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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
3章 魔導砲編 上 「レントスの猛獣を手なづけろ!」
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1 レントスへ……

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Twitter @Imori_Saito

「そのレントスに、レイが派遣されることになったのか?」


紺色の襟付きの上着を着た男が聞いた。彼はショウ・アキミネ、魔装具技術者である。


「どうやら、前に送ったミスターシャ国防軍の状況があまり良くないらしくてね」


ブラシ髭を生やした狸のような男、ポトフが困った顔をして社長室の机に肘を乗せている。彼は魔装具メーカーアルマス社のミスターシャ支部の支社長で、ミスターシャの王宮事情に明るい。


レイに《亡者の剣》を渡してから、ショウは魔装具メーカーアルマス社ミスターシャ支部で働いている。以前、支社長ポトフに辞表を叩きつけたが、ポトフから残って欲しいと頼まれた。


ショウも《亡者の剣》を渡し、大きな役目を終えたと思っていたので、ポトフに非礼を詫び、再雇用という形で復職することになった。


「一人で行くって…それ何にも足しにもならないじゃない」


「ドットルト砂漠での活躍で、レイ殿下は一騎当千に値すると各国に宣伝しているらしい」


「だからって流石に…」


ふわりとした青白い髪をなびかせた少女がフォークでケーキをほおばった。

ミーシャ・パスカル・フラウラ。ポトフ溺愛のおてんば娘である。彼女もショウと同じ魔装具技術で、その才はショウを遥かに凌駕している。


三人は、ミスターシャ支部の中にある社長室で白いテーブルセットを囲み、食事をしながらミスターシャのレイ王弟のレントス派遣に関して話していた。


ショウ達の住むミスターシャ国とレントス国には深い同盟関係がある。

先に述べた通り、レントスから更に南に行けば、人が住むことのできない魔物の領域があり、光と闇との戦争が始まった時には国の位置の関係もあって常にレントス国がミスターシャ国を守る最終防衛ラインとして機能していた。

ミスターシャが長い平穏を得て、魔術、技術、文化を発展させ続ける事ができたのは、レントス国のおかげであると言っても過言ではない。


一方ミスターシャ国は、戦争が続き経済的にも豊かではないレントスへ限りない支援を施した。魔導師や物資、資金、時にはミスターシャ国防軍を派遣して、レントスの国土が魔物に犯される事が無いよう努めてきた。


「それにしても、魔物に打って出るなんて、私たちの王様は何を考えているのかしらね」


去年その座を得たミスターシャ現国王は国土拡張に躍起になっている。レントスを助けるという名目でミスターシャ国防軍を派遣したが、その腹心はレントス以南の土地を領土とするためである。

魔物から奪った土地は自国の領土として良いという《魔物所有領土における優先権条約》があるおかげで、魔物の領地を奪いさえすれば、自国の領土とできるのだ。

レントス以南は、農作物が良く育つ温暖な地帯で、占領すれば、ミスターシャに甘美な乳や蜜をもたらす。


「まあ、負けちゃったしな」


「ええ、おかげさまで。私たちとミスターシャの人、特にドットルトの人たちにとっては、本当にいい迷惑な遠征になっちゃったわね」


レントスより更に南進したミスターシャ国防軍は、魔物との戦いを思うように進めることができず、ドットルト砂漠へ派遣する予定であった国防軍を急遽レントス以南に派遣した。


そのせいで、《砂の城》との直接対決《総力戦》をレントスの傭兵達だけで戦わなくてはならなくなったのである。初日にレイが敵の頭である《砂の城》本体を討ち取ることができなければ、おそらくドットルトの町はなかったであろう。


ドットルトは辛くも勝利を収めたが、レントスに向かったミスターシャ国防軍側は兵力を増強したにも関わらず、結局敗退し、結果撤退。


ドットルトの人達やショウとミーシャからすれば、あきれてものが言えない。


これは余談であるが(語り手曰く)

