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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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閑話 地味に動く者たち

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Twitter @Imori_Saito

<ドットルトの町 隠れ場にて>


私は王妃の命を受けて、とある方を探している。


名前は、レイーシャ・ミスターシャ。渦中の人だ。


今、ミスターシャの王宮は緊迫に包まれている。


四魔神ポリュグラスを倒したことで、魔族側がレイーシャの身柄を引き渡せという通告が来たのだ。


「さもなくば総攻撃をするぞ」という文章は無かったらしいが、四魔神が人の領域を踏み超えて、ミスターシャの森までやってきたという事実があり、王宮は大騒ぎだ。


魔族は魔物とは違い、高い知能を備えている。


人より力も知能も勝っている魔族に対し、今まで人類が生き残る事ができたのは、結束の力と防衛システムのお陰だ。


その防衛システムの初期段階が「索敵」である。


素早く敵を発見し、人員や物資を配備し万全の対策を取る。


頼りになるのは魔導師の感知能力だ。


幸い、魔物や魔族は強ければ強い程、闇の魔力も大きく濃くなり、魔導師達に発見されやすくなり、万全の対策をもって立ち向かうことができるのだ。


しかし今回、二体の魔族が国までの侵入を許してしまった。戦闘が始まるまで、魔導師達は気が付かなかったというのだ。


原因は、魔族たちが身に纏っていた隠蔽マントだろう。


あれは、ヤバイ。何がヤバイって、あの隠蔽性能だ。


隠蔽マントとは、文字通り身に纏う事で空気中に出る自分の魔族を全て地に流し、<魔力感知>から逃れるというもの。


その能力は完璧ではなく、隠蔽マントを着てもカンの良い魔導師に見つかってしまうことがある。


故に、私のような生まれつき保有魔力の少ない者が敵地へ向かう斥候や物見になるのだ。


二体の魔族が纏っていた隠ぺいマントは見事、ミスターシャの魔導師達の目を掻い潜ってみせた。その隠蔽性能は圧巻ともいえよう。


ポリュグラスとの戦闘が終わったあと、奴らのマントの切れ端を入手し、王宮抱えの土魔導師が《構造解析(こうぞうかいせき)》を試みたが、布の繊維構造を理解できなかったという。


未知の素材による隠ぺいマント、どうやら魔族側は人類側より高い技術力も持っているようだ。


早く隠蔽マントの素材を特定し、我々敵地で働く我々の為に量産化して欲しいところだ。


………おっと、仕事中であったな。


私情を挟まず、余計なことを考えずに王妃に命を全うするのみ。


レイーシャ・ミスターシャを探し出し、本人であるかを確認。


本人確認次第、仲間の斥候に報告。


そして可能ならば、ターゲットを殺す。


これまでの調査から、レイーシャらしき人物がドットルトの町で傭兵をしている、という情報をゲットし、砂漠町ドットルトで捜索を行っている。


ドットルトの町は暑い。太陽が無言の暴力を振るい、私の冷静な思考を奪っていく。


隠ぺいマントと、日よけの白マントを頭から被っている私の問題かもしれない。


なんにせよ、氷魔導師でも雇っておけばよかったか…


しばらくギルドの向かいにある建物の裏からじっと様子を伺って、夕刻。


仕事から帰ってくる傭兵達の中に、レイーシャらしき人物を見つけた。


金髪の碧い瞳の少年、砂を被っているものの、やはり彼はこの地では目立つ。


陰で誰かと話をしている。喋っている子は……祈り手、チームを組んでいるのか。


耳を澄ますと。雑音の中かからレイという言葉が聞こえてきた。


レイさん……という単語が聞こえた。唇の動きを見れば、あの祈り手が言ったのであろう。


レイさん……レイ……レイーシャのレイか。


名前も似ている上に、外見も一致している。これはターゲット本人である可能性がきわめて高い。


私はすぐに筆を取り、仲間の斥候に向けて、ターゲットがドットルトの町にいる文を描き、郵便鳩を飛ばす。


郵便鳩は空高く飛び、暫く観察を続ける。


今のレイーシャ王弟殿下は隙だらけだ、戦いに疲れぼーっとしながら祈り手と話をしている。


ここで、いけるか? 


