Last Mission 剣を渡し、レイを救え!③
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<ドットルト砂漠 中心付近部>
時をほぼ同じくして、カースが恐れていたコトが起きた。
いや、恐れていたコト以上のコトが起きた。
この日はカースも保護色の黄土色の装束を全身に纏っている。
「本部が空、ですト?」
黄土色装束の斥候仲間から報告を受けたカースは、砂漠の戦場で固まっていた。
「どうやら国の援軍が来ないとわかって、逃げだしたらしい。本部に残っていたのはあのトロそうな受付嬢だけだった」
「そんな…」と近くで聞いていたアテナは砂の上にへたりこんだ。
「あの腰抜けども…メ」
カースは怒りに身を任せ、ナイフを投げた。そのナイフは豚の人型魔物である《鎧豚》の脳天に刺さる。
「本部が空であることを知っている人は、どのくらいですカ?」
「直に知れ渡るだろう。私も、雇用主に国防軍の進路変更の情報を届けた帰りに偶然知ったのだ」
「本部が逃げた事が段々傭兵達にも知れ渡っている……負け、ですカ」
「ああ、俺たちも荷物をまとめて逃げた方が良さそうだぞ」
―おいおい、国防軍が来ないらしいぞ
―本部からの指令も来ない。本当に逃げ出したのか
耳を立てれば、天を仰ぎ思いつく限り罵詈雑言を逃げ出したドットルトの町役人たちに叫び、
一人、また一人と逃亡を始めていく。
「カースさん、私たちも逃げましょう」
アテナが言った。
「仕方ありませン、あっしもレイを抱えて………エ……」
士気が消え、傭兵達が背を向け逃げだす中、ただ一人、砂の城に向かって歩く者がいた。
レイである。
彼は|機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラ―)を背に魔法剣を片手で握り、一歩一歩魔物達が待ち構える砂の城に向かって歩いていく。
「おいお前! 戦いは負けだ! 戻れ!」
長い槍を抱えたリーダー格の純戦士がレイを呼び止めるも、レイは一度振り向くだけで、歩くのを辞めない。
レイの心の内は、ドットルトの人たちを助けるという正義感か、それとも魔物への深い憎悪か、あるいは両方か。
どちらかはわからなかったが、傭兵達にはドットルト砂漠の中心部に向かうレイの背中がどこか神々しく見え、逃げる歩みを止めていた。
(バカなことをしちゃいけねぇ 一人で何ができるっていうんデス)
カースは動きを止めるデバフナイフを取り出し、レイに照準を合わせ、投げた。
だが、そのナイフは浮遊する盾に阻まれた。
機械仕掛けの小盾である。
メカバックはカチカチと鳴らしてカースを威嚇している。
「……どうしても、行く気ですかい」
彼の実力を良く知るカースは、観念した様子でナイフをしまった。
「あっしはレイさんを追います」
「私も行きます」
「中心に向かえば、危険は増します。あっしには、貴女を守れる自信がありやせんヨ」
「で、ですが……」
「貴女が倒れたら、誰がレイさんを治すんですカ?」
アテナの法衣は敵の攻撃を受けボロボロになっている。傷ついた傭兵達を直そうと、前に出てしまっているためだ。
それでもアテナが軽傷程度で済んでいるのは、ショウの渡した防具のおかげであろう。
アテナは唇を軽く噛んだあと
「………わかりました……」
と引き下がった。
「かしこいお嬢さんだ、きっと良い神官になれますぜ」
カースはアテナの頭をポンポンと叩くと、カースはレイの後を追いかける。
この日は、曇り空であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
相変わらずレイの戦い方は危なっかしく、一瞬でも目を離せば砂の剣がレイの身体に届いてしまうかのような隙だらけの戦いである。
痛覚を失ったのかと疑うくらいに勢いを止めず、その魔力によって強化された剣撃で敵を次々に葬っていく。
あの浮遊する小盾、|機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラ―)は小さな身体ながらも的確にレイへの攻撃を受け流し、時には打撃武器として殴打攻撃を加える。
「あの小盾の方がかしこそうですぜ!!」
カースはレイへと視覚外から攻撃しようとする魔物にナイフを投げ、仕留めていく。
普通のナイフもあれば、毒ナイフもあり、敵の力を下げるデバフナイフや敵の闇の魔力を吸い上げるドレインナイフもある。デバフナイフやドレインナイフは魔装具の類いで高価だ。
(何故だ、何故レイサンだけ狙われるんでしょうカ)
レイの行動は明らかな蛮勇であったが、彼の行動はドットルトの町を故郷とする一部の傭兵達を奮い立たせた。
我も我もと一抹の希望を信じ、故郷を守るべく、戦いに身を投じていく。
今戦っているのはレイだけではないのに、明らかにレイの元に多くの魔物が集まっている。
他の傭兵達は目の前の魔物を倒すのに手一杯で、カースの手だけでではレイを援護しきれない。
《竜巻》
魔法を得意とする小型の悪魔系魔物《悪餓鬼悪魔》が竜巻を作り出す。