後年、ミスターシャ国のある将官は「敗戦の原因は兵士の士気、練度不足、地形把握の粗末さ、敵の予想を超えた強大さなど、様々考えられるが、一番の原因は、我が国の国防軍は守る事には長けていたものの、攻める事は苦手である兵の特性であった。その事は、我々は把握していた者の、統帥権は国王にあり、止める事ができなかった」と苦難の心をポトフに漏らしている。



「国土拡張とは言っているが、結局は自分の力を誇示したいのさ。実際に打って出るのは兵士や士官だっていうのに」


現ミスターシャ国王の評判は良くない。

夜に酒場に行けば、悪口を聞かない事はないくらいには嫌われている。


「今回の戦闘で魔物側は逆に活気づいちゃったのか、レントス以南の魔物と闇の気配が一段と濃くなっているらしいんだ。国王もさすがに反省したのか、レントスと相談して、二国はこれまでどおり徹底防戦に切り替えた」


ポトフが内情を説明してくれた。


「結局魔物を勇気づけただけじゃないの!」


「そう、だね……」


ポトフが汗を拭う。


「で、レイが代わりに派遣される事になったと?」


「うん、そういう事だね」


ショウは椅子の上にあぐらをかき、腕を組んで考え込んだ。


「イマイチ国の方針がわからん。レントスでレイを捨て石にするつもりか?」


闇を打ち払う力を持つ光の戦士であるレイ王弟、彼は前国王と大罪者との不義の子である。光の威光を使えるだけ使い、折りを見てレイを戦死させようというのが国の狙いだと、ショウは考えている。


「それはわからない…レイ王弟殿下の母親を知る者は少ないから、まだ大丈夫だとは思う。おそらく、遠征費が財政を圧迫していたから、ドットルト砂漠で大活躍したレイ殿下に単身行かせたんだと思う」


「そういえばミスターシャには、レイ以外に光の魔力を持つ者がいると聞いたが」


「その話なんだけれど、あれから僕も調べてみたんだ。けれど、よくわからないというのが今の結論だ。王宮内に2人いる、という噂は確かにあるんだけれど」


「ガーネットも噂程度と言っていたな…」


ドットルトの町で、レイの命を狙う斥候をいくつか捕まえ拷問くすぐりしてもミスターシャからの命という情報しか引き出すことはできなかった。

ショウは二人目の光の御子がミスターシャ王宮内にいるという確証は持ってはいたが、具体的に誰なのかまではわからずにいた。


「やっぱり、せっかく生まれた光の戦士を、易々と捨て石にするなんて、そうそうはやらないと思うよ」


ポトフのいう事ももっともであると、ショウは思った。

人間側唯一の光の戦士、それも四魔神の一体、鎧のポリュグラスを討ち取り(とされている)、砂の城をも討ち取ったレイをそう簡単に消費する事はない。


「私はありえると思うわ」


ミーシャが反論した。その手にはどこからともなく取り出した歴史書がある。


「光の戦士って別に一人だけじゃないのよ。200年前の大戦もこの貝殻っていう人が強すぎて目立っていただけで、他の光の戦士も沢山いた。むしろ今一人しかいないっていう状況がおかしいのよ」


