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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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8.不穏③

<ゴルード・バラード>


弓、槍、盾などほぼ全ての武器を巧みに扱う事のできる全能型の純戦士だ。


出身はかつて滅びし国。彼は祖国を失ったさすらいの傭兵であったが、先のミスターシャを襲った大戦で輝かしい武功をあげ、栄誉国民として国籍と財を与えられた成り上がりの傭兵だ。


彼の一番の武器はその“勇気”である。


常に危険な役回りを買って出て、前の大戦では常に殿(しんがり)を務め、斧をふるい、敵を玩具のようになぎ倒していく姿は、味方にも恐れられるほどだった。


その“勇気”は栄誉や勲章を与えられた後でも健在であった。有名になった後も危険な任務に進んで参加し、確かな戦果を挙げ続け、一部では勇者だとも言われた。


彼のもう一つの特徴として、派手さを競い合う傭兵達とは違い、量産品の武具・防具を好んで使った事が挙げられる。


もともとは身分が低く、極貧生活を強いられていた故でもあったゴルード。生活に余裕ができた後も、自分に一番合っていると量産品の武具を使い続け、装飾は斧の銅メダルを兜に付けていたくらいだ。


日々傭兵達の複雑形状な武具・防具を修理させられている鍛冶師にとっては、彼はありがたい存在だという。


<シルク・ベルク>

彼女もゴルードと同じくミスターシャ出身ではないが、恒神教発祥の地である亡国の近くにあるセイントという国の出身で、神官の修行を続けてきた叩き上げの神官である。


彼女には逸話がある。


大戦時、ミスターシャがセイントに治癒術を得意とする神官の派遣を依頼した所、やってきたのはシルク1人であった。


通常ならば神官1人1日2回程度といわれる治癒効果を持つ祈祷術。派遣されたのはたった1人の神官だと当時のミスターシャの戦士達は見捨てられたと恒神教に対し憤りを感じ、ミスターシャの教会に石を投げこむ者もいた。


しかし、戦況が苛烈を極めた時、彼女への評価が180°変わった。


超越的なスタミナと信仰心を持つシルクは、1日100人を超える治癒術を軽々と迅速にやってのけた。時には自分に治癒術をかけながら、背負う二本の聖銀剣を振るい、負傷し戦士達の退却の時間を稼いだりし、ミスターシャの勝利に多大なる貢献をした。


戦争が終わったあとも、彼女は祈り手(プレイヤー)を神官へと育成する教会をミスターシャに建て、国防軍だけでなく、傭兵達の生還率にも陰ながら貢献している。


<ガーネット・プラント>

彼女はミスターシャの奇跡とも言われる天才魔導師だ。


ガーネットは他の二人に比べて若く、戦果も無い。だが、才能という面で見ればゴルードとシルクを凌駕する。


ミスターシャの貴族の出身であり、産まれながらにトップレベルの才能を持つ少女は、すぐにその才能を開花させ、次々と人知を超えた魔術を発明した。


彼女は火・風・雷・冷・土の5属性の魔法全てに明るい。一般魔導師ならば生涯をかけて修められるのは1属性という常識を、15歳のとき打ち破り、世間を騒がせた。


さらには、新しい魔法の開発でも名をはせている。<転移(てんい)>は彼女が開発した魔術の一つで、魔法球の元となる宝石を消費して発動する、資源的にも魔力的にも高コストな魔法。


彼女にはその魔法をやってのける魔力量と魔術センス、そして経済的な背景を持つ。魔装具が発展の萌芽を見せている今でも、魔導師という地位を不動のものにし、魔装技術者に立ちはだかる天にも届く壁として君臨している。


