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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 8  ミーシャを介助せよ!②

午前の仕事が終わり、昼休憩が訪れる。力仕事である鍛冶に従事する者は、しっかりと栄養を補給し、午後からの仕事に備えなければならない。


(ミーシャもお腹を空かしているだろうな)


ショウは外に出て、露店から包みを買うと宿にいるミーシャの元へと向かった。


「ミーシャ、いるか?」


ミーシャの部屋を数回ノックし、ゆっくりドアを開け、部屋に入ると、彼女は椅子に座り本を読んでいた。


「帰ってこなくていいって言ったのに」


と、ミーシャは呆れた表情を浮かべたる。口を使ってページをめくっていたのか、机の前にある本のページが少し濡れている。


傍には何も書かれていない小さなキャンバスと、持ち手に歯型がつき、少し濡れている絵筆があった。


「そういう事言うなって。ほら、昼飯、買ってきたぞ」


包みを開くと、チーズが挟まれたパンが二つあった。


「ちぎった方がいいか?」


「いいえ、大丈夫よ」


ショウが手で差し出したパンを、ミーシャははむはむ、と口だけを使って食べる。


ミーシャの唇がショウの指に触れ、モグモグと食べ喉を鳴らす。食欲は十分にあり、身体の健康に問題はないようだ。


「私に意地でも食べさせようとするその強引さ、レイさんにぶつけてみたら」


痛いトコロをつかれ「うっ」とショウは弓矢で射られたようにのけ反った。


「まあ……なんというか、レイの拒絶には付け入る猶予すら貰えなかった。恐怖も感じたよ」


「そう」


「会ったらわかるさ。それに、あれはミーシャの拒絶とは違う、ホンモノの拒絶だ。朝だって結局は朝御飯、食べてくれたし、な」


「それは!その、そう、そう、ね」


ミーシャは朝の腹虫の事を思い出し、赤く染まる。


(うん、いつものミーシャに戻ってきたかな)


全快、という訳ではないが精神状態も良好に近づいていた。


夕刻、武具屋の仕事が終わり、ミーシャの部屋をこっそり覗くと、彼女はまだ本を読んでいた。


大丈夫だろう、とショウは自分の部屋に戻りドーラスの残した亡者の剣の設計書を壁一面に張り付け、ペンと紙を手に新たな亡者の剣の設計書を作成しはじめた。


(うーん まったく手が動かない)


ショウの持つペンは紙ではなく、宙を描く。


全く道は見えずただ考え苦難するのみで、ペンを走らせてもドーラスの設計書を写してみたり、問題点を再度書き直したりと暗中模索の状態。


問題点を見つけられて三流、その解決策を提案できて二流、そしてその解決策を実現して初めて一流とはこのこと。


ショウはまだ三流。ミーシャの技術など、解決策をいくつかは見つけ、二流に足かけているかもしれない、くらいだ。


ショウは大きくため息をつくと、できる事から始めていくしかないな、と自分を励まし、製作における問題点を洗いだし分析、それを解決していく方法を探していく。


だが、この日は亡者の剣を実現化するためのブレイクスルーは起こらず、時間のみが過ぎ、気が付けば夜が訪れていた。


晩飯を抜きにして作業らしきものに没頭しようとも思ったが、今はミーシャの介助をする役目を持っている。


自分の都合でミーシャまで飯抜きにするわけにはいかないと、作業を打ちきった。


食事を終え、部屋を戻ろうとしたとき、ミーシャは視線をまばらに少しもじもじしていた。


「ねぇ その…」


その様子に、何か妙な雰囲気だとショウは感じた。


「ちょっと私、汗臭くない?」


「ん、いや…ああ」


そういう事かショウはミーシャの言わんとしている事わかった。身体を拭いて欲しいのだ。


日が出ている時の砂漠町は暑く、当然汗をかく。定期的に汗ばんだ身体を濡れたタオルで身体を拭かないといけない。


だが、両腕が使えないミーシャには物理的に無理だ。


先までモジモジとしていたのは、生理的な事を異性であるショウに言い出すのに、少し抵抗感があったのだろう。


「わかった。宿主のおばちゃんを呼んでくるよ」


「そ、そうじゃなくて」


部屋から出ようとするショウを、ミーシャは引き留めた。


「その、あまり腕の事は他の人に知られたくないのよ」


「ああ、そ、そうだったな」


会話が途切れ沈黙が訪れる。


二人の視線は合わない。


部屋のランプの暖かな光に照らされ、ショウの頬に汗が流れる。


「もしかして、俺が、ですか?」


「そうよ! 言わせないでよ! さっさと濡れタオルを持ってきて!」


くるりと背を向けるミーシャ。脱がす所からショウはやらねばならない。


「え」


(ど、どうすればいいんだ)


