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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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1 圧迫面接①(ショウが棺に入る二週間前)

(一体なんなんだ、この雰囲気は……)


ショウは背中に汗が流れるのを感じながら、視線を落とし、四角いテーブルの上にあるスパゲティのミートボールの数を数えては、その数で遊び、時が過ぎるのを待った。


橙色のランプが灯り、木の和やかな香りとアルコールの匂いに包まれ、弦引きがゆったりとした音楽を演奏するこのバーのような場所はミスターシャの第七宿。

街から少し離れたこの宿の一階は、夜はバーとして営業し、静かにお酒を嗜みたい者たちが集まってくる。


そんなゆったりとした空間であるはずなのに、ショウは冷や汗を流すほどに緊張しており、重圧で顔を上げることができなかった。


原因は対面にいる三つの視線である。

筋骨隆々の男性と法衣を身に纏った糸目の女性、そして深緑の魔術装束を着た眼鏡をかけた女性の三人。彼ら彼女らはただ押し黙り、鋭い視線をショウに向けている。


この圧迫面接のようなプレッシャーを受け額に汗を流すショウという男は、170cm弱程度の背丈をしている地味な風貌をした男であった。髪は額が見えるほど短く整えられ、目力は感じられない。

特徴的なのは、いくつものポケットがついた襟付きの紺色の上着を着ていることだ。


※地球でこの服と一番似ていたのは作業着というものだったので、以降、作業着と呼ぶことにする


「君が、ショウさんだね?」


ショウの隣の席に座っていた少年が話しかけた。彼も、あの三人の仲間である。


少年は絹のような滑らかな首にかかる長さの金髪を揺らし、空のような丸く碧い瞳で平凡な茶色い瞳を覗きこんでいる。


「は、はい。皆さんを支えるためにアルマス社から派遣されて来た、ショウと言います。技術者をやっております。専門は武具と魔装具です」


ショウは立ち上がって答えると、一礼した。


「うん、よろしく! 僕はレイっていうんだ。みんな歓迎しているよ」


(は?)


屈託のない笑顔で言う少年に、歓迎とは真逆の雰囲気ではないか、と思わずショウは顔をしかめた。


ショウは平静を装って考える。

(いや、この雰囲気が平常運転なのだろうか、それとも、彼が鈍感なだけ?そういえば、このレイという少年、傭兵という職業にしては綺麗すぎる。四肢も白くて細いし、何より心が綺麗だ。綺麗すぎて非現実的なものを感じ……)


「武具と魔装具、両方できるのか」


野太い声にはっとし、ショウは思考を止めた。口を開いたのは、屈強な戦士の男だ。


「はい。アルマス社では主に魔術剣を造っていました」


アルマス社は世界を股にかける大手魔装具メーカー。ショウはその社員だ。


魔装具とは、魔力を用いて現象を発現する魔術を再現した道具の総称である。

魔力の源である生命エネルギーを血管や神経など複雑に通し、「火」「氷」「雷」「風」「土」五属性を持つ魔力に変換する魔導師の営みを、魔力を通す魔生糸を用いた魔装回路で再現する、というメカニズムであり、時間とお金に恵まれた貴族特権であった魔術を、一般市民でも扱えるようにした画期的な道具なのだ。


現在は魔法研究が進み、武術家や傭兵が良く使う生命エネルギーを駆使して使う肉体強化術や気弾が無属性魔術と分類されるようになったことから、魔術回路があれば魔装具と呼ぶようになっている。


ショウは様々な人たちの力を借りながら魔装具を製作する事を生業としており、鉄が打てるという理由で、鍛冶技術と魔装具技術を組み合わせて造る魔法剣をよく造っていた。


「なるほど」と戦士の男は薄い反応を示し、また押し黙り唇をぎゅっと結んでこちらを眺める。


(俺は彼らとは初めて会ったはずなのに、何故こんな罪人の取り調べみたいな雰囲気になっているんだ? もしかして、何か既にやらかしてしまったのか?)


思考を巡らしても心当たりはなく、かといってショウにはその視線について問う勇気を持ち合わせていない。


(ポトフめ、訳のわからん仕事を押し付けやがって……)


ショウは地雷仕事を投げつけた上司ポトフを心の中で呪った。


ショウに傭兵パーティーの内勤技術者として暫く働いてくれ、と言われたのが昨日の話。

大仕事を終え、しばらく休みたいと思ったショウであったが、恩人である彼の頼みを断る事ができず、依頼人の待つミスターシャ第七宿へと向かうことになった。


内勤技術者は、傭兵達につきながら彼ら彼女らの武器を調整、修理するだけでなく、野営時の衣食住の全てをサポートする、いわゆる縁の下の力持ちの存在。


普通ならば傭兵達からは仕事によりいっそう集中できるようになると歓迎されるのだが、第七宿で待っていたのは歓迎とは程遠いものであった。


唯一歓迎してくれるのはレイという少年だけだが、ショウは彼に対し何か違和感のようなものを感じ、安心できない。


「魔術剣を造っているんだ! すごいね」


「いやいや、そんなことは」


「じゃあ僕の魔法剣も作ってもらおうかな」


「ということは、レイの職業はもしかして…」


「うん、僕は魔法戦士なんだ。剣を持つから魔法剣士!」


ショウは驚いた。何故なら、魔法戦士という職業は運用がとても難しいからだ。


魔法戦士は文字通り剣術と魔術の両方を使いこなす職。

武術と魔術の才能と、効率的な修行、そして魔法剣を買えるほどの財力が無ければ、器用貧乏に成り下がる。


よって、多くの傭兵は魔法剣士となる道を選ばず、自分の得意分野を伸ばしていくのだ。


ショウの見るところ、レイには魔法剣士に必要な要素、魔法の素養や肉体の強さなどが揃っているようには見えず「魔法剣士を夢見る世間知らず」というふうに見えてしまう。


レイが今持っているのは《量産型魔法剣-炎》でありアルマス社製のなかで一番安いもの。


武術や魔術の才を感じられず、無垢な少年、という言葉が最もふさわしい。


「驚くのはまだ早いよ! なんと、僕がリーダーを務めているんだ」


は?

Tips ショウ・アキミネ

165cm 65kg 本作の主人公。紺色の作業着がトレードマーク。

体重が平均よりも重いが、日々槌を振るっている影響か、中身は筋肉である。

作業着を脱げばピッチリとした黒インナーに浮かび上がる筋肉を拝めることができるが、本人は暑くても作業着を脱ぎたがらない。


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