無尽蔵に扱えるわけではないのですよ」


<神より授かれし癒し>


それは生きてさえいれば、致死の傷であっても治癒するという、敵側からすればチートだと言われるような強力な祈祷術である。


しかし、<神より授かれし癒し>は神に愛されたものが厳しい修行で信仰心をめいっぱい引き上げた者のみが使えるものであり、神官シルク・ベルクしか使えなかった。


レイは神官でもなければ祈り手でもなく、これまで信仰心を育んでいいないので祈祷術は使えず、それどころか、レイとシルクは別の人間だと判定されているようなのである。


つまり、レイには<神より授かれし癒し>を使うことができない。


「私から受け継いだのは、自己回復能力です。多少の傷ならばすぐに自己回復しますが、それは<神より授かれし癒し>とは別もの。大量に血を流す、致死に至る傷からは復帰できませんし、誰かを助けることはできないのです」


シルクは優しい口調でいるが、怒っていることはひしひしと伝わってくる。


レイはしゅんとしていた。


「そこまでにしてやれ、シルク」


ゴルードが割って入った。


「ああするしかなかっただろう。モリネシアを死なせてしまったら、レイは罪人になる」


「それは、そうですけれど」


「レイらしくていいじゃない。それに、あと1回残っているんでしょう?」


ガーネットもレイをフォローする。


「ですが、あと1回なのですよ」


死ぬ前、ゴルードやガーネットほどレイに遺せるものがないと思ったシルクは、工夫を凝らして、3回分の<神より授かれし癒し>の力を魔鋼にこめることに成功した。

それをレイは既に2回発動しており、残り1回なのだという。


1回目はドットルト砂漠でレイが致命的なダメージを貰ったとき。そして2回目は、レイが王妃モリネシアの首を切り裂いてしまったときだ。


「レイさま、いいですか?最後の1回は、本当に大事な時に使うのですよ。例えば、魔族との戦いとかです」


「うん、わかったよ……」


レイがぎこちなく返事をする。

ああ、これは3回目もどこかで使ってしまうなと、思うガーネットとゴルードであった。





レイ……レイーシャが王妃モリネシアをすぐに治療したおかげで、この夜の一件は大事にはならなかった。レイは報告せず、王妃モリネシア側も傷がきれいさっぱりなくなったことで、レイーシャに危害を加えられたという主張が通りづらくなったし、レイーシャを暗殺しようとしたことがバレてしまう。レイーシャは存命であり、コトを大きくするのはモリネシア側にとってよくないと判断し、昨夜の暗殺未遂事件は、なかったことになった。


王妃モリネシアは屈辱に押しつぶされ、心身に異常をきたしていた。


(憎い、憎い、憎い)


力なくぐったりとベッド横たっているかと思いきや、急に暴れだしてベッドをズタズタに引き裂く。高熱を出したり、吐いたりしたりと不調が続いており、医術師が着てもナイフを投げて拒絶するのだからお手上げ。

お抱えの暗殺斥候も、みな王妃を恐れ、有給休暇を申請しており、残っているのは爺やだけだ。


(よくも私を、この私を…)


ベッドシーツを噛みちぎり、獣のように唸る。髪がボサボサで化粧も崩れ、品位にかける。とてもではないが、人前には出せないだろう。


―レイが、レイーシャが、そんなに憎いのですか?


声が、した。

王妃モリネシアは脳に響くその声に意識を傾けた瞬間、スッと意識が深いところに落ちていった。

深層意識の中で目を開いてみれば、そこは暗闇であった。


―レイが、そんなに憎いのですか?

同じ声がする。中性的な声だ。王妃モリネシアには聞き覚えが無い。


「ええ、憎いわ」


王妃モリネシアは即答した?


―ならば、手を貸してあげましょう


「あなたは一体、どなたですの?」


―私は闇側のヒトです。魔物でも、魔族でもない。そうですね……悪魔 といえば、わかりやすいでしょうか


「悪魔?」


悪魔―伝説上の生き物だとモリネシアは記憶している。


「確か、自分の魂を差し出すことで様々な恩恵を得るとかな……」


―そう、魂を差し出すことで様々な恩恵を得る、あの悪魔です


謎の声に心を読まれ、モリネシアははっとした。

否、深層意識のなかであるのだから、心の声が、そのまま声になるのだ。


―私が欲しいのは、レイーシャの魂です。あなたの魂はいらないというのは嘘になりますが、今はあの魂が欲しい。ですので、こうして貴女の心に降りて、協力を持ち掛けたのです。


人に好意的な闇は歴史上存在しない。

魔物は人を本能レベルで憎むか、胃袋を満たす餌としてしか見ておらず、魔物の上位の存在である魔族も羽虫のごとき下等生物扱いなのだ。

おそらくこの悪魔というやつも、自分を利用だけ利用し、最後は喰ってしまうのだろうと王妃モリネシアは思っていた。


「ええ、協力しますわよ」


王妃モリネシアは即答する。自分がいいように扱われるだけであるとわかっていてもなお、魂を売り渡すことを選んだ。


レイーシャを葬ることができるのならば、悪魔にも魂を売ることなど容易いことだ。

それほどまでに、彼女の憎しみは後戻りできないところまで来ていたのだ。

王妃モリネシアは、暗闇の深層意識の中で、手を差し伸べる。


その手を、白い手が握った。




解雇された斥候は爺やの一存で職場に復帰している。顔を布で隠しており、

王妃モリネシアは誰が誰だが判別がついていないので、気づかれることはなかったという

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