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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 5 とにかく協力者を探せ! ①

<ドットルトの町 ギルドにて>


ショウがドットルトギルドに入ると、注目を受けた。


初心者を指名するというモノ好きな客がいると噂が広まっていたのだろうか、それとも勘違いかはわからなかったが、ショウはいくつもの視線を感じた。


ショウはその視線を気に留めない素振りをし、ドットルト受付嬢に話しかける。


「人を雇いたいのですが」


「人を、ですか~?」


受け答えしてくれたのは、前にレイを探してくれたのんびり受付嬢である。


時刻は夕刻、考えている内に時間が過ぎてしまったようだ。


仕事を終えた傭兵たちが、魔物の一部分を片手に成果を報告し、貰った報酬でギルド備え付けの酒場で酒盛りを始めている。


見渡すとレイの姿は勿論なく、好都合だとショウは思った。


自分のメンタルが人並み、またはそれ以下であることは自分でもよくわかっている。合理的にと心がけていても、すぐに感情に流されてしまうのだ。


またレイに会えば、あの霞んだ碧い瞳に、メンタルを崩される恐れがある。


斥候(スカウト)が得意な人を。等級は問いません、とりあえず今すぐ依頼が可能な人のリストを見せて欲しいのですが」


「か、かしこまりました~」


ショウが早口で急いでいるようだったので、ドットルト受付嬢は慌ててミスターシャギルドよりも分厚い書物を広げ、依頼に適した人をリストアップする。


遅い。ショウは机の下で桃を手でパンパンと叩く。


彼女からすれば、できるかぎり急いでいるのだろうが、客観的に見れば遅い。


ショウは彼女の邪魔をしないよう、文句を言うのを耐え、じっと待った。


「う~ん、ほとんどの人が、他の方と契約を結ばれていますぅ」


メモに書かれた斥候(スカウト)の名前の横には×印が多く書かれていた


「もしかして、あれですか?」


ショウは砂の城についての掲示新聞を指差した。


「はい、今殆どの斥候(スカウト)は~ 町長直々の依頼で~ 砂の城の状況把握に~ 駆り出されています」


(うーん、困った)


また出鼻を挫かれてしまった。どうやら斥候は今繁忙期らしい。


なら別の方法を探そうかと、その場で別の案を考え始める。


(ん?殆どって事は…)


「殆どって事は、0ではないのですか?」


「はい、いるには~ いるのですが~」


含蓄のあるドットルト受付嬢の物言いに、ショウは何か問題があるのかと考える。


「経験が無くてもいい。とにかく斥候(スカウト)のスキルがある人なら誰でもいいから紹介してほしいです」


「いえいえ~、斥候(スカウト)としての依頼は何件もこなしているので~経験については問題ないはずです~ ですが少々、その~、尖ったお方でして~」


「尖った?」


ドットルトの受付嬢が席に一人座る“尖ったお方”指を指した。


「え、あっ あの方?」


「はい、名前はカース・マラカスと、言います~」


ショウは目を疑った。白い肌に、尖った髪が特徴の男性。受付嬢が言う“尖ったお方”とは、町直々の依頼を断り椅子でのんびりコーヒーを飲んでいる内面的な尖りだけではなく、外見的な尖りも含まれていたのだ。


