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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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2.初仕事が肝心①(ショウが棺に入る13日前)

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

ミスターシャの森はミスターシャの西隣に位置する森、国指定の自然保護区域だ。


元々ミスターシャ自体が強国に囲まれ、魔物が寄ってこない平和国なので、その中心街の隣にある森には脅威度が低い魔物しかおらず、完全初心者であるレイの育成にはもってこいなのだ。


ゴルード達が予め決めていた野営地に着くと、ショウが荷車から積み荷を降ろし、テキパキと野営準備を始める。


整地、キャンプの設営、水路の確保、簡易炉の設営など、その手際の良さには目を見張るものがあり、レイたちは内勤技術者を雇った効果を早速体感していた。


「ショウ、俺たちに手伝えることはあるか?」


ゴルードが聞いた。


「ありがとうございます。けれど大丈夫です、もう終わりますから」


「仕事が早いな。俺たち四人がかりで設営に倍の時間がかかっていたというのに。アルマス社は皆、そうなのか?」


「いえ、僕が特殊なだけです。魔装具の素材を探しに、いろんな所を巡りながら旅していましたから」


ゴルードは感心したように頷いた。


「ショウ、敬語はゴルード達にも言わないこと、だよ!」


レイが人差し指を立て、割って入る。


「あ、ああ。わかった。み、皆さんは、早速レイの育成に向かうんだよね? ならまず、皆の装備の状態を俺に見せて欲しい」


「問題ない」


ショウの頼みにゴルードは残りの三人を呼び、ショウに武器や防具を渡させる。


レイ、シルクは躊躇なくショウに診て欲しい自分の武器を差し出したが、ガーネットは迷っているようだった。


「ガーネットさん、俺は一応プロだ。魔力球の扱いはちゃんとわかっているよ」


杖の先にある魔力球は傷や汚れが入ると、魔法出力が落ちてしまう特徴を持つ。


人に渡すよりは自分で整備して、不備の責任を全て負いたいという魔導師も少なくはない。


「……しょうがないわね」


ガーネットは嫌々ながら紅い魔力球を杖から取り出し、ショウは「ありがとう」と、綺麗な布を用いて受け取り、くるんだ。


四人から受け取った武具の数々を、平らに整地し、一段だけ隙間なく積んだレンガの上に敷いた白く広い木綿布の上に広げた。木製の大きな工具箱を開き、レンズを取り出すと、ショウは武器を持ち上げて覗き込んでいく。


チェックするのは武器防具の亀裂、ダメージだ。


武器や防具の亀裂は強度を低下させる。小さなものならば大丈夫だが、大きなものがあれば補修を行わないと壊れてしまう可能性がある。


それが戦闘中ならば、死を意味すると言っても過言ではない。


「ショウ、良かったら見学させてもらってもいいかな?」


出発準備をいち早く終え、手持無沙汰になったレイが、好奇心の眼差しを持ってショウの元にやってきた。


「え、ああ、いいぞ」


ショウはレイの座るスペースを作ってやり、レイを座らせ診断を再開する。


「何をしているんだい?」


「亀裂の状態などを確かめているんだ。ほら、ここ」


ショウが指差したのは、肉眼でもわかるとりわけ大きな亀裂だった。


「このまま放っておけば、この亀裂が広がっていき、ついには割れてしまう」


「そうなんだ」


ショウはバトルアックスを置き、ポケットからカードを取り出すと、手で被せるように添えて目を閉じた。


「何をしているんだい?」


「土属性の魔装カードで、内部の様子を調べているんだ」


ショウは目を閉じながら答えた。土属性を得意とする魔導師は、物質の構造を内部まで感じ取れる特質を持つ。


そのメカニズムを、魔力を通す魔生糸で再現し、二枚の厚紙で挟むことでカードにした魔装具を魔装カードと呼ぶ。


魔術に疎いショウであっても、この魔装カードのおかげで、まるで土属性に明るい魔導師のように内部の亀裂まで隅々まで点検できる。


この魔装カードは使い捨てであるが安価で、アルマス社の売れっ子製品である。


ショウは目を開くと、紙と鉛筆を取り出し、何やら数字を書き込んでいく。


「今度は何を?」


「計算さ、あとどれくらいこの斧が持ちそうか、ってのね。俺が土属性魔法に長けた技術者だったら、計算せず、すぐわかるんだけれど。ほら、魔装具はまだ高度な魔術は再現できないからさ」


