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それでもレンチを回すのは ~凡骨技術者の奮闘譚~  作者: イモリさいとう
1章 魔装技術者―ショウ・アキミネ
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6 骸骨②(ショウが棺に入る6日前)

その頃、ショウはというと、鼻歌を歌いながら鍋をかき回していた。


「ふっふふ~ん♪ るんるんるーん♪ たりらりらーん♪」


傭兵パーティーの技術者の仕事は、パーティーの身の回りの世話をすること。武具、防具のメンテナンス・修理だけでなく、掃除・洗濯・料理も彼の業務だ。


食材を調理し、盛り付ける。それは、原材料を加工し組み立てる姿と似ており、料理はモノ作りと通じているところがあった。


野営での料理は、安い食材で限られた環境でどれだけ美味しくできるかが課題だ。


その課題はショウの技術者としての心に火をつけ、門外漢ながらも燃えている。


(うん、中々いけるぞ。やっぱりスープは手間暇かけてダシを取るのがいいよな)


スープの味を小皿で確かめながら、にやりとするショウ。


しかし、そんな平穏を打ち破るかのように、キャンプ地で爆発が起きた。


ポンッという酒瓶からコルクを抜いた時の音が大きく響いたかと思うと、白い煙が一瞬立った。敵襲か?とショウが反応する前に、目の前にガーネットが現れ、ショウは目をひん剥いた。


「うわああああああああ!!!??? なんだなんだ!?」


その怪奇現象にショウは驚きの声をあげてすっころぶ。持っていた小皿をひっくり返し、アツアツのスープがショウの頭にかかった。


「あ、あちちち」


「ちょっと!! ショウ!!」


「ななななななななんだ?」


ガーネットが起き上がったショウの両肩をガッチリと掴み、ものすごい形相でショウに迫った。一体何事かと、ショウは顔を強張らせる。


「ご、ごめん」


ショウの驚嘆にまみれた様子を読み取り、頭が冷えたガーネットは肩から手を離した。


「な、何があったんだ一体」


ショウは背中についた土埃を払った。


「レイ様が………レイが姿を消したの。骸骨ボーンの洞窟に行ったらしくて……」


「なんだって?」


町の娘のことなど、詳細を聞いたショウは急いで立ち上がり、テントの中からミスターシャの森の地図を持ってきて、野外にある大きなテーブルに広げた。


骸骨ボーン、一匹一匹は弱いが、住処である洞窟内だと話は別だ。奴らは群れるし地の利もある。ガーネット、ここを空けることになるだろうから、強い罠を張っといてくれ。短時間でいい」


「え、ええ」


骸骨ボーンという言葉を聞いただけでのこのショウの切り替えの早さに、ガーネットは呆気に取られつつも罠の準備を始める。


ショウの作業着は濡れたままで、着替えることなく対応するべき案件に対応している。


「この森では骸骨ボーンが住処としやすい洞窟がいくつかある。この×印がそうだ。レイとはどこではぐれた?」


「ここね。町人がいたはずよ。娘が拐われたって町の人が助けを求めたら、すぐに」


ショウはガーネットが指差した所に丸印をつけた。


「町人も骸骨ボーンの住処は見当がついているだろうから、おそらくゴルード達はレイがいなくなった場所から近い順に探索するはずだ。被らないようにしたい。となると、まずはここだ。ここが一番大きな洞窟だし、危険度も高い」


