3章 プロローグ
ショウ達のいるミスターシャから南に行くと、レントス山岳地帯がある。
その盆地に国があり、名をレントスと言う。
そこが次なるショウ達の活躍する国だ。
かつてレントス山岳地帯は火を噴く火山の山地であり、辺りは火山灰に覆われていた。
そこへ人々が土や動物の糞などを持ち込み、草木を植え、少しずつかつ着実に豊かな土壌をつくりあげ、ついに作物実る土地へと変貌し、レントスの町ができ、レントスという国になった。
レントスを象徴するのは、二つの山を支えるように築かれた、二つの白き大きな城門である。他国に類を見ないその城壁の大きさは、1つにレントスのべトンの生産力の高さを物語っている。
レントスでは火山地帯であった影響から、城壁を造るコンクリートの原料である生石灰、火山灰の生産力きわめて高い事が挙げられる。べトンは、他国にも卸しており、レントスの経済力の源だ。
もう一つには、レントス防衛陣地建設力の高さだろう。これだけ大きな壁を造っても、崩れることはなく、中で人が行き来できる。
レントスからさらに南は人々が住めない魔物に占領された領域があり、望まずにも、自然と防衛陣地建設能力が高くなってしまったのだ。
左右に山を、前後に城壁を構え、さらに前線には数々の堡塁を備え、鉄壁の守りを構築したレントス。
長い間、魔物から人類を守る最前線国家として長く君臨しており、北のミスターシャ国を始めとした数々の国の平和に貢献しているのだ。
だが、そんな鉄壁とも呼ばれる要塞街であっても、魔物の脅威を完全に消し去る事は残念ながらできない。魔物というものは雑草が生えるかのごとく現れ、人々を脅かすのだ。
もちろん、それを駆逐する者もいる。
この日、レントス国近くの平原で黒い毛を持つ牛の魔物《闇闘牛》と、一人の純戦士が対峙していた。
その純戦士は2mもあろう体格であるが、地味である。装飾品といった個人を識別する類のものは一切身に着けず、フルフェイスの兜も簡素な造りでトサカや角といったものはない。だが、鎧に付けられた数々の汚れと様々な種類の傷からは数々の戦歴を匂わせ、この純戦士が傭兵の大ベテランである事がわかる。
その純戦士の後ろには、2mはある長い斧を背負った、無精ひげを生やした荒くれの大男と、丸い眼鏡をかけ、青を基調とした魔導ローブを羽織った知的な青年魔導師がいる。
彼らの周辺には多くの魔物が伏している。《闇闘牛》が群れの中での最後の一匹なのだ。
鎧の純戦士は何を思ったのか、手に持っていた両手剣を捨て、両手を開いて構えた。
後方にいる二人を手で制止し「一対一でやらせてくれ」という合図を送る。
「へっ 長の癖がでちまったな」
野太い声を持つ長斧の戦士は、顎をジョリジョリと撫でながら言った。
「そのようですね」
青年魔導師は眼鏡をクイッとかけなおし、中性的な声で答える。
二人とも、武器を捨てた純戦士に加勢する気はないようだ。
純戦士と《闇闘牛》。二体の間に一陣の風が吹き止んだと同時に、駆けた。《闇闘牛》が唸りながら、赤く光る眼光を向け、大地を蹴り、突撃する。
《闇闘牛》の持つ鋭く金色に輝く二本の角は、分厚い鉄を貫き、その熱によって内部を溶かす恐ろしい角だ。貫かれれば、熱せられたバターのように溶けてしまうだろう。
たとえその角が運よく刺さらなくても、筋肉という鎧をまとった突撃をもろに受ければ、身体が文字通りはじけてしまう。
災害レベルとも言える突進に、《闇闘牛》の突進を受け流すことなく、真正面から受け止めた。教会の鐘が割れたのかと聞き間違えるくらいの音が平原に鳴り響き、衝撃波が草木を揺らす。
《闇闘牛》の突撃を受けても鎧の戦士は健在である。少しずつ体勢を変え、《闇闘牛》の首元をゆっくりと握る。
純粋な力比べである「押し合い」が始まった。
―ブッフン!!ブッフン!!