「そうなんだ~」


ショウは出てきた数字に二重線――これは答えが出た時の彼の癖である――を引き、鉛筆を置いた。


「よし。内部に大きなダメージは無いし、このくらいなら割れることはないかな。でも刃と柄の部分がぐらついているし、グリップ部分もボロボロだから、修理する必要がある。さあ、次に行こう」


バトルアックスを置き、次のゴルードの武具、防具のチェックへと移り、小盾バックラー、ロングソード、ソード、ランスなど、ゴルードの全ての武器のチェックを終えると、魔導師ガーネットの武具、魔力球へと手を伸ばした。


鋭い視線がショウの背中に刺さり、汗が流れる。ガーネットの圧だ。


(魔導師にとって魔力球が大事なのはよくわかるんだけれど、うっかり傷をつけかねないから、やめて欲しいんだけれどな)


魔力球、それは術者の魔力による現象発現の効果を効率よく増幅させる効果を持つ魔導器である。魔導器は魔装具とは違い人工的ではなく、それだけで魔術を発動できるものではなく、また、魔導師のかける大きな魔圧にも耐えることができる古来の道具だ。


ショウはガーネットの魔力球を滑らかな汚れ一つない高級布の上に置き、その赤く輝く水晶を「土」の魔装カードで内部を調べ始めた。


「こんな歪み一つない魔力球は初めてだ。ガーネットは相当の実力者だな」


魔力球は、傷がなく真球であればあるほど良い効果を発揮する。ガーネットの魔力球には傷を一切確認できず、真球度もショウの計測精度を超えていた。


(磨いたら、真球度が落ちることもある。難しい仕事になるな)


大変ではあるが腕が鳴る。


ショウはガーネットの魔力球を軽く布で一拭きすると、素手で触らぬように、慎重に魔力球を木箱の中に入れた。


「次はシルクさんの武具だ。と言いたいところなんだが、残念ながらこれは門外漢だ」


「そうなの?」


「ああ、神官の武具は聖ミス銀リルでできていて、この聖ミス銀リルは祈りを込めると魔族特攻効果が付与される。俺は信徒じゃないし、才も無いから、その特攻効果の強度を測る技術や、その効果を維持する技術を持っていないんだ。だから、メンテナンスは町の教会に任せることになる」


「そういえば、シルクさんは結構頻繁に教会に訪れていたな」


とレイは思い出すように答えた。


一応、傷やダメージが無いかをチェックする。神官は近接で戦うことはあまりないので、傷はほとんど無い。大丈夫そうだ。特攻効果についてのメンテナンスが出来ない旨をシルクに伝えると、彼女もそのことについては良くわかっているらしく、「わかりました」と静かに返答するだけだった。


最後にレイの魔法剣を取り出した。片刃の剣の背に木が張ってあり、木の中を通って剣先まで魔力効果を通すスタンダードなタイプだ。火属性魔法なら斬撃とともに熱傷を与えることができるし、風属性魔法なら切れ味を増すことができる。


「ついに、僕の武器か」


レイが何故か感慨深そうな面持ちで腕を組む一方で、ショウは魔法剣を見てやや苦い顔をしている。


「残念だが、これが一番厄介だ」


「え」

Tips 魔装カード

片手で持てる大きさの厚さ3mmのカード、中に魔装回路が埋め込まれており、魔装具メーカーアルマス社の主力製品。

その特徴は安価で大量生産ができることであり、庶民に魔法が普及するのに一役を担った。

売れ筋は「火」と「土」の魔装カードだ。以下に性能を簡単に記そう。


・火の魔装カード

魔力を込めればカードの先から火が噴き出す。使い捨て。冒険、家事、戦闘 用途はなんでもござれ。

このカードのおかげで、火起こしが格段に楽となった。その一方で、火事の件数も上がった。

マッチが世に行き渡れば、廃れそうな製品でもある。


・土の魔装カード

カードの端に当てれば、物体の内部構造を調べることができる。

技術者、特に鍛冶屋には必須の道具だ。火の魔装カードより高価だが、何回も使える。

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