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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 5 とにかく協力者を探せ! ②

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

その後、ショウはレイの斥候を頼むに至ったこれまでの経緯をカースに話した。


ミーシャと同じく、レイの素性のことや、ゴルード、シルク、ガーネットのことは伏せている。


カースは聞き終えると、天を仰ぎ。「ダンナの交渉の仕方が悪かったのでしょウ」と指摘した。


「人と話したり、交渉が苦手なのは自分もよくわかっているさ」


とショウは肩を落とす。現に何回かやらかしているからだ。


「なら、こういうのはどうデス? あっしが交渉術のセンセエをしましょウ」


「え?」


「斥候は情報をウリにする職業デス。今はフィールドワークでの観察が流行っていますガ、人から情報を抜き出すコトもシゴトとしてやったりしていますカラ」


願ってもないことだとショウは思った。


「そ、そうなのか!? ならば是非……」


「もちろん、その分のお代はイタダキマスが、ネ」


「そういうことかよ……」とショウは転びかける。


「まあ、あっしはカネが必要なんですヨ。守銭奴というコトバは甘んじて受け入れマス」


「ならなぜ、町の依頼を受けないんだ?」


「ワリに合わないからデスよ。割の良い仕事は香り高いコーヒーに釣られてやってくるというじゃあナイですカ」


「くっ、負けたよ。よろしく頼む」


再び二人は固い握手を交わした。


(さて、次は…)


正式にギルドを通じて仕事をカースに頼み終えた後、ショウはもう一つの目的地へと向かう。


ドットルトの町の鍛冶屋である。鍛冶道具の殆どを回収されてしまった今、亡者の剣をつくる環境を構築するにはドットルトの現地の鍛冶場の助けが必要なのだ。


また、斥候カースに想定以上の報酬を払ってしまったことで、宿代や亡者の剣のパーツ代など、金銭面の問題もあり、今すぐにでも働き、金を稼がなくてはいけない状態なのである。


カースには「バナナ装備店」という町一番の鍛冶場を教えてもらった。鍛冶場だけでなく、武具・防具屋も併設されているという。


そして、失敗しないようにと簡単な交渉のコツなども伝授。


カースは外見の割には優しく、仕事も丁寧だ。


「俺達の鍛冶道具を使わしてくれ、だぁ?」


楕円形縦長のまるでバナナのような顔の形をした若い頭領は、汗に濡れた無精髭を撫でながら苦い表情を浮かべている。


「《砂の城》が去るまででいいんです。お願いします」


ショウは頭を下げた。


「生憎だが、今大量に注文が入っていてね。道具も人も限られているから、一日も空けられないんだ。ドットルトに危機が迫っているの、お前も知っているだろ?」


ドットルト鍛冶屋の若い頭領は疲労を滲ませており、無駄話を今すぐにでも切り上げたいという感じである。


「はい。その事は重々承知しています」


「なら、他を当たってくれや。ドットルトには鍛冶屋はまだある。いくら金を積まれようが仕事場を外部から来たお前に貸すことはできねぇ。これはここの信用に関わることだからな」


だからといって引き下がる訳にはいかなかった。


亡者の剣の製作には、確かな設備、確かな人材が必要不可欠。鍛冶を経験してきたショウならわかる。ここならそれが揃っている。


「そうでしょうね」


「…やけにものわかりが良いな、お前」


冷やかしをしにきたのかと、頭領は微かに青筋を立てた。


もちろんショウは若い頭領を煽っているのではない。カースのときとは違う、


「ですので、俺が払う対価はお金じゃありません」


「はぁ? どういう事だ?」


怖じけず訳のわからない事を話すショウに、頭領はペンチで眉間を挟まれたのかと思わせるくらいに眉をひそめた。


「お前、まさか」


「対価として支払うのは金じゃない。労働力です。俺は長年、武具防具を扱ってきた。みなさんの役にたてるはずです」


場の空気が<拒絶>から変わっていくのをショウは感じた。


ショウがカースから聞いた話では、ここの鍛冶屋は地元では一番繁盛していた鍛冶屋で、今は亡き頭領の父は特に傭兵達から信頼されていたらしく、砂の城撃退のための戦いが起こるといつもパンク寸前の依頼が舞い込んできたという。


