Mission 10 アテナよ、レイを追え!④
評価、感想などお待ちしております!
気に入っていただけましたら、ぜひ、ブックマーク登録してくださいね!
Twitter @Imori_Saito
<ドットルトの町にて>
それからしばらくは、レイとアテナの接触はなく、各々やるべき仕事や修行をこなしていた。
レイは相変わらず一人でドットルト砂漠に出かけている。
祈り手アテナはというと、日々の仕事をこなしながら聞き込みなどをして独自にレイのことを調べていた。
調べれば調べるほど、レイはギルドの傭兵にとって"異質"な存在であることがわかり、アテナは驚きを隠せないでいた。
ギルドの傭兵は不安定な存在。読者諸君の言葉で言えば非正規雇用と言っても良い。
依頼をこなせば失業し、次の朝にまた新たな仕事を探す。
国お抱えの兵士と違って保険などにも入っておらず、死んでしまったら終わり。
故に、彼らは自分の命を最優先する。あの時アテナを置いて逃げてしまった男槍使いも理にかなった行動をしており、一番の大手柄であった。
だがあの金髪の青年、レイだけは違った。
自分の身の安全を全く考えていないような戦い方をする彼。
もしあの時、《鎧豚》につけられた傷が深ければ、もし毒浄化のスキルを持つアテナがいなければ、レイは確実に絶命していただろう。
魔物への異様なまでの闘争本能と、命知らずの生きざま。
アテナは今まで人々の悩みを聞き祈ってきた者として、レイという人間を知りたくなった。
その感情は恋心なのか、それとも母性本能なのかは、アテナ自身にもわからない。
「その…今日も一人で魔物退治に向かうんですか?」
相変わらずレイは一人である。ヨロイブタを跡形もなく消し飛ばしたという噂が広まり、パーティーの誘いを何度も受けているらしいが、全て断っているという。
「そうだけど…」
霞んだ碧い瞳が
「あ、あの。お節介かもしれませんが、パーティーを組んだ方が良いと思います、それと長物の剣じゃなくて、もっと振りやすい剣を使った方がいいかと」
アテナの忠告に、レイは霞んだ碧い双眸で睨みつけた。
「す、すいません、癖が出てしまって」
怯えてびくっとしたアテナは一歩下がる。
「どっちから答えればいいかな?」
「え?」
「だから、仲間を作らないのと、体格に合わない両手剣を使うってのと、どちらを先に知りたいかって事さ」
「な、なら…まずは一人で活動なされている事について…」
「パーティーを組んだ方が効率よく魔物を倒せる。それは知っているよ」
「だったら何故…お一人で?」
「確かにパーティーを組めれば、強い魔物とも戦えるかもしれない」
レイは続けた。
「でも、それじゃダメなんだ。僕は一人で強くならなきゃいけないんだ」
「一人で、ですか?」
「そうだ、それがみんなとの約束だから…」
と、レイが天井を見上げながら呟いた。まるで、その「みんな」がどこか遠い所にいるような様子だ。
「なら、両手剣の方は?」
レイが背中に刺す身長と同等の両手剣は、彼の細い腕には、魔力で筋力強化をしても振れる代物ではない。
レイは剣を振っているのではなく、剣に振られていた。
「このくらいの剣を振ると、嫌な事を忘れられるんだ」
「嫌な事、ですか?」
「あまり良く思い出せないんだけれど、魔物と対峙すると、何か嫌な感情が、頭の中がかき回されちゃうんだ。このくらいの剣を振ると、振るだけで精いっぱいだから、その嫌な感情を忘れる事ができる」
「それは誰しもそうですよ。私だって魔物は怖いです」
「いや、魔物への恐怖とは、また違った感情なんだ」
「そう、なんですか?」
アテナにはよくわからない話であった。
この日も、レイは一人でドットルト砂漠に魔物討伐にでかけ、数々の魔物と命を賭して戦いに出る。
それからまた日が経った。ショウがミーシャの介助に苦難し、武器屋で奮闘している時くらいのことだ。
「あれ、魔法剣を買ったんですね」
「ああ、よく利用しているバナナ装備店で買ったんだ」
「バナナ顎の頭領さんがいるところですね。私もよく利用しているんですよ。そういえば昨日、店の人から魔装具技術者が入ったってことを聞きました」
「へぇー、じゃあこの魔法剣もその人が造っているのかな」
「だと思います。その新しい魔装具技術者の人、魔装具の簡単な修理を教えてくれたり、使いやすくて怪我しにくい鍛冶道具や防具をどんどん開発したりしているそうで、バナナの頭領さんもいい人を雇ったってすごく嬉しそうでした」
レイはそこまで興味なかったのか、「そうなんだ」と言うと、傭兵達に混ざって依頼の掲示板を見上げた。
《砂の城》の動きが活発化し、次々に城を建立した影響か、ドットルト砂漠に魔物が増え、町役場からの魔物退治の依頼がどんどん増えている。