黒い衣服に身を包んだ姿は一瞬影の者を連想させるが、皮の材質特有の光を放っており、所々に銀の装飾品が施され無駄に目立っている。


黒と銀で存在感を放っているそのカースという男性からは、とても諜報や偵察を得意とする男とは思えないという感想をショウは持った。


「あ、あのいかにも、ビジュアル系の人が? カース?」


「はい、そうですよ」


「ここ、砂漠町、ですよね?」


「はい。そうですよ~ 間違いないです」


ドットルトの受付嬢はいかにも自信ありげな様子で頷き、同時に豊満な胸が揺れる。


ショウはその揺れに目を反らしながらも、ここは地人元の言葉を信じるかと恐る恐るショウはカースの座るテーブルに近づいた。


「あんさん、さっきからあっしの事をみていましたけれど、何かようですかイ?」


用ありげな気配を感じ取ったのか、先に声をかけてきて来たのはカースという男だった。


「あ、はい」


「敬語を使われるほどあっしは大層な身分ではない、まぁ 座ってくんなセ」


滑稽さを匂わせた低い声だ。その抑揚あるしゃべり方は"変わり者"という印象を更に強くしていく。ショウはカースのいるテーブルに座り、自分の名前を名乗った。


「あっしは、カースと言いまス。口調が少し変なのは、まあ出身が違うという事で見逃してくだせエ。見たところ、仕事を依頼しに来たクチですかイ?」


「うん。そのつもりだ。す、斥候(スカウト)にしては、ちょっと派手じゃないかな」


細く長身な身体で、足が椅子に収まりきらないくらいに長い。長く日を浴びていないかのような白い肌に細長くつった目と高い鼻を持つ逆三角形の顔立ちと、耳のピアスを始めとした様々な所に銀の装飾品。どう頑張っても音が鳴って尾行などできなさそうだ。


「そりゃ今は一仕事終えたオフの日でね、これは普段着なんでサ」


こんな派手な普段着があるか、とショウ心の中でツッコミを入れる。


ただ、目立つ彼の姿に他の誰もが気にも止めていない様子をみると、慣れるほどに見飽きているのだろうと、本当に普段着のように思えてくる。


(どうするか、この男を斥候(スカウト)として雇うべきか)


斥候(スカウト)は気づかれてはいけない。ショウは雇うならなるべく地味な男の方が良いと思っていた。しかし、今すぐに雇えるのはこの男だけだ。


「ショウさん、でしたっけ。アンタ」


「何故、俺の名前を?」


ショウは驚いた。


「ウワサになってマシタから。新人を指名で雇おうとする、男色家がやってきたと」


「え……」


ギルドに入ったとき感じた視線はそれかと納得するも、とんでもないウワサが流れていることに、ショウの胃はキリリと痛む。


「まあ今ブームですかラ。さて、ショウさん。あっしが本当に物見できるか疑っています、ネ」


ショウの考えを見透かすようにカースは言った。


「しょ、正直な話、な」


カースは高笑いをあげる。


「はっはっは、正直なお方だ。いいでしょう。では少しゲームをしましょウ」


「ゲーム?」


「はい。ショウさんは一回このギルドから出て、5秒経った後に入って私の姿を探す。それだけです。あっしは隠れません。そこら辺の連中と一緒にたたずんでますんデ」


(カースと言う男、自身の能力に相当自信があるらしい)


彼の斥候(スカウト)としての能力を疑っていたショウは、彼の能力を知るチャンスだと快く承諾し、ギルドを出る。


そして、ギルドを出て5秒くらい経った後に再び入り直した時、既にカースの姿はなかった。


たったの5秒で気配が消えた事に動揺の色を示したが、思考と感覚を総動員させ、ギルドの傭兵達の間を通り抜け、カースを探し始める。


(耳だ、耳に注目しよう)


変装しても耳だけは変わらない。出ていく直前、ショウはカースの耳の形をきちんと頭の中に刻み込んでいた。


怪しいのはカースと同じ耳をしている者か、耳を隠している人。


ショウは一人一人の耳の形を確認していく。だが、戦士も兜を取り、皆上着を脱いでいるので耳を隠している者はあまりいない。


隠れはしない、なら変装して近くにいるはずなのだ。


何かの視線を感じた、振り向けば銀に輝く兜を被った純戦士がいる。


(よし、見つけた! その一瞬の視線、見逃さなかったぜ)


自分に視線を向け、耳を隠す人物。あれがカースだ、とショウはスタスタと純戦士に近づきと思い兜を取る。


「あっ」


「にゃっ?」


外れであった。カースのものとは違う大きな福耳をした獣娘が困惑の眼差しを向けている。流れる二人の沈黙、とても気まずい。


ショウはしまったという顔で「すいません」と言い残し、その場を離れていった。


(ダメだ、全然わからない)


