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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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12.死闘③

「はぁ はぁ」


魔力の過剰使用で精神力がつきかけたショウは、地面にへたりこんだ。


意識も朦朧としており、膨れ上がった身体ももとの大きさにだんだんと戻っている。


―ボフッ!


「っ!」


右の手甲から爆発音が鳴り、黒い煙をあげ、歯車やその他の部品を吹き出していた。ショウの右手に電流と熱が走り、ショウは顔を強張らせる。


魔装具は精密機械。無理をさせたら壊れる。それも急場で作ったシロモノであり、非実体。


人が定規なしで長さを正確に測れないように、想像で作る部品は質が悪くなるのだ。


ショウは痛みに耐え、壊れた右ガントレットを脱ぎ捨てた。


ガチャリという音を立てて、ガントレットは地に転がり、魔力となって霧散する。右腕は軽い火傷を負っており、赤く腫れていた。


熱気に包まれる一帯、少しやり過ぎたか。上空は煙と魔力が飛散していて、中の様子を探る事が出来ない。


(に、逃げなくては)


油断をつき、命を削って放った魔導弾。それでもなお、煙の中にまだ奴の反応はある。


ショウはポリュグラスの下半身を狙い、当てた。追う能力は落ちているはず、と気を失ったレイの元に駆け寄り、回復薬を飲ませ、背負う。


その時であった。


(……!?)


煙の中から一発の紫色の魔弾が放たれる。


機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)が浮遊し、とっさにガード。機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)と魔弾は別方向に吹き飛び、遠くで着弾した魔弾の方は大爆発を起こす。


煙の中でそびえ立つ影に、ショウは目を疑った。口をあんぐりあげて、声にならない絶望交じりの声をあげる。


ショウの全身全霊を放った一撃は、鎧に傷一つ与えずに終わっていたのである。


「素晴らしい、今日二度も心高ぶる相手と 相まみえるとは」


ポリュグラスはふわりと降り立った。その無い筈の頭から、確かな戦闘狂としての高揚感をショウは感じ取る。ショウは言葉がでず、息をするのも忘れている。


「まだあの昂るパワーを身体に受けたい所だが、どやらそれは叶わぬ夢らしい。あの魔導弾をピークに、どんどんお前の力が下がっているようだ」


ショウの痩せ細った様子を見て、ポリュグラスは嘆息をついて言った。


「名も無き汝よ。お前を殺すのは惜しい、今逃げるのならば 見逃してやろう」


ポリュグラスの意外な言葉に、ショウは兜の中で驚いた。


「いいのか、部下を殺した敵が目の前にいるんだぞ」


ショウは答えた。虚勢を張ったが、ショウにとっては願ってもない話だった。


目的は、自分とレイの生存。レイを連れて逃げかえる事ができそうだ。ショウの全身全霊を込めた魔弾は無駄ではなかったのだ。


「気が変わったのだ。余の元々の任務は 闇を滅ぼす光の戦士の 暗殺だ。あの金髪男を殺して、余は帰るとしよう」


が、その希望は露と消えた。あくまでショウのみ見逃すという事らしい。


自分だけ助命してもらえるなど、ここに残った意味がない。何とかしてポリュグラスを撃退したい。


そう思うショウであったが、既に全力を出し尽くしてもほぼ無傷であるポリュグラスに、一体何ができるのだという思いも心にある。


(レイの魔力を吸って再度立てば……いや、ダメだ。解決にならない。あの鎧、硬すぎる。あれをなんとかしなければ、ポリュグラス本体にダメージは無い。いったいゴルードはどうやって奴の兜を……)


その時、一筋の電撃がショウの脳内に渡った。。


(……いや、待てよ。ゴルードは奴の兜をボロボロにした。他の個所にも傷があると考えた方が自然ではないか。兜があんなにボロボロで、その他のパーツが無傷なんて……まさか)


ゴルードが傷つけた兜を思い出す。

あの兜は、交換を考えるほどボロボロであった。面積の少ない頭部のみがあれほど傷つき、他は新品同然などということはあり得ないはずだ


ポリュグラスの頭部のない鎧にじっと目を凝らした。先に感じた、鎧への違和感を合わせた時、もしや、と一案がショウの頭を過ぎった。


(まだ足掻けるかもしれん)


「レイ、力を借りるぞ」

ショウは左手の手甲でレイ首元を触ると、魔改造手甲のギアポンプを逆に回転させ、レイの光の魔力を吸い上げた。


魔力は人の指紋のように種類が違い、血液型のように同じでなければいけない。


人の魔力を吸収しても、自身の魔力補充にはならない。


だが、繰り出す魔力の補強にはなり得る。レイの光の魔力が魔改造手甲にあつまり、プラシーボ効果かもしれないが、ショウは力が戻ってくるのを感じた。


《十手魔刀 六ノ手 アドジャストレンチ》


制限(リミッター)解放(かいじょ)


(もう一度だ!!!)


