Mission 10 アテナよ、レイを追え!②
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(あの時の…)
アテナはまだ名は知らないが、彼はまさしくレイーシャ・ミスターシャ。レイだ。
そして、その浮遊している円盤はショウの機械仕掛けの小盾、愛称メカバックである。
顔が日に焼けて厚く、汗もべっとりと肌や服についている。碧い目は霞んでおり、熱中症で意識が朦朧しているのかとアテナは一瞬思ったが、ふらつくことなくしっかりと歩いている。
手に持つのは両手剣、ドットルトの武具屋で見たことあるからわかる、あれは魔法剣でもなんでもない、ただの両手剣だ。
《鎧豚》が怒りを表わすかのように喉を鳴らし、敵視をレイへと変えた。レイも両手剣を斜め下に構え、メカバックも歯車が組み変わる音をならしながら、浮遊している。
「アテナ、今のうちに」
涼しさに振り替えると、女純戦士と女性氷魔導師がいた。
《鎧豚》の敵視が変わった隙をつき、アテナの元にこっそりと歩いて来ていた。
女純戦士がアテナを背負おうと背中を見せてしゃがんでいる。
「待ってください、まだあの人が戦っています」
「彼だって奴に叶うとは思っていないわよ。隙を作って逃げるはずよ」
「今ここで逃げなきゃ、アイツの好意を無駄にすることになるぜ」
普通に考えれば、そうである。
「そんな風には、見えないのです……」
「どういうことだ?」
「まさか、彼が戦うとでも?」
「……」
(どんな生き方をすれば、あんな目ができるのでしょう?)
あの生気の宿らぬ霞んだサファイアのような瞳からは、目の魔物に対する憎悪の感情がふつふつと沸き上がっている。
アテナは《鎧豚》だけでなく、レイにも恐怖の念を抱いていた。
「うおおおお!!!!」
レイは叫び声とともに力任せに両手剣を横凪ぎに振った。
振られているとも取りかねない一撃。《鎧豚》は一歩引き、かわすとこん棒で叩きつけた。
攻撃をかわされたレイは振った両手剣の遠心力に身体を持っていかれ、体勢を崩している。《鎧豚》の一撃を回避するには不可能に近い。
(危ない!!)
カバーしたのは浮遊する盾、メカバックであった。表面にもう一枚エネルギーシールドを貼り、防御力をましてこん棒の一撃を空中で受け止める。
パリン、とエネルギーシールドが割れる音とともに、鈍い金属音が響いた。
「ほ、本気で倒そうとしているの? あの等級で?」
「そうみたい、だね」
二人も異変に気付いたようで、驚きを隠せないでいる。
「お二人とも、彼を助けることはできませんか?」
そうは言っても、と女純戦士と女性氷魔導師は見つめ合う。二人はまだ咆哮を受けた精神的ダメージが残っており、戦う気力が無い。男槍使いに至っては、逃走してしまっている。
そしてそのまま、レイと《鎧豚》の攻防はしばらく続いた。
いや、戦いを見ている祈り手アテナ、女性氷魔導師、女純戦士三人の目にはメカバックと《鎧豚》の攻防にも見えた。
レイが重い両手剣を持ってできるのは、簡単な攻撃のみ。低脳である《鎧豚》でもその攻撃を躱すのは容易い。
《鎧豚》の攻撃を受け止め、着実に打撃を与えているのはあの浮遊盾機械仕掛けの小盾。
まるでメカバックが主人かと、三人は見間違えてしまうほどであった。
「両手剣をまともに扱えてねーじゃねえか」
女純戦士は呟く。
「何故、両手剣を? 彼は魔法戦士ですよね?」
一般的に魔法戦士は純戦士と比べて魔術に自分のエネルギーを振り分け、魔術の習得に時間も費やしている為、筋力は純戦士に比べ劣る。
故に魔法戦士は小型の剣を好む。そのニーズに合わせて、魔法剣も片手剣サイズがほとんどだ。
「そもそも、あの剣は魔法剣ではありません」
「新人だし……な……魔法剣は高価だしあまりここでは出回っていないんだ」
「どうしましょう、このままでは」
レイが《鎧豚》に負けてしまうのは火を見るより明らか。
何とかしなくてはと思う一方、一度《鎧豚》に心を折られている3人に、戦闘に割って入る勇気はなく、実力もない。
傭兵のセオリーならば、ここはレイを見捨てて逃げるのが正しい。
ギルドの傭兵は不安定な存在、依頼をこなせば"失業"し、次の朝にまた新たな仕事を探す。読者諸君の言葉で言えば非正規雇用と言っても良いだろう。
国お抱えの兵士である国防軍兵士と違って保険などにも入っておらず、死んでしまったら終わり。故に、彼ら彼女らは自分の命を最優先する。
しかし彼女らはここを去らず、戦いを傍観している。
アテナ達は、異様なオーラを放つレイの戦いに呑まれていた。
形勢はより悪い方向に傾きつつある。
時刻は昼、猛烈に暑くなる砂漠に体力を奪われるレイの動きが鈍りを見せている。
体力、魔力が枯渇を兆しを見せても、レイは猪突猛進を止める事は無かった。リスクという概念を捨て、ひたすら全力で攻めの一手を繰り出す。
両手剣を振るレイの形相は鬼のようで、魔物同士の争いかと錯覚するほどであった。
―フゴォォォ!!!
