Mission 10 アテナよ、レイを追え!①
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<ドットルトの町 ギルドにて>
ドットルト砂漠にはアテナという名の一人の女性がいた。彼女はドットルト砂漠のギルドに所属する女祈り手で、治癒術を学ぶ神に仕えし僧侶だ。
まだまだ見習い祈り手で、使える祈りも簡単な傷の治療といった程度。
祈り手の上位職である神官への道は遠いが、修行と祈りによって治癒という力を得た彼女は傭兵パーティーに引っ張りだこであった。
公平という観点から、誰かのパーティーにいつづける事はせず順番を決めて均等に所属し日雇い祈り手として日銭を稼ぎ、生活費を引いた分は神に仕える者としての活動費や、老朽化したドットルト教会の修繕費に充てるという真面目な信徒である。
この日も、アテナはとあるパーティーとともに魔物退治の依頼を請け負っていた。
「シスター・アテナ、今日はよろしく頼む」
細い槍を背負った純戦士―男槍使いとでもしておこう―の青年が依頼書を片手にやってくる。彼は等級が低く、防具も簡単なもので、胸当てやすね当てといった程度で兜はない。
「はい、よろしくお願いします」
彼女自身まだ見習いという事もあるが、貴賤なくパーティーに加わる。
「討伐モンスターはなんですか?」
「《オオサソリ》だ。打撃や魔法攻撃に切り替えていこうと思う、シスター・アテナはもし怪我をしたり、毒をもらった時に治療してくれるだけでいい」
「わかりました」
「見てるだけでいいわよ、数少ない回復職を怪我させたなんて聞いたら、なんて言われるかわからないからね」
女性氷魔導師がアテナの肩に手をのせて言う。
水色の魔法装束を着た、いかにも氷魔法使いという格好をしている。その後ろには4人目である大槌を持った女純戦士が朝から肉を食べていた。
あの女純戦士は氷魔導師と幼馴染であり、よくタッグを組んでいる。
前にミーシャが雇った二人組のコンビだ。
出発する直前、アテナは見知らぬ顔を目にした。
「あの方は? 新人さんですか?」
金髪に青い瞳を持つ、一瞬女性かと間違える程の風貌を持つ少年。
背中には一本の剣と、中心に魔力球がある小盾があり、その小盾以外の武具、防具は安物で、その綺麗な顔立ちには似合わない。
誰とも目を合わせようとせず、人を避けている雰囲気も感じられる。
「ああ、最近登録した魔法戦士らしいぜ。誰からの誘いも断って、一人で依頼をこなそうとしているらしい」
女純戦士は答えた。
「え、そうなの。よほどお金に困っているのかしらね…」
氷の魔導師が言った。確かに分配される報酬金を独り占めに出来るのだから、一人で仕事をする方が効率よく稼げる。
しかし、人よりも身体的に勝る魔物を倒すには、パーティーを組み、得意分野を生かし、足りないところを補完しあうのが普通だ。一人で魔物討伐に行くなど、自殺行為に近い。
「あの様子だと失敗してパーティーを組むようになるか、狩られるのがオチだ。放っておこうぜ」
男槍使いは言った。
「そうね」
男槍使い、女純戦士、氷魔導師の三人に連なり、アテナも仕事へ出かけようとする。
(なんでしょう、あの感じ……)
アテナは金髪の少年の、何か違う雰囲気に気になるモノを感じ取ったのか、その少年を凝視している。
「シスター・アテナ 出発するわよ」
「あ、はい!」
気になるモノの詳細までは横顔を遠くから見た程度ではわからず、ただの気のせいかとアテナは思い、仲間と供にドットルト砂漠へと出た。
魔物討伐は難なく進んだ。
《氷の礫》
氷魔導師が落とした氷の礫群によって体温が下がったサソリはその動きを鈍らせる。
その隙をつき、槍使いが自分の1・5倍もある槍の先で払いサソリを転倒。そのお腹に、女純戦士が大槌をかかげ、全体重を込めて叩きつけた。
「おりゃああああ!」
大槌による渾身の一撃に、サソリはたまらず絶命。三人の連携により、剣では傷一つつかないと言われている硬い殻を持つ《オオサソリ》を、無傷で倒す事ができた。
「やっぱ大槌だな」
と汗を拭った女純戦士が言った。
「このところ、《砂人形》ばっかでるからな」
周辺の雑魚処理を担当していた男槍使いが答えた。一般に《砂人形》は小型武器の方が有効だと言われている。
「ああ、ストレス溜まるぜ」
戦いを終えた大槌持ちと男槍使いが涼みを求め、魔力を周囲に流している氷魔導師に集まる。
「ふう、氷魔導師サマサマですわ」
女純戦士と男槍使いは気持ちよさそうに涼んでいる。
生きる空調機とも言える氷魔導師は、砂漠や雪山といった極限地での需要が大きい。
「シスター・アテナ、申し訳ない。貴女の出番はなかったようだ」
男槍使いが言った。
「いえいえ、皆さんケガが無かったですし、そちらの方が私としては嬉しいです」
「こっちに来て涼んだらどうだ?」
「いえ、私はここで十分涼しいです」
何もしていないのに報酬金だけを貰うのは流石に申し訳ないかと思ったのか、氷魔導師という避暑地から一歩引いたアテナは、岩陰で汗を拭った。
「新手がいるわ。警戒して」
感覚が一番鋭い氷魔導師は周囲に警戒を促す。何かを感じ取ったようだ。
女純戦士と槍使いは視界を三分担し、魔物を探す。
「どの方面かはわかるか?」
「すいません、感じ取れたのはわずかだったので、方向までは」
(みなさん、どうしたのでしょう?)
