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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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7 後悔と反省①(ショウが棺に入る6日前)

お読みいただき、まことにありがとうございます。

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Twitter @Imori_Saito

骸骨(ボーン)はアンデッド属の魔物だ。人骨に闇の魔力が宿り、魔物になったもの。


彼らを支配するのは「生き返りたい」という欲望と「食欲」。


この二つが合わさったとき、骸骨(ボーン)達は生き物の生気を吸いとる行為へと走る。


骸骨(ボーン)達は生命の力に溢れた若い人を選り好むので、ミスターシャでは稀に、子供の失踪事件が起こるのだ。


レイは一人、洞窟の中でその骸骨(ボーン)達と対峙していた。


(ここは、いったい?)


身体の中を激情がかけめぐり、理性が呑みこまれた感覚に襲われた後、気がつけば洞窟内で魔法剣を手に、骸骨(ボーン)と対峙していた。


洞窟内の壁にランプがあるお陰で、洞窟内はやや明るい。アンデッド族は光を嫌うが、元々が人間であった名残からか、骸骨(ボーン)は視覚に頼っている。頭蓋骨の目の部分に灯る紫色の光が、彼らの新しい目だ。


骸骨(ボーン)達の後ろには、レイに傷つき目を使って助けを求めている少女、その傍らには、生気を吸われ干からびてしまった人か獣のようなものが横たわっている。


その悲惨な光景を見て、レイはごくりと喉を鳴らした。


少女を助けなきゃ、とボロボロの剣を構えてゆらめいている骸骨(ボーン)にレイは一歩踏み出すも、足が動かない。足元を見ると、自分の足が震えている事に気づいた。


(こ、怖い…のか?)


いつもなら、あの三人がいてくれたからこそ魔物と戦うことができた。失敗しても助けてくれる。


だが、今は誰もいない。失敗すれば、死ぬ。

相手は下級魔物といえども数は多い。なにより、レイはその下級魔物にタイマンで負けかねないほどの弱さなのだ。


自分が恐怖している事を理解した途端、その感情がレイの身体を駆け巡り、目が恐怖に染まる。


骸骨(ボーン)は震えるレイを敵ではなく、新しい餌だと認識を変え、紫色に光る眼を嬉しそうに躍らせながら、刃こぼれた剣とひび割れた盾を大きく掲げ、ゆっくりとレイに近づいていく。


「う、うわあああああああ!!!!!」


レイは恐怖を紛らせるように叫びながら、そのガードが開ききった骸骨(ボーン)を力任せに叩き斬った。

骸骨(ボーン)のボディはすでに風化しており、太刀筋が甘いレイでさえも簡単に叩ききる事ができた。骸骨(ボーン)は崩れ、動かなくなる。


「ひっ」


叩き落とし転がった頭蓋骨を見て、レイは驚く。動悸は激しく、息も荒い。

骸骨(ボーン)はレイに休む暇を与えず、次々とレイに向かった。


「あああああ、うわあああああ!!!」


レイは悲鳴をあげながら魔法剣を右手に、背中に差していた松明を左手で抜いて振り回した。


二つの打撃武器による攻撃が、ひび割れた盾を、黄ばみがかった骨を砕く。


魔法剣からは燃焼に失敗した木材のように、黒い煙が噴き出している。ガーネットから教えてもらった魔術素養をすっかり忘れているのだ。


ガキィン と剣が洞窟の岩にぶつかり、刀身が柄から取れた。ゴルードが教えた近接戦闘術が頭から抜け落ち、ショウが言っていた魔法剣の調整も怠った結果である。


レイにはそれらを後悔する余裕はない。骸骨(ボーン)は胸部を完全に破壊されるまでその歩みを止めない。たとえ下半身が破壊されても、頭部が吹き飛んでも這って向かってくるのだ。


「っ!」


レイの右足に激痛が走った。袈裟斬りにして二つにしたはずの骸骨(ボーン)の上半身が、レイの太ももに剣を突き立てていた。


足に力が入らなくなったレイは尻餅をつき、這って後退する。激痛のショックでレイは武器を手放してしまい、丸腰になってしまった。


骸骨(ボーン)は朽ちた剣を振り上げ、攻撃を加える。レイは背中にあったスペアの小盾を構えるも、骸骨(ボーン)のなまくら剣の攻撃を受けきれず弾き飛ばされてしまう。


再び小盾を構えようとするも、骸骨(ボーン)に小盾を蹴り飛ばされてしまった。

今の骸骨(ボーン)達の目は赤い。これは怒りを表すときの目だ。骸骨(ボーン)達はレイを自分達に危害を加える敵として、処分しようとしていた。


同時に、町の女の子も処分されようとしている。助けて! 助けて! という悲鳴がレイの耳に入るが、自分のことで精一杯だ。


骸骨(ボーン)達は剣を逆手に構え、仰向けになっているレイに刃先を向ける。目を瞑ったレイは死を覚悟し、自分の弱さを悔いた。


そして、骸骨(ボーン)は躊躇なく剣を振り下ろした。


ぶすり、と肉から液体が噴き出す音、身体に広がる生暖かい液体の感触。

魔物を魔法剣で刺した時と同じ、この肉をえぐるような音。これが自分の身体で起こっているのだ。


(あれ、痛くない?)


