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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 11 アテナよ、拷問に耐えるのだ!①

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Twitter @Imori_Saito

<ドットルトの町にて>


(怪しい、怪しいのです)


この日、アテナはドットルトの街を歩くレイを尾行していた。


レイは現在休息中。連日連戦で、レイの身体より武具防具が先に過労死したようで、この日は休息日となった。


アテナがレイを尾行する理由、それは、レイに起こる奇怪な現象の正体を探る事である。


先日、レイの魔物に無理やり同行したアテナは驚くべき光景を数々目にした。


まず1つはレイの行動である。自分の依頼が終わってもなお、強き魔物を求めて砂漠地帯を歩き、強そうな魔物を見つけると戦いを挑んでいるのである。


限界を超えてまでも戦うことを止めない。炎天下の中、意識が朦朧となりながらも、剣を手に魔物に襲い掛かる。


当然追い詰められ、危ないという場面が何度もある。その時は、空飛ぶ円盤―彼はメカバックと呼んでいた―が援護に入り一命を取り留めている。


レイ曰く「"カレ"は自分の意志で動いている」というが。アテナには道具が意思を持つなんて全く信じられないという感じであり、自分に椅子を用意してくれる親切心を隠そうとしていると解釈している。


2つめは、彼への依頼だ。


これは限られた人物しか知らないことであるが、レイには厳封指名依頼が毎日届くという。


恨み妬みを防ぐために、依頼の存在をなるべくギルドで隠しているため、アテナも知らないことであった。


だが、レイはそのことを知らず、アテナがやけに報酬金が多い理由を聞かれると、あっさり教えてしまった。


幸運だったのは、アテナが指名で高額依頼を受けていることを、人に漏らさない心正しき人であったことだ。


レイはまだギルドに加入したての初心者で、実力も階級相応。


それなのに、指名依頼が届く。内容は主に簡単な魔物討伐で、全額前金、討伐証拠となる魔物の一部も不要だという。


ありえない話であり、これを知った時から、レイの裏にいる存在を認識し始めたのである。


この裏の存在が、アテナが今レイをこっそり尾行している理由でもあり、不思議に思う3つ目である。


どうやらレイの影のように蠢く協力者がいるらしい。とアテナは考えた。


レイの戦い方は危ない。防御や回避を考えない蛮勇を絵にかいたような猛攻ぶりである。


防御には空飛ぶ円盤、メカバックの援護が入るのだが、複数方向の攻撃など、ガードしきれない時が多々ある。


その時いつも、レイの命をえぐり取らんとする敵の棘や爪が軌道を変え、レイの身体を反れていくのだ。


魔物達は身体を痙攣させながら倒れ、止めを刺すと、ナイフが一本、木目の綺麗な模様をしたナイフが残る。


祈祷術の一種<成分分析>を試みると、その魔物にとって有効な毒が注入されていることがわかり、人為的な物と判明。


辺りに人の気配は全くなく、レイにも心当たりがなく、アテナはレイをサポートする人がいると、疑いを持ち始めた。


更に、レイへの援護は魔物との戦いだけではない。


夜のギルドで酒の入った岩のような大男にレイが絡まれた時も、突然大男が倒れて寝始めたと思ったら、首に睡眠系の毒が塗ってある針が刺さっていたのである。


この事件によってアテナの疑いは確信へと変わり、好奇心に突き動かされるまま、休日、レイを支える正体を追うべくアテナはレイを尾行しているのであった。


ドットルトの町人の普段着を身につけ、メカバックを紐で背負って街を歩くレイ。その美しい金髪が人々の注目を若干ではあるが集めている。多少汚れていても、あの髪の魅力は衰えることを知らない。


(平和、ですね)


レイは買ったサンドウィッチを千切って食べながら、椅子に座り、ただぼーっと雲一つ無い空を見ている。


こういう時に限ってトラブルは起こらないものだ。


ならば起こしてみようか、と邪な考えが泡のように湧き出るが、アテナは首を振って考えを消す。


(それにしても、一体誰が、レイさんを助けているのでしょう?)


レイはそれを知っているのか?それとも知らないのか。


ドットルトの傭兵達のパーティーの誘いをことごとく断ったのだから、自分から誘うことはないだろう。


だとすれば、思い当たるとしたら、以前レイと何かを話していたあの男である。顔は忘れてしまったが、紺色の襟付き服を着ていたことは覚えている。


(私はあの人を見たことがなかった。おそらくドットルトの人ではないわ。でも、この土地をよく知っていないと、あれほどまでに正確な毒を打てない。となるとここに住む斥候の方々かしら?)