日の目に触れず、透き通った雪を欺くほどの白い素肌が目の前にある。


男のものとは明らかに違う肩の柔らかさと、綺麗な肩甲骨のライン。


前面はお世辞にも出ている所は出ているとは言えないが、背面はとても美しく、情欲がそそられる。


彼女ももう17歳、この世界で言えば十分に大人だ。


久しぶりのこの男としての生理的な感覚に、ショウは心拍数があがり、血流が激しくなる。


思えば、世界を巡り、魔物と戦い、製作業にあけくれてきた毎日で、女性に傾倒する暇がなく、歳だけを重ねてきた。


身体は齢21、健常な男からすれば正しい反応ではあるが、今は介助をしている身である。


「早くしてよ! 私だって恥ずかしいんだから」


「わかった」


動揺が悟られないようゆっくりと言った。


ショウはゴクリと息を飲み、濡れたタオルを持つ震える手をミーシャの背中に近づける。


「んっ」


ミーシャの身体がビクッと震え、声が漏れる。


「ご、ごめん」


(あああああああ)


我慢しようとして漏れた声がやけに色っぽく、ショウの頭に強固に刺さる理性というネジが煩悩というドライバーによって外されようとしていた。


「大丈夫、ちょっと冷たかっただけだから」


バクバクとなる動悸、動揺を悟られぬよう必死でゆっくりと息をする。


「わ、わかった」


(そうだ、これは介助。これは介助なんだ)


煩悩を排除すべく、念仏を唱えるかのように何度も「介助」という言葉を反芻し、強く濡れた布を絞るとその布をまた背中にあてがった。


(いやでも、あえて触れないのもミーシャに失礼か? いやいや、何を考えているんだ)


筋肉を強張らせながら身体をすべて拭き終わり、上半身だけでも服を着せると、最後の難関である下半身の部分にやってきた。


そう、パンツも履き替えさせなくてはいけないのだ。


「そこは…その、一人でできるわ」


デリケートな部分付近は自分で何とかするしかなく、流石にミーシャも恥ずかしいようで、もじもじとお尻をうごめかせる。


ベッドの摩擦で少しずつ下着を脱いでいるのを見て、お尻が露わになる前に、ショウはタオルだけをミーシャの近くに置き「終わったら言ってくれ」と背を向けた。


静寂なおかげでタオルが擦れる音が映える。


しばらく布団とミーシャの格闘があり、音が止むと、ミーシャは


「ダメだわ…」


と漏らした。


「ちょ、ちょっと…いい?」


ショウは恐る恐る振り向く。


ミーシャの新しい下着は太ももに入る直前で停止しており、諦めた様子でミーシャはうつ向いていた。


脱ぐことは簡単な一方、はかせる事は難しい。無理に入れようとすればくるまってしまいシュシュのようになってしまう。


「糸でパンツを動かすというのは…」


「できたらもうやっているわよ」


(やるしかないのか……)


ミーシャは足をあげ、ショウは後ろから手を伸ばす。ショウの吐息が、ミーシャの首筋にかかる。


太ももをなるべく触らぬようパンツをつまみ、ゆっくりと股の部分まで白いパンツを沿わせていく。


今のショウは、儀礼用の紋章が浮かぶ精密魔装具を作る時よりも何倍も緊張していた。


最後にお尻をあげて骨盤の辺りまででゴール、新しいパンツをはかせる事になんとか成功した。


「あ、ありがとう」


「ああ……」


ショウの反応は薄かった。


「……その……」


ミーシャは何かを言おうと思ったが、彼の疲れ切った顔を見て


「何でもないわ、早く休んで」


とショウを部屋から出した。


部屋に緊張の糸が切れたショウは崩れるようにベッドに倒れ、大きく息を吐いた。


ミーシャの介助がついただけなのにこの疲れ様。重い装備を運ぶことや、カースにレイの危険な魔物討伐の報告を聞く時よりも精神をすり減らす作業であり、限界を超えることで今までため込んでいた疲れが一気にでたのであろう。


ショウは寝坊しないよう願いながら、そのまま眠った。


Tips ミーシャとショウ

ショウはレイのパーティーの内勤技術者になる前は、魔装具製作の仕事で世界を巡っていた。

長い時には1年、ミスターシャに帰ってこない時もある。

ミーシャはショウの出張話を聞くのが好きで、ショウがミスターシャに帰ってきた時は真っ先に彼を食事に誘う。

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