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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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1.圧迫面接③

ショウの家はミスターシャの街の中心から少し離れた静かなところにある。


木造住宅の小さな家で、家具と言えば本棚とベッド、それ以外は鍛冶道具や魔装具用工具くらいしかないが量が多いので居住スペースは狭い。


ショウは遠方赴任(えんぽうふにん)が多く、家を倉庫として扱っている。ほこりも溜まり放題だ。


(ポトフよ、とんでもない仕事を投げつけやがって)


ショウは人間関係のイザコザを苦手としている。

技術職に身を置いたのも、なるべく人と関わらないようにできるからという理由からだ。

だが、内勤技術者というコミュニケーション能力が必要な仕事を割り当てられ、しかも顧客の第一印象は最悪で、ハードルは高い。


ポトフの(わら)人形を作ってやろうかとショウは思うほどに、この仕事を投げたポトフを恨んでいた。とはいっても、ポトフはショウの恩人でもあるので、冗談の域を出ない恨みではあった。


(この仕事、どうも胡散(うさん)臭い……)


準備をしながら、ショウはあの4人について考える。


まず四人の姿を見てまず疑問に思ったのは、四人は自分たちの事を傭兵と言いながら、傭兵ギルド所属を証明する金属プレートをどこにも下げていなかったことだ。


トラブルを避けるため、傭兵ギルド所属者は必ずその国の紋章が刻まれたプレート下げる事になっている。


それが無いという事は、あの4人はどこの傭兵ギルドにも所属していないという事になる。


(確かゴルード、って人は。レイを育てるのが当面の目標だって行っていたな。だとすればその間傭兵の仕事をしないからつけていないって事か? いやでも、育てるって事は、魔物討伐をするって事だよな。だとすれば仕事として引き受ければお金も貰えるしメリットだらけなのに……)


傭兵という職は不安定な職で、その日暮らしの傭兵も多い。魔物を討伐して、そのままにしておくのは、祈り手がお布施を貰わず祈祷をするに等しい。


(となると…彼らはお金には困っていないのか。なら、彼らは何者なんだ?……)


ショウはもう一つの疑問点、レイのパーティーの素性について思考を移した。


リーダーであり、雇い主であるレイ。リーダーでありながら戦闘経験は一切ないというモノホンの初心者である。


太陽のような輝かしい金髪と、サファイアを連想させる碧目、そしてその生き生きとした幼げな表情からは、まるで天使が興味本意で現世に舞い降りて何故か傭兵を始めましたかのように思えるほど無垢だ。


その一方で残る三人は、武具防具の傷跡や、身に着けているものの素材、形から相当な実力者であるとわかる。


仕事で多くの傭兵達とふれ合ってきたショウならばこそわかる、経験によって培われた勘だ。


一番年上であるゴルードの武具や防具の傷からは、彼の魔物との激しい戦いとその勝利が頭に思い起こされ、シルクの胸元に下げてある金の十字架からはまるで秩序神コスモスそのものが存在しているよう。


あの金の十字架を下げる程の身ならば、望むならいつでも司教になれるのだ。


そして、ガーネットの身に纏う装束はどんな鈍感な素人が見ても一級品、少し知っている者が見れば最上級品だとわかる代物。

彼女の魔導師としての実力も、それに比肩するだろう。

未だお目にかかっていないガーネットの魔力球は一体どれ程の一品なのだろうかと、ショウの技術者としての血が騒いでいる。


そんな三人が、何故あのレイに敬語を使い、付き従っているのか不思議でならなかった。


実は、この依頼をショウに投げた上司ポトフも、依頼主について一切わからないという状態である。


ある日ポトフの元に届けられた一通の依頼書。書かれているのは「優秀な内勤技術者が欲しい」という旨の依頼書と、待ち合わせの場所と日時が記されただけ、依頼主の名前が全く書かれていない。


初めは何かの悪戯だろうと思っていたが、その依頼書には最新のミスターシャの印章が押されている上に、前金として多額の金銭が付けられていた。


ポトフはミスターシャ王宮内のコネとパイプを生かして、この依頼を出した人物を探ったが結局はわからず仕舞い。


悩んだ末、最も信頼できるショウにこの仕事をまかせつつ、その依頼主の素性を探らせようとしたのだ。


(ポトフの情報網、顔と性格をメモすればすぐに正体がつかめるだろう。あらかた外国の貴族か王族だろうさ。たとえそれを知った所で、どうもしようとは思わない。ただ、真面目に仕事をするだけ。試用期間の二週間を過ぎればおそらく解雇されるだろう。それでいい。何もしなくても、面倒事は重荷を下げてやってきて、影法師のようにまとわりつくものなのだから、予めわかっている面倒事には、首を突っ込まないのが吉さ)


準備を済ませ、ショウは明日に備え眠りについた。


※※※※※


「あの男、なんか気にくわないのよね」


ショウが宿を出てからしばらくして、ガーネットはショウの分であった料理をモグモグと食べながら言った。


魔導師は膨大なエネルギーを消費する性質上、大食いである。


「ガーネット嬢、彼の様子はどうでしたか?」


ガーネットの口の中にあるものを飲み込んだタイミングを見計らって、シルクが彼女に尋ねた。


「まず渦巻いていたのは緊張。これは初対面だし仕方ないわね。そして、()()ね。おそらくレイの事を疑っているわね」


魔法を深くより習熟した者は、他人の感情を身体から湧き、渦巻く魔力から読み取れるようになるのだ。


「そもそも何で国と繋がりの深いアルマス社の技術者がくる訳?」


「依頼書にはアルマス社の人間は外しておくように伝えておくようにしたのですが……手違いが起こったようですね」


「でも、ショウは悪い人じゃなさそうだし、疑念って事は僕たちの事はまだ知らないんでしょう?」


レイが聞いた。


「それだとしても、目付け役の可能性は十分にあります」


「どうしましょう、彼には希望に沿わなかったと伝えておきましょうか?」


「そうね…」とガーネットは首をかしげる。


「いや、そうも言ってられないだろう」


ゴルードが割って入った。


「向こうにレイの存在がバレる前に、一刻も早くレイを一人前の戦士に鍛え上げなくてはならないんだ。ここで足踏みしてはいけない。俺がショウの窓口を担おう。一番ショウの世話になるだろうしな」


この日は、新月であった。


Tips 純戦士

純戦士は傭兵の中で大部分の割合を占める。祈祷術も魔術も扱えないものがこのカテゴリに分類されるからだ。

純戦士は剣、盾、槍、弓にさらにカテゴリ分けされており、それぞれ得意不得意の間合いがある。


最近は魔装具のおかげで、簡単な魔法なら自身の生命エネルギーだけで扱えるようになった。

もっとも、魔装具はお金がかかり、扱える魔法も小規模なので、純戦士の間では使われていない。

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