閑話3 王妃の謀(ショウが棺に入ってから2日後)
平和であったミスターシャに四魔神ポリュグラスが突如襲来し、光の戦士率いるパーティーが犠牲を出しながらも見事打ち破った。
この事実を国民は、すべてが終わった後に聞かされた。
国民は国が亡びる危機に迫っていたことに驚き、四魔神の一体を討伐できたことや新しい光の戦士が国内に誕生していたことに喜び、
そして、散っていった英雄達に追悼の意を示した。
昨日ゴルード、シルク、ガーネットを始めとした英雄たちの国葬が行われ、今日は四魔神ポリュグラスと光の戦士誕生を祝うお祭りだ。
昨日の静寂としたムードとはうってかわって、街が熱気に包まれている。
光の戦士の公開はミスターシャ王宮の意向があり、まだ公開されていない。
代わりとなる祝賀パレードの目玉は、遺品として持ち帰られた、ゴルードの斧が食い込んだポリュグラスの兜であった。
ポリュグラスを絶命に追いやった“正義の鉄槌”と噂され、そのレプリカやゴルードが実際に使っていた斧が飛ぶように売れ、鍛冶師は大忙し。
ミスターシャに新たな恒神教の教会を、というシルクの願いはかなえられ、ガーネットは<偉大なる魔導士>という称号を与えられ、伝説となった。
ミスターシャ国の中心街、ミスターシャの街は歓喜に包まれていたが、この出来事を心から喜んでいない者もいる。
ゴルード、シルク、ガーネットの親族。そして、現ミスターシャ国王とその王妃を初めとしたミスターシャの重鎮達だ。
王妃モリネシアは自室で、浮かれた国民たちを窓から眺めながら全ての指が深爪になるまで爪を噛んでいた。
「モリネシア様、そう爪を噛んでは御身体に障りますよ」
「お黙りなさい」
と、自分が幼い頃から従者であった執事、爺やを赤い瞳で睨む。爺やは臆することなく、無表情で一礼すると、一歩下がった。
我を忘れる程、彼女の頭をかき乱しているのはレイ、本名レイーシャ・ミスターシャという忌まわしき存在である。
彼女の頭の中には、自分の息子への深い愛と忌まわしきレイをいかに排除しようかという思案でいっぱいであった。
(ああキストー、貴方はやはり光の戦士。神は貴方と私に、新たな試練をお与えになるのですね)
と、王妃モリネシアは王宮内の庭で剣技と魔術の修行をしている幼きキストーの事を想った。
齢30を過ぎてやっと授かることのできた子供キストー。継母からのイヤミに耐え、ようやくできた自分の宝物。
彼が三歳のとき魔術の適性検査で光の魔力を持つという結果が出た。
モリネシアは驚喜を極め、神は私に試練を与え、それを乗り越えたのだと思った。
歴史に倣って5歳の誕生日を迎えたときに式典を行い、光の戦士の存在を公表することに決まると、王妃モリネシアは自分の息子キストーをこれまで以上に愛し、剣と魔法の師を手配し来たる式典に向けて英才教育を施した。
しかし去年、前国王が死の淵で衝撃的な告白をした。
革命家との不義の子であった屋根裏部屋の少年、レイが光の戦士であるというのだ。真偽を確かめるためすぐに検査が行われ、結果は真であった。
さらには、自分の子キストーよりも光の魔力が多く、光の戦士としての適性はレイの方が上だったという。
モリネシアは悲しみにくれた。革命を先導した犯罪者の子が光の戦士であり、才能が自分の子より高い。ありえない、と。
そして、その悲しみがレイへの憎悪へと変わるのに時間はいらなかった。
何度もレイを葬ろうと暗殺を試みたが失敗に終わる。すでにレイにはシルク・ベルクという強力な護衛がついていたからだ。レイの身を案じた全王が一計したのだろう。
レイは傭兵パーティーを組み、外に出て修行を始めている。キストーとの実力差は開く一方だ。
その事実と、いまだレイを排除できないでいることに、焦燥感を募らせていた王妃に、新たな幸運がやってきた。
魔族の襲来である。
魔族側は目的を光の戦士と暗殺とし、それが完遂されれば国には手を出さず去るという文を、ある魔導師を通じて送ってきた。
その魔導師の精神は恐怖で既に壊れており、彼に残る微かな、かつ深い闇の魔力の残り香から本当にポリュグラスが襲来したと判断。
殲滅ではなく交渉という手段を魔族側が取った理由はわからずじまいであったが、専門家は「ミスターシャは人類側領土の中心地にあり、もし戦争が起これば他国四方から攻められる。四魔神といえども、分が悪いと判断したのだろう」と推察している。
もちろん、推察の域を出ない。
