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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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11.憎光(ショウが棺に入るまで4時間)

レイは這う這うの体でミスターシャの森を走っていた。


― なんで僕は逃げているんだ

― 僕は立ち向かわなきゃだめじゃないか


何度も足を止めようとするも、自分の足がまるで言うことを聞かず、吸い寄せられるように街の方向へと逃げていく。


他の足音が聞こえた。


(助けが来たのか? なら早くみんなを……)


だが、灯った期待の光は、骨がカランコロンと鳴る音と迫る邪悪な気配によって消し飛ばされた。


敵だ……骸骨ボーンである。


(く、くそう……)


恐怖で全ての感情が塗り潰され、レイはまた前のめりに走り出した。

悲鳴混じりの息を荒げ、必死に走るも、身軽な骸骨ボーンたちの方が速い。

追い付いた骸骨ボーンたちは朽ちた剣やこん棒でレイに向かって襲いかかった。


迎撃するべく魔力を込め、レイは魔法剣を振り回す。魔法剣から炎が噴き出し、1体の骸骨ボーンを焼き、さらにもう1体の骸骨ボーンの腕も剣で叩き折った。


「うわっ!」


折れた腕の骨に足元をすくわれ、レイは転んでしまう。

好機を逃すなと言わんばかりに骸骨ボーンたちはレイを取り押さえた。


「離せ!! 離せ!!」


じたばたと暴れるも多勢に無勢、すぐに骸骨ボーンに組み伏せられ、ボコボコに殴られ続ける。

ショウが調整してくれた堅牢な鎧のおかげで、耐えられはするが、痛い。


骸骨ボーンに二度もやられるなんて、僕はあの時から何も成長してないじゃないか……)


この二週間の修行で、はぐれ狼を一人で倒せるくらいに成長した、そうレイ自身も思っていた。だが、結局は三人が後方にいてくれたからこそ、討伐できたに過ぎなかった。


一人では何もできない、何も変わっていなかった。レイは血が出るほどに唇を噛み、心の痛みに耐える。骸骨ボーンの攻撃に比べたら、この心の痛みは屁でもなかった。


やがて、自分たちのリーダー的存在である老魔族グルドが現れ、骸骨ボーンたちは殴るのをやめ、場を開けた。


「ぜえ…ぜえ… 本当にこやつが光の戦士だと? 弱くてあきれるわい。」


ゴルードに切られた左腕は再生している。再生に魔力を幾分か割いたのか、疲労に顔をにじませている。


「そうだ………奴が光の戦士だ」


「ポリュグラス様?」


ズシリと重い足音を立てる音が聞こえ、闇の重圧にレイの背中に重くのしかかった。

傷だらけの重厚な鎧に身を包み、兜が無い……いや、そもそも首がない大きな戦士、ポリュグラス。

右手に持つは血塗られた漆黒の薙刀。それはゴルードの敗北を表しており、レイの狼狽は極に達した。


「兜の方は…」


「くれてやった。素晴らしい 相手だった」


首元の何もない空間からポリュグラスの低く重い声が鳴り響く。ポリュグラスの鎧の隙間から黒い霧が噴き出すと、ポリュグラスの鎧の傷がみるみる消えていき、新品同様の輝きを放った。


「奴から微かだが 光の魔力を感じる、間違いないだろう」


「ポリュグラス様がそうおっしゃるなら間違いないでしょう。小僧、あの愚かな三人組のように、貴様も葬ってやる」


(愚か…だと……)


3人との思い出がレイの脳裏を横切った。


まるで牢人のように城の中に閉じ込められ、生まれながらにして忌み嫌われる存在であったレイ。


そんな彼に、初めて優しく接してくれたのがゴルード、シルク、ガーネットの三人だった。


あの時、3人がレイについて話している時も、彼は起き、涙を流しながら聞いていた。


自分が疎まれし、歪んだ存在だと知っていても彼らはなおついてきてくれた。愚かな訳が無い。


怒りがみるみる身体の中を駆け巡り、脳内を染める。


(許さない……ゴルード、シルク、ガーネットは僕の大切な人だったんだ。それを……それを………それを!!!!! お前は!!!!!)


怒りに身を任せ、立ち上がろうとしても身体が動かなかった。


走り疲れ、骸骨ボーンに殴られ身体は限界寸前、それに加え闇の圧力で身体がすくんでしまったままだ。


(動け、僕の身体。動け動け、動け!!!! 動けよ!!!!)


