Mission 8 ミーシャを介助せよ!①
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<ドットルト砂漠 ショウの寝泊まりする宿にて>
ミーシャが保有する技術《三次元魔装回路製作技術》は両手10本の指から繰り出される魔生糸を巧みに操り、魔装回路を三次元的に迅速に製作していく技術。
魔力導線から発生する魔力場の影響も考慮するような、立体的な魔装回路が必要なモノの製作には必須とも言える技術だ。
魔生糸はミーシャの指に空けられた小さな穴から出ており、自由に出し入れ可能でその出せる長さは20メートルにも及ぶ。
ミーシャの腕内に魔生糸のカセットがあり、肉体の一部として自由自在に魔生糸を操る。
さて、ここで「どうやってミーシャの腕内に大量の魔生糸を入れているのか」と疑問に思うであろう。
安心して欲しい。肉体改造は倫理的も医療技術の観点からも不可能だ。
答えは義手。ミーシャの両腕は魔装具の一種なのだ。
彼女はアルマス社ミスターシャ支部の社長ポトフと、知る人ぞ知る女魔法戦士マーシャとの間に産まれた一人娘。
彼女は生まれつき、両腕の肘から先が無い状態で産まれてきたのである。
現在は義手を装着する事で腕が無いというハンディキャップをカバーし、それどころか唯一無二の技術である10本の魔生糸を巧みに操る三次元魔装回路製作技術を身に付けている。
今の彼女にはその先天性欠腕はアイデンティティーとなっている。
その義手が、不調で動かなくなってしまった。
腕が壊れた原因を聞いたとき、ショウは天を仰ぎ。既視感を感じた。
(レイが魔法剣を壊すのと同じか…)
しかも、経緯もレイの《骸骨》事件と似たようなものを感じる。
ミーシャの義手も、かつてのレイの魔法剣も魔装具であり、精密機器だ。
自分の部屋に入れ、ミーシャを椅子に座らせて動かなくなった腕を机の上に乗せる。
「とりあえず中身を調べてみるか。動かなくなったのは今回が初めてなのか?」
「……」
ミーシャは重苦しい表情をしたまま黙り込み、コクリと頷いた。今まで潤滑に動いていた指や腕が突然動かなくなれば、例え生身の腕があったとしてもパニックになり、気を落とすであろう。
昼にショウと会った時とはまるで別人のようで、明るさを失い、暗い。
ドライバーやペンチなど、様々な工具を布団の上に敷いた布に並べ、動かなくなった様子を探りはじめる。
まずは左腕からロンググローブを取り、木材、金属材などの様々な素材の部品に魔生糸が複雑に絡み合った魔装具を露になった。
ショウはその中に細長い工具を入れ、雷属性魔装具<定点電球>で明かりを照らしながら、まるで手術を施すように内部を探っていく。
(とても精巧な造りだ。今まで何年使っても目立った故障が無かったのだから、機能だけでなく、堅牢性、整備性も備えている。やはり、凄いな……)
と、ミーシャの義手の中を探るショウは、その造り手に対し感心の色を浮かべた。
「これか」
ミーシャの片方の腕の中から2つの部品をピンセットで取り出した。
故障の原因は簡単に見つかった。
ショウはその二つをテーブルの上の綺麗な布の上に置き、合わせる。
すると、歪な形をした歯が8つの歯車が出来上がった。ミーシャの左腕の中で、この歯車がパックリ割れていたようだ。
「これは?」
「これは虫歯車ってな、ほらこの二本が触覚で、この部分が足なんだ。本来は、時計とかに使われるんだけれど」
と、ショウは唇を曲げて唸った。他人の造った魔装具というのはやはりわからない。
特にミーシャの義手の造り手は、部品の規格を完全無視した<迷惑な天才>なのだから、更に唇が曲がっていく。
「この小さいのが原因なの?」
ミーシャは一点特化型の専門家。魔装回路には明るいが、機械要素などには暗い。
「ああ。人間を遥かに越えるパワーや堅牢な機械も歯車1つ壊れるだけで正常に動かなくなるものだよ。にしても、こういう壊れ方するかな、普通」
と、ショウは天井を見上げる。潤滑や精度が不十分で歯車同士が接触し、歯車の歯が磨耗して欠けるというのはよくある事だ。しかし、こう中心から割れるのは珍しい。
(他の歯車がぶつかって削られた訳でもない。何処か予期もしない方向に集中荷重がかかったのか?)
