6 骸骨①(ショウが棺に入る6日前)
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レイはまだ弱い。魔法戦士でありながら魔法の一つも使えず、近接戦闘でも緑狼に押し倒される始末だった。
普通ならば見放されてもおかしくない弱さだが、ゴルードたちはめげずに修行を続けていた。
「切れ味が格段に良くなっている。新品以上だ」
レイに1対1の状況を作るために樹木に擬態する魔物《お化け樹木》を切り倒していたゴルードが、自分の目を疑うように驚いた。
手に持っているのは、ショウに鍛え直してもらったバトルアックスだ。
「これまでの斧の負荷や傷のつき方から、ゴルードが使いやすいように調整した」とショウは言っていたが、その通り、調整された斧は驚くほどゴルードの使用感に合致し、まるで紙を斬っているかのように滑らかに切れた。
「ええ、悔しいけど、自分でするよりもいいわね」
ガーネットがそう言いながら、杖からメラメラとした炎を吹き出す。
ショウが研磨剤で磨いてくれたおかげで、いつもより魔力出力や調整が楽になっていた。出力の高さと魔力反映の滑らかさに、彼女も感心しているようだ。
「ショウにお礼を言ったらどうだ、ガーネット」
「……いやよ」
そっぽを向くガーネットの様子に、ゴルードはため息をついた。ショウとガーネットの仲直りには、もう少し時間がかかりそうだ。
「どうしましたか? レイ様」
うつむくレイにシルクが尋ねる。
「やっぱり、こんなことをしていていいのかなって、ちょっと思ってね」
「どういうことですか?」
「魔物討伐さ。彼らは別に悪いことをしてるわけじゃないのに、それを僕たちが倒していくなんて……」
「レイ様、以前も申し上げましたが、魔物とは闇の魔力に侵された蛮族。我々の敵なのです。それに、強くなるには魔物を倒していくのが一番効率的です」
「それはわかっているけど……でも、もしかしたら悪くない魔物もいるんじゃないかって、思うんだ」
レイは、ミスターシャの森に数多く生息する緑狼の亡骸や、切り倒されたお化け樹木を見つめながら呟いた。
傷を負いながらも人間への本能的な憎しみに突き動かされ、なおも向かってくる魔物たち。その姿に、レイの胸は痛んでいた。
「レイの気持ちはわからなくもない。だが、魔物が襲ってくる以上、俺たちは自衛のために戦わなければならない」
「自衛……」
「魔物は、生まれながらにして人間に対する深い憎悪を持っている。それは、闇の魔力が宿る前の動物たちが持っていた生存本能をも塗りつぶすほどのものだ。たとえ――」
言いかけた瞬間、茂みから牙を剥いた緑狼がゴルードに襲いかかった。
ゴルードはそれを大盾で軽く受け止め、狼がよろけたところに斧で一撃を加える。狼は倒れた。
「実力差が歴然としていても、奴らは敵対し襲いかかってくる。これは、もはやただの動物とは違う。襲われるなら、こちらも戦うしかないんだ」
「……」
魔物の実情を目の当たりにしたレイは、またうつむいた。彼が魔物と真っ向から戦えるようになるには、もう少し時間がかかりそうだった。
――ガサガサ。
草木を掻き分ける大きな音が聞こえてきた。
「ま、また魔物?」
音は次第に大きくなり、近づいてくる。ゴルードとレイは剣を構え、ガーネットとシルクも警戒を強める。
「大丈夫、魔物じゃないわ」
ガーネットが警戒を解き、杖に込めた魔力を収めた。
「た、助けてくれ!」
茂みから飛び出してきたのは魔物ではなく、汚れた中年の男だった。彼は4人の姿を見ると這いずりながら近づき、レイの足元にすがりついて掠れた声で何かを囁いた。
「何があったんだ?」
ゴルードは斧をしまい、男をレイから引き離す。
無精髭の生えた痩せた中年男は、ヨレヨレの服のあちこちに傷と血がつき、言葉を発するのも苦しそうだった。
「シルク、頼む」
「承りました」
シルクは男の首元に手を当てる。指先に淡い緑の光が灯り、傷がみるみる塞がっていく。呼吸も安定してきたようだ。
「あ、ありがとうございます……楽になりました……」
「一体、何があった」
ゴルードの問いかけに、中年男は自分がミスターシャの町人であると名乗り、口を震わせながら話し始めた。
「娘が……娘が……骸骨たちに拐われたんだ。きっと洞窟に連れて行かれて、食べられてしまう……!」
骸骨とはその名の通り、骨に闇の魔力が宿って動くモノたちのことだ。人の姿だけでなく、獣や魚の骨の姿もあるため、「者」ではなく「モノ」と表現される。
(攫われた……まずい!)