繁忙期の今、働き手は喉から手が出るほど欲しいはず。そう見越してショウは亡者の剣を環境の対価に自分の労働力を選んだ。


「魔法剣や魔装具も修理、調整もできる。どうですか?」


話を脇で聞いていた職工たちも「おぉ」と感心の声をあげ始めた。


空気が<歓迎>へと変わり始めている。


魔法剣や魔装具の修理には、魔法の素養と知識が必要。鍛冶師という職はお世辞にも経済力と労働環境は良いとは言えず、魔法について学ぶことなどできなかった。


頭領は腕を組んで「ウゥム…」と唸る。


ショウは好機だとカースの言った通りに追撃を加える。


「今までは、魔法剣や魔装具の魔法回路に関する部分は外注によって多くの時間と利益をぶんどられてきたはずです」


その外注先リストにショウが在籍していたアルマス社も含まれているから笑えない話である。


だが今ショウはアルマス社に退職届を突き付けた。アルマス社の不利益につながることも平気で言える。


「魔法剣や魔装具の修理・調整を請け、僕がいなくなってもできるようにやり方も教えます。これが場所代です。そして……」


ショウは腰から鞘のついたナイフを頭領に渡す。


「これをお宅の武具やで売らせてください。鍛冶の労働力だけでなく、武器そのものも不足しているはずです」


頭領が鞘からナイフを抜くと、綺麗な木目状の模様をした刀身が姿を現した。


「ダマスカス鋼のナイフか」


「正確には違います。本物のダマスカス鋼は製鋼における内部結晶の作用によるものですが、廃棄同然の武具防具を積層鍛造したものです」


この廃棄装備を魅惑的なダマスカスナイフに変える技術は、ショウの遠出の旅を支えてきた技術である。


簡単そうに見えるが、装備品の数々をリサイクルするのは難しい作業だ。鍛造する異種金属によって温度や叩き具合が変わる。間違えれば回収前よりも質の悪い剣の出来上がりだ。


ショウは自身の技術で作ったダマスカスナイフを鍛冶場の裏に併設されている武具・防具屋で売り、収入を得て、少しでも亡者の剣製作に立ち塞がる<経済的な壁>を削ろうと考えたのだ。


「傭兵連中がボロボロにした装備を、ダマスカス鋼に再生する。なるほどな」


頭領はショウの渡したナイフを撫でたり、指で弾いたり、舐めたりして品質を確かめると「随分とできがいい」と褒めた。


「これを安定して作れると?」


「できますとも」


上前(うえまえ)は?」


上前、売り上げのうち、どの程度の手数料を武具・防具屋に支払うかである。


ショウは数秒考えると。頭領に向き直り、息を吸って。


「……任せますよ」


と答えた。


ショウにとって、この言葉を発するのに相当の勇気を必要とした。


数字を愛し、合理的を良しとするショウならば、亡者の剣の開発費、例えば設計書の図面紙やインクなど、や材料費、生活費やカースへの給料などを考え、逆算していき、目標達成のための正確な数字を出す。


しかし、カースは鍛冶師たちの不興を買うだろうと彼らのプライドに賭けることを勧めた。彼らは技術力と信用を第一に考えるから、不当に低いマージンは取らないだろうとショウを説得し、ショウは従った。


自分と考えと違う言動を後押ししたのは、レイの拒絶とミーシャ、カースとの話を通して自分が交渉下手だと自覚できたこと。


そして、言われたことをきちんとやることを、他でもない自分自身がレイに言ったことであった。


「よしわかった。上前はゼロでいい」


「えっ 本当ですか?」


賭けに勝った。それも、想定以上の利益を引っ提げてだ。


「ただし、俺たちの足を引っ張るなら、すぐに出て行ってもらう。容赦はしない」


「勿論」


ショウははっきりとした声で返すと、頭領と固い握手を交わした。


今日で交わした握手の数は三つ。


どれも自分にとって良い方向へと傾く握手だ。


肌寒い砂漠夜を歩く帰り道の中、安堵の息を吐くとともに、交渉術のイロハを教えてくれたカースと、協力してくれるバナナ装備店に感謝した。



Tips バナナ装備店

武具、防具、馬具を扱う装備店。ドットルトの中で一番設備が揃っており、抱える鍛冶師の数も多い。

頭領の顔が細長く反っており、バナナのような形をしていることから、バナナ装備店という名前がついた。

先代も、先々代もバナナのような顔をしている。バナナ顔の遺伝子がとても濃いようだ。

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