ドットルト紀行文
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Twitter @Imori_Saito
やあ、久しぶり。私は語り手。ノンフィクション作品「それでもレンチを回すのは」を皆の言葉のモノサシで語る役目を仰せつかっている者だ。
私は今、ドットルトの町にあるとあるカフェで、町の様子を眺めている。
ここは、ミーシャ・パスカル・フラウラが好んでいたカフェ・沼だ。
ブラシ髭を生やしたオーナーと褐色肌の女性のウエイトレスの二人が切り盛りしている。二人とも若く、世代交代しているようだ。
ここに来た理由、もちろん「それでもレンチを回すのは」を書くにあたっての調査のため。
この地でレイーシャ・ミスターシャ、レイは全ての元凶となる<亡者の剣>を手にした。
<亡者の剣>は死者の怨念とも言える魔力を、本来ならば魔力を保有しにくい鋼に無理やり押し込めた魔法剣だ。
性能は「死者の才能を受け継ぐ」というチート性能。
これを手にした魔法戦士レイは、器用貧乏から万能へと変貌を遂げたのだ。
様々な人の運命を大きく狂わせるきっかけとなった出来事が起きたこの地を、取材しない訳にはいかない。
決して観光、遊びに来たわけではないぞ。
20年前と比べて、ドットルトの町は大きく変わった。おそらく、ミスターシャの街の次に変わった町じゃないかと思う。
以前は今にも崩れそうな木造住宅であったのが、白レンガの綺麗な建物に変わっているし、
人口も爆発的に増え、傭兵の出稼ぎは減り、レジャーで訪れる人も増えてきた。
町には娯楽が多くある。カフェや酒場があるのは勿論、道では毎日のように大道芸人が皿を回し、吟遊詩人が歌を歌う。
夜には賭博場も開き、町が静寂に包まれる事はない。
何より、緑が増えた。
理由は勿論、砂の城が消え他国との交流が活発になったからだ。
ドットルト砂漠は様々な他国と接している。この町は立地的には栄え町になるポテンシャルはあったのだろう。
「どうぞホットケーキ・沼です」
カフェのオーナーがホットケーキとコーヒーを持ってくる。
ホットケーキの隣にはボウルに入った大量のシロップがあり、かけるのではなく、漬けて食べるのだ。
これは、ミーシャが好きだったメニューだ。
早速食べてみる。
甘い。とてつもなく甘い。
舌がとろけるような甘さで、口の中がたちまちシロップに支配されていく。
次に備え付けのコーヒーを飲むと、砂漠でオアシスの水を得たような感情が味覚として広がっていく。
ブラックなコーヒー苦みがこれほどありがたく感じるとは、流石の甘さだ。
大馬鹿舌の私がこれほど甘いと感じるのだから、ショウが食べたときむせたというのは頷ける。
ミーシャはこれをおいしそうに食べていたというのか。
「久しぶりに見ました、ケーキを漬ける方を」
オーナーが私に声をかけてきた。店内は程よい具合に空いている。
―え、違うのですか?
「そういう食べ方もありますが、普通ならば適量をホットケーキにかけたり、コーヒーに入れたりしていましたので」
ーなるほど……
私がドットルト砂漠に行くときに、ミーシャが「あの店ではひたすのがマナーよ」と言っていたせいで、それが普通かと思っていたが、どうやら違うようだ。
「観光客の方ですか?」
―いえ、取材に来ました。
「取材、ですか?」
―はい。レイーシャに関する取材に
「そう、ですか」
オーナーは気難しい顔をする。
それもそうだろう。
レイーシャはこのドットルト砂漠では砂の城を打ち倒した英雄でもある一方、
破壊の限りを尽くした重罪人でもあるのだから。