ゴルードは町人の話を聞き終えるより早く、反射的に後方にいたはずのレイを振り返った。
「くそっ、遅かったか……」
すでにレイの姿はなかった。
手のひらで顔を覆うゴルード。彼には、なぜレイがいないのか分かっていた。
レイは「子どもが魔物に襲われている」という言葉に反応し、理性を捨て、身体のリミッターを外して飛び出していったのだ。
これが、レイを早急に育て上げねばならない理由のひとつだった。
彼は弱く、魔物を倒すことにも戸惑う甘さがある。それなのに、人が危険に晒されていると知れば真っ先に飛び込んでいく。ある意味、狂気ともいえる正義感の持ち主だった。
「すぐにレイ様を追いましょう。ガーネット、反応は?」
「ダメ。邪悪な反応なら分かるけど、レイ様の魔力は植物に遮られて見えないの」
魔力の源は生命エネルギーであり、植物もそれを持っている。
レイは魔導師としてのレベルが低いため、魔物から感知されにくいが、今回はそれが仇になっていた。
「そこまで遠くへ行ってしまわれたのですか……」
「おそらく感情の爆発とともに脚部を強化して、一気に駆け出したのでしょう。くっ、もっと早く魔導師として育てていれば、探知できたのに……!」
「二人とも、レイを助けるのが先だ。ショウはミスターシャの住人。この森の地形にも詳しいはず。ガーネット、《転移》で戻って彼を連れてきてくれ!」
ガーネットは嫌そうな顔を浮かべる。
「ガーネット! これはレイ様の一大事だ。余計な感情は捨てろ!」
怒号を飛ばされ、ガーネットはビクッと肩を震わせた。
「わ、分かったわよ……」
目を閉じ、杖に魔力を込めながら詠唱を始める。
《転移》
足元に白く複雑な魔法陣が展開され、彼女の姿は一瞬で消えた。
奇跡とも言える魔術を見て呆然とする町人を尻目に、ゴルードは言う。
「こういう時のレイ様の勘は、獣人族すら凌ぐ。必ず骸骨たちと対峙しているはずだ。すぐに追いつくぞ!」
「一気に駆け抜けましょう」
シルクはそう頷き、背中に挿していた2本の細剣、ホーリーセイバーを抜いた。礼装済みの銀色の刃が、日の光を浴びて虹色に輝く。
「娘は……私の娘は……!」
懇願する町人に、シルクが細い目を開き、侮蔑の視線を送った。
その殺気に満ちた「圧」に、男の顔は恐怖に引きつり、体を震わせる。
「シルク」ゴルードの声に、はっと我に返った彼女は、表情を慈悲深い笑顔へと切り替えた。
「心配なさらないでください。必ずお救いします。骸骨がいた場所を教えてください」
町人は何度も大げさにうなずき、逃げるように道案内を始めた。
Tips ゴルード・バラード
筋骨隆々の屈強な純戦士。レイの率いる傭兵パーティの実質的なリーダー。35歳
その戦闘能力、落ち着き、一般の傭兵とは一線を画しており、ショウは只者ではないと思っている。