ショウは残りの90度、おへそから左わき腹までレンチを回し、最大解放状態へと達す。この状態を暫く続ければ、心臓が鼓動するエネルギーさえなくなる。


(この感じ……)


手甲から全身へ光の魔力が満ちた時、ショウはどこか何か懐かしい感じを覚えた。


「ククククク……」


兜の中から、笑い声が聞こえる。ポリュグラスは、無い眉をひそめた。


「汝よ 何故 笑っている」


「これが笑わずに言われるかよ……」


彼が今感じていたのは、不思議な充実感であった。パーティーを全滅させぬよう、最後まで足掻く事ができる充実感。


ショウはポリュグラスに構えを取る。それに呼応するかのように戻ってきた機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)が歯車を鳴らして浮かび、十手魔刀を握る。


ショウの周りには微かではあるが、吸い上げた光の魔力が湧き出していた。


「ポリュグラスよ、俺に退けと言ったな……」


「………」


「悪いが、それは出来ない」


ショウは叫び、最期の力を振り絞った。


「うおおおおあああああああ!!!!!!!」


身体が再び膨れあがり、大きく肉体がビルドアップ。既に紺色の作業着ははち切れる寸前で、酷使しているミシミシと身体が痛む。ショウの身体を纏っているのは、自身の無属性の魔力だけはない。レイの光の魔力も宿っている。


(さっきの力はもう出せないが、まだ、まだいける!)


十手魔刀も刀身が沸々とした荒々しい形になっており、もはや剣の形を保っていない。


そして、ショウは剣を逆手に下げ、あの独特な剣技の構えを見せた。


「そうか、残念だ」


ポリュグラスはそのショウへの感心と落胆の相反する思いを介在させながら見つめている。


「ならばせめてもの手向けだ。この剣で 葬ってやろう」


ポリュグラスは腰にさしてある、両足の前後2本ずつ、計4本のうち、2本の剣を抜いた。片手剣より少し短く、刀身が曲がっている。2mを超える体格のせいか、その剣は小さく感じる。


「さざめけ、風雲の剣(かざぐものつるぎ)よ。その竜巻で 敵を切り刻め」


ポリュグラスの呼び掛けに左手にある刀剣が風を纏う。


「燃えよ、火焔の剣(かえんのつるぎ)、その炎で 敵を灰へ還せ」


右手の曲刀から炎が吹き出す。その2本の剣は魔法剣であった。


「魔導器か……」


古代の遺物である魔導器。魔生糸による回路ではなく、広葉樹の木材を用いた奇跡のソレの性能は、きわみの一言で、ショウ達の造る魔装具がオモチャに見えるほどだ。


ショウとポリュグラス、互いの力の集め合い。片方は生き残る為に熱く燃え、もう片方は静かに敵への敬意を示す。


最後の戦いが始まった。


ショウはポリュグラスの周りを飛び回り、かく乱を試みる。目を凝らし、山のように動かないポリュグラスを様々な角度から観察する。


ポリュグラスの背後を取ると、ショウは荒々しく刀身が涌き出る十手魔刀を構え、ショウは魂を燃やし尽くす程の咆哮をあげながら飛んだ。


両手による渾身の冑割り。その攻撃をポリュグラスは向き直り、風雲の剣で受け止める。


暴風(ぼうふう)


風雲の剣から吹き荒れる風により、ショウの身体は浮き上がった。


ショウは浮くメカバックを足場に再度突撃。浮遊する機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)との連撃を繰り出すが、ガードを崩す事ができない。


ポリュグラスが火焔の剣を横薙ぎに振った。


剣撃に伴う火焔の斬撃。機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)の防御により、ガードはするものの受けきれず、ショウは後退した。追撃をするべく、ポリュグラスは風雲の剣を横に構え、竜巻を作りはじめた。ショウは負けじ、とポリュグラスにもう一度飛ぶ。


