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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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12.死闘②

ショウの冷や汗が落ちた時、ポリュグラスは漆黒に輝いた薙刀を横凪ぎに振った。


空間毎切り裂くかのような動作、無音の所作。


虚断(きょだん)(きわみ)


ショウは死の匂いという嗅覚のみで上に飛ぶ。後ろでは、轟音と共に木々が多くなぎ倒される音が響く。


全く見えなかった。と、ショウは今身に起こった出来事を頭のなかで整理した。


ポリュグラスは薙刀から斬撃を飛ばしたのだ。ショウは集中力を高め、時間感覚を圧縮したものの、見えたのは奴が薙刀を振る動作だけだった。


着地すると同時にポリュグラスを中心に、円を描くように回った。ショウがグルドを消し飛ばした動作、そして今のポリュグラスの動作から、互いの力量を理解していた。


実力はポリュグラスの方が圧倒的に上。戦闘の専門家ではないショウにとって、それはわかりきっている事ではある。


《十手魔刀 一ノ手 刀剣》


ショウは刀身の生えた十手魔刀を両手で握り、構えた。


「初めて見る型だ。汝、どこで剣技を 覚えた」


ポリュグラスは問うも、ショウは答えない。


ショウの構えは確かに独特である。左足を前に、右手は剣を逆手に中段で構え、左手は柄を添えるように握っている。

突き出す左肩には機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)が装備されており、時折肩から離れ、浮遊する。


ショウはポリュグラスの横から、その半透明な刀身で切りかかる。ポリュグラスは避けようとはせず、ただ左腕の小手で受け止めた。


左腕の小手には傷一つついていない。それどころか、十手魔刀の刀身が割れる始末だ。


メカバックが幾度もポリュグラスに打撃を加えるが、ポリュグラスの鎧と音を奏でるだけであった。


(固い、固すぎる)


ポリュグラスの防具は素材解析した兜と同じモノだろうとショウは絶望感を覚えた。


人の手によっては製造不可能とされるもの、その鎧はどんな攻撃はどんな攻撃も跳ね返すと言われており、伝説通りであった。


敵の鎧の性能に驚愕すると同時に、ゴルード達はどうやってあの防御を打ち破り、兜に大ダメージを与えたのかと疑問と驚きを持つ。


おそらく自分が想像もできないような凄まじい戦闘が、ポリュグラスとあの3人とで繰り広げられていたのだろうと、目の前の敵を改めて強大、いや、絶大だと認識する。


(まだだ!!!)


《十手魔刀 一ノ手 刀剣》


ポリュグラスの上を取り、今度は防具の無い首の場所を狙おうと試みる。


しかし、人ならば無いはずの箇所には。装甲が貼られていた。


奴は<首なし騎士>、あの状態が普通なのだ。


隙を晒したとショウは防御しようと考えたが、ポリュグラスは構えない。


十手魔刀の刃が上から無い首へ突き立てられる。


ガキィン と十手魔刀が割れた。装甲は相当分厚いようだ。


(もう一度!)


《十手魔刀 一ノ手 刀剣》


だが、敵いっこないといって諦める訳にはいかないのだ。援軍が来るまで、時間を稼げばいい。

そう言い聞かせ、ショウは再度ポリュグラスに突撃する。


その後十手魔刀と漆黒の薙刀が何回か打ち合いを行うも、すべての剣劇で薙刀を持つポリュグラスに軍配が上がった。


両者互いに質量の無い武器を持っている。こうも力で打ち負けるのは、魔族としての基礎的な身体能力、つまり体格や質量の差にあった。


(くっそ、勝てる気がしねぇ)


ショウは一歩引き、またポリュグラスの周りを走る。ポリュグラスは、ちょこまかと動き回るショウを目に留めず。ただ仁王立ちをしている。


(ん?)


一瞬ポリュグラスの鎧の色が少し違うように見えた。つやの消えた綺麗な銀色の鎧のあちらこちらに、暗い銀色の、傷のようなもの。


瞬きをすると、綺麗な鎧がそこにあった。


もっと近くで確かめようと、ショウは十手魔刀片手にもう一度攻撃。左手にメカバックを持ち、ナックルも加えたが、容易くいなされ。またショウは後退した。


「貴様、時間を 稼いでいるな」


ポリュグラスが問うた。兜の中にいるショウは返答しない。


「良い事を教えてやろう、ミスターシャの国防軍は 来ないぞ」


(なんだと!?)


