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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 9  ミーシャの技術を取り戻せ!

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Twitter @Imori_Saito

<ドットルトの町 宿屋にて>


ミーシャの介助、バナナ装備店での鍛冶仕事、亡者の剣の設計、レイの監視と依頼作成、という作業が一気に押し寄せ、まだ標準化もなく、慣れていないためにショウは多忙を極めていた。


彼女に負担になっていることを知られたくないと、ミーシャに疲れた表情は一切見せなかったのはショウらしい。


隠していた分、夜一人になったときは疲れがどっと押し寄せ、カースに書置きを残す日もあった。


それでもショウはこれまで培ってきた技術力、管理能力を発揮し、心身に不調を発生させることなくなんとかやりぬいた。




義手の新しい部品が届いたのは5日後の事だった。


送られてくる予定だったのは、虫歯車と亡者の剣の持ち手部分の素材などである。


2日あれば届くだろうと知らせを伝書鳩で受けたが、届いたのは5日後。


遅れた上に、ミーシャの師匠からの「定期点検もヨロシク!」という旨の手紙が新たに届き、ショウは頭を抱えていた。


虫歯車の到着が遅れた原因は、ミーシャの魔装具の師匠であり、義手の造り手であるモールドという人物にある。


彼女が義手の定期点検をショウに任せてしまおうと、点検マニュアルや他の歯車、人工関節の潤滑剤となる油、魔生糸のカートリッジなど様々なパーツも同時に送り、結果荷物が多くなって輸送が遅れてしまった。


この面倒くささを全て丸投げするスタイルはミーシャに通ずる所があり、ミーシャの両親は勤勉であったのを見ると、ミーシャの性格は師匠であるモールド譲りであろう。


バナナ装備店の鍛冶の仕事を終えたショウは、相変わらず進捗が生まれない亡者の剣の再設計作業を中止し、ミーシャの義手修理業務に取りかかった。


ミーシャのロンググローブをまくり、木でできた外装を取ると、歯車と魔生糸が張り巡らされた機械仕掛けの腕が露になる。


何度見ても素晴らしい精巧な造りだ。とショウは息を呑んだ。


ショウとしては、芸術とも言える作品をロンググローブで隠す必要はないのではないか?


と思う一方、彼女にとっては嫌なのだろうと思いなおし、作業を進める。


「バナナ装備店の方はどう?」


ミーシャは聞いた。腕の動かない生活に慣れてきており、今までの明るさを取り戻している。ショウと違い、彼女は元々心が強いのもあるだろう。


「忙しいよ。砂の城を撃退する総力戦も迫ってきてさ、魔物も増えているらしくて魔装具の修理と製作の依頼が滝のように降ってくるよ、しかも魔装具を担当できるのは俺しかいないから大変でさ」


