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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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10.盟友の誓い③

レイの話を聞き終えたとき、ショウは「そう、か」と頭を垂れながら呟いた。


流れる沈黙。四人の中心にある焚き火が、チリチリと音を立てている。


暗がりの中、うつむくショウの表情は三人には見えない。だが、相手の心を読み取れるガーネットが、彼の思いに気付いた。


「泣いて、いるのね」


「その話を聞いて泣かないやつがいるか」


ショウが顔を上げる。その目は潤み、充血しており、顔色もほのかに赤い。

彼の涙には、悲しさと怒りが込められていた。


ガーネットは赤いハンカチをショウに手渡し、ショウはお礼を言ってそれを受け取る。


「ゴルード、シルク、ガーネット。俺も決めたよ。俺はお前たちとともにレイを立派な戦士に育て上げる。レイは変わる必要なんて無い。レイを育て上げて、立派な武勲を立てて、国王にしてやる」


ショウの表情は真剣そのものだった。

シルクはうんうんと頷いており、ガーネットは口角を少し上げ、ゴルードは感極まった顔で夜空を見つめていた。


「うん、そうだな。それがいい」


何かを呟いてから膝を打ち、ショウは立ち上がった。


「皆が俺を信頼してすべてを話してくれたんだ。俺も皆に全てを話そうと思う」


ショウは、自分がこの依頼を受けるに至った経緯、そして三人の詳細を調べるよう依頼を受けていたことを正直に話した。もちろん、ポトフたちが三人の身元を既に掴んでいることもだ。


「なあんだ。それなら大丈夫そうね」


皆を裏切り、情報を売っていたことを報告し、緊張に包まれるかとショウは覚悟していたが、ガーネットたちの反応は意外なほど薄い。むしろ、安堵した様子だった。


「そうなのか?」


「ええ、私たちはショウがレイ様についてすべてを知っていて、かつ行動をすべて国に報告している者だと思っていたからね。私たちの素性については、すでに国の結構な人が知っているわよ」


「不思議ですね。アルマス社を外すように依頼を出していたのですが、アルマス社が私たちについてまったく知らなかったとは」


シルクは腕を組んだ。


「ポトフとは付き合いは長いが、嘘をつくのが下手だ」


「確かに、城内で何回か顔を見たことがあるけれど、言われてみればそんな顔しているわね」


ゴルードが尋ねた。


「ショウ。なぜ、この不透明な依頼を受けようと思ったんだ?」


「そうだな」


ショウは首をかしげ、視線を落とした。


「……実は、俺にもよくわからない。不透明な仕事は給金をもらえないリスクもあるし、一仕事を終え、長期休暇を取ろうとしていたところだった。いくら恩人であるポトフの頼みといえど、断るのが合理的だな。……なんでだろう、な」


