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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Last Mission 剣を渡し、レイを救え!②

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Twitter @Imori_Saito

<ドットルトの町 バナナ装備店>


熱気あふれる鍛冶場で、技術者達の戦いが始まろうとしている。


「頭領、そしてみなさん。ありがとうございます」


ショウは手伝いに来てくれたドットルト武具屋の頭領とその仲間達に深く頭を下げた。


「何を作っているかは詳しくは知らんが、この町を守る為にやっているというのはわかる。それを手伝うのはドットルトの民としては当たり前のことだ」


頭領は続けた。


「それにな、お前には助けられた。昨日は魔装具のコトだから助けることできなかったが、今日は鍛冶だ。俺たちが助けになる番だ」


「ええ、よろしくお願いします」


ともにいた期間は少ないとはいえ、ともに繁忙期という苦労を乗り越えショウとドットルト鍛冶場の間には絆が生まれていたる。


ミーシャも汚れてもいい厚手の質素な服へと着替え、後ろにまとめている。この日の彼女はれっきとした魔装具技術者だ。


基幹を成すグリップの部分はショウが死力を尽くして完成させた。


環境は既に整えてもらっている、後は魂を入れてやるだけだ。


炉を用いて魔鋼を熱していく。


ほのかに紫色であった魔鋼が、炉の中で赤みを帯びていく。


残りの工程は3つである。


 1.魔法鋼を剣の形に成形する工程

 2.熱した剣にミーシャの技術を用いて回路を刀身内に埋め込む工程

 3.亡者の剣を剣として仕上げる工程


この3つの最終工程をこのドットルトイチの鍛冶場、バナナ装備店裏の鍛冶場で行う事になっていた。


熱せられ赤くなった魔鋼を、ショウは鋏で持ち、ポリュグラス戦で使った筋力強化術をもう片方の腕にかけ、槌の一撃で叩き、鍛えていく。


同様に2人の鍛冶師がハンマーを持ち、キン、コン、カン、とリズミカルな魔鋼の独特な金属音が鍛冶場の中で鳴り響いた。


ショウと鍛冶師二人、息がぴったり合っている。槌で叩く度に、黒い皮膜が剥がれ宙を舞う。


ある程度伸ばしたら、次に予め削っておいた魔鋼の粉を巻き、折り畳んでいく。そしてまた厚くなった魔鋼を再び3人で叩き直す。


「何回やるの?」


「決めてない、魔鋼が十分と言うまでだ」


言っている意味がわからない、とミーシャは鍛冶場のおじさん達に説明を求めるかのように振り向いた。


だが、頭領達も腕を組み、ただ頷いているだけ。


鍛冶は体系化されていない部分が多く、カンと経験がモノを言う世界なのだ。


織り込んだ後、また金槌を使い剣の形へと整えていく。


亡者の剣は中に魔装回路が編み込まれている剣で、その回路を保護するために刀身を厚くする必要がある。打撃武器としても通用しそうだと感じるほどに太い。


刀身の中心に細いハンマーでコツン、と細長い血溝を彫り、鋏で出来上がった刀身を持ち上げた。


「よし、できたぞ」


魔法鋼を剣の形に成形する工程の大部分は終了。ショウの作業着は汗に濡れており、荒く息をしながら、頭領の妻に汲まれた水を飲み干す。


次の工程は刀身内に魔装回路を形成する工程。


この工程は、金属を強くする焼き入れの時に行われる。亡者の剣の根幹を担い、かつ一番難しい作業。ミーシャにしかできない作業だ。


三秒、


それがミーシャに与えられた時間だった。


ミーシャの耐熱コーティングされた魔生糸が刀身を貫け、かつ焼き切れない時間。


焼き入れは急速に冷却していかなければいけないという側面もあり、焼き入れが十分に効力を発揮できるための時間でもある。


失敗すれば、魔生糸が不純物として残り魔鋼は台無しになる。


想像を絶するほどの責任が、この小さな背中にのしかかっている。


だが、ミーシャはその責任に怖気づく事はなかい。


「失敗も許されないなんて、まったくとんだ管理能力ね」


そう愚痴を言うも、表情は真剣そのもの。


ただまっすぐ熱している刀身を見つめ、指を動かし温めている。


「それに関しては、申し開きもない」


「いいわよ、設計を納期ギリギリの所で書き終えたと、プラスに受けとりましょう」


炉の中にある刀身を、頭領がじっと見つめている。


鍛冶場の気温は真夏の砂漠より暑い。


そんな極悪条件で、ミーシャは回路を組む事になる。


さらに、この亡者の剣は中に回路を埋め込んでいるため厚く、中心の外側では温度差が存在する。


中心の方が温度が低く固いので、中心に糸が進めば進むほど回路製作難易度がハネ上がっていくのだ。


もちろん、その事はミーシャも重々承知している。


それでも彼女は「やってみせる」と答えた。


それは密かに積み重ねていた練習量、普段から持っていた心の余裕。


そして、産まれながらにハンディキャップを抱えながらもそれを克服せんと努力し、いつしか常人を越えるまでになった彼女の経験がミーシャの心を支えている。


ショウが持ち得ない、ミーシャの最大の強みだ。


「今だ!」


頭領の掛け声と共に、ショウは鋏で亡者の剣の刀身の先を挟んで取りだし、ミーシャは糸を揺らめかせる。