魔族がすでにミスターシャ領内に侵入していたことは王宮内を騒がせ、何日にもわたる議論の結果、国王の決断により、静観を取った。
もちろん、王妃モリネシアが国王や重鎮達に働きかけたのは言うまでもない。
王妃モリネシアにとって、これは天啓だと思った。
自分が手を下さず、忌まわしきレイを葬りさることができるチャンスだと。
だが、四魔神ポリュグラスが光の戦士レイと邂逅し、パーティーは壊滅したものの、レイは生存し、ポリュグラスは討ち果たされたという結果に終わった。
さらには、ミスターシャ王宮の中に光の戦士がいるということを国民たちに知られてしまい、モリネシアとキストーにとって更に悪い状況へと傾くことになった。
(キストーの5歳の誕生日を来月に控えていたこの時に、この時に! なんと時期が悪いのでしょう、ああ、口惜しい)
モリネシアは深爪になってもなお爪を噛んでいる。
ポリュグラスを倒したのは光の幼子であるという嘘を信じるほど国民はバカではない。
いくら光の戦士といえども、修行を積み、力を付けなければ魔族に対抗できないのである。光の戦士は少年だったという目撃情報もあった。
(歴史では、英雄となった光の戦士が所縁のない地で王位を譲られ国王になった伝説もあります。光の魔力を保有したという理由で王位継承が変わったともあります)
「モリネシア様」
爺やが呼びかけるも、王妃モリネシアは思案に夢中で気づかない。
(あの憎きレイーシャが、キストーに代わって英雄に、王になろうとしている)
「モリネシア様」
「何ですの、爺や。今、話しかけないで頂戴」
「会議が終わったそうです。諜報として出していた使用人から報告書が届きました」
爺やがその丸眼鏡をギラリと光らせた。
「よ、様子は!?どんな様子でしたの?」
王妃モリネシアは爺やに襲い掛かるような勢いで問うた。が爺やは微動だにしない。
「外交処理に手間取っている様子でした。ガーネット様はわが国の魔法使いでありますが、ゴルード様やシルク様は別国出身。遺体を引き渡せと強い要望を受けているようです」
「かようなことはどうでも宜しい。魔族からの通達は?」
「来ておりませんでした」
「来ていなかった? 光の戦士が打ち破ったのに?」
「ええ」
王妃モリネシア椅子にへたり込んだ。
彼女は四魔神ポリュグラスの弔い合戦として魔族が攻め込んでくるか、レイの身柄を引き渡せと脅しをかけるものかと思っていた。
レイを前線に立たせるか、または魔族側に引き渡すかをして葬ることが彼女の新しい計画。
その計画は、動く気配を見せない。
(諦めてはダメよ。モリネシア、光の戦士にかかわるものは皆試練を与えられ、過酷な運命をたどる。レイーシャという存在が、私にとっての試練。必ずレイーシャを排除し、キストーを光の戦士として勤めを果たし、ミスターシャにさらなる繁栄を……)
「爺や、何故魔族側から一向に連絡がこないと思う?」
「全滅したからでしょう。文を送れる者、記録する者が倒され、情報が遮断されたと考えるのが自然です」
「そう、そうよね……そう」
謀が彼女の頭に浮かんだ。
「ふふ、ふふふ……」
爺やに背を向け、ドス黒い笑みを浮かべる。
(魔族側の目的は果たされていない。魔族側はこのことを知らない。ならば、教えてやればいいのよ)
「爺や、郵便鳩を用意しなさい。魔物の領域まで飛べる個体を。複数用意しなさい。」
鳩は、人が住む領域、魔物が住む領域問わず広く生息している珍しい鳥である。
魔族との交渉に用いるため、書簡を魔物の領域まで運べるよう品種改良を繰り返し、調教を施したのを、郵便鳩と呼んでいる。
爺やは「承知しました」と立ち去る。
王妃モリネシアは羽ペンと髪を用意し、大急ぎで文を書く。
電気系魔導師である王妃モリネシアは、原本の文を紙束の上に置き、魔力を込める。
<電気印刷>
すると、何も書かれていなかったはずの紙に、王妃モリネシアの書いた文字が印字されていた。
そして、爺やが用意した大量の郵便鳩に文を乗せ、怪しまれないよう少しずつ旅立たせる。
郵便鳩は、決められた方角に飛び、決められた距離で文を落とし、ミスターシャに帰ってくる。
その文には
ポリュグラスを打ち破りしは、光の戦士レイーシャ・ミスターシャなり
と書かれてあった。
Tips 王妃モリネシア
ミスターシャ王国の王妃。
モリネシアの息子であり、第二王子であるキストーが次期国王であることは決まっているものの、
周到な性格から、レイを抹殺しようと企んでいる。