一方の《鎧豚》も、攻撃がメカバックにことごとく防がれ苛立ちを表すように唸り声をあげている。
痺れを切らしたのか、金棒を大きく振りかぶって横に一振り。
流石にレイも後方に下がった。
距離を取った《鎧豚》は力を溜めた。
ぶよぶよとした脂肪から、筋肉が膨れ上がってくる。そこにはかつての草食動物の面影は無い。
レイは真正面から受けてたつと重厚な剣を両手に持ち、また斜め下に構える。レイの横に浮遊したメカバックもカチカチと音を鳴らし、威嚇している。
《鎧豚》の溜め終えたと同時に、こん棒を振り上げ一気に襲いかかった。
レイが手を以って指示すると、メカバックが迎撃に向かい、打撃を《鎧豚》に与える。しかし、諸ともせず、こん棒の間合いに入られてしまった。
《鎧豚》はレイの姿をしっかりと捕らえ、逃がすまいと身体ごと覆い被さるようにこん棒を振り下ろす。
レイは未だ鉱山のように動かず。遂にレイの両手剣のリーチの中へ、必中の領域へと踏み込まれてしまった。
(ダメっ)
数秒後にはレイの姿は見るに堪えない形に成り果てるであろうと、アテナは顔を覆う。
刹那、メカバックが《鎧豚》の眼前に現れ、こん棒を受け止めるのではなく、視界を遮った。
一瞬魔物の動きが止まり、レイは両手剣を捨て、代わりに短剣、ダマスカスナイフを手に懐に飛び込んだ。
短剣を逆手に握り、刃を《鎧豚》の首を斬りつける。
―フゴ ブゴォォォ!!!
振りほどこうと暴れる《鎧豚》に、レイ必死にしがみついて、傷口の中に指を二本、差し込んだ。
《炎爆》
首の中で爆発が起き、黒い煙を吐き出しながら《鎧豚》は斃れる。
(助かったの、かしら…)
《鎧豚》と一緒に倒れたレイがのっそりと立ち上がた。アテナは「大丈夫ですか?」レイの元にかけよる。
見ればレイは肩を押さえ血が滲んでいた。《鎧豚》が暴れている時に、こん棒の棘や爪で傷ついたのだろう。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だ」
「待ってください、魔物の武器には毒があります」
意図的に魔物が塗った毒ではなく、無惨に人を殺めてきた時の血に細菌が湧いたもの、感染症の類いだ。
アテナは肩の傷に手を乗せ、目を閉じ、祈りを込める。これは解毒の為の《成分分析》。人体に害を成すモノを主へ問う祈祷術の一つだ。
「うん、うん、これなら」
傷口に治癒の祈りを込め、レイの肩の傷を塞ぐ。アテナは透き通る青色の液体が入った小ビンを腰のポーチから取り出し、
「これを飲んでください、そうすれば毒が中和されるはずです」
と言った。シルク程の力があれば、そのまま解毒まで出来てしまうのだが、アテナはまだ見習い。成分分析をし、薬を渡すことしかできない。
「助かった。ありがとう」
飲み切った解毒効果のある薬の瓶を返すと、ややふらつきながらもレイは歩き始めた。
「ま、待ってください!」
アテナは慌ててレイの怪我をしていない方の肩を抑えて制止した。
「すぐに救援がくるはずです。あの岩影に隠れてやり過ごしましょう」
アテナは筒状の物体、発煙筒を取り出すと、火を使って煙を起こした。
「いや、僕は行くよ」
「え、どこにですか?」
「どこにって、魔物退治さ」
アテナは目を疑った。
(この人はまだ私と同じ銅級のはず、銅級の依頼に《鎧豚》の討伐依頼なんてない。相当消耗している。それなのに行くっていうの?)
「い、依頼がまだ残っているのですか?」
「いや、もうそれは終わったよ」
「じゃあ、何のために行くんですか?」
「何のためにって……魔物は人を襲うからね」
アテナにはレイが何を言っているのかさっぱりわからなかった。仕事でなく、慈善で魔物退治をするなんてそれこそおとぎ話の話だ。
「で、でも……」
レイは気だるそうにアテナを睨んだ。その霞む藍色の目の奥にある名状しがたい感情に、怖気が走ったアテナはそれ以上何もいう事はできなかった。
「じゃあね」
レイは背を向け、広い砂漠を歩き出した。浮遊する盾が後ろから追い、レイの背中に張り付く。
《鎧豚》が跡形もなく消えていたが、アテナはそれに気づく余裕もなく、死へ直面していた事への疲れがどっと押し寄せ岩陰にまたへたりこんだ。
Tips 鎧豚
平均身長200cmの人型の豚が鎧を着こみ、武器を持った魔物。
普段は、ドットルト砂漠に存在しない魔物だが、超大型魔物<砂の城>が呼び寄せた。