まあ岩にぶつけたのが原因で、当たりドコロが悪かったのだろうと、造り手へフィードバックを送るために壊れた原因、虫歯車の様子などを正確に記録していく。
もう片方の義手を探るとまた割れた虫歯車が出てきた。原因はこれで間違いないようだ。
「直る、の?」
ミーシャが不安そうに尋ねる。
「新しい虫歯車があれば、な。この虫歯車を直すのは難しい。図面があればバナナ装備店で作れたのだが…」
歯車は寸法が命。
割れた歯車を接合したり、見よう見まねで同じものを作っても、寸法が少しでも狂えば機能しなくなる。
「よし、こういう時はミーシャの義手の作成者に新しく発注するのが手っ取り早い」
「師匠に?」
「ああ、自分も発注しなくちゃいけないパーツがあってな。同時に送ろうと思う」
「そうか、そう、そうよね…何ですぐに気づかなかったんだろう」
ミーシャはがっくりと肩を落とした。
「しょうがないさ、落ち込んでいる時に良い思考はできない。早速連絡しよう」
次の日、ショウは伝書鳩を買い、虫歯車の発注書をミーシャの義手を造った技術者の元へ送った。
伝書鳩の移動を考えれば、少なくとも3日は両腕が使えない状態での生活をミーシャは強いられる事になる。
通常、腕が無い人は、足などを巧みに操って食事や仕事などをこなしている。
その技を習得するには血の滲むような努力が必要で、ミーシャについては義手がついたのはまだ物心がついていない3歳の時。
腕を使わない状態で生活する術は持ち合わせておらず、ショウの介助が必要な状態であった。
レイのサポートの指揮、鍛冶場での労働、亡者の剣の再設計に加え、ミーシャの介助という仕事が入り、ショウは多忙を極めることとなる。
早朝、寒き砂漠町を暖める太陽が昇る。それに反して、ミーシャの表情は未だ真夜中のように暗い。
「どう? 調子は」
「……良くはないわ」
ショウはドットルト宿主から貰った朝飯をトレイでミーシャの部屋に運ぶ。
「ほら、食べな」
陶器の器に入れられたスープを、ショウはスプーンでミーシャの口元に差し出す。
ミーシャは寝返りをうつことや、身体を起こすことはできるが、普段のような食器を持ち食べるような食事をする事はできない。
かといって、足を使って食べる技術は持ち合わせておらず、ショウの介助が必要だった。
「いらないわよ」
食べさせてもらうというのは、年頃の女の子には恥ずかしいのか。ぷいっとそっぽを向いてしまう。
―ぎゅるる~
「?」
「!」
ミーシャのお腹が鳴った。どうやら昨日夜ご飯を食べずに寝てしまったミーシャの腹の虫が拡声器片手にデモを起こしているらしい。
素っ気ない態度を取った天罰が下ったのだろうか。
「食べたほうがいいんじゃないか」
にやりと笑って言った。ミーシャはそっぽを向いたまま、熱した鉄のように頬を赤らめる。
ショウは優しく微笑み移動すると、スープの具が入ったスプーンを再度向けた。
根負けしたミーシャはゆっくりと口を開け、具を頬張り呑み込む。
「食べられるか?」
「うん、もっと…」
ショウは「はいはい」と温かい目を向け、何度も何度もミーシャにご飯を運んでいく。
食事が終われば、ドットルトの街から少しずつ労働の音が聞こえてくる時になる。
木製の窓を開けば、商人達が開店準備をしている様子や、物資を運ぶ馬車が走っていく様子、そして様々な武器を持った傭兵達がギルドの方向へと足を運んでいく姿があった。
ショウは今日もバナナ装備店で働く。ミーシャを一人にはしたくないが、自身の目的達成のためにやらなくてはならない。
「今日はどうするんだ?」
「ここにいるわよ、腕が動かないんじゃ、外には出られないし」
腹がふくれたことで、ミーシャの応答が良くなっていた。
「わかった。昼にはまた戻ってくるから」
「別にいいわよ、来なくて」
ベッドの上に座ったミーシャはショウに身体は向いてはいるが、目を合わせようとはしない。
そんな彼女を今はそっとして置いてやろうとショウは「行ってくる」とだけ言い残し、バナナ装備店に向かった。
店に入るなり、ショウは「おはようございます」と元気よく挨拶。
そのまま店の裏側に入ると鍛冶場があり、蒸気や鉄、墨や油の香りがショウを出迎え、実家のような安心感を覚えた。
鍛冶師達は仕事を始めるべく、炉を起こしている。暫くすれば、この場の温度は上昇し、文字通り鍛冶師と鉄の熱き戦いが始まるだろう。
「来たか」
と、バナナのような細長い顔をした若旦那が袋を持ってやってきた。
「おはようございます。依頼の方は来ましたか?」
「夜に魔装具の修理依頼が1件きた」
袋の中を覗くと、弓矢であった。
「すぐに終わらせましょう。廃棄品回収ボックスも溜まってますし、それが終わったらナイフを造ろうと思います」
「ああ、わかった」
ショウは仕事の支度を始める。
バナナ装備店では、魔装具を取り扱える者がいないはずなのに、様々な大きさや形のレンチや替えの魔生糸など、魔装具の修理・調整の為の道具は揃っていた。
その道具の充実ぶりは、魔装具を製作できるほどであり、どこかで挫折し、無駄な投資に終わってしまったのだろうか、とショウは思った。
他の鍛冶師達の依頼内容を調べ、聞き、共同で使っている数ある炉を他の鍛冶師に迷惑をかけないよう使える時間帯を割り出す。
依頼件数を予想し予定を立て、予想外依頼が振ってきた時に備えて空白の時間も確保。
服はそのまま。紺色の襟付き作業着と、灰色のズボンは耐火性、防刃性に優れる素材だ。
(ヨシ、始めるか!)
まずは、魔装具の修理にとりかかるべく。ショウは鍛冶場に掛けてある六角棒レンチを手に取った。
亡者の剣を造る時に備えて、工具を使い込み、環境に適応するというのもミッションの一つだ。
念入りに触り、六角棒レンチの感触や重心を確かめ、作業に取り掛かった。
Tips ショウとミーシャ
ショウは、ミーシャの為なら助力を惜しまない。
それは、ミーシャの父ポトフに多大なる恩を感じているからでもあるし、ミーシャの苦難を乗り越えた歴史を知っているからでもある。