おそらく、とショウは夜空を見上げた。


「最初は、あのときの失敗が俺を動かしているんだと思ったんだ」


「失敗?」


「ああ、俺は昔、似たような傭兵パーティーの内勤技術士を務めたことがあるんだ。

それで、皆死んでしまったんだよ。パーティーを滅ぼした敵はもちろんいたが、俺の技術ミスもあった……」


トラウマを呼び起こしたのか、ショウは苦虫を噛み潰したような表情で、つぶやくように言った。


「今でもときどき、あの時の記憶が悪夢になって出てくるよ。トラウマを克服するには、乗り越えて成功するしかない。だから依頼を引き受けたと思っていた」


―でも今では、違うことがわかった―


と、レイの寝るテントの方向をちらっと見た。


「トラウマを植え付けた敵とは既にケジメをつけているし、似たような仕事を成功に導いたところで過去のトラウマは拭えない。やっぱり、レイだ。レイは優しい。純真だ。

純真過ぎて困るところもあったけど、今では反省して教えたこと全てを自分のものにしようと頑張っている。本当に教えがいがある。

久しぶりにやりたいと思えるようなことができた。今では、依頼を引き受けて良かったと、心から思うよ」


と、温かい笑顔を浮かべる。


この二週間、レイは叩いても響かず脆い鋳鉄から、強く粘り気があり、打てば美しい音色を響かせる鋼鉄に変化した。

その達成感が、さらにショウのやりがいを突き動かしているのだ。


「ショウさん、これを」


シルクはショウの話を聞き、満足そうに頷くと、一枚の紙をショウに渡した。


「これはミスターシャの金庫の場所と、その番号です。私たちの身に何かあった時は、その金庫を開けてください」


紙の中身を見て、ショウは驚いた様子で言った。


「何を言っているんだ、まるで……」


ショウは言いかけた言葉を飲み込んだ。「まるで皆がこれから死ぬみたいじゃないですか」その言葉を言いきる前に、ショウは察したのだ。


疎まれし光の勇者の過酷な旅。国からのバックアップはなく、時には操り人形として死地に出されることだってある。三人の覚悟は、既に決まっていた。


「後方にいるあなたが一番生き残りやすいの。もしもの時は、レイ様をよろしくね」


「ショウさん、今、貴方の無事を神の前で祈らせてください」


と、シルクは首の十字架を握る。


ショウは頷き「わかった、でもその前に」と言うと、シルクから貰った紙を胸ポケットに仕舞い、立ち上がって握り拳を突き出した。


三人は奇妙なものを見るような目で、その拳を見つめる。


「遠い故郷の風習です。四人の結束と決意を、拳を軽くぶつけることで誓い合い、より強いものにします」


「聞いたことあるか? シルク?」


「いえ」


「でも、いいんじゃない?」


三人はショウの動きを真似するかのように、立ち上がり、突き出された拳をぶつけ合った。


ショウは、レイのパーティーの本物の一員になった。


※※※


「くそっ! くそっ! くそぉぉぉぉぉ!」


間に合わなかった。


ショウは三人の亡骸を前に、胸がつぶれる思いで膝に拳を何度も何度も打ち付けていた。


これで二度目だ。


パーティーの内勤として働き、自分だけが生き残る。


最初のトラウマがショウの頭を駆け巡っていた。


ショウは膝をつき、キリキリと鳴るほどに歯を食い縛って涙を流した。悔しさが涙となって、声になって漏れる。


自分がもっと速く帰っていれば、という後悔が頭の中を駆け巡る。


(そうだ、いや、まだ全滅はしていない。立ち上がれ、まだやることはあるだろう! ショウ、やれ、やるんだ。手遅れにならないうちに。さあ! さあ!)


そう自分に言い聞かせ、なんとか立ち上がる。


レイの亡骸は見当たらない。三人が命を賭けて守ってくれたに違いない。


そして、三人を殺害した犯人の姿も無い。あるのは、なにかシワだらけの象牙色の腕と、ゴルードの斧がめり込んだ銀色の傷だらけの大きな兜。


ショウはその兜を手に取る。普通の兜の二倍くらいはある大きさだ。中身は空、打ち取ったという訳ではなさそうだ。


(これは…一体なんだ?)


土の魔装カードを取り出し、魔力を込め、兜の素材解析を試みる。


ダイヤモンド並の硬度を持ちつつ、金属の展性、叩いて薄く広げることのできる展性や引っ張ると伸びる延性を兼ね備える謎の素材。


(敵の兜ながら感動を覚えるこの感覚、この素材や加工技術は、まだ人は持ってない、間違いなく魔族だ。こんなシロモノを持っているから、魔族の中でも上の存在と思っても良い……奴等はまだレイを追っているのか)


一つの希望と、それを蝕もうとする闇。


持ってきた相棒は機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)、武器は十手魔刀じゅってまとう、防具は紺色の作業着のみだ。


自分一人でできるだろうか、という不安が募る。


自分は伏した三人よりも弱い、三人が束になって勝てなかった相手に、勝算はない。


(いや、できるだろうかじゃない、やるしかないんだ。今逃げれば俺はずっとトラウマを引きずって生きることになる。それは嫌だ。あの時のような事をまた起こさせたくはない。なにより、レイを、レイを助けたいんだ)


「みんな、俺に力を貸してくれ」


ショウはまずシルク、ガーネットの亡骸にそれぞれ手を合わせる。


次に、ゴルードの元に行き、手を合わせると彼のフルフェイスの兜を取った。ゴルードの目を閉じてやり、彼の最期の戦果の証であるバトルアックスの刺さった敵の兜をゴルードの亡骸の傍に置く。


