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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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7 後悔と反省②

骸骨(ボーン)の一件があったその夜のことである。レイのキャンプでは、いつも通り焚火がパチパチと燃える音と、刃物を砥石で研ぐ音が聞こえてくる。だが、いつもと違って、大きなため息をつく頻度が多い。


(また、やってしまった)


ため息の原因はもちろん、感情的になり、リーダーであるレイに怒声を飛ばして泣かせてしまったことだ。


これまでショウは何度も理不尽な目にあっても、冷静にかつ合理的に処理しようと努めてきた。

これは、冷静的と合理的を信条としてきたためであり、感情的になることは悪いことであるとショウは思っている。


しかし、ショウも人である。限度を超えると理性が飛び、感情的になってしまうのだ。そして、冷静さを取り戻した時には、憂鬱な気分が途方もなく押し寄せてくる。

もっと冷静にならねば、とショウは思うものの、「以後気を付ける」というなんの効果もない対策法しか思いつかない。

だからこうして、ため息をつきながら、負の感情が過ぎるのをただただ待っていた。


「ショウ」


レイが目の前に現れ、ショウの胃がチクリと痛んだ。「傷はもう大丈夫なの?」とレイは言う。


「うん。問題ないよ。シルクさんは凄いね。ほら」


ショウは作業着を脱ぎ、骸骨(ボーン)達に打たれた腕や背中などを見せ、怪我が消えていることを見せた。


「ショ、ショウってゴルードみたいな身体しているんだね」


驚いたレイが言った。ショウの身体は筋肉質であり、胸筋や腹筋が見事なパックを作っていた。


「あ、ああ。鍛冶仕事は力も必要だから」


予想外のことを指摘され、ショウもたじたじに答えた。作業着がショウの体に対してやや大きい故に、脱ぐと驚かれるのだ。


(謝らなきゃ……だな)


レイがやらかしたことは確かに皆に迷惑をかけることであり、怒鳴られても当然である。

当然であるが、怒鳴られた人は、怒鳴った人を怯えまたは嫌いになるのが普通だ。

だが、その怒鳴ったショウをレイは心配してくれている。

年上だし、こちらから切り出さねばと、ショウは思った。


「その……な、レイ、申し訳」


「ごめんなさい。僕のせいで」


ショウが謝ろうとしたその時、レイは深々と頭を下げた。


「もうちょっと冷静で、練習通りにしていれば、ショウも傷を負うことはなかった」


レイは洞窟でのできごとについて、きちんと反省していた。


「いや、いいんだ。レイは人を助けたかったんだもんな。あの娘は助ける事ができたし、みんな無事だったからいいんだよ」


ショウは優しい表情で向き直って答える。


「でも、レイの言う通り後一歩遅れていたら、お前は死んでいた」


「うん……」


レイは俯いて答えた。


「なあ、一つ聞いていいか?」


レイは「何かな?」と顔を上げた。


「何故、戦士に、魔法剣士になりたいんだ?」


ショウは続けた。


「正直に言うが、レイは戦士には向いていないと思う。弱いからという訳じゃない。優しいからだ。

敵である魔物にも情けをかけてやれるし、困った人を見たら放っておけないだろう。

戦士、傭兵の世界は時には自分の命の為に味方を見捨てる時もあり、それが正解とされている。

レイには、合わない世界じゃないか? もっと、レイに合った職業があるはずだ」


レイは横を向いて焚火の中に視線を落とし、考え込んだ。ショウは作業をせず、レイに向き、口が開くのを待つ。


少しの時間がたち、レイは口を開いた。


「僕は、とにかく強くなりたいんだ」


「それは、何故だ?」


「僕は、産まれた時からずっと、狭い部屋にいたんだ。会った人といえば、読み書き計算を教えてくれる教師とご飯を配膳する使用人のみ、

二人とも機械のような無表情無感情な人で、無駄話には全く付き合ってくれなかったんだ。暇つぶしといえば、ミスターシャの街を窓から眺めるくらいしかなかった」


その部屋には窓がついていて、高い位置にあったのかそこからはミスターシャの色々な場所が見えたという。


「その暇つぶしも、良いものではなかったんだけれどね……元気に遊びまわる二人の子供と、それを微笑ましく眺めながら椅子で編み物をしている母親を見て、

何故、自分はあの子供のように太陽の元を走り回る事ができないのだろう、

何故、僕は孤児なのだろうとって暗い気持ちになるんだけれど、結局それしか暇つぶしが無いから、

見続けちゃうんだ。また街の人たちを見て、暗い気持ちになって見るのを止めちゃうけれど、気になってまた見ちゃう。

でも16歳になった時、一人の神官が僕の前に現れたんだ。彼女は僕を外に連れ出してくれた」


「シルクさん、か?」


「うん。許可が出たからと、シルクは僕を、外に連れ出してくれた。

ゴルードもガーネットも加わって、僕に外の世界を教えてくれたんだ。夢のような日々だった。

今、三人は僕が立派な魔法剣士になるよう育ててくれている。だから僕は強くなりたい。

強くなって、仕込んだ甲斐があったと言ってもらえるようになりたい。三人に恩返しがしたいんだ」


レイの思いを聞き終わったとき、ショウは笑みを浮かべていた。


「なんだよ、おかしいのかい」


「いや、そういう訳ではない。ただ、俺も長く、孤独を過ごしてきたから、レイの気持ちはよくわかるんだ。三人への恩返し。素晴らしい発想じゃないか」


レイの表情が、ぱあっと明るくなった。


「ショウも、僕と同じだったんだ」


「まあ、な」


「ショウ、僕はどうすれば、力を得ることができるんだろう」


「俺たちは与えられるのは知恵だけだ。あとは自分次第だ」


「自分、次第……」


「自分で考えて、選択して、修行する必要がある。

レイはせっかく教えてもらった技術の数々を、身に着けないでいるのは悪い癖だ。

理解するだけではなく、何度も何度も練習して骨の髄まで学ばせれば、忘れることはないし、極限状態でも発揮できる」


ショウは首元から白い六角棒レンチを取り出した。


「これ、持っているか?」


「え、ええっと」


レイはポケットの中を確かめ、身体をまさぐってみるものの、六角棒レンチは見つからない。


「ゴメン…」


「まあいいさ。何個もあるしな」


ショウはポケットから新しい鉄色の六角棒レンチと、糸を取り出した。


「なくさないように、首飾りにしておくといい。魔生糸だから、肌触りはいいはずだ」


見ると、六角棒レンチの曲がった部分に穴があけられている。


レイはそこに糸を通して結ぶと、首にかけた。


「俺も教え方を間違っていた。知識を与えるだけじゃなくて、やってもらうことも大事なんだ」


これまでは、魔法剣が壊れたらまずいと、ショウが魔法剣のメンテナンスをして、レイに教えながら見せていた。しかし、それでは経験を得ることができず、定着しない。


「これからはレイにも実際に1から魔法剣のメンテナンスをやってもらう、いいかな?」


「うん!!!」


この夜、ショウはレイにメンテナンスの仕方や構造や仕組みなど、自分の魔法剣に関する知識を惜しみなく与え、実践させた。

二人の魔法剣談義は朝まで続き、この日の訓練はレイの寝不足の為お休みになってしまったという。


Tips レイ

自称、魔法剣士。まともに魔法が使えないので、実際は純戦士である。

一番ショウに対してフレンドリーに接してくれるが、彼については謎の一言。

唯一わかっているのは、16歳ということくらいだ。

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