と、ショウはある洞窟地点を指さした。


「わかったわ、飛ぶわよ」


ガーネットは自分の杖を握りしめる。


「また、《転移てんい》するのか?」


「違うわ、あれは行き先に魔力触媒を置かなきゃいけないから、飛ぶのよ」


「え、まさか」


「そう、そのまさかよ。さっさと捕まりなさい」


「ちょ、ちょっと待って。武器まだ持ってない」


「そんなの腰にある工具類を使えばどうとにもなるでしょ! 時間がないの!」


「そんな訳ないだろ! 工具ってのは、少し形がゆがむだけで使い物にならな……」


「ああ、もうじれったい。行くわよ」


ガーネットが戸惑っているショウの手首を強引に握り、もう片方の杖を持った腕を高々と掲げた。


「へ? 待って待って待って!」


ショウの懇願を無視し、魔力を込める。


その傷一つない魔力球が赤色に輝き始めると、その周囲を風が渦巻き始める。


「風よ! 私たちを吹き飛ばせ!」


暴風ぼうふう


彼女はその杖を思いっきり振り下ろした。


杖の先の魔力球が地面に叩きつけられることはなく、二人の身体の方が空の彼方へすっ飛んでいく。


暴風ぼうふう》とは本来、強力な風を当て、敵を吹き飛ばす風魔法である。


ガーネットはそれを地面に当て、その反作用を推進に空を飛ぶという芸当をしでかしたのだ。


急いでいるので姿勢制御に割くべき魔力リソースを、すべて速度に回しているので乗り心地は最悪。上下左右の間隔が消えるほどに回転し、上昇と降下を繰り返す。


「うおおおああ、おえっ」


ショウは何度もこみあげる吐き気を抑えながら、早く目的地についてくれと願うばかりであった。


降りる時は《風壁かぜかべ》を地面に発生し、柔らかいクッションのような感覚の温かい空気に包まれながら緩やかに着地。


二人の前には目的地の洞穴がある。骸骨ボーン達が住処にしている洞窟だ。


ショウ達に遅れ、空から小盾が降ってくる。機械仕掛けの小盾メカニカルバックラーだ。


メカバックは地を跳ねるとコロコロと転がり、ショウの元に倒れた。


「この盾は?」


「俺が、持ってきたんだよ。おえっ」


「何、ボケっとしているの、さあ行くわよ」


平衡感覚が崩れたショウは倒れたまま、起き上がることができないでいた。


「もう、私が先に行くから」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「ひっ」


地に伏したショウがガーネットの足首を掴み、制止すると、草が生い茂る地を這い、地面を撫でながら進んでいる。


「な、何をしているの?」


「足跡さ」


「足跡?」


「そう。レイがこの洞窟に入ったなら、足跡が残るはずだ。骸骨の足跡は沢山ある。洞窟に向かっているから、この洞窟は住処で間違いないだろう」


程なくして「あった」と人間の靴と思われる足跡を見つけた。


「ビンゴ。レイが使っている防具の靴と同じものだ」


「わかるの?」


「ああ。レイの防具は隅々までチェックしているからな」


「ふーん、ちょっとどいて」


ムスッとした表情をしたガーネットがレイのものだと思われる足跡に手をかざした。


「感じるわ、確かにレイの反応ね」


「あ、足跡から感知できるのか…凄いな…」


「当然よ。伊達に魔法をやってないわ?」


ショウは驚き、感心せざるを得なかった。足跡から魔力を感知し、誰のものかまで判明できるのは、魔導師の中でも上位しかいないからだ。


若くしてその域まで到達できたのは、天賦の才と「他人の感情がわかる」という副作用に打ち勝つメンタル、そして、たゆまず努力を続けたからだろう。


「感心してくれるのは嬉しいけれど、同情はいらないわ、さあ、行きましょう」


「あ、ああ」


我に返り、ガーネットが出した《浮遊灯ヒトダマ》と、先頭を浮遊する松明が縛り付けられた機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)を灯りに洞窟の中を進んでいく。


骸骨ボーンがいない…どこかに集まっているのか?」


機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)を先頭に、ショウとガーネットは進んでいく。


「その盾、ショウの武器なの?」


ガーネットが聞いた。


「ああ、俺の相棒だ」


「それ、大丈夫なの? 自分の魔力で動かしているなら、相手が魔導師だったとき、所有権を奪われちゃうわよ」


「大丈夫さ。試しにやってみるといい」


ガーネットは浮遊する機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)に手をかざし、所有権を奪おうと試みる。


が、反応がなく、小盾は浮遊し続けている。


「ウソ……」


「今度は魔力信号で“お願い”してみるといい」


ショウの言った通り、今度は魔力信号を送付し、自分の元に戻るようお願いする。すると、機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)はショウの元を離れ、ガーネットの周りをくるくる回り始めた。


「こんなものを、どうして貴方が……」


ショウが答えようとしたとき、何かを感じ取ったガーネットがピクンと身体を震わせた。


「やっと取れた。レイと骸骨ボーン達の反応を……」


ガーネットは立ち止まり、詳細を探る。


「囲まれている……二つの塊……」


「まずい、走るぞ!」


ショウは機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)を掴んで走りだした。


ガーネットも走るが足場が悪く上手く進めない。ショウの影はどんどん小さくなっていく。


「え、ショウはどうやって走っているの?」


四方に障害物があり、飛んで進むのも難しい。


「間に合ってくれ!」


さらに少し進むと、かすかな灯りが見えた。


塊の中を助けるよう命じ、機械仕掛けの小盾(メカニカルバックラー)をフリスビーのように投げた。


(2つの塊はおそらく女の子とレイ、両方助けるに越したことはない)


間に合えと祈りつつも、ショウは身を投げた。



Tips ガーネット・プラント

稀代の天才魔導師。レイに付く3人の中でショウへの警戒心が一番強く、敵意と言えるレベルである。

しかしそれは、相手の感情を読み取ってしまうという魔法を極める副作用からであった。

ショウのレイ達に対する警戒心、疑念、懐疑心を読み取ってしまったのだろう

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