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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
2章 亡者の剣を製作せよ
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Mission 1 魔鋼をゲットせよ!

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

<ミスターシャの街 ショウの自宅にて>


ポトフに辞表を提出してから、ショウは自分の家で傷を癒すことに事に努め、安静に過ごした。


3日が過ぎた時、ようやく痛みが消え、動けるようになった。


(思ったより傷の治りが早い……これは、一体)


ヒリヒリとした肌の痛みが消えたと思い包帯を外すと、皮膚の傷が治りかけている。


よく効く高級軟膏を塗りたくったとはいえ、一週間程度で治るような傷ではないのでは、とショウはこれまでの怪我の経験を思い出し、疑問を浮かべる。


安静に過ごしながら、傷の治りが早い原因をゆっくりと考えていると、ふとシルク・ベルクのチートとも言える祈祷術<神より授かれし癒し>を思い出した。


骸骨の洞窟で彼女の治癒スキルの効果の凄まじさは身体で感じている。彼女の祈祷術の残り香りが、ショウの身体に残っていたのかもしれない。


これはあくまで推論、仮定である。ショウは医療や祈祷術に詳しくはない。


身体は治っているのは事実。これ以上考える事は出来ないと判断し、区切りをつけた。


ショウは杖を支えに、よっこらしょ、とベッドから起き上がる。


レイと合流し、また内勤技術者として活動する。


それが、今のショウの腹の底で燃える炎の燃料だ。


世間では行方不明になってしまったレイであったが、ショウにはレイの行く先にはドットルト砂漠である事がわかっている。


というのも、ショウはレイとともに行動しているはずの機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)の場所がわかるからだ。


機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)には、ショウの髪の毛が魔装回路の一部として埋め込まれている。通常回路に使われる特別な蚕から作られた魔生糸よりも魔力抵抗が強く、不安定な為、性能が落ちるものの、ショウと意識がリンクし、指令を与える事ができる。


はぐれてしまった時の為に、メカバックがショウを近くに感知できない時は、8時間毎に長距離でも届く魔力電波を放つようにも仕込まれている。


その定期連絡により、ショウはレイの居場所を掴むことができた。


「これでよし、と」


荷物の準備と、長く家を開けるのに備えた掃除も終え、新しい紺色の作業着で汗を拭う。


ベッドに置いてあったリュックを金音とともに背負い、ポーチを腰に、肩にかけて木製の杖を取る。


意気込みは十分であったが、道具が乏しい。


ショウが棺から這い上がった時には既に、5人が生活したキャンプはきれいさっぱり無くなっており、荷車を始めとしたミスターシャの森に持っていった工具や鍛冶道具などはすべて回収されてしまっていた。


ショウの家には工具はボルトやナット、レンチなど小さなモノしか残っておらず、これだけでは魔法剣を分解する事くらいしかできない。


それに加え、機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)はレイの元に、十手魔刀は壊れ修理中。技術面においても、戦闘面においても前のような再現は難しい状況だった。


そんな困苦の状況であったが、ショウの前進を止める要因にはなりえない。


心からやりたい事を手にしたショウには涼しい向かい風が吹いている程度。固いネジを回すくらいの困難さにしか感じていない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


<ミスターシャの街 中央広場にて>


四魔神を打ち倒した記念パレードやその戦いで亡くなった戦士達の国葬が終われば、また変わらぬ日常がやってくる。


ミスターシャの街はこれまでの平穏を取り戻しており、約一週間前に行われた激闘と危機が、幻想かと感じるほどであった。


平穏が守られたのは良い事であるが、どこか寂しい気もする。


ショウは杖をつきながら街の中心部へと向かう。包帯だらけで足取りも重いショウに、時折怪奇と心配の視線が向けられるが、お構いなし、とミスターシャの国営金庫へと訪れていた。


ここへ来た理由、それは「もし何かあったときはこの金庫を」とシルクに託された物を開けるためだ。


ミスターシャの国営金庫は国選りすぐりの屈強な純戦士と知悉な魔導師がセキュリティーシステムを構築する金庫で、設営してから未だ破られてはおらず、国の高官などが財宝の保管庫として利用している。


一般市民が使うには大量のお金が必要で、よほどの富豪でなければその金庫を利用する事はない。


国営金庫の建物は、実用性と芸術性を兼ね備えた柱や不思議な模様をした石床など、技術と芸術の国であるミスターシャを体現するような建物であった。


ショウは杖を持って石床をカツカツと叩きながら歩き、受け付けの老婦人に金庫の番号を伝える。認証の為、渡された長さ15cm木の棒に魔力を込めて魔紋を刻みつけると、その老婦人は棒を裏方にいる魔導師に渡した。


魔紋は人が持つ魔力の特性の事。自身の体内を流れるエネルギーの圧力、周波数、波長は個人個人によって違い、それを使ってセキュリティーシステムが構築されている。


要するに指紋みたいなものだ。


(そういえば俺、魔力紋登録した覚え無いんだけど開くのか?)