その思いは虚しく、ただレイは地を這うだけである。


―レイ チカラ ガ ホシイカ


言葉が脳裏に響いた。声ではない、脳に直接言葉が染み込んでいくような感覚だ。


―チカラ ガ ホシイカ ?


(うん、欲しいよ)


―ナラバ カンジョウ ニ ミヲ マカセロ


(感情に?)


頭の中にあるのは怒りと憎しみ、レイはそれらは悪い感情だとシルクから教わったことを思い出し、感情を払おうとする。


(ダメだ、憎しみは闇の感情だって…)


―チガウ コレハ セイサイ ダ


(制裁?)


―ソウダ コレハ ヤミヘノ セイサイ ダカラ カンジョウ ニ ミヲ マカセロ


これは、レイの大切な人たちだった3人を、ミスターシャの森にいた人たちを殺した闇の眷属への、制裁。いや、聖裁だ。


秩序を重んじる光としては、納得のいく動機。


(そうか、これは光の制裁)


―ヤミ ハ アク ダカラ ヒカリ ヲ モッテ ホロボセ


(………そう、だね)


身体を激情が走り、脳裏が焼かれ、頭の血が沸騰する。

その時、レイの身体からふつふつと輝くオーラが湧き出し、彼の身を包んだ。


「許さ、ない」


レイはゆっくりと立ち上がる。

殺意のこもった眼光が、グルドとポリュグラスに向けられる。

髪や衣服は逆立ち、光の魔力を吐き出すその姿はとにかく眩しい。


ありったけの光の魔力を込められた魔法剣は、闇が触れれば一瞬で蒸発しそうに思えるほど、白く輝いていた。


「おお、まさかこれほどとは」


「下がれ、余が相手をしよう」


感嘆の息を漏らすグルドの前に、ポリュグラスが一歩進み、薙刀を構えて立ちはだかった。


レイも呼応するようにポリュグラスに向き直り、二人は対峙する。


「うおおおおおああああああああああ!!!!」


白く光る魔法剣を掲げ、ありったけの力を込めてレイはポリュグラスに突撃した。


怒りを乗せたまっすぐな一撃を、ポリュグラスは漆黒の薙刀で受け止める。

光と闇の火花が散り、衝撃で骸骨ボーンたちは吹き飛ばされた。


「ぬう」


受け止めた漆黒の薙刀の剣先にヒビが入り、粉々に砕け散る。


ポリュグラスの薙刀は非実体剣であり、レイの力の方が勝っていたのだ。


首無しのポリュグラスは一歩引き、レイの攻撃をかわそうとした。

だが、レイはさらに一歩踏み込み、身を屈めてポリュグラスの背後に回り込むと、背中を大きく切り上げた。


強固な鎧に守られ、斬撃は急所には届かなかった。

だが、ポリュグラスのカモフラージュが剥がれた背中には、深い×印の傷が浮かぶ。


背中を斬られたポリュグラスは踵を返し、体勢を立て直すべく大きく後退し、腰にある4本の剣を抜こうとした。


「逃がすかあああ!!」


レイはすぐに向き直り、魔法剣を背に構えて再び突進を仕掛ける。

殺人的な加速に、骨や肉がミシミシと悲鳴を上げるも、何とかこらえ、ポリュグラスの正面に光り輝く魔法剣を突き立てた。


その時だった。


突然、爆発音とともに、レイの手に握られた魔法剣が粉々に砕け散った。


飛び散った魔法剣の欠片が、レイの身体のあちこちに刺さり、勢い余ったレイは倒れて、ポリュグラスの横を通過し地面を転がる。


「そ……んな…どうして…」


「ほっほっほ、光のエネルギーに剣が耐えきれなくなったのか、滑稽なことだ!」


グルドが高笑いをあげた。

彼の言う通り、レイが放った光の魔力の出力は魔導師を超えるほどの量。

魔法剣の内部にある魔装具の安全率をはるかに超え、耐えきれなくなった魔法剣が内側から破壊されたのだ。


「く、くそう…」


そう小さくレイは呟き、血を流しながら地面に何度も拳を力なく打ち付ける。


身体を纏っていた光の魔法は既に消え去り、膨大な魔力を使用した影響で意識も途絶えかけている。まさに万事休すの状態だった。


「さらばだ」という声を聞き、絶望の中、死を確信したレイは目を閉じた。

Tips 実体剣と非実体剣

鋼でできた<実体剣>と無属性の魔力を成型して造った<非実体験>を打ちあわせると、勝つのは質量を持つ実体験である。

しかし、<非実体験>はその軽さ故に素早く振れることが特徴だ。携帯性も抜群なのもイイ。


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