「……」
荒れ狂う《闇闘牛》は荒い鼻息を鳴らし、鎧の戦士を突き上げようとしきりに足を動かしている。対する鎧の戦士も、鎧の隙間から白いオーラが湧き出て、《闇闘牛》を押し返している。
鎧の関節からなる金属の摺動音が鳴り響く。
その様子を二人の観戦者は助太刀することなく、まるで練習試合を観戦するかのようにリラックスして眺めていた。
「終わったな」
「ええ」
二人の予想通り、軍配は、鎧の戦士の方にあがった。
スタミナが切れてきた《闇闘牛》はがじりじりと後退し始める。
鎧の戦士が力を一気に込め、横へと雪崩倒す。そして、間髪入れず無駄ない動きで、素早く《闇闘牛》に乗ると、腰の40cmほどの短剣を首元に突き立て、止めを刺した。
「お疲れ様です。クリノスさん」
青年魔導師がこと切れた《闇闘牛》に近づき、短剣で尻尾を切り取る。
クリノスという名前の純戦士が離れると、炎魔法《火炎の大地》をくりだし、後処理を行った。
「これで全てです。流石ですね、クリノスさん」
「そうか」
籠った声が聞こえる。低いが、女性の声だ。
兜を取ると、凛とした顔立ちの女性の姿が露わとなった。首くらいまである野生を匂わせるくせ毛のある剛毛に、凛とした瞳と厚い唇。
この風貌なら力技で《闇闘牛》を倒したと聞いても、誰もが頷くだろう。
山から降りた風が、汗ばんだ肌を涼ませ、汗がクリノスの頬の傷跡を謎なぞっている。
「魔物討伐の証拠品はすべて取り終えました。残りの処理を終えたら、傭兵達と合流しましょう」
「ああ」
「ちょっと待ってくれや、コイツが抜けねぇ」
長斧の戦士が魔物ごと地面に刺した剣を抜いている。その抜き方は力任せで、刺さっている方向とは別の方向にも荷重がかかっている。
「そんな扱い方では、すぐにまた壊れてしまいますよ」
「へっ その時はまたあいつらに直させればいいのさ、それが仕事だからな」
青年魔導師の制止を聞かず、長斧の戦士はもうひと踏ん張り。少し抜けた所で剣を思いっきり踏みつけ、テコの原理で魔物の死肉を盛り上げるように剣を抜いた。
彼ら彼女らは、各国から兵を集め、結成された傭兵集団である。
今はレントスの国に雇われ、堡塁へと赴任したレントス国防軍の代わりに、周辺の魔物退治を行っている。
名を<クリノス傭兵集団>という。トップであるクリノスの名を取った小規模傭兵ギルドとも言える、傭兵集団だ。
「また、ミスターシャから援軍がくるそうですよ」
戻る途中、青年魔導師が長い斧の戦士に言った。
「ははっ 今度はどんな雑魚達がやってくるんだ?」
「一人らしいですよ」
「一人? 遂に向こうも頭がパァーになっちまったのか?」
「どうやら、そうでもないみたいです。来る方は、あの光の戦士でして」
「あの?」
長斧の戦士は情勢に疎く、光の戦士と聞いてもピンとこなかった。
「ええ、《砂の城》の本体を討ち取り、ドットルト砂漠の200年にもわたる戦いに終止符を討ったあの光の戦士です」
青年魔導士が詳しくしても、長斧の戦士はよくわかっていないようだった。
「ほう…そいつが来るのか」
これまで二人の会話に興味を持たず、山ばかりを眺めていたクリノスが、二人に顔を向けた。
二人はしまったという顔をしてお互いを見合う。クリノスは、極度の戦闘狂だ。
「え、ええ、そう聞いております」
青年魔導士は、なにかを弁明するように、あたふたと言った。
「そうか」とだけ言い、クリノスはそれ以上口を開かず、また山を眺める。
二人は安堵の息を吐き、青年魔導士はクリノスから逃げようとした長斧の戦士を睨んだ。
「やめてください。次、コトが起こったらレントスごと私たちも吹き飛びますよ」
「けっ 細けえ野郎だ」
「もしもの時は、あなたにサンドバッグになってもらいます」
「そ、それだけは勘弁してくれよ」
傭兵集団の誰もが、リーダーであるクリノスを慕い、そして恐れている
彼女は、レントスの猛獣だ。