竜巻は砂舞い上げ壁となり、レイとカースの距離を離した。
「レイさん! 戻りなすって!!」
カースの声は砂嵐にかき消され、届かない。
レイは孤立し、魔物に囲まれている。
《砂人形》《荒野狼》《オオサソリ》などのもともと砂漠にいた魔物に加え、
《鎧豚》《悪餓鬼悪魔》《ガーゴイル》など、砂の城の中を通ってきた魔物達もいる。
その数、10体。集団を好む《砂人形》が5体いる。
レイは剣を地に突き、荒く息を吐いた。
朝から休みなしで戦いに身を投じ続け、レイの体力の限界が近づいている。
(まずい)
カースは懐から残りのナイフの数を数える。残りは少ない。
レイに向かって、《砂人形》など計10体くらいの魔物が一斉に襲い掛かった。
カースは残りの投げナイフを全て投げ、4体の《砂人形》を仕留めた。
機械仕掛けの小盾が《鎧豚》の渾身のこん棒攻撃を受け止める。レイが正面の《荒野狼》一体を切り伏せ、一瞬で7体からの攻撃を無力にした。
「ぐはっ……」
鮮血が砂と混ざり、流れ落ちる。
槍を持った《砂人形》がレイの右前腹を貫き、翼の生えた人型の魔物の鋭利な爪がレイの背中の肉を抉り取り、《オオサソリ》の猛毒を持つ針が、レイの足に刺さっていた。
レイは崩れ落ちる。
(しまった…)
カースは毒ナイフで《鎧豚》の動きを止め、自由になった機械仕掛けの小盾が《オオサソリ》の殻を砕き、《砂人形》を破壊。
レイに止めを刺そうと、襲い掛かる《ガーゴイル》の爪をメカバックが受け止め、カースが最後の毒ナイフで胸を突き抉り、抜くと同時に《悪餓鬼悪魔》にナイフを投げる。
刃に脂が染み、《悪餓鬼悪魔》に刺さらなかったが。ひるんだところにカースが地獄付きを浴びせ、全ての魔物を処理した。
(早く治療を)
レイはまだ生きている。苦しそうに呻き、顔色も毒で真っ青になっているが、それでも生きようと動いている。
(応急処置を行い、アテナの所にレイを持っていけばまだ助かりマス。むしろ、都合がイイ)
だが、レイの元に駆け寄ろうとするも、大量の《砂人形》たちが地面から生え、カースを阻んだ。
《3つ首蛇》《ガーゴイル》《岩人形》など強い魔物がどんどんレイの元へ向かってきている。
カースの武器はもうない。
機械仕掛けの小盾がレイに迫る魔物達を必死に抑えているが、レイには猛毒が打たれている。早くしないと、手遅れになる。
カースは縦横無尽に動き回り、隙を探す。
しかし、レイの周りに異常なまでの《砂人形》が生え、隙が見つからない。
《3つ首蛇》の動きの読めない3つの頭からの噛みつき攻撃、《ガーゴイル》の空中からの攻撃、《岩人形》の大地を響かせる重い一撃。
それらをかわすだけで精いっぱいであった。
「ぼ、ぼくは、ま、まものを」
掠れた声をあげながら、レイは刺さる槍を抜こうとする。
《砂人形》たちが打撃を、突きを、斬りをどんどんレイに加えていった。
「ぐああああああああ!!」
《砂人形》の武器は砂でできており、性能は低く、即死には至らない。
だが、毒も合わせ、レイの命を着実に削り取っていた。
暑いはずのドットルト砂漠でガクガクと震えて、意識が途絶え、目も虚ろなものになっていく。
今、彼を動かしているのは、魔物への強い憎悪だけだった。
間に合わない、とカースは被ダメ覚悟で《砂人形》の中を駆け抜けようと決断したその時であった。
「カース! 伏せろ!」
その聞き覚えのある声に、反射的にカースは伏せた。
頭上に赤い魔弾が通り過ぎ、レイの近くに着弾し、砂埃をあげて《砂人形》の群れ左翼部分をを砂に還した。
ショウだ。兜を着ているが、あの襟付きの作業着を着るのは、ショウである。
「くそっ 較正不足か」
ショウは走りながら右手甲にドライバーを刺し、回してレンズの角度を調整する。
「レイ!新しい武器だ!!!」
拳を振り下ろす《岩人形》の又の間を通り抜け、衝撃とともに飛ぶ。待ち構えていた《3つ首蛇》の3種の噛みつき攻撃の範囲外に出る。
《3つ首蛇》は《酸痰》をショウに浴びせた。
顔をガードして受け止める。ショウの耐酸性能を持つ作業着は、《酸痰》を通さない。
「ぐはっ」
しかし、腕を前にガードしたせいで、《ガーゴイル》の背後からの一撃をモロに貰ってしまった。
背負っていた亡者の剣が落ちる。
《ガーゴイル》は一歩遅れた機械仕掛けの小盾が打撃で首を折り、撃墜。
ショウとともに空を落ちた。
(せめて亡者の剣だけでも…)
ショウは、落ちて《3つ首蛇》の攻撃の餌食になる覚悟で亡者の剣を渡すことを選んだ。
<十手魔刀 三ノ手 手品腕>
十手魔刀から、半透明の腕が生える。
刀身はしなやかに伸び、《砂人形》の間をぬって落とした亡者の剣を拾い上げ、レイの元に投げ渡された。
「それは魔法剣だ! 魔力をこめろ!」
レイは亡者の剣をしっかりと握り、残りの魔力を込めた。
Tips 砂の城
ドットルト砂漠に砂でできた城を建立する。その城は地下で他のエリアに繋がっており、強力な魔物を大量に呼び出す。
200年前から生息しており、活発期になると城を建立しだす。その真の姿は、未だ確認できていない。




