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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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1.圧迫面接②

ショウが驚いているのを「難しい職なのに凄い!」と解釈したのか、レイはえっへん、と胸を張って更に「自分がリーダーだと」と答えた。


(この一番頼りなさそうなのがリーダーなのか…)


ショウは目を見開いて驚いた。


他の三人が否定しないのを見ると、形なりにも本当であるようだ。ショウの心の中の首が、どんどんかしげていく。


「さあ、みんなも順番に自己紹介しなよ」


まず熟練者の風格を放っていた筋骨隆盛の四角い大男が言った。


「俺はゴルード、純戦士だ」


「専門の武器は…?」


ショウはたずねた。


「斧と槍だ。だが一通りは扱える」


純戦士とは、剣、槍、弓などを駆使して戦う戦士の総称である。


がっしりとした骨格に太い筋肉がまじまじと見え、その筋肉自体がまるで鎧のように見える。


顔や腕、いたるところにある傷は、彼の壮絶な戦歴を物語っており、武器を一通り扱えるという彼の言葉に偽りはないとショウは思った。


「私はシルクです。神官をやっております」


白い一枚布の貫頭衣と首から下げる緑色の長帯を身に纏う物静かな女性。目も閉じているのかと勘違いする程細く、表情も常に穏やかに微笑んでいる。


神の遣いである神官は、その賜った力で主に他人の能力強化など行うサポート職だ。首にかけられた金色の十字架は、敬虔な信者でかつ、優秀な神官であるという証拠である。


「私はガーネットよ」


最後に素っ気なく吐き捨てるように自己紹介をするのは、高級感溢れる深緑の魔法装束を身に纏った女性だった。言わなくてもわかる。彼女は魔導師だ。


魔導師は魔装具を使わず魔術を使用する事ができる職種である。魔装具を使う必要がない事は、大型魔法を使う事ができるという事であり、火力職とも言えるのだ。


くせ毛のある肩までかかったブロンドの髪の上には魔導師を象徴するとんがり帽子が乗っかっている。彼女の持つ黒い漆が塗られた木製の杖には、魔力球と呼ばれる魔力を制御する水晶がこれまた見事に紅く輝いていた。


彼女はこの三人の中で一番、ショウに鋭い視線を向けていた。もはや敵視レベルである。


ゴルードとシルクは大人としての落ち着きと、初対面の人に対する最低限の敬意をわきまえていたが、彼女だけは魔術にくらいショウであっても感じ取れるほどに警戒と疑念の感情を露わにしていたのだ。


「よ、よろしくお願いします。あの、ガーネットさん。でしたっけ。僕、何かしましたか?」


ショウは恐る恐る尋ねた。


「いいえ、別に」


「は、はあ」


(いや絶対何かあっただろこれ、思い出せショウ、何かやらかしたんだ)


記憶をたどるも、彼女との邂逅した覚えは無い。


そもそも、ショウは魔装具の素材集めに旅をすることが多く、ミスターシャに帰ってきたのもしばらくぶりなのだ。


何故自分の好感度が始めから負に振り切っているのか、何故一番青く弱そうに見えるレイがリーダーを務めているのかなど、疑問に思うところは多くあったが、これ以上好感度を下げず、懐疑心を上げないような聞き方をショウは思いつかなかった。かといってこの沈黙も不快である。


ひとまず仕事内容について話を進めることにした。


「それで、確認ですが。私は皆様の武器のメンテナンスとか身の回りの世話をすればいいのですね?」


「ああ、基本的には俺たちの武器のメンテナンスや壊れた時の修理、後は食事の準備。服は各々やる事になっているからそこはしなくていい」


答えたのはリーダーのレイではなく、純戦士のゴルードである。


「わかりました」


シルクはその細めでショウとゴルードの会話を静かに見つめ、レイはその話に入りたそうにそわそわ視線を交互に移している。ガーネットは会話に興味を示さないふりをして料理をバクバクと食べていた。


「それと、キャンプの守護についてだが」


「そこは心配しなくて大丈夫です。生存力には自身があります。先月も雪崩アヴァランチ山脈を越えてきましたので」


「……なるほど、それなら守ってやる必要はないな。俺は事情があってお前を守ることはできない。生存優先で動いてくれ」


「事情…というとレイさんの事ですか」


ゴルードは答えず、一度、酒の入った木のコップで唇を湿らした。ガーネット、シルク、二人の鋭い視線がショウに刺さる。


(あっ)


納期が急に狭まり、未完成のまま製品を納品してしまった時のような後悔をショウは覚えた。


「……気づいていたのか」


「ええ、まあ……違和感くらいは……」


「俺たちの現状の目的は、レイを一刻も早く立派な魔法戦士に育てる事だ。それまでは、傭兵としての仕事は一切請け負わないつもりだ」


「レイさんの現状は?」


「戦闘経験は一切ない」


「ぼ、僕は大丈夫だよ!」


レイは細い両腕を上げ、上腕二頭筋で山を作りながら必死に弁明する。中性的な声から感じる未熟さと、ぴっちりしたインナーからでもわからない上腕二頭筋には、説得力が無かった。


「まずはミスターシャの森でレイを鍛えようと思うのだが。ショウはどう思う?」


「それで良いと思います。あそこは強い魔物はおらず、傭兵初級者の訓練地にはもってこいの地です。資金については大丈夫ですか?」


「ああ。貯えがある」


「わかりました。それで、出発は明日からですか?」


「ショウさえ良ければ、そうしたい」


「わかりました。では、私はこれで」


ショウは立ち上がった。


「ショウ、どこへいくんだい?」


宿舎を出ようとするショウをレイが呼び止める。


「どこって、明日の準備です。野営設備とか簡易鍛冶道具とかを明日までに揃えなくちゃいけないので」


「そうか…仕事が早いね。せっかくなら一緒に食事でも、とは思ったんだけど」


レイはしょんぼりとしている。時刻は夜、明日出発なのだから、今から準備をしなければ間に合わないというのは正しいが、


重圧に胃が持たず食事をできる状況ではなかった、というのが本音である。


かといって、レイの好意を無碍にするのは忍びないのも事実。ショウは一時天井を見て「気持ちだけ受け取っておきます」と答えた。


「なら、代わりと言ってはなんだけれど……僕らはもう仲間なんだ。今後僕らに対する敬語はなるべく禁止……がいいんだけれど、いいかな?」


拒否してしまった後の譲歩的なお願いを断るほど、ショウは冷たい人間ではない。


ショウは微笑むと「わかった。よろしくな」と言い残すと宿を出て、自宅へと帰っていった。


Tips 傭兵

傭兵とは、戦争が起こった臨時に臨時に雇われる兵士である。

今は、魔物達との戦争中であり、魔物と戦う者たちを総称する場合もある。

魔物達はどこからともなく出現するので、国は傭兵ギルドという施設を立て、発見された魔物の討伐を傭兵達に依頼している。

魔物退治は安定した仕事ではないので、傭兵ギルドはインフラ整備などの仕事を手配したり、別の定職に就いている傭兵もいる。

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