金庫を開けるには、登録された魔術紋と自分のものが一致している必要がある。登録してない魔力紋では受付で弾かれてしまう。


ショウはこの金庫の事は知らない。シルクに「もし私たちの身に何かあった時」と託されただけだ。


ショウが魔力紋を込めた棒を調べていた魔導師が一枚の紙を老婦人に渡し、老眼鏡をかけ、ショウの目の前で読み込んでいるようだ。


「ショウ・アキミネ、変な名前だね。認証が完了したよ」


「え、それはどうも」


ショウの予想に反して金庫を開ける手続きはすんなりと進んでいた。いつのまにか、ショウの魔術紋が登録されていたらしい。


「金庫は解約という事でよろしいかえ?」


「あ、ああ。全て引き出すつもりだ」


「じゃあ、あの芋みたいな身体した男について行きな。オーイ」


老婆はその芋みたいな男を呼びつける。


振り向けば、確かに芋のような顔をした男が待っており、ショウは思わず「イモだ」と口走ってしまった。

体つきが良く、たくましく育った芋のようにずんぐりとしている大男に、睨まれ背筋に緊張が走るも、老婆が羽ペンを走らせ、


「彼をここに連れていきな」とメモを芋男に渡す。


その芋男は頷き、棘のような視線が外れると、ついてこいという視線をショウに飛ばして歩き始めた。

無口な男だとショウは思った。


階段を降りていくと、空気がだんだんとひんやりとし始めた。まだ足の機能は完全には回復しておらず、杖を使いながら一歩一歩ゆっくり階段を降りていく。


イモの警備兵はショウを助ける事はせず、厳つい顔を崩さずショウが下りるのを待つ。


金庫を破るための演技である可能性があるかもしれないと疑いがあるためだ。


ショウはその事は理解しており、不親切な金庫番にたいして特に感情が湧く事も無く、ただ階段を降りていく。


階段を降りて薄暗い石壁の通路をしばらく歩いた後、松明を持った芋の警備兵がある金庫の前に立ち、番号を確認すると「ここだ」と素っ気なく言い、その場所をショウに譲った。


牢屋のような鉄格子のある部屋に、黒塗りの金属の箱にダイヤル式のドアがついた金庫がちょこんと存在している。大きさは四方60cm程度の立方体だ。


ショウはゆっくりとメモを見ながらそのダイヤルを回す。


カチャリという音を立てて金庫が開き、ショウの鼻を、古本が放つあの独特な香りかくすぐった。


(なんだ?)


金庫の中には金貨は無く、数枚の丸まった古びた紙とうっすらと紫色を放つ四角い金属の直方体がある。

ショウはまず筒状の紙束を手に取った。染みが所々についた厚く汚い紙だ。


(っ!……これは…)


丸まった紙に書いてあった「ドーラス」という文字を目にした時、ショウは呼吸と鼓動が激しくなるのを感じた。慌てて紐を解き、厚い古紙を広げる。


ドーラスという名前は「技術」に少しでも携われば必ず知る、伝説の魔装具技術者だ。


彼は自身の魔装具技術を、国を問わず、誰にでもわかるよう古代言語以外の言葉や図で纏め、魔生糸などの部品も規格や標準化に努めた。


それが現在の魔装具の基礎となっており、ドーラスは魔装具の父と言っても過言ではないだろう。


ショウにとって、憧れの人物である。


その彼が残した古い何かの設計書が、今ショウの手の中にある。魔装具技術者として、古代言語で書かれたドーラスの図面に興奮を抑えきれない。


「もうじゃの、つるぎ?」


ショウは古紙に書かれていた古代言語を読み上げる。


この紙束は亡者の剣という品の設計図のようだ。書き方や規格などが今と違う、ドーラスが規格を設定する前の古き図面。


片手剣くらいの大きさ、中には回路図も書かれている。これは魔法剣だ。


(という事は、これはもしかして……)


ショウは直方体の金属に手を振れる、魔法を通さない無機物の金属であるはずなのに、魔力を感じる。


胸ポケットから白い六角棒レンチを取り出し、叩いてみる。良い音がした。


(間違いない、これは魔鋼(まこう)だ)


魔鋼は魔力を通しにくく、保持しにくい筈の鋼に無理矢理に魔力を封じ込めた素材。


その封じ込める思いは、執念や怨念と言って良いほどのレベルだ。ショウは魔術の専門家ではなく具体的な事はわからないものの、鋼に魔力を封じ込める事の難しさはよく知っている。


その程度は、「理論上は一応可能レベルではあるが、ガーネットレベルの魔術師が、数人いて初めて出来るものであり非現実的」というもの。


トップレベルの技術と魔術によって造られた至宝の一品。


それが片手剣を作れる程の量がある。 技術者のショウにとって、どんな宝石よりも価値のあるように見え、触るのが億劫になるほど恐れ多い。


亡者の剣の設計図と素材。この二つが、シルク達の残した遺物であった。


(俺に、これを造れと?)


人より抜きん出ているものは無いものの、世界を旅し広い技術や知識を学んできたショウ。


鍛冶の技術や魔装具回路の知識を持ち、更に古代文字の解読ができるのは彼くらいしかいない。 この仕事は、その彼だからこそできるモノだ。


ショウは高まる鼓動を抑え、芋男の事を忘れてその場で図面を読み始めた。


さらに設計図を読み込んでいくと、ショウはだんだんと、描かれている魔法剣の驚きの性能に震えを覚えていた。


そして、魔鋼に素手で再び触れると「やっぱり…」という言葉が漏れた


(だから、シルクさん達は「自分たちに何かがあったときに」と託したんだ。この魔鋼にはゴルード、シルク、ガーネットの力が封じ込まれている。それも、怨念とも言えるレベルで)


亡者の剣は魔鋼に込められた亡者の能力を受け継ぐという、禁忌レベルの力を持った魔法剣なのだ。


Tips 魔装具の歴史

魔法の研究が進むと、魔術発生メカニズムが解明されていくようになった。

落ちこぼれの魔導師は、そのメカニズムを利用して、人工的に魔術を発現しようと考えた。

しかし、魔導師協会は「魔術は才能と努力のもと、存在するべき」と良しとせず、魔装具を弾圧し、魔装具の技術が伝わらなかった。

その技術を学び、共有したのがドーラスという男である。

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