そう言って、ミーシャは本の中のページを見せる。

貝殻と呼ばれる、兜として大きな貝殻を被った顔の見えない戦士が闇を次々となぎ倒し、それに他の美しい顔立ちをした数々の光の戦士たちが続いている絵があった。


「しかも、光と闇の戦いの間は、たとえ光の戦士が死んでも、光の魂は土に還り、他の光の戦士へと受け継がれるって言い伝えられているの」


「ということは、出自の悪いレイ王弟殿下を捨て駒にして、新たな光の戦士にその力を?」


ポトフが聞いた。


「この伝承が本当で、他の光の戦士がそのミスターシャにいる光の戦士だけならの話だけれどね……ショウ?」


ショウは二人の話に入らず、ミーシャの開いた歴史書の絵を見て、にやにやと笑っていた。


「ああ、いや、この貝殻の戦士ってやつがなんかおかしくてな。貝殻を被って、よく、魔族と戦ったなと思ってな……ははは」


貝殻は無機物なので魔力を通さず、鋼のように固くはない。祭祀用ならともかく、実用性に欠ける防具だとショウは思った。


「実用的な防具が必要ないくらい強かったのかもしれないわよ」


「かもな」


と、ショウは椅子に深く座り、身体を反らせて天井を眺めた。


「ショウもレントスに向かうのかい?」


「ああ、もちろん。」


ショウは即答した。

トラウマを克服するという理由でレイの元に技術者として働いていたショウ。

何も知らないレイに、技術とは何かを教え、ゴルード、シルク、ガーネットの死、レイに拒絶。

それらに加え、与えられた技術的課題の堅牢さにショウは何度も血反吐を吐いたが、多くの助けを経て、ついには三人の魂が宿る《亡者の剣》を完成させ、レイに渡した。

その苦労が、レイを陰からでも補佐し、立派な魔法戦士にする思いをより強くしている。


「私はパス、疲れがまだ残っているわ…」


ミーシャが手を振り、疲れた表情を見せて答えた。彼女は自由をこよなく愛する天空馬を行く少女。悪く言えば自分勝手ではあるが、それを許される芯の通った強さと、唯一無二の技術を持っており、ショウを含め、多くの人々を助けていた。

最近はミーシャの技術をもってしかできない仕事が降ってきており、疲れている様子だった。


(一週間あれば精神力も魔力も十分回復しているだろ)


と、ショウは思ったが、口には出さず、「わかった」と言った。

ミーシャが最後に仕事をしたのは一週間前なのである。怠けているように見えて実は頑張っている…ように見えて結局は怠けているのだ。


「あれから、レイの動向はどうだ?」


ポトフはかぶりを振った。レイが今何をやっているのかはショウどころか、ミスターシャの高官達と深い繋がりのあるポトフでさえもわかっていない。

わかっている事は、レイがミスターシャ中心の城内にいる事だけだ。


「レイの派遣はほぼ確定なのか?」


「ああ」


「なら、すぐにでも出発しよう」


「レントスには兵士たちの武具や物資を管理する兵站部がある。行くにあたって、そこの相談役としてのポストは用意できるとおもうけれど…」


レントスの魔法や魔装具に関する技術は、ミスターシャの恩恵を多大に受けている。技術部のトップにミスターシャ出身の技術者が就任する事もあるほど、二国間の技術に関するつながりは深い。


「いや、技術部には行こうと思うが、まずは《レントス工廠》の方に入って、下っ端として動こうと思う。肩書きが無い方が、秘密裏に動きやすいし」


「わかった。他に力になれる事があったら言ってくれ」


「…ポトフ…いいのか?」


ショウが何かを伺うような目で言った。


「何がさ?」


「俺をサポートしようとしている事さ。俺が動いている事がバレたら、ポトフの立場どころか、ここの社員

も、他の支社にも影響が出るって言っていたじゃないか」


以前レイ王弟殿下の正体を知った時、そのレイのパーティーの内勤技術者として働いたショウを呼び戻そうとした。

が、ショウはそれを拒み退職届まで出した。


「社員や他会社に迷惑がかからないような工作は進めているから大丈夫さ。僕がいなくても、会社は十分回る」


「そんな事はない。ここにはポトフが必要さ」


彼は平凡な魔導師ながらも、その人柄と人格のみで社長まで成り上がった人物である。

ポトフが上司だったから働けた社員を何人も知っている。


「それにね、僕は君の味方でありたいと思っているのさ。あの時反対したのも、それが理由なんだよ。けれど、君がそこまで言うなら、僕は惜しみなく協力するつもりさ」


「………」


感極まったのか、ショウは唇をきゅっと閉め「すまない」と、ショウは頭を下げた。


Tips

ポトフ・フラウラ

魔装具メーカー「アルマス」社ミスターシャ支部の社長

歳がだいぶ離れているショウとまるで親友のように接する姿に、

娘ミーシャは不思議に思っている。

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