「余にはわかるのだ、敵は森の前で留まり、この戦いを監視している。グルドが文を送ったのだ。光の戦士を始末できれば、国を滅ぼさず立ち去る、とな」


(……クソッタレめ!!!!)


薄々ではあるが、見捨てられた事はショウもわかっていた。


ポリュグラス程の魔族であれば、彼の闇に気づかない魔導師はいない。素人であるショウさえも感じ取れるのだ。応援が来るのならばとっくに来ているはず。


ポリュグラスは、数々の国を滅ぼしてきたことから 魔神 と呼ばれている。


魔神とは、国を滅ぼした経験のある魔族に、人が勝手に名付けたもの。光の戦士と一国、天秤にかければどちらを優先するかは明らか。


その国の行動は、理には叶っている。合理的であることを良しとするショウには、国の考えは理解できた。


だが、理解できても被害を受ける側としてはたまったものではない。


助けが来ないとわかった以上、ショウはほぼ万策尽きた状態。


今戦っても二人とも死ぬだけ。


逃げられるなら逃げてしまった方が良いのではないか。その方が、理に叶っているのではないか?


そんな考えが、ショウの頭の中をぐるぐると渦巻いていく。


依頼主はもういない。レイを育てるという内勤技術者の職務は終わった。もうここにいる理由は無い。今のショウの目的は生き残る事。どれだけ非情であっても、ここは逃げるのが最善手である。合理的……


ショウは立ち止まり、兜の中で目を閉じ瞑目した。


瞼の裏に映るのは、初めての内勤技術者としての仕事で失敗し、皆を死なせてしまったあの時のトラウマ。


次に脳内に映ったのは、レイ、ゴルード、シルク、ガーネットとの短くも充実した日々。そして、三人に仲間として認められ拳を合わせた昨日の記憶。


ショウは考える。幸い、ポリュグラスは仕掛けてこない。


(逃げるのが合理的だろう。けれど、ここは逃げちゃだめなんだ。ポリュグラスを撃退しなければ、レイが死ぬ。やる事ははっきりしているんだ。やらなければ、絶対に後悔する)


ショウは、十手魔刀のダイヤルを動かした。


《十手魔刀 六ノ手 アドジャストレンチ》


六ノ手、それはモノを造りだす工具である。

刀身から、白い半透明のレンチが生えるとおもうと、ショウはそれを自分の腹に突き刺した。血は出ていない。しかし、力んだ表情をしている。


制限(リミッター)解放(かいじょ)


そして、レンチを右腹から90度、おへその辺りまで回す。


すると、溢れでんばかりの魔力がオーラとなり、ショウの周りを囲った。


これは、ショウの切り札である。非実体のレンチで身体の中にある生命エネルギーの栓を解放し、魔力として一気に開放する技。


当然、命への反動は大きい。生命エネルギーは人が生きるためにも使われ、栓をしている理由は命に係わるまでエネルギーを使用しないようにというものであるからだ。


さらに、これを使えば逃げる体力が消し飛んでしまう。


最低限、敵の足にダメージを与えないと確実にすべてが終わるのだ。


(これで逃げることができるなんて確証はない。でも、無くてもやるしかない。後先を考える場合じゃないだろ! ショウ!)


十手魔刀と腰に戻し、ショウは両腕を突き出した。


非実体(ゴースト・)創造(クリエイト)魔導手甲(ガントレット)


武具、魔装具を魔力で創造する二つ目の切り札。魔力の供給量が潤沢である時に使える技だ。


今ショウが創造するのは魔導手甲。魔装具だ。


装甲の金属板からネジの一本、魔装回路の一本までショウの腕の回りで組みあがり、魔導手甲を形成していく。


部品の製作方法から組み立てまで、すべて頭の中でイメージしていなければ造れない。少しでも集中力が乱れれば、部品の精度が落ち、不良品と化す。


組み終わると、まるで本物かのうように金属の光沢を放った。


(今奴は油断している。奴の切り札である腰の四色に刺してある剣を使わず、力を溜めている時に一切攻撃してこないのが何よりの証拠だ)