竜巻(たつまき)


風雲の剣から竜巻が放たれる。その竜巻は草木を吸い込みながらゆっくりとショウに向かう。


吸い込まれぬようショウは右に大きく飛び、その竜巻から大きく距離を取ったものの、火焔の剣による大型火炎球の追撃が襲ってきた。


火炎球(コロナ)(ごう)


おそらく、ショウがそこに飛ぶと読んだうえで、予め放たれたのであろう。加えて、風魔法で強化された火炎球は大きく、避けきるのは不可能であった。


機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)を全面に押し出し前進する。中心の魔力球から半透明の魔力シールドが展開される。ショウは避ける気など更々なかった。


吸い寄せられる竜巻に耐えながら体勢を保ち、炎球へと突撃した。


ポリュグラスの魔法に打ち負け、シールドが壊れる。ショウの身体が炎に包まれ、ショウの身を焼く。


ポリュグラスはその炎に焼かれるショウの影を眺め、二本の剣をしまう。


その影が崩れた時、ポリュグラスは違和感を覚えたのか、再び風雲の剣(かざぐものつるぎに手をかける。


黒焦げの作業着に、溶けかける金属の防具。


だが、中身が無い。


目の前の的がダミーだと気がついた時、インナー姿になったショウは既に背後に回っていた。


(ここだ!!!)


ショウは盾、鎧を囮にポリュグラスの背後に回り込んでいた。


<十手魔刀 八ノ手 ドリル>


十手魔刀から、回転刃生える。モーターの回る音と、蒸気が噴き出す音が重なる。


狙うのは、背中一点。


これが、ポールが鎧に仕込んでいた瞬間脱衣のギミック。小規模な魔力による爆発を起こすことで一気に装備を外し、それから得た機動力で竜巻から逃れ、更に副産物の煙によって身を隠すこともできる。


まさにこの時のためにあったギミックだとショウは思った。


盾を前に構え鎧を脱げば。少しの時間ではあるが、注意を向ける事が出来る。魔力を込めて置けば、形もある程度保てる。


荒々しく揺らめいていた十手の刀身を整え、魔力を更に集中させ、圧縮する。


その極限まで圧縮された非実体のドリルは、まるで本物の鋼かと間違えるほど、透明性が消え失せていた。


得たのは一瞬、かつ十分な隙だ。


ポリュグラスは反応が遅れている。この一撃はノーガードに叩きこむことができる。


「うおおおおおおお!!!」


右手で十手魔刀を握り、残した手甲のある左掌を柄に乗せ、腰を入れて全体重と魔力を込め、ショウはありったけの力を込めてその鎧の背後を突いた。


肉に刃が食い込む鈍い音が聞こえ、そのすぐ後に血を吐きだす音が聞こえる。


―やったか?


―いやおかしい、血の色は…赤い。


そう思った時、意識の揺らぎを感じた。


―魔物の血は紫色の筈なのに…そもそもポリュグラスに肉は


―この血は…俺の?


「ぐはっ」


ショウは再び吐血した。


腹部から液体が流れ、それが自分の血だとわかると途端に激痛が走る。急激に体温が冷え、身体の力が失われていく


ドリルの回転が空を掻いて止まる。


ショウの刃先がポリュグラスに届く前に、何かが自分の腹部を貫いていた。


震えながらショウは腹部に目を向ける。水色を基調とした、オーロラのような輝かしい刀身の短剣が自分のお腹に刺さっている。


(何故、完全に背後を取った筈なのに)


ポリュグラスは背中を向き、停止したままだ。ショウの放った白い剣の突撃は、鎧にギリギリ届く所で止まっている。


ショウは視線を短剣からその握る紫色の腕に移した。


(隠し腕…だと)


