10.盟友の誓い②
純戦士ゴルード、魔導師ガーネット、神官シルクは、その界隈でも名の知れた凄腕たちだったというのは既に述べた。
そんな彼らが超高額の報酬で、または神に選ばれた者としてレイの元に派遣され、パーティーを組むことになった時、当初はレイのあまりの弱さに皆あきれ返ってしまったという。
その弱さは、ミスターシャの森にすら足を踏み入れられないほどのものだった。
とはいえ、ガーネットは国命であり、シルクはミスターシャに新たな教会を建てる約束があり、ゴルードは金が必要だった。三人とも断ることはできなかった。
しかし次第に、彼の太陽のような明るさや前向きさ、困っている人を放っておけないひたむきさに三人は惹かれ、レイを立派な魔法戦士に育てたいと、戦闘や魔術の手解きを始めた。
レイの異質さに最初に気が付いたのは、シルクだった。
彼の発する魔力から微かに滲み出る、別の力。
それが世の中を明るく照らす「光」であると気付いた時、シルクは彼が光を率いて闇を打ち払う《光の戦士》であると悟った。
《光の戦士》。
それは、大いなる闇と戦う運命を背負わされた者。
闇あるところに光あり。
大いなる闇が現れ、魔物が活発化した時、必ず現れる希望の存在。
それは一人だけではなく、各地に点々と生まれ、協力し合って強大な闇を打倒していく。
その運命を遂行しやすくするためか、光の魔力を魔物の遺体に付与するとたちまち霧散する。逆もまた然りで、例えるならば酸性とアルカリ性の中和反応のようなものだ。
レイの光に気が付いた時、シルクは自分たちが集められた理由を理解すると同時に、疑問も生まれた。
垂涎という言葉では言い表せないほど、待ち望んでいた光の戦士を、なぜ公表しなかったのか。
二百年前の光と闇の大規模な戦いを境に姿を消した光の戦士。
一方、三十年前からまた「闇」の動きは活発になってきているのに、それに対抗する「光」の存在は一向に現れなかった。
そんな中で現れたはずの「光の戦士」レイが、国外どころか国内にも公表されていないことに、シルクは強い疑問を抱いた。
また、この年齢になるまで戦士としての教育が施されてこなかったことも不自然だった。
レイは光の戦士として教育するには遅すぎる。歴史書によれば、光の戦士は幼年から剣や魔法の修行を積んでいたとある。
レイはすでに十六歳だ。
シルクはこの事実を、レイが寝静まった夜、ガーネットとゴルードに伝えた。
「そんな……私たちの依頼は光の戦士のパーティーに加われってことだったの?冗談じゃないわ。光の戦士は、それに関わった人も含めて過酷な運命をたどっているのよ」
ガーネットが怒気を孕んだ口調で言った。
「ガーネット。お前は降りるべきだ。君はまだ若い。ミスターシャには君がいなくてはならない」
ゴルードの言葉に、シルクも頷いた。
ガーネットは予想外の言葉に口ごもり、
「降りるなんて一言も言ってないわよ……私がいないと、誰がレイの魔術の指導をするのよ」
と、バツの悪そうにそっぽを向いた。
ゴルードとシルクは、レイが苦難多き光の戦士だと知りながらも、彼についていく決意を既に固めていた。
レイの人柄の良さ、前向きさ、明るさ、正直さを三人の誰もが認め、惹かれ、依頼の枠を超えてでも彼を立派な魔法戦士に育てたいという思いがあった。
そして、光の過酷な運命に抗えるだけの実力も、彼らにはあった。
「シルク。彼は本当に光の戦士なのか?」
「ええ、まだ僅かですが、彼の力は本物です。ガーネットさん、あなたのミスターシャ内のコネを使って、レイ様についての調査をお願いできますでしょうか。もちろん、貴女の立場に支障が出ない程度で構いません」
ガーネットの一族は、ミスターシャ内部に深い繋がりを持ち、自由に王宮内を行き来できるほどだった。
その調査結果が出たのは、しばらく経った後のことだった。
レイのファミリーネームはミスターシャ。
本名は――レイーシャ・ミスターシャ。
彼はミスターシャ王国の、隠された末王弟だった。
彼がなぜ公の場に出ないのか。
それは、彼が“不義の子”であったからだという。
今から十七年前の話だ。
当時、ミスターシャで魔族に国を売った凶悪犯の女が捕らえられ、ミスターシャ前王に差し出された。
その女は、次のターゲットとしてミスターシャを狙っていたという。
当然、国内ではその女の処刑を求める声が上がった。
だが、その女は言葉では言い表せないほどの絶世の美女だった。
サファイアのように澄んだ瞳と、絹のような金色の髪を持ち、ミスターシャ前王は一目で心を奪われた。
前王は兵に荒事を禁じ、牢に通い詰め、その女と関係を持ち、子を設けた。
その子が――レイだった。
噂は国中に広まり、前王への批判は高まり、革命寸前にまで至った。