レイは不可解に思った。自分の身体が剣に貫かれたというのに、太もも以外の痛みは感じず、意識もはっきりとしている。


おそるおそる目を開くと、レイはわが目を疑った。


「ショウ?」


「レイ? 大丈夫か?」


なんと、ショウが覆いかぶさるように身体を張ってレイを守ったのだ。

骸骨の剣や槍による攻撃は、ショウの身体を貫いている。グリズリーが放った斬撃とは違い、骸骨(ボーン)の攻撃は質量を伴っているのだ。


「ショウ! ショウ! ダメだよ」


「問題ない、大丈夫だ」


顔面蒼白になっているレイに、ショウは必死に作り笑いを見せるが、苦悶の表情は隠しきれていない。

ショウは身体を力ませ、自分に刺さった武器を身体のなかに留め、引き抜く事も、押し込んでレイごと貫くこともできなくした。


武器を諦めた骸骨が骨の拳でショウを殴り、引きはがそうとするが、必死で耐えている。


「ぐはっ ぐふっ」


「ショウ! そんな…そんな…」


血を吐き苦しむショウに、レイは叫ぶことしかできない。


炎の矢(フレイムアロー)


突然、暗闇から鋭い炎が放たれた。その矢は的確にショウの周りの骸骨(ボーン)達の胸を貫き、骸骨(ボーン)は崩れ去っていく。


「あれは……」


「間に合った…か…」


ガーネットだ。女の子に群がっていた骸骨も、機械仕掛けの小盾がすでに蹴散らしており、無傷だ。

地中から、骸骨(ボーン)がどんどん現れる。奴らの目は赤く光っており、なんとしてもここから逃がさないという気迫を放っていた。


「こ、こんなにも地面に隠れていたなんて……」


「何体来ても同じことよ!」


と、ガーネットは杖を構える。


「うおおおああああああああ!!!!!!」


ガーネットの後ろから、咆哮とともに突撃する一人の戦士がいた。ゴルードだ。彼は洞窟戦闘用の短い片手剣を握り、獣の咆哮に怯えた骸骨(ボーン)達の隙を突き、次々と敵を破壊していく。


ゴルードに続いて、シルクもやってきた。


「レイ様、大丈夫ですか?」


シルクはレイの怪我に気付くと、急いで駆け寄り治療を始めた。


淡い緑色に灯った指先をレイの太ももの傷口に当てると、レイの傷が塞がっていく。

その一方でショウは血を流し、苦しそうにしていた。かろうじて生きているという状態だろう。


「シルク! ショウを先に治療してやってくれよ! 彼の方が重傷だよ!」


「レイ様、ご心配なく」


レイの治療を終え、次にシルクがショウの肩に触れると、たちまち淡い緑色の光で包まれた。


〈神より授かりし癒し〉


ショウの生気がみるみる戻り、呼吸も安定していく。シルクは、刺さった剣を引き抜くと、その刺し傷は瞬時に消えた。

レイはその神秘的とも言える光景を目の前にして、口をぱくぱくとさせ放心していた。


「ゲホッ、ゲホッ」


回復を終えたショウは、喉に絡んだ血を吐き出すために数回咳をすると、「た、助かりました」とシルクに感謝の言葉を述べた。


「いえいえ、当然のことをしたまでです。それにしても、よく生きておられましたね」


「身体が人より丈夫な上に、こういう時の運がいいんですよ…」


「確かに、即死急所は外れていましたからね。ああ、傷は塞いだものの、失血で生命エネルギーが流れています。しばしお休みください」


「わかった」


「後は、私たちが」


と、シルクも背負う聖銀剣(ミスリルブレード)を抜き、戦闘に参戦した。


いくら数に勝り、地の利があったとしても――

ゴルード、ガーネット、シルクの三人の熟練者の前では、骸骨(ボーン)達もなすすべがなく、本能のまま突撃し、破壊されていく。


まるで戦闘訓練をしているかのように、三人の表情は涼しい。


ゴルードが最後の骸骨(ボーン)を重厚な鎧で体当たりし、洞窟内の骸骨(ボーン)討伐は無事完了。

洞窟内に、安堵の静寂が訪れた。


町人の娘も、レイも無事救うことができた。


「良かった」とレイが放心のままにつぶやく。洞窟内にいる者たちも、安堵の息を吐こうとしたとき、怒声が響いた。


「バカやろう! 良いわけないだろ!」


ショウがレイの首元を掴み、怒りを露わに怒鳴っている。ガーネットは止めようとしたが、シルクが制止した。ゴルードも震える少女の傍で、じっと見ているだけだ。


「俺達があと一歩遅れていたら、死んでいたかもしれないんだぞ! この娘も、助けられなかった」


洞窟に嗚咽が響き始める。ショウははっとして手を離した。

レイは「ごめんよぉ、怖かったよぉ」と泣き崩れる。その泣き声を聞いて、緊張のひもが解けたのか、少女も泣き始めた。


泣き声が洞窟中に伝わるが、魔物が現れる様子はない。安全である。


血を流しすぎてエネルギー不足となっていたショウは、洞窟内で座り込み、疲労と罪悪感を吐き出すように、大きく息を吐いた。

Tips シルク・ベルク

穏やかさと冷酷さを兼ね備えた物静かな神官。年齢不詳。

神官の扱う神聖具のメンテナンスをする技術をショウは保有しておらず、彼女の性格もあり、

レイの傭兵パーティの名で、ある意味、ショウとは一番距離を置いている人物だ。

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