レイのものと思われる足跡がある。その方向に感覚を研ぎ澄ますと、懐かしい確かな濃い闇の気配がそこにあった。


素人であってもわかるこれだけの闇の気配、レイに危機が迫っていることは間違いない。


「誰か!助けてくれえ!」


意を決し、走ろうとした時、どこからか呻くような声が聞こえた。


(くそっ 一刻も早く行かなきゃいけない時に)


苛立ちを覚えつつも、ショウは様子を見るためにゴルードの兜を浮遊する機械仕掛けの小盾の上に乗せ、迂回する。


「お前は……!」


そこには怪我をし、倒れているポールとピップがいた。

お互いに目を合わせ、あの時のこと―ピップとポールがショウの手間賃を踏み倒したこと―を思い出し、苦い顔をした。


「ひっ 生首!」


お盆のように機械仕掛けの小盾に乗っかっている傷や血のついたゴルードのフルフェイス兜を見て、ピップが叫ぶと、表情がみるみる恐怖に染まっていく。


「あの時は悪かったよぉ だから助けてくれよ」


二人の首には、銅の首飾りがあり、降格処分になったことを表している。


(一刻も早くレイを助けなきゃいけないのに…こんなことなら耳栓でも詰めておけばよかった)


今持っている塗り薬や包帯もレイ用、携帯用故、今使えばレイの分が不足してしまうかもしれない。


だが、ここで二人を見捨ててしまえば罪悪感が芽生え、この後に起こるであろう戦いに支障が出るかもしれない。


「くそっ」


ショウは作業着のポケットから薬や包帯を取り出し、ピップとポールの応急手当を始める。


幸運にも、二人の応急修理をしたことは、結果的に利益を生むことになった。


彼らは二体の魔族の姿を見たらしく、一体はマントを着込んで巨体という特徴しかわからなかったが、もう一体は弱っていたという。


「見れば腕を失って苦しそうにしてたから、狩れると思ったんだ。で、このザマさ」


包帯を巻いてもらっているピップが言った。


「魔族、なのか?」


「ああ、喋っていたからな」


「……《死喰い使い(グール・マスター)》」


ポールがポツリと呟いた。口数は少ないが、物事を良く知っている。今まで巻き上げた武具防具を売りさばいたのは、彼の手腕だ。


(《死喰い使い(グール・マスター)》 最近骸骨〈ボーン〉の出が多いと思っていたのはコイツのせいだったのか)


包帯を結び、二人の応急治療が終わった。そこまで傷も深くはなく、もう大丈夫だろう。


ショウはポケットから小さな箱、魔装具箱を取り出し、ピップに握らせた。


「この魔装具に魔力を込めれば煙が出る。ミスターシャ国防軍が動いているからすぐに来てくれるはずだ。できるか?」


「ああ、それくらいなら」


「それと、防具を貸してくれないか?」


「ああん? 一体何に使うんだ?」


「助けなければならない人がいる。俺が付けるんだ」


「お前……まさか戦う気か? 頭イカれてんのか?」


「正気だ、頼む」


「だ、だがよぅ」


ピップは苦い顔を浮かべた。二人は降格処分を受け、半ば謹慎中の身にあり、仕事も満足にさせてもらえない状況なのだ。


防具を渡してしまえば、数少ない傭兵としての仕事もできなくなり、路頭に迷うことになる。


「オイ」とショウの背中で声がした。


「俺達、コイツへの金。結局、払ってない」


見るとポールが無言で自分の防具を脱ぎ、ショウに差し出している。


「……ああ、わかったよ。出せばいいんだろ出せば」


とピップも自分の防具をショウに差し出した。


「脛当て 音爆弾 ある 役に 立つ」


「ああ、あの時の」


「だがよ、俺たちのサイズじゃ合わねえんじゃねえか?」


「俺は技術者だ、走りながらでも自分で合わせる」


「技術者に戦えるのか? 国防軍を待ってからの方が……」


「間に合わないんだ! それでは!」


ショウが被せるように叫んだ。


「すまない、防具は必ず返す」


ショウは二人に頭を下げると、サイズがすぐに合わせられそうな防具を掴み、走り去った。


ピップとポールの二人はその後、無事保護されたという。

Tips ピップとポール

亡くなった傭兵の遺品の修理をショウに押し付け、銭を得ていたコンビ

捕まったあと、ミスターシャのギルドに絞りに絞られ、重い厳罰を受けそうになった。

だが、被害者の1人であるショウの働きで軽い処分で済み、2人は改心した。

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