王宮は事実を否定するため、その女を処刑するという苦渋の決断を下した。
不義の証拠ともいえるレイの処分も検討されたが、前王は母に似た無垢なレイを殺すことだけは許さず、その存在を隠蔽した。
その前王が亡くなったのは昨年。
死の淵で、前王は驚くべき言葉を残した。
――「レイは、光の魔力を持つ子だ」
慌てた王宮の高官たちが調べると、微かではあるが確かにレイの体内には光の魔力が流れていた。
二百年待ち望まれた光の戦士の資質を持つ子。
だが、彼はあの凶悪犯の女にあまりにも似すぎていた。
もし活躍しすぎれば、彼が不義の子であることが暴かれ、王国の威信が崩れる危険もある。
そこで、現ミスターシャ国王は考えた。
(彼を御旗に利用しよう)
人間と魔物の戦力は、おおむね拮抗していた。
二百年前の大戦は、その均衡が破れ、星のあらゆる生命が絶滅寸前まで追い込まれた戦いだった。
いま、再びその戦いが訪れようとしている。
しかし人間側は士気において魔物に劣り、指揮官たちを悩ませていた。
特に、長く平和が続いたミスターシャでは顕著だった。
現国王は、光の魔力を持つレイを兵士の先頭に立たせ、闇を打ち払い、兵士たちの士気を奮い立たせようと考えた。
そのために、王宮の片隅に閉じ込められ、世界も戦いも知らぬレイを少しでも活躍させようと、純戦士ゴルード、神官シルク、魔導師ガーネットという三人の英雄を指導者につけたのだ。
結局、ミスターシャは人類の希望よりも、自国の安定を選んだのだった。
「レイを領土拡大の駒にするつもりか……」
怒りを抑えきれず、ゴルードはテーブルが割れんばかりに拳を叩きつけた。
「ええ。現国王は領土拡大に躍起になっているわ」
ガーネットが静かに続ける。
この世界には、魔物討伐において各国間で定められた重要な条約がある。
《魔物占有領土における優先権条約》
それは、魔物に占領された土地を奪還した者に、その土地の権利が与えられるというもの。
闇に支配された魔物討伐に各国が積極的になるように定められた条約だった。
「駒……それも、捨て駒だ」
「どういう意味だ?」
ゴルードが問う。
「レイ様は母親に似すぎている。活躍しすぎれば素性が露呈する。だから適当なタイミングで戦死させ、英霊として祀り上げ、士気の象徴にする……それが現国王の狙いよ」
「待ってください」
シルクが手を挙げた。
「いくら不義の子とはいえ、唯一の光の戦士をそんな形で失うなど、王宮はそこまで愚かですか?」
「それが……違うのよ」
ガーネットが低い声で言う。
「違う……?」
「これは、まだ確証が取れていないのだけれど……」
一呼吸置き、ガーネットは続けた。
「現国王に、光の御子が誕生したらしいの」
「……そんな……」
シルクは絶句した。
だが、全ての謎が氷解した。
それならば、現国王にとってこれ以上の好機はない。
王位継承は新たに生まれた御子に任せ、育成期間中はレイを旗印に使えばいい。
そして適当なところで戦死させ、王国の爆弾を不発のまま処理できる。
「腐ってやがる……」
ゴルードの拳が震えた。
自分たちが、国王の掌の上だったと知ったのだ。
「ええ……許せないわ」
ガーネットも顔を伏せる。
「俺はレイの味方でいる。帰還命令が出ても、国が敵に回っても俺はレイにつく」
「私も同じ思いです」
シルクも頷いた。
「ガーネット、お前の故郷はミスターシャだ。俺たちについていけば、家族や友人に迷惑がかかるかもしれない」
「いいえ」
ガーネットは首を振る。
「私も同じ気持ちよ。……もしもの時は、私も国を見限るわ」
こうして三人は、レイについていくことを選んだ。
彼に対する純粋な思いと、彼に過酷な運命を課したミスターシャへの怒り。
その二つが、三人を固く結びつけていた。
「レイの育成を急ピッチで進めよう。ミスターシャの森へ向かう。……シルク、内勤技術者を雇え」
「よろしいのですか?」
「レイの育成のためだ。今後のことも考え、ミスターシャに繋がりのあるアルマス社の人間は避けろ」
「承知しました。ギルドに依頼を出しておきます」
その日のうちに、シルクはギルドに依頼書をしたため送った。
だが手違いで、その依頼はアルマス社ミスターシャ支社長ポトフのもとに届き、ショウが彼らの内勤技術者として送り込まれることになったのだった。
そして、初対面のショウに三人が不信感を抱いたのは、こうした経緯があった
Tips《魔物所有領土における優先権条約》
魔物によって占領された土地を奪還すれば前の持ち主に関わらず奪還した物の土地となるという条約
この条約によって人の国同士の戦争がピタリとやみ、どの国も魔物討伐にいそしむようになった。
現在大陸の50%が魔物が占有しているエリアである。