「そこに魔装具担当はいなかったの?」


「いたらしい、けど過労で倒れちゃったんだって」


「えぇ…ショウは大丈夫なの?」


「頭領も過去の反省あってか魔装具の製作、修理の受注を絞っているらしいが、どうなるんだろうな」

注文というのは、受注者の一存で決める事はできないものだ。


「よし」


虫歯車の設置は完了。複雑な歯車同士がきちんと噛み合っているのも確認ができた。


「動かしてみてくれ」


「わかったわ」


だが、ミーシャの腕は動かなかった。


「あれ、何でだろう」


新しい部品を付け替えて修理完了。そう簡単に事は運ばないようだ。


予期はしていたが、いざ直面するとなると煩わしく感じる。


「しばらく動かしてなかったから、関節の感度がずれちゃったのかもしれないわ」


テーブルの上に腕にあるミーシャの指はビクビクと震えている。


「なるほど。なら、感度の再設定をっと」


送られてきたメンテナンスマニュアルから該当する部分を探し、書いてある通りにミーシャの義手の調整を始める。


「えっと、ネジを回して指の感度を調節して」


脳からの指令に対する指の感度、曲がるスピード、方向を調節する小さくも重要なネジ。


日々の生活や彼女の回路製作技術に大きくかかわる整備点検項目の一つだ


まずは小指から。ショウは細長いドライバーでねじをくるりと回す。


「イッ」


「あっ」


ミーシャの小指が逆方向に曲がり、その反動でミーシャの義手が飛び上がった。


「まずい、逆だったか」


ショウは慌ててミーシャの義手をつかみ、もとに戻す。


指の感度を調節するネジのネジ山の方向が規格化されているアルマス社のものと逆になっており、どうやらショウは逆方向にドライバーを回してしまったようだ。


しかも、ネジは想像以上にゆるく、必要以上に回してしまい、跳ね飛ぶとほど逆方向に小指がひんまがってしまった。


「な、な、な、な、何やってるのよ!!!」


「ゴメン、まさか逆だとは」


長くアルマス社にいたせいで、部品は規格が定まっていないのが当たり前であったのを忘れてしまった。


きちんとネジ山を見ないといけないなと、ショウは反省する。


小指部分のネジを見て、破損部分がない事を確認する。指を一本一本、一つ一つの関節の具合を調節していく。


指の調整を終え、今度は感触の整備だ。今度は慎重にネジを回していく。指の感度と違い、感触調整ネジは固い。少しずつ、少しずつ、ショウはドライバーの力を強めていく。


「ひっ」


「しまった」


またやらかしてしまったようだ。固いと思って力を入れて回したら、急に緩くなり必要以上に回ってしまった。回しすぎていたのは神経系の調整ネジ。


ミーシャの腕の感度が通常の3.000倍になってしまい、とても敏感になっている。


「ショウ、あなた私に、何か、恨みでもあるわけ?」


襲い掛かる感覚に、ミーシャは息を荒げ、汗をかき、ぷるぷると怒りを表している。


「いや、ありません。ごめんなさい」


他人の造ったモノの修理は、想像以上に難しい。


そんなこんなトラブルが続いたが、なんとかミーシャの腕は元通りに動くようになった。


「すごいわ、元通り」


グー パー と両腕を動かし、指の先からするすると魔生糸が出る。


彼女の笑顔を見て、今まで大変だった甲斐があったなとショウは思った。


「ありがとう。ごめんね、私のせいでショウが忙しくなっちゃって」


「いや、構わないさ」


「でも、私が魔物に立ち向かったせいで、こうなっちゃたんだし…」


ショウはミーシャの顔を見ると、ふふっと笑った。


「む~何がオカシイのよ。真面目な話をしているのにー」


「いやいや、ゴメン。もっとやばい奴のことを思い出してな」


「もっとやばい奴?」


「ミーシャと違って一人のみで魔物に突っ走り、魔法剣も何回も壊す技術者泣かせの魔法剣士さ」


「それって……」


「ああ。レイのことさ。それに比べたら訳ないよ」


ショウは続ける。


「それにな、マーシャさんと約束したんだ」


「お母さんと?」


「ミーシャがその義手を壊した時は、快く直して欲しいってな。無茶を言うと思ったが、マーシャさんはミーシャに義手を気にすることなく生きて欲しかったんだろう」


そう言ってショウは天井を見る。


15年も前になるが、ショウはマーシャと指切りで約束したのを覚えている。


それがはっきりと記憶に残っているのは、ショウがミーシャの父ポトフと同じく、母マーシャにも多大な恩を感じていたことや、約束したのがマーシャの死の床であったためだ。


見ると、ミーシャの目が潤んでいる。彼女も、母との記憶を思い出していたのだろう。


「その、さ」


「お礼と言ってはなんだけど。その、私の技術、使っても良いわよ」


「え、良いのか?」


「私の腕のパーツ代とか、ショウが全部払ってくれたんでしょう? 自分の事だから、後でショウに払うつもりでいたけど。その代わりとして、ね」


ショウにとっては、願ってもない話だった。


「その為に直してくれたんじゃないの?」


「いや、そんなことは……」


「微塵も?」


「う、微塵もないというわけではない……かな」


もちろん、義手を直し、直るまでの介助をした一番の理由は、これまでのミーシャとの交友と、ミーシャの母マーシャの約束であったのは間違いない。


しかし、ミーシャが恩を感じて亡者の剣の製作に協力してくれるのではないかという期待は、無いと言えば嘘になる。


行動を決定する動機は、複数あるのが普通だ。


「別にそれでもいいわよ。助けてくれた事には変わりないんだから」


ミーシャは続けた。彼女も、その複雑さをよく知っている。


「前にショウとミスターシャで会った時から、ショウがどれだけ真剣になってレイさんを助ける事に取り組んでいるのかが伝わってきたわ。いつもは気だるそうにしているショウが何でここまでって、私も気になるのよ」


そういうとミーシャは右手を差し出した。


「だから、私もショウの計画に一枚噛ませて頂戴」


「わかった、ミーシャ。俺の為にその技術を使ってくれ」


「いいわよ。今回は特別にね」


ショウは晴れ晴れとした姿で、ミーシャの手を取り、握手を交わす。


少しずつ、一歩、一歩と前に進んでいた。


Tips ショウとポトフ

ショウとポトフは年齢が二桁も離れているのに、まるで同世代のように仲がイイ。

ミーシャはこの謎を探るべく、密かに父ポトフとショウの関係について調べている。

全ては、BL小説を執筆するために……

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