それは、骨でできたサブアーム。油断を突かれていたのは、こちらの方だった。


氷雪の剣(ひょうせつのつるぎ)よ、汝に安らぎを与えよ」


ポリュグラスは振り替える事なく、ショウに語りかける。


腹部が異様に冷たく、見ると自身の腹部が凍っている。身体が異様に寒いのは、失血性のものだけではなかった。


「くく、くくく」


この絶望的な状況になってもなお、ショウは笑っていた。


それは自暴自棄になった時にでる笑い方ではない、含みのある、勝利を確信している笑いだ。


ショウは大きく息を吸うと、力を振り絞った。


「油断したなァ!」


再びモーターと蒸気の音とともに、ドリルが回った。


左手甲の掌が爆発し、十手魔刀が押し出される。その剣は強固であるはずの背中のど真ん中をえぐり、貫いた。


「ガハッ」


鎧の内部から、ポリュグラスのうめき声が聞こえる。


背中の部分のある一点。鎧ならば厚く固い場所であるそここそが、ポリュグラスの鎧の弱点部位だった。


「な、なぜ、何故余の誇る鎧が、こんな実体のない剣などに…」


ポリュグラスは苦しい声をあげながら言った。


「舐めるなよ魔族、俺は技術者だ。防具の亀裂や補修跡など、隠していてもわかる」


ショウは鎧の中で深い傷をカモフラージュしてあった箇所を見破り、そこ1点に刃を通したのだ。


防具の傷、亀裂は耐久を落とす。いくら修理、補修しても元の強度は出ない。もし、その補修を素人が行えば、かえって耐久を落とすことにもなりえる。


お金がなく、見栄を張りたいと自分で補修しようとする傭兵も少なくない。鍛冶職人達は傭兵を死なせない為にその嘘を見抜き、武具や防具を修復してやっている。


冷気がどんどん身体を侵食していく。肘膝が凍る前に、ショウポリュグラスに抱きついた。腹部の剣が更に深く刺さるも、もう感覚がない。


「何をするつもりだ?」


身体の凍結の侵攻が速まる。もう関節が固まり、意識も朦朧(もうろう)としている。


「あ、ありったけの魔力を込めたんだ。俺が魔力制御を放棄すればソイツは戻るべき場所を失い、すぐに大爆発を起こす」


ショウの十手魔刀のダイヤルが、七に回されている。


<十手魔刀 七ノ手 閃光>


本来は、十手魔刀に溜めた魔力を解き放って閃光を放つもの。


しかし、大量の魔力を込め安全率を超えれば、それは<自爆>へと変わる。


ポリュグラスは氷雪の剣を引き抜き、ボトリ、と肉が落ちた。

だが、ショウはポリュグラスに絡みつき、胸で十手魔刀を傷の中へ押し込んでいる。


氷雪の剣でショウの身体を凍らせたのが悪手に出たのだ。


「無駄だ…死ぬまで…離さん」


「貴様のような奴に……余が、負けるなど、と」


ポリュグラスが悔しさをにじませた声を出す。


「あ、安心しな。これは、俺一人で……やったことじゃない。ゴルード、シルク…ガーネットの三人が…いなくちゃ、お前たちを倒す事は、できなかった」


たとえ人知を超える素材、加工技術をもってした鎧でも、傷一つ付けられなかったことなどあり得ないという彼ら彼女らへの厚い信頼。


また、傷ついた武具、防具をずっと見続けていたショウの補修跡のかすかな色の違いを見分ける能力。


「さ、さらには、お前はレイの一撃を…受けている。光の残り香が、闇を消滅させ、る…だろう」


そして、レイの光の魔力がポリュグラスの存在を消す。5人の力が、ついにポリュグラス急所へ刃を喰い込めたのだ。


「あ、あの光の戦士は、奴も毎巻き込むつもりか!?」


「へっ、俺は…レイを守るために…戦ってたんだ。そんなヘマを…すると…思うか?」


機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)が独りでにレイの元へと転がる。


するとまた内部で歯車が組み変わる音がすると、小盾中心の青い玉からエネルギーシールドが出て、レイの回りを囲った。


(メカバック、お前はレイの元につけ)


(「じゃあな」と言ってやりたかったが、もう口元が動かない。目ももう見えない)


感じるのは、刀身から放たれる眩い光と、ポリュグラスの「やめろ!」「やめろ!」という叫び声。


ショウはその二つの感覚に安心し、ゆっくりと目を閉じる。


そして、ミスターシャの森の一帯が凄まじい爆発音と共に、大きな光に包まれた。



Tips ポリュグラス

4属性の原始魔導器を保有する魔族。闇そのものが実体化したタイプの強力な魔族だ。

300年前から記録が残っており、数々の光の戦士を屠り、多くの国を滅ぼしてきたことから魔神と呼ばれた。

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