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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 4 ミーシャを仲間に引き込め!②

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

そんな時、ドットルト宿主のおばちゃんが、何やら木製の筒状装置を背負ってやってきた。


「部屋の掃除はいかが? 今ならまけておくよ」


ルームサービスの営業だ。ドアをきちんと閉めておらず、ひとりでに空いていたようだ。


「お願いするわ」


「ここお前の部屋じゃねーだろ!」


ミーシャの快諾に、ショウはすかさずツッコミを入れた。


「ありがとうね、オバちゃん掃除が趣味だから」


(金を取るじゃないか…とショウは心の中でジト目を向けた)


「あれ、おかしいわ」


宿主のおばちゃんが細長い筒上の形をした魔装具、掃除機に魔力を込めるも動かない。


掃除機は風属性の魔装具である。魔力を込めると、筒上の先から空気が吸引されて、吸い込まれたゴミは通気性のあるフィルターで受け止められゴミを集めるという仕組みだ。


「ちょっと貸して」


ミーシャが掃除機を受け取り、左手で持ち上げる。


すると、もう片方の手袋の指先から白い糸が5本、それぞれの糸がまるで意思を持っているかのように空中を揺らめき、掃除機の中に入り込んだ。


その様子をショウと宿主のおばちゃんは目を丸くして眺めている。


「魔生糸が切れているわね、これならすぐ直せるわよ」


しばらく指を器用に動かし糸を操作した後「おしまい」と糸を戻し、掃除機を宿主のおばちゃんに返す。


おばちゃんは呆気に取られた様子でミーシャに言われるがまま魔力を込めると、空気がフィルターに擦れる音と共に、掃除機が動き出した。


「あらぁ!治っているわ。ありがとう。直してくれたお礼に掃除代は取らないわよ」


感心と驚嘆の混じる声で感謝するドットルト宿主に対し、ミーシャは朝飯前ですからと言わんばかりに「どういたしまして」と言った。


(分解もせずに、魔装具の修理を?)


通常、魔装具が壊れた時は留め具をレンチで外し、ピンセットなどの工具を用いて故障の原因となった個所の修理を行う。


時間と精神力が割かれる作業で、ショウもかつてものの数日で魔法剣を壊すレイに頭を悩ませていた。


その魔装具を簡易タイプとはいえ、糸が出る手袋をはめて糸を動かし、糸先の感触だけで魔生糸の損傷を見つけ、そのまま直して見せた。


その間ものの十秒、修理時間は数秒程度である。


革新的な技術を目の当たりにしたショウは感動を極め、レイに拒絶された時の絶望感すら忘れていた。


「ミーシャ、それは…」


宿主のおばちゃんがショウの部屋を後にした後、ショウは尋ねた。


「言ってなかったっけ。私の保有技術、三次元魔装回路製作技術よ」


<三次元魔装回路製作技術(さんじげんまそうかいろせいさくぎじゅつ)>


ミーシャの説明によれば、その技術は魔装具製作の常識を次々と打ち破るものであった。


魔生糸を操り、空間的に魔装具回路を製作する技術。普通に回路を組むよりも短時間で行え、工具がぶつかって組めない回路も作成出来る。通す穴さえあれば分解する必要がないのも特徴だ。


「扱える糸は10本、オマケ使う糸は耐熱コーティングされた試作魔生糸よ。しかも、普通の魔生糸より硬いから柔らかいものなら掘れるわ。私にしか持ち得ない、私だけの技術よ」


ミーシャは手袋の人差し指から白い糸を出した。コーティングの影響か、うっすらと銀色に輝いているように見える。


「知らなかったな……ミーシャがそんなすごい技術を持っていたとは」


「思えば習得したのは3年も前になるけれど、言ったことはなかったわね。ショウが久しぶりにミスターシャに帰ってきても、ショウの旅話しかしなかったし」


それもそうだな、とショウは頷く。


刹那


ショウの頭の中で一閃、電撃のようなものが走った。


(あれ、もしかしたら……)


その電流が頭の中の様々な経験や知識をつなげていき、一つのアイデアとなっていく。


(も、も、も、ももしかしたら、亡者の剣を作れるかもしれない)


頭の中で花火がはじけたような興奮を感じ、脳内の自分がどもっている。


亡者の剣をレイが取れば、ゴルード、シルク、ガーネットの御霊が守護霊となって心に宿り、レイは三人の能力を引き継ぐ事で、器用貧乏から全能へと変貌を遂げる事ができる。


ショウがいなくても、一人でもやっていけるようになる。


それだけではない。亡者の剣は呪いのアイテムであり、三人の思いや心の一部がレイの心の中に残り続ける。レイは一人ではなくなるのだ。


(亡者の剣を製作し、渡す。これが俺に出来るレイに嫌がられる事なく、レイの役に立てる唯一の方法)


ミーシャの技術があれば、自分ではどうする事もできなかった壁を突破する事ができるかもしれない。


ショウの頭の中が回り始め、脳内で行われる議論も活発化を極めている。


道が見えたのだから、あとはそこに向かって走り出すだけ。


もうくよくよしていたショウの姿は無い。


サポート方法、亡者の剣の製作方法と起こりうるであろう問題点。


長く果てしないパズルをつくりあげるため、適当なピースを設計し、造る。


(なんだ、しっかり考えればできる事はたくさんあるじゃないか)


泥濘上の馬車が動かないのと同じように、思考も精神に歪みがあるならばうまく回らない。


「ミーシャ、これを見てくれないか?」


ショウは、ドーラスの残した亡者の剣の設計図を見せた。


「何これ、古代文字じゃない……」


「文字の下に約をかいてある。これはドーラスの残した魔法剣の設計書だ」


「ドーラスの魔法剣の? いったいこれをどこで?」


ミーシャは目を丸くして驚いた。同じ魔装具技術者なら、ドーラスという名前を知らない訳がないのだ。


「ある人にレイに作ってやって欲しいと頼まれたんだ」


ミーシャはじっと回路図を見る。自然と指が動いており、興味が出ているようだ。


「私は回路製作専門だから、魔装回路理論を深くは知らないんだけれど、これ、古い設計書でしょ。作れるの?」


「いや、作れない。だから再設計が必要になる。性能は維持しつつ、なるべくアルマス社が量産しているパーツを使うんだ。俺でなくても修理できるように」


「ふ~ん ショウらしい設計ね」


「そこでだ、ミーシャ。頼みがある。俺に力を貸してくれ。この魔装回路部分は複雑すぎて、改造する事ができず、設計通りに組むことになる。これは、空間配置の誤差も許されない、三次元魔装回路製作技術にしか作れない回路だ」


ショウは頭を下げてミーシャに頼み込んだ。


ミーシャの技術と糸があれば、亡者の剣の技術的な壁の一つである、刀身内部に回路を埋め込むという工程が可能になる。


今ミーシャが来てくれた事は奇跡だ。今ならミーシャは女神にすら見える。


「え、いやよ」


「は?」


くみ上げていた脳内パズルがミーシャにひっくり返されたような気がした。


彼女は、いやこの女神は、怠惰を司っていたのである。

Tips ショウ・アキミネ(21)

ポケットが多くついた厚手の紺色の衣服を着た青年。本作の主人公。


彼は対人関係のトラブルを嫌う。ショウ曰く、割に合わないとのこと。

それ故、なるべく裏工作などでトラブルを解決しようとしてしまい、周囲の反感を買ってしまう時がある。

また、経験不足故に、人と交渉しなくてはいけない時には、ミスを犯してしまうときもある。

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