Mission 14 亡者の剣の設計を完成を急げ! ①
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<ドットルトの町 バナナ装備店にて>
ミーシャ達と別れた後、ショウはバナナ装備店に戻っていた。
「また失敗か……」
バナナ装備店にある静かな一室で、グリップ部分の焼け切れてしまった魔装備回路を見て、肩をがっくり落としていた。
ショウがやっていたのは、亡者の剣のグリップ部分の耐久性能試験である。
以前ミスターシャの森でポリュグラスと戦った時、魔装具メーカーアルマス社製の量産魔法剣を魔力圧力で破壊した事例を見据え、耐久をあえて低くした細い魔生糸を用いて耐圧試験を行っている。
結果は失敗であった。
亡者の剣の機能を維持しつつ、使い手から流れ込む魔力による応力をうまく分散させる設計ができていない。
影響度ポイント10、発生頻度10の最重要故障モードを持つ亡者の剣の出来上がり。
レイが使い光の魔力を込めれば、ミスターシャの森のように亡者の剣が爆発するのは必至。砂漠の真ん中でそれが起きれば、確実な死が待っている。
ショウは技術者として、そんな製品を世に出すわけにはいかない。
幸い、設計段階で故障することがわかっているので、検出難易度ポイントは低い。設計を直せばよいだけ。
しかし、その設計が思いつかない。
刀身に回路を組み込む手法の案はある。環境も整えた。あと1枚、亡者の剣製作までの道ができるまで、あと1枚の壁を破ればいい。
だがその壁は、ショウ一人の力で壊さねばならず、破れないでいる。
総力戦は明日に迫っている。納期は明日。
魔鋼を刀身し、魔装回路を施すといった製作作業も残っていることも考えれば、残された時間は少ない。
「納期」という言葉が、ショウの胃をキリキリと締め付け、思考を奪っていく。
「ショウ、お前、大丈夫か?」
そんな負の連鎖に陥っているショウに声をかけたのは、バナナ装備店の頭領であった。
「開いたドアからなんか思い詰めている顔が見えてな。邪魔だったか?」
「頭領……」
「無理するな、と言える状況じゃねえけどよ。倒れたら一貫の終わりだぜ」
後ろにいた、若い鍛冶師の男が労いの言葉をかける。
「お前が来てくれたおかげで、ウチはだいぶ楽になった。見えないムダも見えた。何かチカラになれることがあったら言ってくれ」
「はいありがとうございます」
ショウは頭を深々と下げた。
頭領が業務に戻り、小さくカンカンと鉄が打たれる音が聞こえる一室でショウは、持てるすべての創造力を動員して、レイの魔圧に耐える設計を練る。
(回路設計がダメなのか? それとも、外装設計に問題があるのか?)
紙にペンを走らせ、図を描き計算してみても、これといった妙案はない。
(あと少し、あと少しまで来ているんだ。ミーシャの協力も得たし、アテナ、カースのおかげでレイを見張りつつ亡者の剣を造れる環境を整えた。装備や設備もバナナの若旦那が貸してくれる。みんなよくやってくれている。あとは俺、俺だけなんだ)
レイを守るために組んできた、マネジメント全てが瓦解し、すべての努力が水の泡になる。
別に亡者の剣を造らなくても、レイを生き残るかもしれないのでは?という思考が何度もよぎり、何度も頭をブンブンと振る。
“かもしれない”という油断は必ずミスを引き起こす。楽観的ではダメなのだ。考えられる最善手を打ち、
それに、自分を認め、亡者の剣の素材である魔鋼と魂を託してくれた三人、ゴルード、シルク、ガーネットに立つ瀬がない。
彼ら彼女たちらは、一人になったレイに必要だと思い、魔鋼に自らの魔力を込めた。
(ダメだダメだダメだ、そんなことを考えるな。そんなことを考えるくらいなら、一個でも多くの新しい設計を考えるんだ。考えろ、考えろ)
頭を両手で押さえ、ブンブンと頭を振る。顔を上げると、散らばっている亡者の剣の普通の鋼で作った試作機が映り、またブルーな思考が頭を巡り始める。
無限ループであった。ただ時間だけが過ぎていく。
ショウは自身の才能の無さは勿論、根性の無さや心の強さが無いことを憂い、自暴自棄へと駒を進め始めている。
その時、バタン とドアが強く開かれる音がした。
ミーシャだ
「……ミーシャ、どうしてここに?」
「今日、ショウがそわそわしてたから、気になって来てみたけれど、やっぱり設計が上手くいってなかったのね……」
「親方さん、ちょっとショウを借りていくわね」
「おう」
バナナ装備店の若旦那は気にも留めず、送り出してくれる。
ショウはミーシャの手につられるがままに、先に来たカフェ・沼に来た。
