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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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12.死闘① (ショウが棺に入るまで4時間)

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

意識が無くなったレイに止めを刺そうとしたその時、二体は異変に気付き、辺りを見回した。


部下である骸骨ボーンがバラバラになり土に還っていた。


魔術を極めし者であるはずの《グルド》が気づかない、暗殺の類。


そこには、一人の戦士がいた。


紺色の襟付き衣服の上に手甲、胸当てやすね当てなど、前面に最低限の防具を身に付けた男。フルフェイスの兜の形から、ポリュグラスは前に戦った戦士――ゴルード――を思い浮かべたが、その体格差から違うと判断した。


「誰じゃ、お主……」


《グルド》が戸惑いと怒り気を含んで声を出すも、返答はない。


何も言わず、刀身が無い片手剣を握って二匹の魔族に対峙している。


その人物は、ショウだ。


技術者という非戦闘員でありながらも、彼は覚悟を決め、二体の前に立っている。


(レイはもう自力で逃げる力は残っていない。そうなれば目の前の敵を全部やってレイを連れ帰るか……

いや、疲労しているグールマスターはともかく、目の前にいるのは四魔神ポリュグラスだ。

俺一人では到底敵う相手ではない。ミスターシャの国軍が来るまで時間を稼ぐぞ)


街を出る直前、重装備を揃えしミスターシャ王国直々の国防兵が城門に集まっているのを確認しており、事態を察知して向かっているだろうとショウは予測していた。


「何者じゃ、答えよ」


《グルド》の言葉を無視し、ショウは逡巡する。


「誰だと、聞いているんだ!!」


声を荒げた《グルド》が右手人差し指を向け、銃弾の如き岩をショウめがけて一発放つ。


ショウはそれを手に持った小盾で弾いた。


闇の力が付与されており、防いでも身体に痛みが走るが、いとも容易く弾いたことを相手に見せつけるためにショウは無反応を装う。


うろたえる《グルド》に、ショウは小盾を空に投げると、刀身の無い剣を両手に持ち、一気に接近した。


「盾を捨てるなど、気でもおかしくなったか?」


《グルド》が小石銃弾を連続で放つ。


だが、大きなものは捨てたはずの小盾、機械仕掛けの小盾メカニカルバックラーによって防がれていた。


「浮遊盾とは、愚かな」


《グルド》は浮遊する小盾の操作権を奪おうとする。が、効果はない。


「なんだと?」


(当然だ、メカバックは俺の意思で動いていないからな)


ぐんぐんと距離を詰め、間合いに入る。


《グルド》はショウの攻撃を防御するべく、氷のシールドを張ろうと魔力を掌に込める。


刹那、ショウのすね当てから何か小さな弾が飛び出し爆発、甲高い音を発した。


ポールがショウに攻撃するため、ミスターシャギルドの傭兵たちをひるませた音爆弾ギミックだ。


「なっ」


音に驚き、《グルド》はひるむ。削がれた集中力によって作られた氷の壁は、所々にヒビが入った不完全な状態だった。


「消えろ」


その低い声が《グルド》に届いた時には既に、ショウは必殺の間合いへと足を踏み入れていた。


《十手魔刀 一ノ手 刀剣》


手に持つ十手魔刀から蒸気が噴き出すような音とともに、白き半透明の刀身が生え、


逆袈裟斬りによって、《グルド》の身体が切り裂かれた。


「はああああ!」


《十手魔刀 三ノ手 手品マジックアーム


三ノ手はどこまでも伸びる腕である。


レイの飛び散った魔法剣の大きな破片を掴み、《グルド》の胸へ投げ、止めを刺した。

光の魔力を含んだ破片を《グルド》の体内に入れたことにより、絶命した《グルド》の身体は塵となって消滅を始めていた。


(お、おのれええええええ!!!!!)


《グルド》は消え行く中、集中力という魔導師の弱点を悔やんでいた。

ガーネットとの戦い、腕の再生による疲労、音爆弾が自分の集中を阻害し、魔術とは言い難い無属性の力しか扱えない戦士に打ち倒された。


《グルド》の乾いた身体は消え、塵になった《グルド》を運ぶかのように、ミスターシャ森に一凪の風が吹いた。


情報をくれたピップとポールの二人に心の中で感謝をし、ショウは最後の敵へと矛を向け、声を張り上げた。


「今、俺より強い奴がわんさかいるミスターシャの軍がこちらに向かっている。退くなら追わん、退け」


(頼む、退いてくれ)


高圧的に打って出る裏腹、兜の中のショウは一抹の希望を胸に抱き、神に祈る思いであった。


額に汗が流れる。フルフェイスで良かったと、ショウはこの時思った。


もう一体の魔族は、重く響く声で答えた。


「それは出来ない。今ここで部下が殺され、闇神王直属の部下も失った。私は仇を討たねばならない。そのためには、余は一騎当千となりえよう」


(……予想はしていたけど。やっぱり退いてはくれないか)


「余の名はポリュグラス。汝、戦士として名を名乗れ」


(やはりか……)


本で得た知識と、ゴルードの傍らに転がった兜を思い出し確信。


生ける、否、死してもなお存在し続ける伝説に、ショウは背筋が凍る思いがした。フルフェイスだからと、驚きと恐怖の表情は隠さない。


この魔族が一騎当千というのもハッタリではない。


身体が朽ち果てても魂として残り、戦いを楽しまんとするアンデッド族の頂点に立つ魔族。不死王ポリュグラス。

人間の大軍をたった一体で葬り、数々の軍師の精神を崩壊させた話は数多く伝説となって残っている。


彼により滅ぼされた国も少なくはない。


その魔神とも称される彼が、その程度の脅しで退くはずがなかった。


「断る」


ポリュグラスの問いかけに、ショウは冑を脱がず、少しくぐもった声で言った。


「名を名乗らぬのか、戦う前に素性を隠すのは騎士精神に反するのではないか?」


「生憎だが、俺は騎士でも戦士でもなんでもないんでな」


ポリュグラスは「ほう」と興味深そうに呟いた。


(まだか、まだ国防軍は来ないのか。隠蔽のマントを脱いだ今、ポリュグラスの存在は割れているはずだ。俺が街を出る時、既に国防軍派遣の準備は始まっていたはず。なのに何故まだ来ない?)


国防軍との戦闘に紛れ、レイを抱えて逃げるというのが、ショウの最後の思惑だった。


「まあよい。さあ、矛を交えよう」


ポリュグラスはまた、漆黒の薙刀を生成した。


魔力が奴の周りを漂い、殺意が重圧となってショウに襲いかかった。生きた心地がせず、まるで心だけが無重力下にいるような感覚に襲われる。


ショウは、唇を噛み締める。レイを助けるためには、あの強大な敵と戦うしか他に道は無い。

Tips 光と闇の魔力

闇の魔力を保有する者が光との戦いに敗れ、絶命した時、

身体に残ったわずかな光の魔力が、残存する闇の魔力と反応を起こす。

その反応時に身体が蝕まれていき、消滅に見える。

逆もまた然り。光の魔力を有する者は、闇との戦いで絶命した時、消滅する。

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