ミーシャの回りを白く輝かしいオーラが纏う。


ショウは集中を削がないよう(頼んだぞ、ミーシャ)と心の中で念じ、ミーシャの作業を見届ける。


「私の糸は鋼鉄をも貫く」


そう自分を鼓舞したミーシャは最大出力で赤熱する魔鋼に糸を飛ばした。


そこからの三秒間は、人生で一番長い三秒だった。


ミーシャの綺麗な指から繰り出される白く硬質な糸。その糸が刀身の中に入り、だんだんとその刀身に熱ではない別の輝きが灯り始める。


それはまるで、刀身の中に人で言う血管を作っていくような、魂を与える所作。


ドットルト宿主の掃除機を直した時とは比べ物にならない、神域。


ミーシャの肺腑(はいふ)を付く技術に誰もが惚れ込み、感動の感情に呑まれていく。


ただ一人、ショウだけは違った。


鋏を持つショウの顔は、口をぽかんと開け感動の色は確かにあったが、同時にどこか思いつめたような表情もしている。


それは、感動のあまり鋏を離してはならないという思いの表れであったのか、


それとも……


「完了!」


ミーシャの張り上げた声に、皆が現実に引き戻される。


ショウは刀身を急速に冷凍しないよう、さっと油に通し、また油の中に入れた。


その油から取り出せば、黒い塊である刀身から微かながら紫色の光が顔を覗かせ、一人でに火が付いた。


その火は、魔法剣として剣に新たな命が灯ったことを意味する。


成功だ。


ミーシャはやってのけた。


「どう?」


「ああ、パーフェクトだ。ありがとう、ミーシャ」


「そう、よかっ、た」


そう言い残すと、ミーシャは倒れた。


ショウは慌ててそれを受け止め、彼女の安否を確かめる。命に別状はない。


明らかな疲労の色が見えるが、すやすやと眠りについているだけだ。


三秒とは言えども、全ての神経を圧縮し注いだのだ。


まだ彼女を労い、頭を撫でてやることはできない。


工程はまだ残っている。


粘りを戻し割れにくくする為の焼き戻し、敵を倒す剣としての訓練とも言える研磨、そして最後の組み立て。どれも気の抜けない作業だ。


ミーシャをバナナ装備店の頭領の妻へと任せ、最後の工程に臨む。


一歩踏み出すと、どっと疲れが押し寄せ、鋏で刀身を持つショウは立ち眩んだ。


「大丈夫か」


頭領に支えられる。


「すいません」


「後は俺たちに任せてくれ。疲れは失敗の元だ」


「……わかりました。ですが、最後の組み立てだけは俺にやらせてください。あれは繊細な作業ですから」


頭領は「よかろう」と頷いた。


「よし! 最後の仕上げだ!お前ら気を抜くなよ!」


「「「おう!!!」」」


焼き戻しや研磨の固定は、バナナ装備店の鍛冶師の中から特に知識と経験に長けている者たちを選び、行った。


焼き戻しを行い、そして磨き、刀身の本来の光沢が顔をのぞかせる。


彼らの職人としての技術力の高さ、連携力の高さに、ショウは改めて驚かされた。


そして、研磨が終わった時には、黒かった魔鋼が銀を基調としたほんのりとした紫色に変わっていた。


「すごいな、これ」


あまりの美しさに、現実を忘れる。


「ショウ、任せたぞ」


「はい」


ショウは出来上がった刀身を持ち手の部分に添え、刀身から伸びた魔生糸を持ち手の部分の回路と繋ぎ合わせた。


魔法剣を象徴する小さな魔力球を乗せ、持ち手のカバーをかぶせると、六角レンチで3部分締め、固定する。穴の大きさはあの時ショウがレイに渡した六角レンチの大きさだ。


最後の工程を終え、ついに亡者の剣が遂に完成した。


ショウが亡者の剣を手に持ち、その目と魔力によって出来具合を確かめる。


魔力を込めると、刀身が光を帯びた。


(欠陥部分一つない最高の一品だ。素晴らしい出来だ。あとは、レイ次第、か)


亡者の剣は、魔鋼に籠る魂たちが許した使い手のみにしか真価を発揮できない。


ショウが使っても、不思議な色をした魔法剣なのである。


「ミーシャを頼みます」


「ショウはどうするんだ?」


「これを届けに行きます」


ショウは置いてあった胸当て、すね当てなどを付けていく。


「お前……その身体で行くつもりか」


設計書を書き上げ、寝るのも忘れ亡者の剣を製作し続けていたショウ、その身体には確かな疲労が蓄積されている。


だが、戦場にいるレイに亡者の剣を渡せるのは戦闘技術のあるショウだけだ。


右手に魔改造手甲をはめ、そして、修理された十手魔刀腰につけ、ゴルードの遺物である兜を被った。


「僕は丈夫です。丈夫なら、丈夫な割の役割ってもんがあります」


「俺の親父も、そう言って過労死したんだ」


「大丈夫です、大丈夫ですから」


ショウの覚悟に、頭領はそれ以上何も言えなかった。


布を刀身に巻いただけの亡者の剣を背負いショウは「行ってきます」と一礼して駆ける。


(あの時の父親と同じじゃないか……ちくしょうめ)


その後ろ姿を、バナナ装備店の頭領初め、先代を知る鍛冶場の人たちは複雑な気持ちで見送っていた。


Tips バナナ装備店、先代頭領

現頭領の父、前の<砂の城>撃退戦で。装備班現地リーダーとなり、一睡もせず傭兵、ミスターシャ国防軍の装備を修理し、過労死した。

先代の頭領は「俺は丈夫だから」が口癖だったという。

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