エピローグ 孤光
太陽がギンギンと照り、砂埃が舞う広野。
深くカーキ色のフードをとマントを身に付けた一人の魔法戦士レイ・ミスターシャが一人、故郷を抜け出して西の広野を歩いていた。
自身の無力さにより、かけがえのない仲間を失った。
国内の報道によれば、三人の英雄を犠牲にしながらも、光の戦士が四魔神の一体であるポリュグラスを討ち果たしたとされている。
もちろん嘘だ。三人は自分を助けるために犠牲になり、自分は二体の魔族に対しまるで歯が立たなかったのが真実。
事の詳細を話しても、王宮の人たちは「意識を失った後、覚醒したレイ殿下が討ち果たしたのでしょう」と言って聞こうともしなかった。
(僕が倒れた後、あの魔族たちと戦った人がいる。誰だったんだろう)
レイは微かな意識の中、誰かがポリュグラスと戦っているのを音と魔力感知で感じ取り、しっかりと記憶していた。
しかし、聞こえたのは剣や魔法などによる戦闘音だけであり、途中で完全に意識を失ってしまったので、自分の後に戦っていたのが誰であるかはわからない。
逡巡するレイを阻害するかのように、突如数匹の魔物がレイを囲んだ。
その正体はまたしても狼だった。荒れ地に生息している種類で、爪は太く身体も汚れている。数は3匹で、逃げさせまいとレイを中心にしてぐるぐると回っている。
岩や窪みからの襲来であったが、ここは緑無き荒れ地。レイはすでに気配を察知しており、驚くことなく立ち止まる。
「ま、もの、か」
レイは虚ろな目でボソリと呟くと、剣を抜き、右足を一気に踏み込んでウルフに斬りかかった。
限界を超え、軋む右足を気にも止めず、魔物への憎しみがこもった重い一撃が、荒れ地狼の脳天を叩き斬った。
思考より先に身体が動いている。
身体が憎光―憎しみと光の義務という二つの感情―に支配されているのだ。
キャインと弱々しく断末魔をあげた荒れ地狼はドサリと倒れ、消滅する。
仲間の死に激昂した二匹の荒れ地狼、爪を掲げ、牙を剥いてレイに襲いかかった。
レイのフードから1つの円盤が飛び出し、荒れ地狼の後頭部を殴りつける。倒れた荒れ地狼にレイはナイフを投げ、止めを刺す。
最後に、もう1匹の攻撃をしゃがんでかわすと、お腹の下から剣を突き刺し、横に引き抜いた。
二体の魔物は霧となって消滅。レイは大きく息をつくと、剣の先を地につけた。
この剣は、ゴルードの遺した刃渡り20cm程の短剣とも取れる片手剣だ。純戦士用の剣なので魔法を込めても炎は出せないし、重いので元々非力な魔法剣士のレイには扱えない代物である。
レイはゴルードの剣に付着した血をマントで拭うと、そのマントを捨てた。
きれいな金髪にきれいな肌に、女性かと間違えるほど細い四肢を持つレイ。
その青い瞳は太陽のような明るさを失い、憎しみの籠った暗い瞳へと変わっていた。
今の彼にあるのは後悔の念から来るもっと強くなりたいという強い意思と、大切な人達を奪った闇への憎悪、いや、憎光である。
生前、シルクやゴルードと会話したのを頼りに、一人ミスターシャの街を去り、一人で魔物蠢くドットルト砂漠へ続く広野を歩いている。
もう少し歩けば、広大な砂漠であるドットルト砂漠と、その街にたどり着くであろう。
「行こうか」
レイの呼び掛けに答え、コロコロとレイの元に転がると、ピョンと飛んでレイの背中に戻る。機械仕掛けの小盾は、ショウの言いつけどおりレイを新たな主人へと定め、彼に従っていた。
ドットルト砂漠。そこが次の物語の舞台である。
一章 終わり