「そうだ、この人たちだよ」


ミスターシャ支部の社長室で、依頼主の素性についての書類を読み込んでいるショウはその経歴の凄さに驚いた声をあげる。


「どれもミスターシャでは有名な人だよ、ショウ。どうして今までわからなかったんだい?」


ショウの上司であるポトフは赤いテーブルクロスの敷かれたデスクに腕を置き、半ば呆れながら言った。


「各国をめぐる仕事柄。こういった事には疎くて…レイの方はどうかな?」


「国の高官にも聞いてはいるのだが、どうも彼に関してはまだよくわからなくて……ミーシャは何か知っているかな?」


「いえ、ぜんぜん」


金の装飾が施されたティーカップを白く滑らかな布で磨きながら、ミーシャは首を振って答えた。


「彼ら彼女らが最近姿を見せず、とある任務についていると聞いていたが。まさかショウと同じ任務だったとは」


「こんなにも凄い人がついているのだから、そのレイさんって人は、やっぱり凄い人なんじゃないの?」


「だと思う。けれど、いくら大臣の方々に聞いてもレイという人物自体、聞いた事がないって言うんだよ」


二人がレイについて話す中、ショウはレイに付き従うゴルード、シルク、ガーネットに関する資料を読みこみ、それをポトフへと返した。


「まあ大丈夫だろう。引き続き、俺は任務を続けるよ。レイについては、もう調べなくても大丈夫だと思う」


「いいのかい?」


「ああ、みんな悪い人じゃない。むしろレイは純真すぎて困っているよ」


「そう、か。ああ、よかった」


肘を机に置き、厚い口ひげが目立つ口角を上げると、ミーシャの淹れてくれた紅茶を口につけた。


「なら、引き続き頼みたい。任せて大丈夫か?」


「ああ」


ショウの表情は、いつにもまして明るく輝いている。年相応の笑顔だ。


それを見たポトフは、安堵の表情を浮かべていた。


「めずらしいわね。ショウが不透明な仕事を引き受けるなんて」


ショウが社長室を後にしたあと、ミーシャがポトフに尋ねた。


「人には出身や経歴で語りつくせない魅力がある。それをショウは感じ取ったのだろう」


と、ポトフはミーシャが淹れてくれた紅茶をまた飲んだ。


「嬉しそうね。お父さん」


彼には嬉しい時にやたらと紅茶を飲む癖があった。


「あれほど充実感を感じているショウの顔は久しぶりだ。依頼主として嬉しいさ」


「だが」とポトフは続けた。「ショウは焦っているのかもしれない」


「焦っている?」


ミーシャが首をかしげた。


「ショウの過去、ミーシャは知っているかい?」


「ショウの過去…確か働かされていた炭鉱が魔族に潰されちゃって、お父さんが拾ったのよね?」


「そうだけど、拾ったって表現は間違いかな。僕が力になってくれとショウに頼み込んだんだ。彼は技術の知識があり、算術もできるだけでなく、古代文字にも明るかった」


「古代文字、というと亡国の言語?」


「うん。ショウは炭鉱時代、亡国の生き残りって人に言葉を教えてもらっていたんだそうだ」


200年前、闇との戦いで滅んだメフィスという魔導大国があった。当時もっとも魔法技術が発展した国で、今現在でも魔法や魔装具技術が追いついていないと言われている。


現人類は、闇との戦いに偉大なる貢献をした感謝の念と、一人残らず文字通り灰になるまで魔物と戦ったメフィスの民への畏敬、そして、多くの先進技術が失われてしまった事への惜しみから《亡国》とメフィスを呼んでいる。


「焼け跡に残った、亡国で書かれた魔法や魔装具に関する本を読んでも何が書いてあるかわからず仕舞いでね。彼の存在はありがたかったよ」


(なるほど、お父さんとショウの仲はソコにあるのね……)


ミーシャは心の中で相槌を打った。


「話を戻すんだけれど、実は炭鉱が潰れてからアルマス社に入るまで間があってね。彼は今と似たような傭兵パーティー内勤技術者をやっていたんだ」


「え、そうだったの?」


「けれど…」


ポトフは唇をきゅっと閉め、視線を落とした。


「そのパーティーは大きな失敗をし、全滅した。発端は彼のミスだったらしい」


「……」


「しかも、運悪くショウだけが生き残ってしまった。ショウは今でもよく夢に出てくると冗談気味に笑って言っていたけれど、今でもショウは苦しんでいると思う」


「なら、何故この仕事をショウに任せてもよかったの?」


「だからこそ、さ。失敗の悔しい思い、トラウマを完全に消すには同様の成功体験で塗りつぶしていくしか方法はないと思う。ショウがちょうど大きな仕事を終えた時、今回の内勤技術者の依頼が来た。ポトフは天恵かと思ったよ」


「荒療治じゃない、もしまた失敗したらどうするのよ」


「うっ 確かに」


ミーシャに図星を突かれ、ポトフは矢で射られたようにのけ反った。


「大丈夫さ、上手くいっている。他のメンバーも英雄級だし、それにショウの顔を見ただろう」


「それはそうだけど…そのお父さんのショウに対する妙な信頼はなんなの?」


「長年の付き合い、だよ」


「ふーん、長年の付き合い、ね……」


歳の離れた二人の信頼関係に、ミーシャはどこか腑に落ちない思いであった。


※※※


視点をショウの方に戻す。


買い物を終え、パンパンになった大きなリュックを乗せた荷車を引いて、レイたちの待つミスターシャの森に戻ろうとした帰り道、大きな人だかりを見つけた。


何やら騒がしい。その騒ぎの中心にあるのはミスターシャのギルドだ。


(なんだ?)


ショウは人だかりに近づき、荷車を降ろしてその上に乗り、様子を覗く。


そこには、見るにも堪えない大ケガを負った傭兵たちがギルド内に担架で運び込まれる姿や、白衣を着た医者や神官たちが忙しそうにレンガ積みの建物に出入りしている姿があった。


よく見れば、前にショウにタダ働きを押し付けたピップとポールを捕まえた、傭兵ギルドお抱えの、屈強な純戦士たちもボロボロな姿で運び込まれている。

前にショウが訪れた時に受け答えしてくれた受付嬢は呆然としており、ギルドマスターは慌ただしく、ミスターシャ国防軍の兵士と怒声まじりに話している。


―何があったんだ?


―わからない、どうも骸骨ボーンにやられたらしいぜ


骸骨ボーンに? あんなの雑魚だろ?


―わからない。今ミスターシャのギルドの傭兵たちは急遽帰還命令が出てるらしいぜ。


突然、ショウの脳内にあの時の光景がよぎった。


「くっ」


頭痛を覚える。亡くなった戦士たちの亡骸、村一つ消し飛ぶほどの爆発に立ち崩れる少年時の自分。そして、雪山――


自分が以前、内勤技術者として働き、そして失敗した時の記憶だ。


脳内に映し出されるビジョンを見まいと、頭を押さえる。


我に返った時、ショウは荷物を捨て、街の中を無我夢中で走り出していた。


機械仕掛けの小盾がコロコロと転がってショウを追う。


(あの三人がいれば大丈夫だと思う。でも、でも)


頭を大きく振り、嫌な予感を振り払う。その予感がただの予感であって欲しいと、ショウは心の底から願っていた。



Tips ポトフ・フラウラ

魔装具メーカーアルマス社、ミスターシャ支社長。45歳、ミーシャの父親

ショウの直属の上司で、彼とは私的な交友も深い。

魔装カードの開発、生産、普及に多大なる功績をあげ、現在のポストに就任した。



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