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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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13.決意(ショウが棺に入ってから4日)

目が覚めてショウが感じたのは、真っ暗な空間と息苦しさであった。


(く、苦しい)


体中が痛む。皮膚、骨、肉のすべてが痛い。


外に出ようともがくも、どうやら狭い箱の中にいるようで、自由に身体が動かない。


酸素不足で意識が朦朧としており、思考が回らない。とにかく外に出たい。


何かひんやりとした金属の感触が指に触れた。


ショウは指先を使って、それが十手魔刀だと知る。


空気を求めたショウは、意識を支え十手魔刀を持った右手で力を込める。ダイヤルはわからない。


刀身が出るかと思いきや、起きたのは爆発だった。


爆発で新たな痛みが襲い、ショウは掠れた呻き声をあげた。


土を被る。眩しい光が差し込む。


新鮮な空気が身体を巡り、息苦しさから解放されると、思考が戻ってきた。


自分が地中にいることを理解し、まるでゾンビのように這い出る。


月の光がまるで太陽の光のようにまぶしい。


酸素が脳内を行き渡り、ショウに考える力が戻ってくる。


―ここは…―と辺りを見回すと墓石が至る所に立っていた。


(墓石の立ち方がまばらだ。共用墓地か)


ショウは何故か生きたまま埋葬されていたようだ。身体を見ると、傷だらけ、火傷だらけでとても見せられたものではないが、奇跡的に欠損部分はない。


「おかしい……」


ショウは枯れた声で呟いた。ポリュグラスとの戦いの時、ショウは防御を完全に捨て、塵と化す覚悟で全ての力を込めて刀身を爆発させた。身体の感覚が無くなるのも確かに感じた。


夢ではない。現に十手魔刀の方は原型をギリギリでとどめているくらいの損傷。服も無い。


それなのに、五体満足で生き延びている。


ただ、身体のダメージは酷く、皮膚の損傷は映像化できないレベルで衣服もボロボロ。内部損傷も激しいのか身体が思うように動かず、所々が痛い。


はっ、と何かを思い出したショウは口の中を探る。出てきたのは、白い六角棒レンチであった。


(よかった……これだけは、死んでもなくしたくはなかった)


他に残っているのは、と辺りを探すと、ゴルードの兜を見つけた。


唯一の装飾であった鷲のメダルは、汚れてはいるが、原形はとどめている


他に何もなさそうなことを確認すると、ショウは壊れた十手魔刀手に、手ごろな木の棒を探し当てると、それを頼りにゆっくりと歩き出した。


途中、血の匂いを嗅いで迫りくる森狼達を、壊れた十手魔刀をまるで手榴弾のように投げ、なんとか撃退し、レイ達とともに修行に明け暮れたキャンプ地についた。


すでにそこには何もなかった。


(場所を間違えたか? いや、キャンプ設営の跡がある。間違いない、回収されたんだ)


ショウは止まることなくキャンプ地であった場所の近くのある木の元に行く。


(こんな事もあろうかと、ね)


ボロボロの腕で痛みに耐えながら、木の棒で土を掘った。


土の中から木箱を掘り起こし、中を開く。その中には、包帯と塗り薬、携帯食料や自宅の鍵、そして、シルクたちから託されたメモが入っていた。


盗難対策にショウが残していたものである。一人で世界を巡り野営をしていた時に身に付いた知恵だ。


ショウはありったけの薬を塗り、回復薬をがぶ飲みし、包帯を巻く。携帯食料を食べ、暫くすると、元気が湧いてきて、立てるようになった。


(とにかく情報が欲しい。レイはどうなった、ポリュグラスは死んだのか? メカバックは…)


ショウ夜のうちに街に戻るべく、気力を振り絞り這いだした。



※※※※



虫の鳴く音が聞こえる程の静かな夜だった。


ミスターシャの森で大きな爆発が起こってから三日、長い会議を終え、疲れ切ったポトフは王宮を出て自分の社長室に向かっていた。


三日前、大きな事件があった。


ミスターシャの森に四魔神が現れ、ギルドの傭兵達をはじめとして多くの被害を出し、ゴルード、ガーネット、シルク三人の英雄と相打ちになる形で、光の戦士率いるパーティーが討ち果たした。


