Mission 6 レイの修行生活を正せ! ①
<ドットルトギルドにて>
ショウがカースやバナナ装備店の頭領と契約を交わしてから2日後。
ドットルト砂漠では次々と本来ならば生息しえない強き魔物達の姿が報告される最中、レイは早朝、魔物討伐の依頼を掲示板にて探していた。
強い魔物を倒す依頼を受けたいと思うものの、レイはまだギルドに入りたての初心者。
しばらくはドットルト砂漠での廃品回収などをしたり、ドットルト最下級モンスター身長60cmのハニワのような姿をした砂の魔物《砂人形》を倒しながら日銭を稼がなければならない。
だが、レイは抜け道を使い、砂人形よりも強い魔物を相手に修行を積んでいた。
抜け道、とは単純な話で、あえてかつ、不意に魔物に邂逅するだけのことである。
レイは初心者向けの依頼をこなしながら、強い魔物を見つけると隠れることはせず、魔物と対峙する。
一般傭兵から見ればレイの行動は蛮勇そのもの。
しかも一人だ。
ギルドの他の傭兵たちからは、死にたがりの大型初心者がいるぜ、とレイに注目が徐々に集まっており、いつ魔物に食われて死ぬかの賭けが密かに行われていた。
「レイさ~ん、レイさ~ん」
いつもどおりレイは砂人形の討伐依頼に手を伸ばそうとした時、呼ぶ声がした。
振り向くと、受付嬢がたっていた。あののんびりとした褐色肌の娘である。
「レイさん宛に、依頼が届いていますよ~」
「僕に?」
「不思議ですよね~ ここにはレイさんという名前は一人しかいませんから~間違いないとは思うんですけれど」
レイはその依頼書をひとまず受け取る。ロウ付けされた封筒だ
「それ、厳封依頼って言って~、特殊だったり、高難易度の依頼用なんですよ~」
「高難易度ってどのくらいなんだい?」
「魔族とか~ ですかねぇ~」
「魔族……」
「レイさんの階級は魔物討伐なんて許可できないんですが、どうやら~規則上~指名ならばできるみたいなんです~」
レイは高揚感を覚え、ゴクリと唾を飲んだ。
とにもかくにも強くなりたいという欲に支配されたレイの脳内には、死ぬかもしれないというリスクはない。
封を手で切り、中身を確認すると、銀貨2枚と依頼書が入ってあった。
「なんだ、これ……」
依頼書の内容を目にしたレイは眉をひそめる。
内容を知りたいのか、ドットルトの受付嬢は視線や身体を左右に揺らし、そわそわとしていたが、厳封依頼は依頼者か指名者の同意がなければ運営側でも見ることができないきまりだ。
「なあ、聞いていいだろうか」
「いいですよ~」
「これは、それほどまでに難しい依頼なのだろうか」
レイは受付嬢に自分の目にした内容をあっさり見せた。
依頼 武具・防具をバナナ装備店へ銀貨1枚で預けよう。
報酬 銀貨1枚
「はぁ~ ん~?」
受付嬢は驚き、ぽかんと口をあける。
厳封依頼の内容は武具・防具を預けるだけの、子供でもできそうな依頼。
日々の砂人形退治が1体につき銅貨数枚なのだから、難易度の割には破格の報酬である。
「いえ、簡単な依頼だと、思いますよ~」
「そうだよ、ね」
「だ、大丈夫ですよ~ 守秘義務というものが、ありましてですね~ この依頼のことはぜーったいに喋りませんから~」
「なら、断ろうかと思う」
「えっ えぇ~」
彼女の珍しい驚き声に、傭兵達の注目が集まってくる。
ドットルト受付嬢は、開いた口が塞がらないというコトバを見事に再現してみせた。
守秘義務という言葉を思い出したドットルト受付嬢は、レイの胸元を掴みぐっと引き寄せ声を落として喋った。
「こ、断るときは、その場で焼いてくださいね~。今、火の魔装カードを」
「え、いや、あの…」
レイの方が身長は低く、メロンを思わせるドットルト受付嬢の胸がレイの顔に近づく形になる。
「……っ」
女性特有の果実のような香りが鼻をくすぐり、レイは恥ずかしさを覚える。
二人の間にメカバックが、スッ、っと割って入り我に返ったレイは距離を取ると「じ、自分でできるよ」と言い人差し指を立て、炎を発生するべく、集中し始めた。
しかし、先の恥ずかしさが残っているのか全く集中できず、小さな火の粉が指先に噴き出す結果に終わった。
「ど、どうして」
集中ができず、いつもならできていた火属性の基礎中の基礎、<火>ができない。
何度も何度も<火>を試みるも、結果は同じであった。
(何故、いつもできていた魔法がでない?)
ショウはドットルト受付嬢の方を向く。
メカバックが進んで椅子になり、その上にドットルト受付嬢が座り、ぼーっとレイの様子を見ていた。
(まさか、あの女性に魔法を阻害するスキルが?)