吹き矢を取り出し、口をくわえる。


ターゲットがこちらに気づいた様子はなし。


致死性かつ遅効性の毒針。気づいた時にはすでに手遅れとなる優秀な毒だ。


ターゲットの首元に狙いを定め、大きく息を吸う。


その瞬間であった。


口にくわえていた吹き矢がはたき落とされ、大きな手で顔を掴まれた。


「………!!!!」


いや、手ではない。手の形をした白い半透明の…エネルギーハンドか?


首元にひんやりとした感触がすると、みるみる私の力と思考は奪われ、意識が砂へと吸い込まれていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


魔力吸収(エナジードレイン)


魔力を吸収された斥候は、意識を失い倒れた。ショウは十手魔刀から伸びた腕をしまう。


「これで二人目か。危ないところだった」


「お見事、ダンナ。アンタ斥候の素質ありますゼ」


「魔力保有量が少ない俺へのイヤミか? まったく」


ショウとカースは魔力隠ぺい効果のあるマントを脱ぐ。


「そっちの方はどうだ?」


「ぬかりありませン」


カースは郵便鳩が入った檻と、王宮斥候が書き記した手紙を見せる。


ショウが手紙の中身を確認すると、火の魔装カードをポケットから取り出して焼却処分、


代わりにカースが筆跡を似せて書いた「レイーシャはドットルトの町にはいない」という旨の手紙を巻き付け、郵便鳩を解放した。


(まあ、テキトーに見つけてくれるだろう)


倒れた斥候の身ぐるみを剥がす。


地味を絵に描いたような男だ。普通なら、こういう男の方が斥候やスパイに向いているのだが、実力は圧倒的にカースの方が上だったようだ。


「便利な手甲(ガントレット)ですネ。傷つけず、音を出さずに簡単に意識を奪えるなんて。これも、魔装具ですかい?」


「ああ、魔力放出機構を逆向きに組んだんだ」


ポリュグラス戦で創造した《魔改造手甲》を、亡者の剣製作の進捗が全く進まない腹いせに、部品を取り寄せ造ったのである。


「便利ですネ。たくさんあるのなら、()()()()にも卸して欲しいもんですガ」


「なに、まだ欠陥品さ。吸収した魔力の扱いに課題があってな。カース、手甲を触ってみろ」


言われた通り、カースはショウの《魔改造手甲(まかいぞうガントレット)》を触った。


「うぉっち 熱い熱い」


カースは手をブンブンと振った。


「《魔力吸収(エナジードレイン)》で《魔改造手甲(まかいぞうガントレット)》が吸収した魔力は半分以上が熱として発散される。魔力保有量が少ない斥候でこの温度だ、間違えて魔導師から吸い取ってしまえば、大火傷待ったなしだ。オマケに、吸い取る量は制御できないときた」


「ほう……なら、やめておきましょうかネ」


「今後の開発に期待。ということで……」


ショウは余計な仕事が増えたと、大きくため息をつく。


「しかしまあ、二人目ということは、三人目もいるだろうな」


「いるでしょうネ」


ショウは再び大きな息を吐いた。


「地味だけれど、続けていくしかないさ。レイの存在がバレたら最後、国家権力でも軍事力でもなんでも使ってレイを奪いにくるだろう」


「そうした方が、面白そうな気もしますがネ ククク。あと一歩のところに追い込まれた方が、ストーリーとしては際立つでしょうに」


「ここはフィクションじゃない、現実だ。不安要素は芽から、徹底的に積んでおくに限る」


「ダンナはどちらかといえば、おとぎ話の悪役ですネ」


「違いない」


冗談を言い合い、二人はにやりと笑う。


「で、どうするんですかい? 彼」


カースは尖った指で伸びている斥候を指差した。


「1人目と同じく、特別な()()にでもかけてやるか。楽しみがないと、やってられん」


「くくく、そうです、ネ」


二人はまた、悪徳役人のような、いやらしい笑いを浮かべあうのであった。


Tips 王妃モリネシア

レイの義母。レイの抹殺を企むも、本人は世間を知らないのでイロイロとツメが甘い。


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