街は新たな光の戦士誕生を祝いお祭り騒ぎであるが、王宮は焦燥を極めている。


亡くなった英雄達の外交的処理や魔族の通達、そして、レイをどう扱うかについて長い議論が交わされているのだ。


ポトフは、夜空を見上げ行方不明になっているショウの無事を祈った。


彼が愛用していた工具、鍛冶道具、武具は見つかったものの、肝心のショウは忽然と消えている、遺体も見つからない。


ショウは今まで各国をめぐり、時には希少な素材をゲットする為に数々の修羅場をくぐってきた猛者だから大丈夫であろうと思う一方で、命より大事だと言っていた工具の数々を置いて消えている事がポトフの心配を募らせる。


娘のミーシャには「無事だ、連絡があったよ」とウソをついた。


もし、ショウが行方不明で見つからず、そのまま死亡扱いになったらきっと悲しむだろう。


ポトフは門番の労を労い、明りの消えたアルマス社へと入り、社長室のドアを開く。


すると、本来自分が座る席に窓から月光が差し込み、至る所に包帯を巻いた一人の男がたたずんでいた


「う、うわあああああ!!!! ミ、ミイラ!?」


「待て待て待て! 俺だ、ショウだよショウ」


慌てて助けを呼ぼうとするポトフに、ショウは弁明する。


「ショウ!?」


聞き覚えのある声に、「よかった」とポトフは安堵の息を吐いた。


「て、てっきり死んでしまったのかと」


「半分くらい死んでいたが、な。おかげて、連絡が遅れてしまった」


「喉、大丈夫かい?すぐに水を……」


ポトフは腰に下げてあった水筒の水を飲ませる。ショウはそれをまるで砂漠の中でオアシスを見つけたかのように、がぶがぶと飲んだ。


「ショウ、身体は大丈夫かい? 」


「俺にもわからないが、薬草をキメまくってなんとか。それより状況を教えてくれ」


「で、でも。早く病院に……」


「時間がないんだ。頼む」


ショウの強い一言に遮られ、月明かりに照らされた社長室に沈黙が訪れる。


ややあって折れたポトフは、口を開く。


「僕に出された依頼について、ようやく全貌が見えてきたんだ。まずレイはミスターシャ国の、隠されし王族なんだ」


「何故、レイは秘密に?」


「それはわからない…でも、レイ王弟殿下は光の魔力を宿いし戦士、扱いに困っているんじゃないかと思う」


(知っている。同じだ)


ポトフはこの三日間で起こった事をショウに話した。


ミスターシャの森に四魔神ポリュグラスが現れたこと。光の戦士率いるパーティーがそれを討ち果たしたこと。そして、三人の英雄が犠牲となり何とか討ち果たしたこと。


ゴルード、ガーネット、シルクの死を聞いた時、ショウはやりきれない思いで視線を落とし、狼狽した。


「光の戦士がってことは、レイは光の戦士として国中に認知されたのか?」


「いいや違う」と、ポトフは首を振って答えた。ポトフの表情は恐慌の色が滲んでいて、汗も噴き出している。


「国は王族であることは公表しているが、具体的に誰なのかはまだ言っていない」


「もう一人、光の戦士がいるから、か…」


「ショウ、どうしてそれを…?」


「ガーネットから聞いたのさ、とにかく続けてくれ」


ああ、とポトフは説明を続ける。


「順を追って説明するよ。まず、魔族側はポリュグラスを倒した光の戦士がレイ王弟殿下ということは知っている。昨日、ミスターシャの城にレイ王弟殿下を引き渡せという旨、のお達しが来たんだ」


