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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 3 レイとともに行動せよ! ②

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Twitter @Imori_Saito

<ドットルト砂漠 ギルドにて>


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。ポリュグラスとの戦闘傷で風貌が変わったかと顔を触るも、顔の傷はひどくはないはずだ。


「いや、俺だよ、ショウ、内勤の技術師として働いていた」


「ショウ…?」


レイは首をかしげる、ようやくショウも思考が回り始め、異変に気づいた。


姿形こそはレイであるものの、ミスターシャの森で見せたような明るさはなく、サファイアのような碧い目も輝きを失っているように見える。


「君はレイ、レイーシャ・ミスターシャだよな?」


レイはミスターシャという言葉に反応し、顔をしかめると、ショウの手を引くと建物の外へ出た。


「その名前、なんで君が知っているの? 大きな声で言わないでくれるかな」


「あ、ああ、すまない」


不快感を露にするレイに、ショウははっとした。


「申し訳ないけれど、僕は君の事は知らない」


「本当、なのか?」


「うん……」


レイは冗談を言っているように見えなかった。


どうしたものかと考えていると、レイのカーキ色のマントがもぞもぞと動き。ゴトリと音がした後、ぴょんと円盤がショウの胸へと飛び込んできた。


「こ、こら」


「メカバック。元気にしていたか」


ころころとショウの身体を嬉しそうに転がる機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)


「メカバックって言うんだ、それ」


「ああ」


謎の浮遊盾にドットルトの民の視線が集まる。ショウはレイのマントを引っ張る。


「な、なんだい」


「なあ、レイ。あの時の事を覚えているか?ゴルード、シルク、ガーネット。その五人で修行していただろう? ミスターシャの森でさ」


周りに聞こえぬよう、声量を落として言った。


「森?…っ」


突然膝を崩したレイは頭を抑えた。呼吸や鼓動が荒くなっていく。


「す、すまない」


「あ、ああ、大丈夫だ もう頭痛は収まった…」


レイはゆっくりと顔を上げ、深呼吸をした。顔色が青く、汗が流れている。


(ポリュグラスとの戦闘の最後は爆発だった。メカバックによって守られたけど、衝撃で記憶が吹き飛んでしまったのだろうか?)


ショウの推測を補強するように、機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)の塗装が剥げている。


(記憶があろうとなかろうと、俺のやる事は一つだ。ガーネット達の思いを胸に、俺はレイのサポートを続ける)


レイの目を見据え、ショウは改めて真剣な表情を向けた。


「レイ、俺を傭兵のパーティーに加えてくれ。掃除・洗濯・料理・鍛冶・戦闘なんでもこなせる。金はいらない、だから…」


「ショウさん」


はっきりとした、かつ圧力のある声でレイはショウを制する。


ミスターシャの森で会ったレイとは考えらえない声だ。


「申し訳ないけど、僕は誰も仲間にするつもりはない」


「……?」


ショウは言葉を失った。仲間を作らずに戦うなど、自殺にも等しいほど無謀で、蛮勇だ。


「一人で魔物を倒すなんて、それは無理だ。今は対処できるかもしれないが、必ず一人じゃ限界がやってくる」


「そう、だろうね」


自嘲気味にレイは言った。


(いったいどういう事つもりなんだ?)


「もう、自分の都合で誰かを犠牲にできないんだ」


「レイのことはよく知っている。君の素性や、過酷な試練が待っていることも。それでも俺はレイの役に立ちたいんだ。俺は技術者だけど戦闘経験もある。逃げ足は一級品だ」


ショウの言葉がだんだんと早くなっていく。額から汗が墜ちる。


「君がどんなに優秀でもつれてはいけない。これは僕の問題なんだ。これが必要なら君に返す」


すべてを吸い込むよう黒く霞んだ碧い目から明らかな拒絶の意思が伝わり、ショウはある種の恐怖を覚える。


「じゃあね」と、レイは機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)をショウに押し付けるように返し、またドットルトのギルドの建物の中に入っていく。


すべてのものを打ち砕く鉄槌が振り下ろされる感覚がし、自分を支えていたものがバラバラと消えていく。


建物の前では、呆然と立ち尽くすショウと腕の中で心配する様子でもごもごと動いている機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)の姿があった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


レイと別れたショウは宿の部屋で、絶望感に支配されていた。


(何で俺はゴルード達の事をレイに話したんだ。少し考えればわかる事じゃないか)


レイが記憶を失ったのは爆発の影響だけではない。


ゴルード、シルク、ガーネットというかけがえのない仲間を失った精神的ショックもある。ショウはそう考え、失念を自責した。


記憶を失っているから、今まで積み上げた信頼や友情はリセット。トラウマを引き起こせば、不快感を持たれるのは必至。


ショウは自分のやりがいであったものを、自分で壊したと思い。床に座り、何度もベッドに拳を打ち付けた。


何度も、何度も叩く。膝の痛みで精神的な苦痛が和らいだ気もするが、負の感情が氾濫した川のようにどっと押し寄せ、飲み込んでいく。


ゴルード、シルク、ガーネットという後ろ楯を失い三人の遺産を手に、レイを守れるのは俺しかいないと、自分の上司であり、恩人であるポトフと喧嘩してまでここへきた。


だが、レイは記憶を失いショウを拒絶した。


亡者の剣も製作できる気配も無く、これでは目的を達成する事はできない。


(俺は何も変わっちゃいない。人より身体が頑丈だからと自惚れていただけだったんだ……。今も、昔も)

困惑、悲しみ、脱力感、様々な感情が脳という鍋の中を巡りおぞましいスープができあがる。


何よりもショウを蝕んでいたのは、無力感であった。


もっとうまい話術があれば、レイとまた一緒に冒険ができた。


自分に技術力があれば、亡者の剣をレイに託すこともできた。


そんな負の感情が時間と共に煮詰まり、更に増幅していく。


暴れても呻いても消える気がしない。


ついには考える事を拒絶し、無力感に苛まれて、姿勢を倒し仰向けになり天井を見つめるだけになった。

漆の塗られた焦げ茶色の木製の天井、その滑らかな曲線を描く模様に引き込まれそうになる。


そして、ショウはゆっくりと目を閉じた。




―コンコン

ドアを叩く音が聞こえる。


窓の隙間から朝の光が差し込み、自分は眠っていたと身体を起こそうとするも、だるさで起き上がれない。


気分は最悪。(今はそんな精神状態じゃない)とショウは再び目を閉じる。


―ゴンゴン!


誰かが強くドアを叩いている。


(全く、何なんだいったい)


ため息をついて、重い身体を起こす。もし大した事じゃなかったらそのまま閉めてやろうかと、ドアのノブに手をかける。


「はい、どちら様」


負の感情を無理矢理押し込め、ひび割れそうな笑顔でドアを開ける。


「久しぶりね」


と、扉の前にいた少女はマントのフードを取り、くせ毛のある肩までの長さのある、きれいで整った青色をした髪が露わになる。


「ミーシャ?」


そこには見知った顔の少女が立っていた。


Tips レイ・ミスターシャ

疎まれし、ミスターシャ王国の王弟。

ミスターシャの森にいた時無垢で活発な、悪く言えば世間知らずの少年であったが、四魔神ポリュグラスに大切な仲間を殺され、ショックで記憶喪失。その風貌、性格はがらっとかわってしまった。

特筆すべきは、瞳だ。ミスターシャの森にいた時はサファイヤのように碧く輝いていた瞳が、ドットルトでは霞んでおり、生気が宿っていない。

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