ショウはポリュグラスに対して構えた。右足を前に出し、腰を落として腕を曲げる。


声を発し、全身に力を込める。


全身にエネルギーを凝縮させていく。


その作用のせいか、同時に自身の身体が一気に筋肉で膨れ上がった。胸や背中だけではなく腕や足も筋肉でパンパンになり、大きく血管が浮き出ている。


「はあああああああ!!!!」


チャージが完了し、自身を鼓舞するように周りに衝撃波を放つ。足元にはクレーターができ、握る十手魔刀からは出る刀身は荒々しく乱れ、形を保てていない。


「ほう…」


ポリュグラスは感嘆の息を漏らしているが、薙刀を構えることはしない。


(今、最も効果的である選択肢を取り続けて時間を稼ぐんだ。その間に、この状況から脱出する方法を多く、多角的に考える。考えろ、考えるんだ。凡人が考えることを止めたらそこで終わりぞ、ショウ! 頭じゃない、全身をひねってアイデアを出すんだ!)


「いくぞ…」


そう呟くと、ショウは流星の如く飛んだ。


前よりも何倍ものスピードで詰めより、その厚い鎧に渾身の袈裟斬りを叩き込んだ。


予想外の速さに驚いたポリュグラスは、薙刀を構えてとっさに対応するが、魔力と力が入りきっておらず、形勢はショウの方にあった。


手甲の肘から魔力ジェットが噴き出し、さらに力を増幅させる。


逆手に剣を持ち、体重を乗せ放たれた渾身の袈裟斬りはポリュグラスのガードを崩し、薙刀ごとポリュグラスを叩き切り、同時に鎧にも白刃が叩きつけられた。


しかし、まだ鎧は割れない。


(質量を持たないエネルギー剣では切れないか、なら)


「うおおおおおおおおおあああああああああ!!!!!!!!!」


獣のごとき咆哮をあげて、ショウは全身全霊を込めた魔改造手甲で肘の爆発音とともにポリュグラスを殴り飛ばした。


ポリュグラスは大木に激突し、その大木が倒れる。


斬ってダメなら叩いてみる。いくら強度の高い鎧といえども、打撃をすべて受け流す事はできず確かなダメージがポリュグラスの体内に蓄積されていた。


ショウは休む手を許さずポリュグラスに接近し、機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)を手に持つと、何度も何度も殴りつける。熱い鉄を槌で打つような音が響き、火花が散る。


「ぬぅ」


ポリュグラスがカウンターのパンチを繰り出すも、ショウは後ろに回り込んでかわし、重みを乗せ大きくジェットの乗ったアッパーカットを繰り出した。


まるで不発大砲が直撃したような轟音を響かせ、ポリュグラスの巨体は宙に舞う。


(時間がない。これで、決める)


魔力を一気に両手に込める。手甲が赤熱し、辺りを赤いオーラを纏う。バチバチと電気が発生し宙を舞うポリュグラスに狙いを定める。


命ごと吸い上げんばかりに魔力を吸い、集め、放つ。肘から噴射すれば推進力を得て、掌の六角形の穴から射出し敵を消し飛ばす。


右の握り拳を大きくつき出し、左腕で支える。


カチリ、と魔改造手甲の右のから十字の模様が付いたレンズが飛び出し、ショウは狙いをポリュグラスに定めた。


手首部分から、歯車が高速で回転する音が聞こえ、ショウの表情が疲労にまみれていく。


ギアポンプの要領で、手甲の先、掌に魔力を集めているのだ。


左腕、右腕の歯車によるダブルポンプでより濃密に魔力が圧縮されていく。右の握り拳の内側から、赤白い光が光輝く。


だんだんと右掌に集中し、魔圧による抵抗で歯車の回転が鈍くなる。震える右腕を左腕で必死に制御する。


「いけええええええええええ!!!」


ギアポンプの動きが止まった時、ショウは握り拳を大きく開き溜めていた魔力を解放させた。


放たれたのはショウの全てを込めた魔導弾。赤く猛々しい球が宙を舞うポリュグラスの腰部分に直撃し、大爆発を起こす。


その輝きはまるで恒星が超新星大爆発を起こしたようだった。


Tips 隠ぺいマント

人は常に体内から魔力を、その源になる生命エネルギーを発している。

隠ぺいマントは発せられる魔力を吸い、魔力感知から逃れることができる便利なアイテムだ。


完全に感知から逃れられるわけではなく、保有魔力がもともと低い人用のアイテムだったのだが、

魔族グルドと四魔神ポリュグラスが着ていたマントは見事に、2体から発せられる魔力を完全にシャットアウトした。

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