魔法をうまく扱えない原因は、ドットルト受付嬢にあるとはわかっていたが、どういう仕組みで集中が阻害されているのか、レイにはわからなかった。
長く箱入り状態を過ごした彼は、女性を知らない。
シルクやガーネットは衣服を着こんでいて身体のラインはわからず、自分と近すぎず遠すぎずの距離を取ってくれていた。
くっきりと身体の凹凸が出ている女性と近くにいるのは初めてだったのであり、集中の糸がぷっつんと切れてしまったのである。
「やっぱり、火の魔装カードを持ってきますね……あれ?」
そんなレイを気に留めず、ドットルト受付嬢が焼却道具を持ってこようとしたとき、依頼書に何かが書いてあるのを見つけた。
「裏に何か書いてありますよ。この依頼、続きがあるようです~」
依頼書の裏を返すと、確かに 追伸 と依頼の続きが書いてあった。
二つ折りにしていたせいで後半の内容を読んでいなかった。
強くなるためには、己の武術魔術だけでなく、装備にも気を使わなければならないぞ。
武具・防具をメンテナンスし、必要ならば買い替えよう。
「強くなる…か…」
刹那、レイの頭にピリッとした痛みが走った。
トラウマを呼び起こすまでのものではないが、似たようなものだと感じる。
「やっぱり、この依頼、受けようと思う」
「そうですね。割が良すぎますもんね~ わかりました」
強くなる。それが今の目的。
一人で完結することなら何でもやる。そう思ったレイは、依頼を受けることにした。
※※※※※※※※※※※※※※
正式に依頼を受けると、バナナ装備店の場所を教えてもらい、書かれた通りに武具・防具の一式を預けた。
明日の朝には修理が終わるようで、機械仕掛けの小盾だけは診る必要がないと返された。
岩と土でできた防禦柵を超え、町から出ようとする。
そのまま魔物討伐に出かけようと、ドットルト砂漠へと向かおうとしていた。
防具は衣服と日射を避けるための、頭から被る大きなマントくらい。レイは装備の無い生身一つで魔物と戦おうとしている。
レイの様子を見れば、そこら辺を散歩する少年に見え、誰も変だとは思わない。
だがただ一人、一個というべきだろうか。
レイの愚を極める意思を感じ取ったモノが、レイの前に立ちふさがった。
機械仕掛けの小盾である。横に振動しており、首を振り「ダメです」と言っているかのようだ。
レイはそれを退けて、なお進もうとする。
メカバックは怒ったのか、カチカチカチと音を鳴らすとくるくると回転し始め、レイの後頭部めがけてフリスビーのように突撃した。
びゅん、と空気を分厚く切り裂く音に反応し、レイは反射的にかがんで回避。ギリギリの回避だ。
盾は鈍器。頭にぶつかれば、意識は簡単に吹き飛ぶ。
「やめろ!」
レイは叫ぶも、その声は届かない。メカバックは回転しながらその場を飛び回り、やる気まんまんのようだった。
「まさか、アイツの指示で?」
自分をパーティーに勧誘したあの地味な男を思い出す。
(自分を不快にしかさせなかったあの男、アイツが操っているというのなら……)
メカバックは自分を助けてくれる唯一の味方であり、無機物故の唯一の友達だ。
しかし、元々の所有者はあの男である。あの男が操っている可能性は十分ある。
(やるしか、無いのか…)
レイは意を決し、メカバックを無力化しようと拳を握り、ファイティングポーズを取った。
メカバックは駆け回り、前方、横、後方を取る。
動きにレイの感覚が追い付かない。今まで自分を守ってくれていた仲間の強さが改めて身に染みる。
両者の力量差は歴然。レイはメカバックの動きに全くついていけず、背後を取られ肩に一打を貰う。
バランスを崩した所に膝裏にもう一打。
レイは幼子のようにあっけなく、すてん、と転んだ。
眩しい光の中、メカバックが空からレイの頭を叩き潰すように勢いよく振ってきた。
(くっ……)
顔を背け、目を瞑る。
時間が経っても、自分の頭に何も問題はない。砂漠の太陽が熱く、眩しいくらいだ。
恐る恐る目を開けると、メカバックが目の前にあった。
寸止めである。
「メカバック…だったっけ」
メカバックは「はい」と言うようにペコリとお辞儀をする。
打たれた肩や膝は全く痛くない。手加減してくれていたのだ。
レイの背中に入り、身体を起こす。
レイが立ち上がると、再びメカバックは浮き、縦横無尽に駆け回った。
何かを伝えようとしているが、メカバックは喋れないので身体で表現するしかない。
一人二役をしている。やる側とやられる側だろうか、一方は攻撃を加えるべくびゅんびゅんを攻撃を空中に繰り出し、反対側はやられた様にゴトリと地面に落ちている。
「僕を鍛えてくれるというのかい?」
伝わったのが嬉しかったのか、機械仕掛けの小盾は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねて縦に何回もお辞儀をした。
「君の、意思で、かい?」
ぴたっと空中で止まり、再びメカバックはお辞儀をする。
(あの男の指示ではなく、この子の意思、か)
レイは再びファイティングポーズを取り、浮遊する機械仕掛けの小盾に向かう。
この日は、機械仕掛けの小盾との戦闘訓練に明け暮れた。
Tips ドットルトギルド受付嬢
喋り、動き、何もかもが遅い娘。愛嬌があるおかげで、周りから許されている。
他にも受付嬢にはいるものの、"とある理由"で語り手は彼女に焦点を当てている。
決して、バストが豊満だから、という訳ではないぞ!(語り手曰く