ドットルトのギルドは広くない。何度も何度も建物内をめぐってもカースらしき人はいなかった。刻んだ記憶が違ったのだろうかと、既に敗北感が頭をよぎる。


「ね、見つけられないで、ショ」


背後から聞いたことのある低い声に、ショウは驚いて振り向いた


何一つアクセサリーの無い普段着を身に纏い、髪を下ろした黒髪の男性が顔をあげる。


「カース…なのか?」


「ええ、そうですゼ」


声を出さなければわからなかった。


さっきまではすぐにもハスキーな声を出しそうなメタル系の男であったのが、今ではカーキ色のマントを羽織った、顔色の良い細身長身の好青年なのである。


髪を降ろしただけでこんなにもイメージが変わるのかと、ショウは驚き、同時にショウが追い求めていた耳の形に気が付く。


「…つけ耳か」


「おお、鋭いですねアンタ。変装を見破る基本を知っておられる」


カースは自分の耳をつまみ、引っこ抜いた。暫く凝視しなければ見分けがつかない本物のような耳である。


「こんな所ですかね。一瞬だったのでこの程度の出来ですが、時間があれば女装も可能ですぜ」


ショウの完敗であった。


(この程度、ですら全く気がつかなかった。やはり付け焼き刃程度じゃ、プロに叶う訳がないか)


実力は確かである。これなら、彼にレイの偵察を任せても良いだろう。


「疑って悪かった。ぜひ、カースに斥候の仕事を任せたい」


「お受けいたしまショウ…どれどれ…」


薄笑いを浮かべカースは、両手の長く尖った爪で差し出された仕事内容や報酬が書かれた紙をつまみあげ、顔前に持ってくると、眼では無く紙を動かして読み始める。


「ほう、要するにこの恋焦がれるの動向を一日中探ればいいってことですかい」


「ストーカーみたいなことを言うな。俺はストレートだ」


「はぇー これは失礼」


カースは後頭部を掻いてニタニタ笑う。


「こいつの特徴は一言で言えば正義感の塊、悪く言えば命知らずだ。もしそいつが何か危険な事に首を突っ込もうとしたら影から全力で止めて欲しい」


「影から全力で、なかなか難しい事をいいますね。一日中ですかい?」


カースは片手に持ちなおした依頼書を軽く指で叩く。


「ああ」


「なら、相場の3倍はいただきましょうかネ」


「具体的には?」


カースはポケットから取り出した黒インクを取り出し、尖った爪の先を浸すと、依頼書に数字を書いた。


「どうしますか?」


「……1分、時間をくれ」


ショウは腕を組み視線を机に落とし微動だにせず、考え込む。


ショウの頭の中でリスクとリターンの天秤が振動を始める。


高額であるが払えない数字ではない。しかし、払えばミーシャに仕事を頼む分は確実に無くなる。さらに言えば、この男が本当に仕事をこなしてくれる保証もなかった。


この二つがリスク。


ならばリターンはどうだろう。


レイを危険から守ることや動向を探る必要がなくなり、亡者の剣の制作に集中できる。


彼の斥候としての実力を保証できるのは、受付嬢の言葉を、彼の相場の三倍を要求する自信と、今見た自身の目。


考えに考えると、ショウはため息をついた。


リスクとリターン、どちらの天秤の皿も上に振り切るときもあれば、下に振り切るときもあるのだ。


ああ、この世に白黒はっきりしたものはやはりないと、彼は憂いを抱いた。


しかし、決断は下さねばなるまい。


時間は1分と定めてしまったのだ。


「よし」


ショウは視線を上げた。


「その額は成功報酬ということにしてくれ。残念ながらそれほどの額は持ち合わせていない。期限は砂の城とドットルトとの決着がつくまでの約一か月。着手金はこれでどうだ」


と、金貨袋を机の上に置いた。机から溢れるほどの長い足を組んで待っていたカースはニタニタを笑い始めた。


「くっくっく。それは悪手じゃないですか。あっしを疑っていると言っているようなものです」


「俺は小さい男さ。人を全面的に信用できるほどの太い胆は持っていないよ」


と、ショウは歯をちらりと見せ笑った。


カースは、彼から自信の無さと意思の強さという相反するモノを感じ、面白いと興味を持った。


「まあ、いいでしょう。あっしも意地悪が過ぎた。これはホケンということで受け取っておきますゼ。


「ありがとう、これからよろしく頼む」


ショウの差し出した手を、カースは握る。カースの掌は柔らかそうな白さに反して、これまでの苦労を物語るかのように固かった。


Tips 斥候

純戦士に分類される職。ドットルト砂漠では<砂の城>という超大型魔物の監視のため、多くの働き口がある。

保有魔力が少なく、感知されにくい者に適性がある。

氷属性魔法の適性があると、暑さや寒さに対する耐性がスキルとして付与されるので、斥候にはもってこいだ。

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