語り手紀行文 ~ミスターシャ編~
皆さま、お久しぶり。語り手だ。
私は語り手であるが、筆者ではない。メタいことを言えば、筆者「イモリさいとう」とは別人である。
そこを踏まえたうえで、この書きなぐりを読んでいただきたい。
さて、「それでもレンチを回すのは」という作品は、ノンフィクションだ。
ショウ・アキミネという人物は実在している。
彼を主人公に題材に話を書くのは難しい。
何故なら、彼は主人公には向かない性格をしているからだ。
私の考える理想の主人公像とは、「どれだけ現実や理不尽、正論に打ちのめされても、努力して成長し、理想を追い求めていく」姿である。
その理想を追う姿は読者や登場人物から恐れられるほど人間離れを感じさせればさせるほど良い。
ショウはというと、現実的で計算的なタイプで、時には感情に押し流されてしまう人間臭さを持つ。
さらには、目的の達成に、汚い手を使うこともある。
どうも私の想う主人公とは正反対の人間。
当然、ショウについての物語を書こうと決め、取材を始めたとき、関係者からも「無茶だ」という声もいただいた。
しかし、私はそのアドバイスを無視し、「それでもレンチを回すのは」という題材で、
レイに彼がどのようにして関わったのか、どうして関わろうと思ったのかを解明し、記そうと思い立ったのだ。
そのように強く臨むのは、レイーシャ・ミスターシャをめぐる一連の事件の真相を解き明かすにはショウの軌跡を辿らなければならないし、
なにより、私がショウを好きだからだ。
(ああ、この好きという感情はLikeであり、Loveではないから安心してほしい。本当だよ)
この話を書くにあたり、私はまずショウに取材をした。
(実は、まだ取材の途中で真相を解明していないのである。要するに行き当たりばったりで語っているのだ)
彼は快く応じてくれ、レイと会ったことから話をしてくれたが、
何故、ショウはポリュグラスの死闘の中生還することができたのか、
何故、ショウはレイに執着し続けたのだろうか、など肝心となることはもったいぶって話してくれず、
「自分で答えを見つけてみよう」と意地悪な回答を貰った。
故に今、私は始まりの地であるミスターシャの森を訪れている。
こうなったら、ショウも知らなかった新事実をモリモリ発掘してやろうと、鉛筆とメモを片手に森の中へと入っていったのであった。
ミスターシャの街の風貌はすっかり変わってしまったが、少し離れた森は相変わらず緑が生い茂っている。
息を大きく吸い、身体の中に森の空気を入れる。
これが、ショウが2週間吸ってきた空気か。味や香りなどは何も感じないが、澄んでいる気もする。
かつてポリュグラスとの戦いがあった場所にいくと、石碑があった。
石碑上部には大きくとゴルード、シルク、ガーネットの名前が刻まれており、その下に他の名前が連なっている。
この石碑に刻まれている名前は、光の芽を摘むべく、魔法戦士として未熟であったレイを討ち果たすべく乗り込んできた魔族二体、
アンデッドの王、不死王ポリュグラス、死者を操るグールマスターの固有名持ちグルドとの戦いで戦死した兵士らの名だ。
この事件、この魔族による襲撃事件が、ショウとレイの運命の歯車を大きく組み変えたのだ。
「あら…?」
女性の声がした。振り向くと、バケツを持った女性がこちらに歩いてきていた。服装からして、街の人だろうか。
―危ないですよ。女性が森の中を一人歩いていては
「ごめんなさい。いつもは夫を連れてきているんだけれど、外せない用事があるらしくて。でも、ここには必ず来ないといけないですし」
―絶対に、ですか?
「ええ」
その女性は、水の入ったバケツを石碑の近くにおろすと、布を絞り木の枝で作られたブラシを濡らして石碑を磨き始める。
そういえば、森の中だというのに、この石碑には苔一つ生えていない。彼女が掃除をしているからだろうか。
―なぜ、ここで掃除をしているのか、聞いてもよろしいですか?
「恩人、なんです」
女性は手を止めずに答えた。
「恩人?」
「私は小さい頃、骸骨に攫われたことがあります。他の子供たち骸骨に食べられていく中、いざ私の番になったとき、この方々に助けられたのです」
と、ゴルード、シルク、ガーネットの文字をなぞった。
「しかも、この方々は四魔神まで倒してくれた。私は二回、命を救われたのです」
―この3人に、ですか?
「ええ……いえ、確か…もう一人、二人はいたような……」
女性がこめかみを抑え、思い出そうとする。
「ごめんなさい、小さい頃だったからはっきりとは覚えていなくて。でもなぜ、そのことを?」
―それはですね、ええっと
私は考えた。
ゴルード、シルク、ガーネットの3人以外にも、この女性を救った人がいて、今も生きていると伝えようかと。
でも、やめた。
―ただの好奇心です。女性が一人、森の中に入るなんて、相当の理由があるんじゃないかと思いまして。ああ。手伝いますよ。ブラシを貸してください。ついでに街まで送っていきましょう。
「そ、そうなの…じゃあ、お願いしちゃおうかしら」
結局私は、この女性にショウの存在を明かすことはしなかった。
もし、私ではなくショウがこの女性と石碑で会っていても、自分の身は明かさなかっただろうから。