と、あれこれ考えているうちに時間が過ぎる。気が付けばレイはいない。


しまった、とアテナは町中を探し回り、見つけた時にはレイは町から少し離れた場所で、メカバックと戦闘訓練を始めていた。


何も起きず、平和な時間がただ過ぎている。


(私がわざとトラブルをレイに投げつける訳にもいかないですし、今回は失敗ですかね)


無策と言って間違いないほどアテナの尾行者炙り出し計画は、無駄骨に終わろうとしていた。


募った徒労感を解消するべく、そろそろ教会に帰ろうかとアテナが思ったその時、後ろからすっと冷ややかな腕がまわり、アテナの口元を押さえられた。


「……!!??」


強い力で押さえられ、自力で抜け出すことも大きな声で助けを求める事もできない。


(な、何?なんなの?)


首にチクリと刺すような痛みが走る。


それが自己成分解析により麻酔毒だとわかった時には既に遅し。


抵抗する術なく、アテナは深い眠りへと落ちていった。


※※※※※※※※※※※※


(ん……)


アテナが目を覚ますと、そこは暗闇であった。


いや、目を縛られているのだ。古い木の香りがする。


どうやら椅子に座り、手を後ろに縛られているらしい。


立とうにも、鎖の音が虚しく鳴るのみ。叫ぼうにも、口に布が詰まっている。


コツコツと足音がこちらへと向かう音がすると、目と口を縛っていたものが解放され、ゴホゴホとアテナは咳をした。


アテナの前には、レイに以前振られた襟付きの男と、碧い髪を持つ美しい少女と、ドットルトギルドに所属する斥候、カースの姿があった。


三人はアテナを取り囲むように立っている。


(ここは、離れの宿屋ね…)


ベッドがある木造の部屋である。アテナには見覚えがあった。


「まったく、お前らも懲りない奴だ」


襟付きの男―ショウはアテナを睨みながら言った。普段とは違う、重みのあるトーンだ。


「どういうことですか? 私に一体何を?」


「お前、王宮の使いだろう」


「ち、違います!私はアテナ、このドットルト砂漠の教会に属している人間です!」


アテナはかけてある十字架の首飾りを見せつけ必死に弁明する。銅で作られ汚れたその十字架は、神に使える者の中でもまだまだ見習いである事を表していた。


「ふん、ならどうしてレイをつけ回っているんだ」


「そ、それはこっちの台詞です! 貴方がたこそ、どうしてレイさんを付け狙っているのですか?」


アテナが大声を出しても助けが来る気配がまるでない。


(あの男…彼が根回ししたのですね)


アテナはカースを睨み付けた。


「ほう、あくまでシラを切るか。よし、ミーシャ」


ミーシャが腕をゆっくりと手を胸のあたりまで上げる。右手から銀色の糸が五本出て、ゆらゆらと揺らめいている。初めてみる現象だ。


そして、座るアテナをまるで地に転ぶホコリを見るかのように無表情でかつ、注意深く見下ろすミーシャにアテナは恐怖を覚え、瞳孔が縮まり、肩が震え始めた。


「な、何をするつもりですか?」


「神に仕える者はいつも白い服を着ている。公正とか平等を象徴してんだっけな」


「い、一体何を!?」


ショウは続けた。


「でも、そんな純白無垢な人間なんていない。必ず何かに染まっている。俺はそれを見るとその人の本当の色を吐かせたくなるんだ」


「カースも、そう思いやす」


全肯定カースは短剣をペロリと舐め、アテナに向かって人を食ったような笑みを向けている。


「まあつまり……ただの拷問だ、何としても吐かせるぞ」


「ひっ」


アテナの感情が恐怖によって完全に支配される。口がうまく動かず、助けを呼ぶことすらもままならない。


ショウ、ミーシャ、カースの三人が一歩、座りへたっているアテナに踏み込む。

アテナの呼吸が荒くなり、口がガタガタと震える。


「ミーシャ」


ミーシャが糸を操る右手を振り上げる。


「やれ」


ショウの声に合わせてミーシャが腕を降り下ろし、10本の鋭い白い糸が、アテナに襲いかかる。


「い、いやああああああ!!!!」


アテナの悲鳴が部屋に響き、そして無惨にも防音工作を施した部屋に吸い込まれる。


花瓶に生けた一輪の花の花びらが一枚、落ちた。


Tips カース・マラカス

ショウの雇った斥候。氷属性の魔法適性があり、ドットルト砂漠を拠点に活動している。

偵察術だけでなく、交渉術にもあかるい。

その尖った風貌や独特な雰囲気から、前職は殺し屋だったのではとささやかれている。

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