「まさか、レイを秘密裏に魔族に引き渡し、そのもう一人の光の戦士を英雄として公表するつもりなのか?」


ショウは憤怒のあまり、拳を血が出るまで握る。


「昨日の会議でそうすることが決まった。けれど、できなかったんだ」


「できなかった?」


「レイ王弟殿下が突如王宮内から姿を消したんだ。ミスターシャは、レイ王弟殿下は行方不明になってしまってわからない、と返した」


「どこに行った、とかは?」


「いや、全然手がかりがない。国はレイ王弟殿下を探す気はないみたいだ。それよりも、この国民の熱狂を利用し、さらなる領土拡大のために軍備を拡張している。光の魔力とともに魔物を討伐するべくさらに進軍する、と言ってね」


ポトフはミスターシャが公開する予定である似顔絵が描かれた紙をショウに見せた。髪型、瞳の色、顔立ち、何から何までレイとは異なっている。


「これが、王宮内にいるもう一人の光の戦士の似顔絵なのか?」


「いいや違う。もう一人の方はまだ幼いらしい。これは、フェイクさ」


(レイを引き渡す事を断った訳じゃない。放置してその威光だけを使おうとしているんだ)


利益ある部分だけかすめ取り、その他は捨てる。


腹にふつふつと怒りが沸き、傷口が開くのも忘れショウは右拳を握る。


「ショウ、この任務は危険だ。君にとっても、アルマス社にとっても」


焦りを込めた声でつづけた。


「傷が癒えたら戻ってきてくれ。ショウの任務は知っているものは少ない、今ならまだ無かった事にできる。金が欲しいなら新しい仕事を、いや、違約金を支払ってもいい」


ショウは腕を組み、黙り込んだ。


このまま魔族の敵討ちとしてレイが殺されても、ミスターシャ国は影武者を用意してその威光を保つだろう。

むしろ殺されてしまった方が国の安全を守れると思っているかもしれない。


国益を損ねるからと虐げ、そして国の英雄として平和維持の道具として見殺しにする。


「ふざけるなよ…」


怒りで震えた声に、ポトフはビクリとした。


「ポトフ、今の話を聞いて、よくその言葉を吐けるな」


「……ごめん、ショウ。僕はアルマス社ミスターシャ支部のトップなんだ」


「………そうだな………悪かった」


今やアルマス社ミスターシャ支部は国と密接な関係にある大きな会社だ。ポトフはその長、彼が国を裏切れば、多くの社員とその家族たちが路頭に迷うことになる。


「ショウ、君は優秀だ。君に任せたい大きな仕事はたくさんある。だから……」


「俺は任務をこのまま続ける」


「ショウ! 彼は既に国の後ろ楯を失っているし、魔族に目をつけられているんだ!ゴルードとシルクを失い、その二人の古郷の国も相当怒っているんだよ。明るみにはしてないけど、国際問題になっている。勿論向こうにもアルマス社の支社がある。もし、君が関わっている事がバレたら……」


「そんな事は百も承知だ」


ショウは社長室のペンと紙を取り何かを書くと、それをポトフに渡した。


「ショウ…」


「これが、俺の覚悟だ」


それは、手書きの辞表であった。ショウは辞表に血判を押す。


「これなら、アルマス社には迷惑はかからない。正式な手続きはやっておいてくれ」


「何故そこまで……過去の、克服なのかい?」


「いや、違う。レイを助ける事が、俺のやりたい事だからだ」


包帯から覗くショウの気迫はすさまじいもので、何を言っても決意は揺るがないであろうと感じたポトフは、何も言う事ができなかった。


「ポトフ、いや支社長。今までお世話になりました。この依頼を俺に回してくれた事、非常に感謝しています。後は、俺一人で行きますから」


ショウはポトフに深くお辞儀し、こげ茶色のマントを深く被ると、ゆっくりと杖をついて退出する。社長室には呆然としたポトフと、ショウが置いて行った辞表届が残されていた。


Tips ショウの生命力

平凡で器用貧乏のショウには、非凡な点がある。

それは、どんな修羅場からも生還してしまう生命力だ。

その悪運の強さともいえるショウの強みが、ショウをさらなる苦しみへと落とす。

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