距離が遠かったアテナだけが状況を把握しておらず、三人の様子に首をかしげる。
(ひょっとして、魔物でしょうか?)
首を左右に振り、辺りを見回しても魔物の姿は見当たらない。
(もしかして、地中!?)
視線を足元に落とした。地中からの攻撃となれば、意識していなければ反応が遅れる。
「後ろ後ろ!」
男槍使いが大慌てでアテナの後ろを指差す。
アテナが振り向くとそこには大きな獣人型の魔物がこん棒を振り落とそうとしていた。
「うわっ!?」
寸での所で身をひるがえし、アテナはこん棒の一撃を回避。だが、叩きつけた時の衝撃で身体が飛び、砂に尻もちをつく。
「ヨ。《鎧豚》!? どうしてこんな所に?」
氷魔導師は恐怖交じりの声で呟いた。
《鎧豚》
文字通り鎧を身に纏った豚頭の強力な魔物。鬼に金棒ということわざを具現化したような魔物で、体格差のある魔物が武器を持ち、防具を身に付ければ強力でない訳がない。
本来ならばミスターシャには現れない危険度レベルが高い魔物、このような魔物が出現した原因は、魔物占領地との地下通路を作る砂の城に他ならない。
鎧豚の敵視は、アテナへと定まってる。アテナは逃げようとするが、先の一撃ですっかり腰が抜けてしまい、お尻が砂に焼かれ続けている。
「シ、シスター・アテナ! 早く逃げてください」
氷魔導師が叫ぶも、アテナは腰が抜けているので逃げる事ができない。
「おいおいおい、アイツ。なんかめっちゃ怒ってねえか?」
「所々に傷跡があるわ。おそらく手負いなのね。けれど、大した怪我じゃないから、私たちにとってはマイナス」
「ちくしょうめ」
女純戦士は舌を打った。
「それっ!」
男槍使いは、手製の槍を構え《鎧豚》の脇腹から槍を突き立てた。
―フゴォォォ!!!
邪魔をするなと言わんばかりに《鎧豚》はこん棒を振ると、たちまち槍はへし折れてしまい。同時に槍使いの心も折れてしまう。
女純戦士が隙を作るべく、武器を捨てる覚悟で大槌を構えて走り、氷魔導師も氷の礫を《鎧豚》目掛けてぶつけた。
しかし、大槌は《鎧豚》の手甲で受け止められ、氷の礫はまるで雪玉が投げられたかのように効果が薄く、むしろ冷たくて喜んでいるようであった。
―フゴォォォ!!!!!
《鎧豚》は羽虫を払うかのように咆哮を放つ。
その咆哮で女純戦士は腰を抜かし、氷魔導師はすくみ上がってしまう。
アテナと行動を供にしていた3人は、恐怖で支配されアテナを見捨てるようにジリジリと後退していた。
アテナだけが背に大岩があり、満足に下がれない。
(そ、そんな……)
暑いのに体が震え、冷や汗を流す。
ここで少し弁護をすると、彼ら彼女らのアテナを見捨てる、という行動は、倫理的には間違っているが、一方で理に叶っている。
彼ら彼女らは傭兵、死んだら終わり、自分の身体が資本であり、自分の命が最優先事項なのだ。
《鎧豚》はアテナを狩ろうと、こん棒を雲一つない空に掲げている。
(主よ、どうか……どうか……)
アテナは首のくすんだ十字架を手に取り、必死に祈った。祈祷術ではなく、神にただ救いを乞い、純粋な祈り。
大きな影がアテナに覆いかぶさり、逆光によって《鎧豚》の姿が黒い物体としてアテナの瞳に映る。
その黒い物体が、あの世への穴のような気がして吸い込まれそうな感覚を覚え、もうダメだと息を呑んだ。
その時であった。
円盤のようなものが《鎧豚》の後頭部を叩きつけ、金属が鳴った。
響いた鈍い音は自分が潰される音ではなかった事に気づき、アテナは未確認飛行物体を目で追う。
円盤が向かう先には、太陽と見間違える程の金髪を揺らす両手剣を握る青年がのっそりと歩いてくるのが見えた。
Tips 祈り手と神官
神官とは神に仕える職のことを言い、祈り手は神官見習いだ。
神から大地を通してエネルギーを分けてもらい、治癒術などの魔法を使用する。
神官になるには、信仰心が必要である。信仰心を維持し、養うために神官、祈り手たちは日々祈り、厳しい戒律を守っている。