依頼を捌ききれなくなり、本来は銀等級がするべき依頼が銅等級組にも卸されている状態だ。ギルド内は傭兵達でいっぱいになっており、受付嬢などの事務員は休憩時間になると死んだように眠りこける。
「魔物も激化していますね」
「そうかもしれないね」
レイは《砂の城》の動向などには興味がないようだ。
「もっと中心部分に行きたいんだけど。そこにはもっと強い魔物がいそうだから」
「それはダメですよ」
ミスターシャ国防軍と協力した《砂の城》撃退総力戦に備え、兵力確保の為、《砂の城》が密集しているドットルト砂漠の中心部は立ち入り禁止となっている。
破ればギルドから登録を抹消するという重い罰が課せられる程の徹底ぶりだ。
とはいっても、監視に割ける人員はなく、柵も魔物簡単に壊されてしまうので、レイは知らず知らずの内に禁止区域に入ってしまっているというのが現実である。
レイはいつも通り、一人で依頼を引き受け、ギルドのテーブルに自分の魔法剣を置くと、何やら直角に折れ曲がった棒を取り出した。
「何をしているんですか?」
「魔法剣の確認さ、内部にゴミとかがあると魔法の出力とかバランスが乱れちゃうんだ」
「今日買った新品ですよね?」
「うん、でも初期不良で命を落としたら、自己責任になるからね」
レイはその直角の金属棒を魔法剣の穴に入れ、回す。すると、魔法剣から小さなネジが浮き上がってきた。
「これは」
「六角レンチ。魔法剣はこのネジで締結されてるんだよ」
ネジ頭が無いタイプのネジ。魔法剣に完全に埋まる事で使用に支障をきたさない造りだ。
レイは「綺麗な六角形をしてるだろう?」とアテナに六角レンチを渡すと、アテナは銀色に光る正六角形の断面を憑かれたように見つめ始めた。
カバーを取り、回路が組み込まれたグリップの内部を見て、自分の魔法剣の点検を始める。
「これが魔装回路ですか、初めて見ました」
「この部分が魔力を火属性に変換する回路らしい」
レイは中の回路を指さして言った。
「すごいですね…」
「詳しい仕組みまではわからないんだけれどね。魔装具を教えた人から魔法剣の基礎知識は覚えておけと、魔法剣の種類や見分け方、点検やメンテナンス方法を教えてくれてね」
新しい情報が「そうなんですか」と感心に感心を重ねている。
突然、魔装具の内部の様子を金属棒で調べているレイの手が止まった。
「どうしたんですか?」
「いや、そういえば僕に魔装具を教えてくれた人は誰だったかなと思ってね。大事な事なのに、教えてくれたその人の事を忘れちゃって…」
「小さなころの話なんでしょうか?」
「いや、どうだろう…」
レイは再び、点検を進め。大丈夫だとカバーを閉じ、レイは微弱な魔力を魔法剣に流す。すると、刀身が淡く赤色に光り、熱を帯びた事を確認すると、魔法剣を鞘に納めた。
そしてそれを、帯刀するのではなく、ドットルトギルドに預けてしまったのである。
「あれ、使わないんですか?」
「うん、そういう依頼だからね?」
アテナは首を傾げた。レイが多くを語らなかったため、アテナにはわからなかったが。
ショウからの《砂人形》討伐依頼に魔法剣を使わないようにという旨が記載されているのである。
理由は、魔力を込めて《砂人形》を倒してしまうと、跡形もなく消えてしまい、成果報告ができなくなってしまうこと。また、レイが光の戦士だとバレてしまわないようにという配慮だ。
ちなみに、魔法剣の点検業務も、依頼内容に入っている。
「では」と、ドットルトギルドを出ようとするレイを、アテナは呼び止めた。
「その、レイさんの魔物討伐についていっていいですか? 私ちょうどフリーなんですよ」
「前も言ったけど、僕は一人で強くならなきゃいけないんだ」
「強くなりたいのなら、ハンデがあった方がいいんじゃないですか?」
「それは……そうだね」
レイは二の句が継げなくなった。レイは強くなるという欲望に弱い。
アテナに一本取られてしまったレイは、レイはそのまま無言で去る。
レイの背中にいた小盾がふわっと浮遊して離れ、アテナの元に転がってくる。
「これは…一体?」
小盾がひとりでにアテナの周りをくるくると転がっている。
「メカバック、どうした? 行こう」
アテナにはレイの言葉の意味が分からなかった。
何故なら、その小盾を動かしているのはレイ本人であるのだと、アテナは思ったからだ。
メカバックと呼んでいた浮遊盾が、アテナのお尻を押してくる。
まるで、浮遊盾が「一緒に行こうと言わんばかりに」
レイは口をきゅっと締めると、また背を向けて歩き出した。
一種の"照れ隠し"だと解釈したアテナは、にやりと笑うと、メカバックを抱きかかえてレイの背中を追った。
Tips アテナ(16)
明るい祈り手の女の子。敬虔な信徒であり、誠実で優しいのだが、
善意で盾に要求を押し切ってしまうトコロがある。
レイにとっては、彼女の性格が良い方向に向かいそうではあるが……




