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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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閑話2 弔い

時を少し戻す。


洞窟内で《骸骨(ボーン)》をすべて倒し、レイが泣き止んだ時のことであった。


ショウが怒声を飛ばしたことに対し、3人は何も言わず《骸骨(ボーン)》の処理と、少女の傷の手当てを始めている。

まるで、ショウがレイに対して何もしなかった、ということにしたい感じだ。


ショウはその雰囲気にどこか居心地の悪さを感じながらも、少女を含めた5人とは違う方向、洞窟の深部に足を進めた。


「ちょっと、どこ行く気なのよ」


ガーネットは尋ねた。


「そっちに行っても、もう何もないわよ」


魔導師ガーネットが言うなら、本当であろう。だが、ショウの顔にはまだ安堵の表情が見られなかった。


「ちょっと、な」


松明――火属性魔装具――に再点火しながら答えた。


「……もう一仕事あるって顔しているわね」


「……」


「言いなさいよ、何をするつもり?」


少女を抱え起こしているレイと、傷の様子を見るシルク、ガーネットを交互に見ている。


「言いたくないって雰囲気ね。隠しても無駄よ。聞いているかもしれないけれど、私は人の感情がわかるの」


どうやっても口を割らせようとするガーネットに、観念したショウは洞窟の奥に目を向け、口を開いた。


「最近、ミスターシャでは子供達の失踪事件が多発していた。それと同時に、《骸骨(ボーン)》の発生報告件数も増えていたんだ」


「《骸骨(ボーン)》が子供達をさらった、ていう事でしょう。そんなのみんな知っているわよ」


「そして、この洞窟には多くの《骸骨(ボーン)》がいた。大規模な住処だったんだろう」


「どういう事? 何が言いたいの?」


ガーネットがじれったさを交えて聞いた。


「俺達が間に合ったおかげで《骸骨(ボーン)》達に食べられず、この娘は救出された。でも…」


ショウは続けた――助からなかった人もいる。


「…………っ」


言葉の意味を理解したガーネットは、息を飲んだ。


「ガーネットはレイに付いてやってくれ、外にはまだ魔物がいる。これは、俺の仕事だ」


「で、でも…」


「彼には私とゴルードが同伴しましょう。ガーネットさんはそのままレイ様についていってください」


シルクが答えた。


「二人を森の外まで送り届けたら、そのままキャンプまで戻って待機していてくれ、レイに尋ねられても残党狩りとでも言って引き止めてくれ」


「……わかったわ」


ガーネットは静かに頷くと、少女を父親が待つ洞窟の外へと送り届けに歩いて行った。


「さて、行こうか。こういうのは、レイには見せちゃいけないからな」


血に汚れた作業着の袖をまくると、ショウは洞窟の奥へと進んだ。


奥に進めば進むほど、漂う異臭が強くなっていく。ショウ、ゴルード、シルクの3人は松明と、シルクの光球による明かりを頼りに、鼻を覆いながら、洞窟の奥へと進んでいく。


洞窟の奥にはショウの予想通り、酸鼻を極める光景がそこにあった。


「むごいな、これは…」


「《骸骨(ボーン)》は対象者の生気を吸ったら、そのまま打ち捨てる習性をもつんだ」


濃い異臭に三人は顔をゆがめ、だが腹の底から湧き上がってくる嫌悪感と吐き気を押さえる。


ショウは亡骸の前にしゃがみ、手を合わせ、黙祷を捧げた。


「手を、合わせるのですね」シルクが聞いた。一般には、手を合わせるのではなく、指を交互に握るからだ。


「ええ、故郷の風習です」


黙祷を終え、ショウは立ち上がると顎を指でなぞり、洞窟の天井を見上げる。


「慌てて来ちゃったから何も持ってきてないな……俺が抱えていこう」


と、ショウは作業着を脱ぎ、小さな亡骸に被せてやるとゆっくり抱え上げる。


「こういう時にこんな事を言うのもなんなのだが、よくできるな…」


ゴルードが尋ねた。異臭と無残な姿に、ショウは耐えがたい気持ち悪さを感じているだろうとゴルードは思っていた。


「皆が嫌がる事でも誰かがやらなきゃいけないんだ。なら、できる俺がやるしかなかろう。なに、工兵として従軍した経験もある。工兵の仕事に埋葬業務があるから、人より慣れているってだけだよ」


ショウは抱え上げた亡骸に「来世では、幸せになってくれ」と小さく呟く。二人は顔を合わせ頷き、仕事モードの真面目な顔になる。


「……ショウだけに重荷は背負わせるわけにはいかない。俺も運ぼう。運び出す時に注意しなければならない事を教えてくれ」


「法衣の布を余分に持ってきております。それでくるみましょう」


「ありがとう。俺は先に行く。二人は散らばった遺体を、すべて探して寝かせてやってくれないか?」


「わかりました」


シルクはいま一度亡骸たちに祈りをささげた。ゴルードは洞窟内をくまなく探し、遺体を見つける。


洞窟内で遺体を整理した後、シルクとゴルードは疲労で歩みがゆっくりとなっているショウに追いつき、洞窟の外に出た。


外に出ると、ミスターシャ傭兵ギルドの人たちが、洞窟に集まっていた。


ガーネットの姿はない。町人を使ってギルドの人たちを呼び、キャンプに戻ったのだろう。


「中にまだいます」とショウが傭兵ギルドの人たちに声をかけ、彼ら彼女らはショウ達にこびりついた異臭で顔を歪めながらも、担架を手に洞窟の中に入っていく。


シルクの衣服はもともとが白いせいか、汚れが目立っていた。異臭も染みついているが、本人は気にしていないようだった。


「何をそんなに驚いておられるのですか?」


抱えたものを置き、祈りを捧げる姿をポカンと見つめているショウにシルクが聞いた。


「いや、司教になれるレベルなのに、汚れてしまう仕事を粛々とこなしているので…」


「いつの時代の話をしておられるのですか? 確かにそのような時代もありましたが、我が恒神教は、一度没落しているのです。過去の過ちを認め、原始指導者が行っていたように、地道な活動を続けていくのです」


「そうだったのですか。いや、知識不足で面目ない」


と、ショウは恥ずかしそうに後頭部をかいた。


「もっとも、汚れてしまうことを良く思わない方もいらっしゃいますので。日曜日には、よく技術者の方もお祈りにいらっしゃいます。ショウ様もいらしてはいかがですか?」


「そうですね、是非とも」


「神は、いつでもお待ちしていますよ」


糸目の彼女から、ちらりと力強い眼が見えた。


洞窟から運び出された亡骸の数々はシルクが教会を通して遺族の元へと送り届けられ、手厚く葬られたという。

Tips 骸骨(ボーン)

動く骨。生者の生気を吸う。

一般に、《骸骨(ボーン)》は《死喰い使い(グール・マスター)》という魔物が、亡骸に闇の魔力を注入して生まれる。野生にいる《骸骨(ボーン)》は《死喰い使い(グール・マスター)》の使役を離れたものだ。

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