※※※※※※※※※※※※
「さあ、食べて」
席に着くや否や、ミーシャがすぐに注文をし、ホットケーキが運ばれてくる。
甘さの暴力を体現したあの裏メニューではなく、普通のホットケーキだ。
「ミーシャ、申し訳ないがこんなことをしている暇は」
「いいから、食べて」
とミーシャは頑なに譲ろうとしない。
面倒なことをしたがらないマイペースであるミーシャだが、その分自分が決めたことは貫き通す頑固なところがあり、ショウもそれをよく知っている。
観念したショウは、ミーシャの言われた通り、ホットケーキをナイフで切ると、フォークで口に運んだ。
その瞬間、甘さと柔らかさ、そして暖かさが口の中に広がった。
(……うまい……)
鼻で呼吸し、バターの風味を確かめる。
「こうしてゆっくり味を確かめながら食べるの、久しぶりだったんじゃない?」
方針気味のショウに、ミーシャは言葉をかける。
「ああ、そうだ、な……」
思えば、ここに来てから食事の時間は無駄だと早食いに努め、味わうことをしなかった。
それどころか、思考が鈍ると食事自体を控えていた気もする。
「人には限界がある。24時間なんて働けるわけがないの。その3分の1である8時間でさえ、集中し続けるのは至難の業よ。だから、仕事中でも休まなくちゃいけないの。たとえ、期限が迫ってもね」
「ほら見て」とミーシャは外を指さした。
指先には、陽気なリズムで歌う旅芸者がいた。
帽子を広げて足元の前に袋になるよう置き、竪琴を奏でて唄っている。
《砂の城》撃退の総力戦を控えているので、人通りが多いが、誰も彼の前に立ち止まって唄を聞こうとはしない。
「どうしてこんな時に」
「いいからよく見て」
じっと観察していると、ミーシャの言わんとしていることが、だんだんとショウにもわかってきた。
吟遊詩人の前に立ち止まって聞いている人は確かにいない。
しかし、唄を聞いている人はいる。帽子の中がだんだんと硬貨で膨れているのが、何よりの証拠だ。
物資を詰め込んだ馬車に乗る者が吟遊詩人の前を通るときにはやけにゆっくりであったり、奔走する町役人や、傭兵たちも耳を立てたりしている。
さらに観察を続ければ、吟遊詩人の唄を聞き、休んでいる者は確かにいた。
総力戦という町の運命を決める大事な一戦を控えていても、きちんと休憩を入れていた。
ショウはその様子を、興味深そうに見つめた。
「ショウ、私たちは魔装具技術者よ。魔装具はアイデアが命、根を詰めていればアイデアなんて浮かばないわ」
「そうは言ってもなぁ……」
とショウは腕を組んで、首をかしげる。
ショウは考えすぎてしまう人なのだ。考える習慣は基本的には良い習慣であるが、時には心を蝕む考えを無意識に進めてしまうこともある。
「ミーシャは回路製作で良い製作手法が思いつかなかったとき、どうしているんだ?」
「とにかく忘れて楽しいことを考えていたわ」
「忘れる……か。俺には難しいな」
「どうして?」
「怖いんだ。考えることをやめることが。これまで俺はいろんな人の助けを受けてここにいる。あと一つ歯車をかみ合わせれば動くところまで来ている。けれど、最後の歯車ができない。できなければ、今まで組んできたものはガラクタだ」
ミーシャは「そうねぇ」と小さくつぶやくと、紅茶の入ったティーカップに口をつけた。
ショウの言う最後の歯車は、ショウにしか作れない。魔装回路の設計ができるのはショウだけ。
ミーシャは回路製作の専門で、簡単な回路設計ならできるものの、魔生糸を流れる魔力の三次元的干渉や製品の耐久を考慮する高度な設計はできない。
(なら、忘れるような行動をしてしまえばいいんじゃないかしら?)
そうミーシャは思った。
忘れてしまった方が、ひらめき力がアップする
これがミーシャのこれまでの経験から得た知見である。
「そうだわ。ショウが一時的に魔装具のことを忘れられる、いいことを思いついたわ」
「い、いいこと?」
ミーシャの思いつく「いいこと」は大抵の場合面倒ごとであるとショウは知っている。
「カースって人を呼んで頂戴」
「カース、今すぐに?」
「そう、今すぐよ」
Tips ミーシャの仕事
ミーシャは自身の保有する技術<三次元魔装回路製作技術>を用いて、立体的な魔装回路を製作する仕事をしている。立体的な魔装回路は、高度な魔術を発動できるのだ。
与えられた回路図を見て、どのようにして回路を作成するかというのは、ミーシャの知恵の絞りどころだ。
注文はめったに入ってこないが、ミーシャにしかできない仕事のため、報酬は高額である。
自由と時間を愛する彼女にとっては、天職だ。




